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transient  作者: 悠凪
9/12

「なんかそうやってるとさぁ、カップルみたいだよねー」

 のんきな声で颯希がにこやかに言ったのを聞いて、誠も葉月も一気に顔を赤らめた。

 クリスマスイブを明日に控えた暇な高校生は、今日もぼんやりと顔を突き合わせている。

「なんで、そんな発想になるんだよ」

 赤い顔のまま誠は颯希を睨み付けるが、言われた本人はまったく気にしてない様子でかわいく笑っている。

「だってさ、葉月ちゃんが誠の腕触ってるのが当たり前になっちゃって」

「だから……それは仕方ないだろ。お前が見えないって言うから」

「そりゃあそうだけどさ。でも自然と言うかなんと言うか」

 颯希の中ではもうこの二人は付き合っている感覚に近い。12月に入ってからというもの、明らかに雰囲気が違っていた。誠は葉月を見るときに優しい目をするようになったし、葉月も誠に全面的に信頼を置いているのが分かる。

 彩もそれは思っていたようで、二人がいない時によくそう言っていたと颯希は思い出す。

 今も、誠の隣では顔を赤くしたまま、それでいて少し嬉しそうな葉月が、遠慮がちに誠の腕に触れていた。

「良いなぁ。僕も彼女ほしい。明日はクリスマスだってのに…誠は遊んでくれなさそうだし、彩ちゃんはパーティーに行くって言うし」

 ニヤニヤと意地の悪い笑顔で見てくる颯希に、誠は小さく嘆息した。

 彼女って…馬鹿かこいつは。

 その単語が妙に重くて、誠の眉間に皺が寄る。葉月はそれを見てきょとんとした顔をしながら、大きな目で覗き込んで来た。

「誠くん?」

「……ん?」

「どうしたの?」

「いや……」

 ムスッとした顔のまま、誠は葉月をちらりと見る。近くで見るその瞳に、この間のことを思い出した。

 葉月の生前住んでいた家を見に行った日。自分の無力さや、葉月がこの世からいなくなったことに対する苛立ちなんかで、葉月を抱きしめて泣いてしまった。それが後になって恥ずかしく、帰りはほとんど何も話さずに帰った来た。

 でも、あの日手をつないでいた方の指は、家に着いて離れるまでずっと、お互いの意思で絡めていた。温かさと折れてしまいそうな細さに、誠は愛しいと思う自分がいることに気づく。でも、それは絶対口に出してはいけないもので、出しても何も変わらない。空しいだけだと、心の中で大きくため息をついた。

 不安気に誠を見つめる葉月の視線に、ふと目を細めた誠はそのぱっつんとした前髪を撫でた。

「本当になんでもない。だからそんな顔すんな」

「……ん」

 こくりと、葉月は頷いて切れ長の目をスッと細めて笑う。それに盛大なため息が聞こえて、二人は視線を移した。

「あのさぁ。僕がいること覚えてくれてる?」

 両膝を抱えて上目遣いに、颯希はぼやく。

 マジで、一瞬忘れてた……ってか恥ずかしい。

 再び誠の顔が赤くなり、颯希はクスクスと笑いをこぼした。男の子らしからぬそのかわいい顔で、優しい声音で話す。

「誠がそんな顔するなんて……葉月ちゃんってすごいよね」

「え?私?」

「うん。今までの誠の彼女って、そんな顔見たことないんじゃない?」

 颯希の言っていることが分からず、返事に困る誠を見た颯希は嬉しそうな顔をする。

「すっごい優しい顔してるよ」

 優しい顔?

 それでもやはり意味が分からない。でも、颯希の言うことに誠は少しほっとしていた。葉月の前で、優しい顔になっているのなら、それ以上のことはない。この子に嫌な顔を見せたくないから。笑っていてもらいたいから。

 そんなことを当たり前のように思っている。それも恥ずかしいのではあるが…。

「でさ、どっか行くの?明日」

 颯希は興味津々の顔で誠に身を乗り出してきた。

「別に。何も考えてない」

 目の前にあったお菓子を一つ、口に放り込みながら行った誠に、颯希は目を丸くする。

「そんなのだめだよっ。せっかくのクリスマスイブなのに」

「は?別に普通の日だろ」

「そんなんだから、彼女と長続きしないんだと思うよ」

 ぼそりといった言葉に、誠の眉毛がピクリと反応する。大きく息を吐いて颯希を睨む。

「そもそも日本ぐらいだろ。カップルのイベントになってるのは。キリストに謝れっ」

 信仰心などまったくないけれど、颯希の言い方にカチンときて思ってもないことを言ってしまった。

「ふーん。葉月ちゃんはそれでいいの?」

 急に矛先を向けられて葉月は面食らった。それから目がきょろきょろとさまよって、俯いてしまう。

「……なんか思ってることあるんでしょう?」

 颯希がその顔を覗き込むように身をかがめて聞くと、少し顔を上げた葉月が頷いた。

「…………あるなら、言えばいい」

 誠がそっぽ向いたまま小声で言うと、颯希はくすっと笑い、葉月ははにかんで言った。

「ケーキ買って、二人で食べたい」

 あまりにも普通すぎて、二人はあっけにととられた。でも葉月にはささやかでもなんでもなく大きな憧れだ。そんなことする間もなく、自分という体を失った。この機会を逃したらきっともう経験することもないだろう。

「そんなことでいいの?欲がないなぁ」

 颯希に言われた葉月は「そうかなぁ」と言って、自分で呆れたのか笑い出した。

 本当に、そんなことでいいのか。いくらなんでもそれだけじゃ……。

 誠は颯希と葉月の笑う様子を眺めて、頭の中では明日のことを考えていた。別に本当にクリスマスについて考えていなかった訳ではない。でも、そもそも付き合ってもいない相手と、過ごすのかと疑問に思って何も言えなかった。

 何で俺こんなことで悩んでんだよ。

 頭をかきながら小さくため息をつく。それでも、葉月が思うなら、それを叶えてやりたい。答えはもう出ているのだから、悩む必要もない。

 ケーキと、何かプレゼントくらいはいるかな?生クリームがいいのか?っていうか当日でもケーキって買えるのか?

 一気に考えが巡り、誠はいつになく真剣な顔で考え込んでいる。それを不思議そうな顔の葉月と、何か察してニヤニヤと笑っている颯希が見ていることにも気づかなかった。

 葉月と一緒にいることになるだろう明日。それを考えると、妙に嬉しくて、小さな子供のように楽しみにしているのがおかしかった。





 




 

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