怪盗サイキック
「怪盗サイキック......」
と、第三捜査会議室に響き渡る。俺はこいつに今、とてつもなく悩まされている。
魔能力警察の、支部長の理沙、副支部長の俺、検挙率ナンバーワンの涼夏さん、の超豪華な面々で捜査に乗り出してから一週間が経ったのだが、第三捜査会議室には、昨日の捜査で疲れきり、怪盗サイキックに一杯食わされた超惨めな三人が居る。
「昨日はやられたわね...」
「ちくしょう!奴の才能はなんのんだ?全く予想できねぇ」
「......お腹空いた」
と、一人捜査に無頓着な奴がいるが、この通り未だに怪盗サイキックを捕まえれてない。その上、昨日、ある宝石が盗まれてしまったのだ。全く散々な結果だ。ため息しかでてこないぜ。
そんでもって、実は捜査が滞っている理由は二つある。
ひとつ目は、怪盗サイキックの才能についてだ。
奴の才能は未だに掴めていない。恐らく超能力の方だとは思うのだが、その超能力がどのような効果なのか、つかめないのだ。超能力には魔法と違って系統がない。なので様々な才能があり、予想などそう簡単にできるものではない。しかし、それが掴めれば此方としても対策を抜群に立てやすくなる。
二つ目は、支部長の無能さだ。
「おい!理沙!お腹空いたじゃないだろ!真面目に考えろよ!」
「だって!私はこういうの得意じゃないし......実戦まで、温存していようかな?って思って......」
「実戦に行く前に、俺らの頭が爆発しちまうよ」
「そうね。理沙は捜査に関しては私に一任していたのよね。だから、確かに考える力は皆無かも知れないわ」
手詰まり。圧倒的手詰まりだ。どうしろってんだよ......
「しかたないわね。もう一回現場にいきましょう。昨日よりも念入りに調べてみたら何か見つかるかも」
「そうですね......いきましょうか」
と、二人とも自らを奮い立たせて、立ち上がる。
が、俺はこう思う。実際のところ、昨日の現場に行っても何も無い可能性のほうがデカイ、と。多分涼夏さんも同じだと思う。でも、何かがあるかも知れない、という小さな希望にでもすがっていたい気分なのだ。こうでもしていないと、落ち着かないから。
身支度をしながら、理沙の方を向いて。
「お前は行かないのか?」
「私これからちょっと用事があるから行けない。ごめんね」
「そっか。それじゃ、涼夏さん、行きますか」
「そうね」
第三捜査会議室を出て、エレベーターに乗り、一階まで降りてきた。もう見慣れた忙しく動き回る魔能力警察官の光景を横目に、外への扉へ向かっていく。
そして、ちょうどビルの外へ出たところで、涼夏さんが
「とりあえず、昨日の事を整理しながら向かいましょう」
「そうですね」
と、昨日の怪盗サイキックの事件についての整理が始まった。
「まず、盗まれた宝石はクイーンエメラルド。そして、それを所有していたのが、貿易会社で最大の業績をもつホープ貿易。ホープ貿易のビルの最上階に有ったクイーンエメラルドを怪盗サイキックは狙った」
「はい」
「それで、予告状が来たのが一昨日。ホープ貿易に来たわ。いたって普通の予告状だった。暗号なんてない。ただ、『クイーンエメラルドを頂く』とだけ書いてあったわね。そして、昨日......」
「俺は涼夏さん、理沙と一緒にホープ貿易のビルに向かった」
少しつづ昨日の事が鮮明に思い出されていく。
「センサーは完璧、私と理沙はクイーンエメラルドがある部屋で待機。逢徒君はビルの出口で魔能力警察の面々に直ぐに才能を貸してもらえる状態で待機。完璧のはずだった......」
「でも......消えたんですよね」
「そう......」
理沙と涼夏さんは瞬きさえもこらえてクイーンエメラルドを凝視していたらしい。それこそ、端から見れば、こいつらが怪盗かと思うほどに。それでも、不思議な事が起こったそうだ。
突然消えたのだ。クイーンエメラルドが。その場から風のように。二人ともなにが起きたか理解できず、暫く無言で座っていたらしい。
これで、俺たちの捜査は失敗。怪盗サイキックについて何も得られず、まんまとクイーンエメラルドを盗まれたってわけだ。
「物体移動に強い闇の魔法の結界まで張ったのに、なぜ忽然と消えたのか、疑問ですよね」
「そうよね。と、着いたわ。ホープ貿易」
「はい......」
ちくしょう。ぜってぇ見つけてやる。怪盗サイキックへと続く証拠を。