友人は、恋に落ちた
「ありがとうございました。楽しい時間もそろそろ終わり! 次が最後の参加者です! 次の方どうぞ」
女性司会者が笑顔で促すが、なかなか参加者はでてこない。ためらっているのか、緊張しているのか、何かトラブルが起きたのか理由は定かでない。
「ほら、恥ずかしがらないで! 大丈夫ですから」
女性司会者がステージの裏まで走って行った。そしてしばらくして、参加者の腕を強引に引っ張って戻ってきた。そして参加者を正面に向かせる。
「え?」
明は自らの目を疑った。壇上に上がる彼は、まるで女性のように美しい顔立ちをしていたのだ。
「うわ、女の子みたい!」
参加者の姿が現れた途端、後ろの席に座る女子学生が驚嘆の声をあげた。
「はい、自己紹介をどうぞ」
「……柳沢玲」
彼は不服そうにぽつりと述べると、嫌そうに俯いている。
「……罰ゲームか?」
嫌がっているようにしか見えない玲の姿を見つつ、明は呆然としていた。
ピンクのフリルのたっぷりついたワンピースを着用し、頭にはうさみみがついている。スカートは膝よりも下であり、露出はほとんどない。しかもあまり体系の目出たないデザインであるため、女だと言われれば信じてしまいそうだった。
「え? あの人ちょーかわいくない?」
「うん、今までのなんだったのって感じ」
観客全体がざわついている。今回の優勝者は柳沢さんだろうな、と明は確信に似た思いを感じる。
「ちょっと見ろよ」
俯いたままの涼介の肩を叩く。彼は渋っていたが、明は無理に顔をステージに向かせる。最初こそ抵抗していたが、その瞳が玲を捉えた瞬間、涼介は動きを止めた。
「うわ……」
「すごいよな」
涼介は言葉を失ったのか、無言で彼を見つめている。先程までの浮かない様子が嘘であったかのように、笑っている。
「あんな人がいるなんて」
涼介は余程意外だったのか、目がステージに釘付けになっている。そして見とれている。
(なんか、かなり気に入ったみたいだな。あの人が女性なら、惚れたとか言い出すんだろうな)
玲を凝視する涼介を見ながら、明は苦笑する。
ステージの上でフリルのワンピースをはたきながら、玲は色々と話をさせられている。どうやら彼は大学三年生、つまり先輩であり文芸部の宣伝を兼ねて参加したらしい。妙に嫌そうに見えたのも、部員に無理やり頼まれたからだったらしい。
「ありがとうございました! では少々お待ちください」
それから少しして、優勝者の名前が発表された。予想通り、柳沢玲だった。玲は優勝トロフィーを俯いたまま持ち、そのまま舞台袖へと去っていった。
「はい。ではもう少しで男装コンテンスト開催しますので、ご覧になる方はそのままでどうぞ」
「おい、本命の女の子だぞ」
「素晴らしい」
「おい、涼介?」
涼介はゆっくりと立ち上がる。
「おい、どうしたんだ? 見ないのか?」
「ああ……」
涼介はふらふらと歩きだす。
「おい、平気か?」
「ああ、綺麗だった」
涼介は非常にうっとりとした表情を顔に浮かべている。
「涼介?」
「あんな綺麗な人がいるなんて。運命だ」
涼介は空を見上げる。
「おい、どうしたんだ?」
「あの人とお話したい。お付き合いしてる人いるのかな……なあ、いると思う?」
涼介はこちらを向くが、自分を見ているという感じは全くしなかった。自分を通り越して別のものを見ているように感じられる。
「あの人って?」
「……柳沢玲先輩」
涼介はうっとりとした顔を赤らめ、ぽつりと答える。
「え?」
「あんな素敵な女性がいるなんて、予想外だ」
「おい、ちょっと待て。あの人はーー」
「柳沢先輩程素敵な女性は他にいないと思う」
「いや、だからあの人はーー」
男だ、と訂正しようとしたが、
「あの人は俺の理想の女性だ!」
「え!?」
涼介は叫ぶや否や駈け出した。彼はどこへ行こうというのだろう。途中で人にぶつかっていたが、構わず走り続けていた。賑やかな観客たちの視線が一瞬にして彼に集中する。
「……まさか、一目惚れ?」
しかも玲を女だと勘違いしている可能性がある。いや、勘違いしているのだろう。「柳沢先輩程素敵な女性は他にいない」と強い口調で言い切っていたのだから。
「……あいつ、好きなったらアタックしまくるタイプだけど……大丈夫かな」
――これから言い寄られるであろう男の柳沢玲先輩……。
明はどうしようかと思ったが、こうなった以上彼を止めることは不可能だと結論づけた。
「女装コンテストだって、俺言ったよな……?」
彼は大変な事態にならないことを願いつつ、また玲に同情しつつ、部活の出し物の手伝いに行くことを決めたのだった。
これで終わりです。
まあ、これで「ちょっとした勘違い」に続くわけですね。
なんとなく書きたくなっただけです。
ありがとうございました。