コンテスト開始
「はーい! 皆さん、本日は文化祭においでくださりありがとうございます。これから女装コンテストを始めます。似合っている人から、ちょっとこれは……って人まで色々な参加者がいますので、お楽しみに! 果たして誰が優勝するのでしょうか?」
大学の中央に設けられた野外ステージで、やたらと明るい雰囲気の女子学生が一人マイクを持って司会をしていた。
明と涼介は前から三番目という比較的いい席に座ることができた。知り合いがでるらしい人の、楽しそうな声やおもしろがるような声が近くから聞こえてくる。
「健二は何番目だろうな」
「早く男装コンテストにならないかな。可愛い女の人がいたらいいのに」
涼介はテンションが上がらないのか、ぼんやりと司会の女子を眺めている。
「はい、それではエントリーナンバー、一番! 太一君です」
一人目が現れた瞬間、明は苦笑した。浅黒い肌の青年が、どこかの高校の制服を着用して現れたのだ。スカートは膝上で、筋肉のついた太い脚を晒している。さらに両手でピース。その表情は恥ずかしそうに伏し目がちだ。
「どうして参加しようとしたんですか?」
「……色々あって」
声も低い。何か訳あり気な表情で、暗く答えている。彼に何が起きたのか、そして複雑そうにしつつなぜピースをしているのか。その理由は明らかにならずに終わってしまった。
「ありがとうございました!」
司会の声に促され、壇上を去る男。彼の知り合いがいたようで、「あれはねえよな」と面白そうに笑っていた。
明は涼介を一瞥する。彼は頭を抱えている。可愛い女の子が好きな彼にとって、これは地獄だったのかもしれない。涼介ほどではないが明も見たことを後悔しつつあった。
次々と色々な女装男がステージ上にのぼる。一人、二人、三人……少しずつ涼介のテンションが下がっていくのが明の目にも明らかだった。観客は意外と楽しんでいるようで、時々爆笑が起きている。人々の笑い声が、今はうっとうしい。
「はい、お次は篠崎健二さんです!」
「おい、健二の番だぞ!」
明はようやく本命が来たと言わんばかりに涼介の肩を叩く。
同級生ーー健二の姿が出た瞬間、明は一人吹き出していた。黒と白を基調としたゴスロリの衣装を身につけての登場だった。黒い長髪ーー恐らくカツラだろうーーに白いヘッドドレスもついている。女性なら美しいと形容されるかもしれないが、相手は男である。当然、美しさなど感じられなかった。
「健二です!」
しかし愛想よく投げキッスをしている彼は、とても楽しそうだ。いつもより声のトーンが高く感じられる。テレビに出ているオカマかオネエでも目指しているのだろうか。
「あいつ、なんであんなにノリノリなんだ……?」
健二には女装趣味などなかったはずだ、と疑問に思う。彼の疑問に構わず健二はくるりと一回転し、ひらりとスカートが舞う。
横では涼介が気色悪いものを見たかのように懸命に視線を逸らしている。そして時々、来るんじゃなかったというぼやきを漏らしていた。
昔、どっかの文化祭で女装コンテストを見た記憶があります。
遠目からだったので、よく覚えてないけど。
確かにあったはず。