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プロローグ。牢屋で生活するには 8

まだプロローグです。次回くらいから動きがある予定です。

眩しくて目を開けると、自分の部屋の天井が見えた。

起き上って伸びをし、扉を開けて部屋から出る。リビングは窓が開けられて風が吹き込み、

とても爽やかな朝だ。

「おはよー」

妹が笑いながら、朝食を持って小卓に置いた。

これは自分一人用に買った、足を折りたためるテーブルだから、二人で使うと少し心もとない。

「もし今日余裕があったら、テーブル買ってこようか?」

いただきます、と朝食に手をつけながら言うと、妹は笑いながら勿体ないから良いと遠慮する。

そんなことないのになー。うちの妹は可愛いなー。

朝からふにゃんとなりながら、忘れないうちに、と昨日の男の策を話してみると、妹は真剣な表情で頷いた。


「うん、分かった。そうだよね。きちんとお話すれば、王子様なら分かってくださるよね」

「そうだよ。くるみちゃんのことをちゃんと分かってくれている方なんだから大丈夫だよ」


にこやかに援護した私の背後には悪魔の尻尾が見えたとかなんとか。

もしも第三者がここに居たら、言うかもしれない。




なんて、穏やかなのは朝だけでした。

妹の学校は私の家と実家の中間くらいにあり、通学時間はそれほど変わらない。私や母が妹がウチでしばらく生活する事を許可したのも、そこにある。

妹と別れて会社に行くと、案の定机の上は崩壊しそうに書類が山積みになっていた。

私に用があるものを適当に置くせいでこんなになっている訳で、優先順位に振り分けていくと半分に減ったものの、量が多い。あまりに多い。

これもすべて前日直帰したせいとは分かっているものの、それにしたって労働基準法・・・と涙がちょちょぎれてくる思いだ。

なんだか直帰で帰ってきたのがものすごく前の様な気がしていたが、妹がきたり男と話したりと内容が濃かっただけで、昨日の話。

書類整理と、昨日私が帰ってからあったことの確認と、通常業務をこなしていた所、夕方付近に滅多にないハプニングにも見舞われてしまい、全く家に帰れない。どころか寝れない。

ただ、私だけではなくて、チーム全員で帰れないので文句も言えない。

休憩時間に妹に連絡を入れて癒されたり、交代で少しだけ睡眠を取って牢屋の夢を見たけれど、男には合わなかった。

そして全員でゾンビのように働き続け、翌日の朝日が照らしてくる頃には、「あー、テーブル買ってくるとか、無理だったー」

と真っ白に灰になった私が呟いていたらしい。残念ながら記憶がないが。


それでも一日は始まり、世間は回り続ける訳で。

徹夜明けでも通常業務をこなし、ゾンビの足取りで家に帰れたのは、金曜日の夜7時だった。

(通常は、こんなに忙しく無体を強いる会社は、ありません。うちの業界が異常なんです)



「ただいまー・・・」

明りのついた家に入ると、美味しそうなご飯の臭いがする。

なんだかもう、それだけで癒される。

リビングからぱたぱたと妹がかけてきて、「おつかれさま!」と私の鞄を受け取って、スリッパを出して並べてくれる。

「ごはん出来てるよー。お風呂もあるよ。どっちにする? それとも、先に少し寝る? 昨日は大変だったねー」

にこにこ笑いながら、私のスーツの上着を取ってハンガーにかけてくれる。

なにこの良妻っぷり。

嫁にはやらんぞ。いや、嫁に欲しい。まさかリアルで“ごはんにする? お風呂にする? それとも・・・”を体験できるとは思わなかった。

と、疲れた脳みそが、自分でも可笑しいと思う考えを弾き出している。

限りなく本音なのが痛いと思う。


「じゃあ、ごはんー。くるみちゃんのごはんが食べたい」

なめくじのような様子で言うと、妹はくすくす笑いながら、お茶碗にごはんとお椀にお味噌汁をよそって持ってきてくれる。テーブルには魚がある。

「お姉ちゃんの好きな、茄子のお味噌汁と鰤の照り焼きだよ。疲れている時は好きなものを食べるのがいいんだよ! お姉ちゃんお疲れさま!」

と、箸を渡してくれる。この子すごすぎる。

私、全国のお兄ちゃんに八つ裂きにされても、この子を手放さないと思う。マジで。


感動しながら箸をつけると、美味しいのでさらに感動した。

二人でご飯を食べていると、妹から、王子様への返事が上手くいったことを教えてもらった。

「お姉ちゃんの言った通り、正直に、一生懸命気持ちを伝えたら、王子様分かって下さったんだよ!

ただ、その後にお城で働けるようお願いするのは、やっぱり申し訳なくて、できなかったんだ。

・・・でも、お父様が、お姫様のお話相手としてしばらくお城に上がってみないかって!!

だからお城にも行ける事になったんだよー! お姉ちゃんに相談して良かった! ありがとう」


それを聞くとなんだか安心してしまって、「よかったねー」とほほ笑む私はさらにゆるゆるになってしまった。

とりあえず私は、異世界の誰とも知れない王子様に対して、ざまあ と思ったのだった。



ご飯を食べ終わったらシャワーを浴びて、家に持って帰ってきた仕事を少しだけする。

時計を見ると11時で、妹は私の寝室に引いた布団でもう寝息を立てていた。

食器の後片付けも完璧。掃除もしてあって、いつもの何倍も家は綺麗。

もちろん嬉しいけれど、私の妹は一体何に気を使っているのだろうと、少しだけ考えてしまう。

家には専業主婦の母がいるんだから、普段から家事をやっている訳ではないだろうに。


考えていると、私の携帯が鳴りだした。

妹が起きないように慌てて電話に出ると、「母だけど」と名乗られた通り母からの電話だった。

あ。そういえば私、母にちゃんと電話してなかった。プロポーズ騒動で忘れてたわ・・・


「あんたさ」

話しだした母の声はあたりまえだがお怒りモード。私の肩が思わずビクッと跳ねる。

「はい、申し訳ありませんお母様」

「言い訳なら5文字まで聞くけど」

「ザンギョウ」

「濁点は一文字なのでアウト!」

「厳しい!!」

というやりとりの後にひたすら平謝りしてなんとか許してもらった。


「そういえば、胡桃にはまだ家出の理由聞いてないんだけど・・・喧嘩?」

すると、あー、と言いづらそうにする母。

「進路の関係でちょっと揉めたのよ」

進路って。

「早すぎない? まだ高校入ったばっかりなのに」

「今はそんなもんよ。あんたは文系まっしぐらだったから進路も楽だったわね。先生も、ここまで迷わずに人生決めれる子はなかなか居ませんよと呆れられたもんだったわ」

「それ、誉めてる。誉めてると思うの」

「先生、苦笑いしてた」

「・・・・呆れてるね」

「呆れてるわね。その点、胡桃は慎重だから、色々と考えていたのよ。ただ、あの子はあんたと違って数字に強いでしょう。それに看護師になりたいって小学生の時から言っていたでしょ? 理系選択に進むだろうと私も先生も思っていたのよ」

妹は、小学校の時に、夢世界で家族をなくしたショックから、看護師か医者になって人を助ける仕事がしたいと言っていた。芯の強い子だし、優しいし、賢いし、誰からも好かれる性質だから似合ってると思っていたのだけれど・・・

この会話の流れだと、文系に希望を出したんだろう。

「将来は何になりたいって、言ったの?」

究極を言ってしまえば、私も母も、妹の決めた事に口出しする必要は無いと思う。

やりたいと言った事を応援してあげるくらいの距離感が、15歳という歳だろう。

私のその考え方は母から自然と学んだもので、当然母だって同じ事を思っている。

それでもなお、母が気にするという事は。

「政治家」

「はぁ!?」

「経済学者」

「んん??」

「工事の人」

「意味が!最後のが特に意味が!!」

まあ、母が気にするということは、ぶっ飛んでいるという事だ。

いやいやぶっ飛びすぎだろう。何があった妹よ。

「それで反対をしたら、喧嘩になった・・・・?」

穏やかな妹と人をくったような母の喧嘩は滅多にないので、妙に違和感がある。

「いや。理由を聞いたら上手く答えられなくて、混乱した胡桃が脱兎のごとく逃げ出した」

「あー。見える。選択肢の“たたかう”“ぼうぎょ”が出来なくて“にげる”コマンドを選択するくるみちゃん」

「そう可愛かった。特に、あんたの家の鍵をちらっと見て置いていく姿とか特に」

いや、そこは私に一報いれるべきだと思うけど。



とりあえず、あと一カ月もしないうちに夏休みに入るので、それまでは私の家で預かる事が決まった。

それと、進路について、なぜ急に路線変更したのか聞きだすことも。

「あんたも仕事はほどほどにねー。都会に疲れたら戻ってらっしゃい」

と、優しいんだか不吉なんだか判断に困る一言を残して会話は終わった。



「・・・・・・・。」



時計を見たら1時だった。


妹の進路については、十中八九、夢が絡んでいるだろう。

私しか聞き出せない理由かもしれない。

ただ、なんだか疲れてきて、目がかすむ訳で・・・。


とにかく明日は休みなので、全ては明日にするとして。

ソファーに体を投げ出して、私はその場で眠りに落ちた。

そういえば昨日、なんであの男は現れなかったんだろうな、と最後にちらりと思った。


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