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一話:神様は不平等

「おーい。早く!。遅刻しちゃうよ!」


「わかってるって」


俺の家のドアをグーで叩く音が、この木造建築、築12年のボロアパートに響き渡る。外の子供っぽい声とは裏腹に早くする気など全く無い俺が、ダラダラと身仕度をしていると、


「遅いよー!なにやってんの」


「どわぁ!」


突然、俺の隣に人がやって来たのだ。こいつは俺の幼馴染の香坂理彩<かさかりさ>。特徴は圧倒的な童顔と子供っぽいしゃべり方。


こいつと一緒に街を歩くとまるで、父親とその娘のように見えるらしい。それに、理彩は美少女なのだ。それも、街でファッション雑誌にスカウトされる程に。まぁ、その時最初に声をかけられたのは俺で、「娘さんを読者モデルにしてみませんか?」だってよ。もううんざりだった。そして、今の状況も、うんざりだ!


「だから、何回言ったらわかるんだよ。勝手に家に入るなよ」


「だって、遅いんだもん!」


神様はいつだって不平等だと思ってしまう。こんな奴に最強クラスの才能を与えて、俺には全く使えない物をくださるのだから。


「はやくー!二年生初登校の日に遅刻なんてシャレにならないよぉ」


「わかったって。ほら、もう終わったから行こうぜ」


「うん!早く行こう!」


ボロアパートを、理彩と一緒に出ていく。


見慣れた高校への道には、咲き始めた桜の花が舞っている。理彩が喜びそうな桜の花だ。


「ねーねー、見て!桜が咲いてるよー!」


「見れば分かるって」


やっぱりだな、と。予想通りだった。しかし、喜び過ぎだろ。


「おい、もう着くぞ」


「え?あ、ほんとだ!久しぶりだね。魔能力学園」


魔能力学園。この日本で最大の高校。この高校はあまりのデカさから、『才能パーク』なんて呼ばれたりもしている。遊園地みたいなバカ広い敷地なのだ。門が見えてきたこの高校に、俺は不本意ながら通っている。おっと、そろそろか。


「それじゃ、理彩は生徒会長の仕事が有るから先に行くね!」


「分かった。頑張れよ」


そう。実は、理彩は魔能力学園、生徒会長なのだ。二年生で生徒会長は魔能力学園始まって以来の快挙らしい。まぁ、当然と言えば当然なのだが。


門をくぐり抜け、学園の敷地内に入る。すると、久しぶりに見えた校舎が目の前に建っている。この校舎は五階建て。一階から三階は各学年の教室。四階と五階は魔法と超能力の実習室となっている。


もうお分かり頂けただろう。そう。この世界には、『魔法』と『超能力』が存在している。そして、この魔能力学園の八割の生徒がそのどちらかを使える、のだが俺はというと、


「おい、あいつ無才能クラスだぜ」


「マジかよ。よく登校してきたな」


俺の周りの登校してきた生徒がヒソヒソとしゃべっている。俺の耳にその声はしっかりと届いていた。やっぱり後悔した。登校してきた事を。俺は『魔法』の才能も『超能力』の才能も持たない、無才能クラスに分類される生徒なのだ。何故、無才能の俺がこの学園に居るかと言うと、江戸時代みたいな物だ。才能のある生徒は『士農工商』。才能が無い生徒は『えたひにん』ってやつだ。つまり、八割の生徒のモチベーションの為に二割の生徒が居る、ということだ。


まぁ、無才能クラスは無才能クラスで、いいヤツが居るのだが。









校舎の二階のはじっこにある無才能クラスの教室。全くひどい扱いだ。ドアの取っ手に手をかけて開ける。


「おはよう」


「オッス!逢徒」


俺に挨拶を返してくれたのは唯一無二の俺の親友の北村優季<きたむらゆうき>。この学園に入った時からの親友だ。


「逢徒。どうした。元気ねぇな」


「いや、今日、始業式があるからな」


「あぁ、そうか。ごめんな。学級代表なんかに選んじまって」


「いや、俺が自分でやったんだし。優季が謝ることねぇよ」


そう。俺はこの無才能クラスの、学級代表なのだ。そして、今日は学園の始業式で、他の生徒は全員参加なのだが、無才能クラスからは学級代表、つまり俺だけが参加する。そして始業式ではあることをするのだが、これは行けばわかることだな。








「それでは、今から始業式を始める」


無才能クラス以外の全校生徒が集まり、始業式は始まった。俺が居るのは教室と同じで、体育館のはじっこだ。


「まずは生徒会長の挨拶です」


ステージの横から理彩が出てきた。理彩はステージの真ん中まで行き、マイクに顔を近づけ、


「みなさん、おはようございます。生徒会長の香坂です」


きっと、本人は全校生徒に話しているつもりなのだろうが、とりあえず、マイクの電源が入っていない。このままでは只の独り言だ。俺はステージに近いはじっこなのでギリギリ聞こえるが、恐らく後ろの方は聞こえていない。あちこちから笑いを堪える声が聞こえる。

はぁ、仕方ない。俺は大きく息を吸い込み、一言。


「理彩!マイク入ってないぞ!」


言ってやった。理彩は「え?マイク?ほんとだ!」とマイクの電源が入っていないことにやっと気付いたらしい。電源を入れて話を続けた。


俺には全校生徒の、視線が集まる。どうせ、馬鹿にされているに決まっている。俺はもう馬鹿にされるのは慣れたが、理彩が笑われるのは我慢ならないのだ。幼馴染だからとかではなくて、生徒会長としての理彩を俺は尊敬していて、頑張ってほしいから。


まぁ、結局のところ、色々と言い訳しても、俺は理彩の事が、好きなのだ。テンプレだな。幼馴染を好きになるなんて。


「それでは、次に魔能力高学園、恒例の一年生と無才能クラスの対決です」


全く。いい気分だったのに。俺がやりたく無かったのはこれだ。


毎年、最も才能がある一年生と、無才能クラスの学級代表が全校生徒の前で対決する。これはもう公開処刑に等しいと思う。才能が無いのに対決する、理不尽にもほどがある。


「それでは、両者ステージへ」


ステージの階段を登りながら思う。適当に負けて終わらせよう。一年生の方を見ると、なにやら隣の奴と話ながら出てきた。


「さっきの生徒会長、超面白くね?馬鹿だろ。馬鹿」


ニヤつきながら話していた。


「なんだと?」


小声で一言。アイツは俺の地雷を踏んで来やがった。さっきも言ったが俺が馬鹿にされるのは別にいいが、理彩が馬鹿にされるのは我慢ならないと。確かに理彩もアホかも知れないが、一年ごときに馬鹿にされる筋合いはない。高校二年なんてこんなもんだ。好きな奴の為ならなんでもしてしまう。こうなったら恥をかかせてやる。


一年生が俺の前に来た。


「先輩、才能ないんすよね。かわいそー。手加減してあげますね」


「いや、いいよ。本気で来いよ」


そう。手加減なんてされたら逆に俺が困る。


「わかりました。じゃあ本気でいきますよ。死んじゃっても知りませんから」


相変わらずニヤニヤして気に入らねぇ。


「それでは、始め」


司会が合図を出す。


「で、お前はどっちだ?」


「俺っすか?俺は魔法の方ですよ」


魔法か。俺の得意な方だ。因みに『魔法』と『超能力』の違いは、魔法が何も無いところから火、水などを作り出す才能。超能力が物体を変異させる才能。超能力は物体がその場に無いと使用できない。


「それじゃあ、行きますよ」


相手の一年生は、手から炎を出した。そうか。こいつは炎か。


「来いよ」


一年生は手の炎をサッカーボール程の大きさにし、それを数十個ほど発生させた。それを俺に向かって投げつけてきた。


「それだけか。期待はずれだ」


俺のすることは投げつけられた炎の玉に右手で一瞬触れるだけ。


「避けてるだけじゃ勝てませんよ?」


「悪い」


「なに謝ってんすか?」


「いや、お前の高校生活台無しにしちまうわ」


「なにいって......え?」


アホ面が拝めて嬉しいぜ。一年生は目を見開き、口がしまっていない。いや、この場に居る全員がそうなっているだろう。それもそのはず。俺の周りには相手の一年生の炎の玉が数百個浮かんでいるのだからな。


「な、なんで。無才能のはずじゃ......しかもそれ、俺の才能......」


「あー、悪い。お前の才能貸して貰ったわ」


「そんな......」


「どうする?降参するか?」


「いや、あれは幻だ。俺は勝てる。俺は一年で一番なんだぞ」


そうか。頑張れよ。本当に笑ってしまう。一年生は俺に向かって炎の玉をぶつけて来るのだが俺の炎の玉が、全てを遮断、相殺している。しかし、量は圧倒的に俺のほうが上なので勝ちは確定。


「そんな......」


「そろそろか。それじゃ、俺の勝ちで。最後に、ほんとにごめんな」


清々しい気持ちで教室に戻る。


神様は本当に不平等だと思う。俺にこんなことにしか使えない才能を下さったのだからな。


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