四話:あの顔を見るために
「あそこだわ!」
悲鳴を聞き、駆けつけた先には、
「ひったくりだわ!」
女性の鞄がひったくられたらしく、犯人はバイクに乗っているが、まだ目で確認できる距離に居る。
「涼夏さん。超能力を――」
「だめ!届かない!私の才能が及ぶのは半径2メートルなのよ!」
半径2メートルか。確かに15メートルはある。恐らく今から走っても間に合わない。仕方ない。面倒ごとにはあまり関わりたくは無いのだが、このまま見過ごす訳にもいかない。俺は集まってきた野次馬に話しかける。
「誰か!この中に光の魔法を使える人は居ませんか?」
「あのー、私使えますけど」
一人のスーツ姿の男性が人混みの中から出てきた。
「俺の右手に魔法を当ててください!」
「わ、わかりました」
男性は開いていた手のひらを握り、そしてすぐに開いた。開いた男性の手のひらには明らかに周りとは違う光があった。男性は前に突きだした俺の右手に光を当てた。よし!これでいける。まだ、犯人は見えるところだ。
「逢徒君、なにを......」
「150キロで追っかければ犯人に追い付くだろ?」
「......まさか」
150キロで犯人を追っかける。これは俺の光の魔法を使った際の最高速度だ。
光の魔法とは、物体を光で包み移動させる魔法。普通の場合の最高速度は30キロ程度だが、俺の全力はその五倍、150キロってわけだ。
「んじゃ、いってきます」
時間もあまり無いので全力で走り出す。光の魔法を使いながら。時速150キロで犯人を追いかける。犯人はバイクだ。追い付けないわけがない。
「うわ!なんだこいつ!」
「その鞄を返せ!」
「くそっ!」
犯人に追い付いた俺は平行して走る。
「止まれよっ!」
時間が無い俺は犯人のバイクのエンジンを蹴り飛ばす。無惨にも外れたエンジンは道に転がり、エンジンを無くしたバイクは速度を落としていき、そして、ついには完全に停止した。犯人は驚きの余りバイクから転がり落ちて、
「ばかなっ!バイクに追いつける人間なんか――」
「悪いがここに居るんだよ!さぁ、大人しく捕まるんだな」
「逢徒君、お手柄ね」
「いや、俺はそんな......」
あの後、涼夏さんたちが駆けつけてひったくり犯は逮捕された。
「あのー!」
突然、一人の女性が話しかけてきた。この人......ひったくりにあった女性だ。
「カバン、ありがとうございました!」
女性は大きく頭を下げて俺にお礼をしてくる。
「いや、別にお礼なんて」
「いえ、このカバンの中には母親への誕生日プレゼントが入っていたんです。だから、本当にありがとうございました」
「そうですか。それじゃあ、早くお母さんの所にいってあげてください。多分待ってますよ。お母さん」
「......はい。ありがとうございました!」
笑顔で去っていく女性の背中を見ながら思う。魔能力警察も、意外に......
「いい仕事でしょ」
「え?」
「魔能力警察。私はね、ああいう顔を見たくて仕事してるの」
「そう......ですか」
「逢徒君、今魔能力警察もいいな、と思ったでしょ」
図星だ。そう。俺もいい仕事だと思う。確かに自分の才能があれば沢山の人を守れるかも知れない。今まで無意味だと思っていたこの才能で。
「改めてお願いするわ。魔能力警察、やってみない?」
「......理彩に言ってみます」
「え?本当に?やった!よし、それじゃあ早速、手続きをしよう!」
魔能力警察のビルに戻り、理彩に、仕事をやってもいい、と伝えると飛びはねて喜んでいる。
「はい。それじゃあ、これが腕章ね」
理彩に手渡された腕章を良く見ずに腕に通す。ほう、なかなかカッコイイじゃないか。
「今日から逢徒も魔能力警察官だね!」
「そうだな。理彩、とりあえず落ち着けよ......」
その日から俺の腕には『魔能力警察 日本支部 副支部長』の腕章が巻かれる事になる。