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プロローグ。牢屋で生活するには 9

ぽか、と目が覚めて暗い暗い天井が目の中に入ってきた。

暗いのは、地下だから。光源が鉄格子の外のかがり火しかないから。

昨日は一歩も動く気にならず、すぐに現実世界で目が覚めたので日付の傷をつける暇すらなかった。

だから今日は昨日の分も含めて、二本傷をつける。


ここで初めて目覚めたのは、もう52日も前の話。

思えば随分と、長い時間が過ぎたものだ。


男と会ったのは30日目。そこからは22日。

その間に、国の事を少しずつ教えてもらって。

妹の相談事まで解決してもらっちゃって。

本当に、楽しい毎日だった。



なんて振り返るのは、男が一向に現れないからだ。

彼は、私が目をさますと割合すぐにやってくる。

それなのに今日は、目が覚めてから腹筋も背筋も腕立て伏せも、鉄格子ジャングルジムもやったし、ヤスリで鉄格子を隅までピカピカに磨きあげるだけの時間をかけても現れない。

なんとなく、漠然と、もう来ないのかもしれないと思った。


どうしてかは分からない。

私に呆れて、ついに見捨てたのかもしれないし、彼に何らかの事情があったのかもしれない。

最悪なのは、彼が囚人で、人殺しの咎を背負っているというのなら、ありうるかもしれないこと。

もしかしたら、もう既に一生会えない場所に連れていかれてしまったかもしれないという、その可能性のみ。考えると、恐ろしさに身が震えた。

願わくば、彼の身がどうか無事でありますように。






それからまた数時間。

おそらく、そろそろ眠りに落ちて、現実世界で目覚める時間だろうという頃あいになって、その音が耳に入ってきた。


カッカッカ。

という硬質な足音。それが地下の空間に反響して、少しずつ近づいてきている。

こちらに、誰かが向かってきているのだ。

(そこで初めて、あの男は裸足だったから足音がせず、いつも不意に現れたのだと気づいた。)


足音は大きくなっていく。明らかに私を目指してやってくる。

自然と、自分の体が硬くなっていった。


そうして、数分後。

檻の前に、高価そうな服を着た男が立っていた。銀の金属の靴を履いている。

その後ろには、3人の騎士を従えている。

その身分の高そうな男は、ひどく冷たい相貌をしていて、とても整っている顔なのに、冷血な印象をつきつけてくる。長身だが細身で、金や銀のボタンや白いフリルの襟元が映えていた。

かがり火のとろけるような火の色に照らされて、男の髪色は良く分からない。


その男は一言も口を開かず、すっ、と手を若干浮かせた。

それだけだったのに、私は身動きが取れなくなった。


騎士たちが鍵を開けて牢屋の中に入ってくる。

なぜだろう。

ここは囚われている場所なのに、その中に他人が踏み入ってくると、

まるで自分の家を荒されたように心がざわついた。


一人の騎士が硬直した私の右腕を持ち、もう一人の騎士が左腕を持つ。

まるで、つるされた宇宙人の風情で持ちあげられて、牢屋から出された。

最後の一人の騎士がかがり火を手に持って先頭に立つ。

3人の騎士は身分の高そうな細身の男に目礼をして、移動を始める。


どうしよう。

これは、まずい。まずいよ。

果たして処刑をされるのか、それとも部屋を移されるだけなのか。

男たちの雰囲気は厳しく、殺気立っているような気さえする。


ああ、これは、良くない事になった。

動けない体のこめかみを、冷たい汗がひと筋流れた。




私が居たような牢屋は沢山あった。

中央の通路を挟んで両側にそれらが並び、長い通路の奥には地下に続く階段があった。

あの男が教えてくれた出口は地上への階段だから、きっとこれは牢屋のさらに奥へ行く黒の道。

騎士たちはその道を静々と進んでいく。

通路に比べて随分と狭い階段を下りて、かび臭い廊下を長い時間歩いた。

そして唐突に、広い部屋に出た。


広いというより、闇だ。

先導してかがり火を持っていた別の騎士が部屋を回り、部屋のろうそくに明りをつけて、部屋の容貌が徐々に見えるようになってくる。


そして、私は息をのんだ。


部屋は学校の教室を二つ合わせたくらいの大きさだろうか。

天井も床も壁も、均等に並べられた石でできている。

だが、そんなことはどうでも良くて。


鋸のついた木の机。棘のついた鉄球。吊るされた二つの鉄の輪。

女性の姿をした鉄の塊の、内部に針が敷き詰められたものとか。

壁にずらりと並べられた、武器。鬼が持つような、まがまがしい、起動性の低い、ただただ殴られたら痛そうでは済まなそうな鈍器が並んでいる。


ここは、拷問室? 


ひっ。と、息をのむと、初めて、位の高そうなその男が笑った。

「まあ、話したくなったら話すように。ただ、生きて帰れるとは思わない事だね」

ふふふ。

とても楽しそうに笑う彼に、何を話せばいいの? と聞く事は、できなかった。



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