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プロローグ。牢屋で生活するには 12


青い空、白い雲、緑の庭園、咲き誇る花。

―-―-世界は美しかった。



扉を抜けると、風が私を迎えてくれた。

白亜の城をバックに、庭園の緑が揺れる。色とりどりの花の中、私は言葉を失った。

あまりにも世界が鮮やかだったから。

けれど世界は美しいだけではない。緑に点々と散らばる赤がある。

地下へと逃げてきた男たちの血かもしれないし、あたりに倒れ伏している銀色の騎士たちの血なのかもしれない。

沢山の人が、沢山傷ついて、沢山倒れて。それは見たこともない地獄絵図だ。

抜けるような空との対比がシュール。


《耳を澄ませろ》


風の音しかしない、しんとした世界の中で、ふいに悲鳴が聞こえた。

今度は絹を裂くように悲痛な、女性の悲鳴だった。


それを目指して走る。

騎士の腰に剣がないか目を走らせたが、鞘が散らばるばかりで、肝心の刃がどこにもない。

詳しく探す時間が惜しいので、剣は諦めて一目散に走る。


やがて庭園の端の白い東屋の傍らで、二人の少女が獣に追い詰められているのを見つけた。

高校生ぐらいの容姿に見えた。紫と金の頭、泣きながら二人、小さくなって震えている。


ぶち、と頭の中の何かが切れたような感覚があった。

「なに、してんだ!!」

肩から獣に体当たりをする。

ズガン、と音がして、獣は何メートルか吹っ飛んだ。

けれどすぐに起き上がる。前足で地面を踏み締めて、頭を振って、こちらを睨む。


私は小さな声で後ろにかばった二人に声をかけた。

「逃げて」

片方が小さく首を振り、もう片方が大きく頷いたのを、目の端で見る。

「二人で支えあって、なんとか後ろの建物に隠れて下さい。早く」

促すと、頷いた方がもう片方に手を貸して、お互いを支えに立ちあがる。

あなた様は、とか細い声が震えながら尋ねてきたので、大丈夫だと強く頷いた。

「私の事は気にしないでください。私のそばにいると怪我をさせてしまうかもしれません」

彼女たちは戸惑うような逡巡の後、「ご武運を」と残して、背中を向けて走り始めた。

足が震えているのか、無理やり体を動かしているのが分かるぎこちなさだったが、逃げてくれるのなら何でもいい。私の真後ろにいるよりは、ずっとずっと安全だろう。

二人の少女はお互いの手を強く握り、肩を寄せ合って懸命に走っている。


そんな私たちの様子を、獣がじっと窺っていた。

アイスブルーの瞳には縦に瞳孔が入っていて、睨まれるとまるで石にされてしまいそうな、涼やかな目。

白い毛皮と、黒いライン。三角形の耳が、情報を集めようとしているのか、ぴくぴく動いている。

小さければものすごく可愛いに違いないのに、と思う。

―-――--それは、白い虎に似ていた。

ただし、大きさは乗用車くらいのそれだ。牛も馬もひと噛みで殺せてしまいそうな大きな口。

開いた口には長い牙がついている。三本の爪は鋭く、とてもよく切れそう。


虎なんて、本物は見た事がない。

動物園やサファリパークに行った事はあるはずだから、本当は見たことはあるのかもしれない。

けれど印象に残っていない。彼らは夜行性だから、眠っていたのだ、きっと。

だから今目の前にいる白い虎が、私の世界に存在する虎とどう違うのかは分からない。


ぱしん、ぱしん、と虎の尾が床を打つ。


いつ襲ってくるのだろう。

正面から爪を振りおろされたら、私に受ける盾はない。

油断したら終わりだ。


ぱしん、ぱしん。


カウントダウンでもしているように、一定の間隔で打つ。

私は慎重に虎を見ている。

途端、

《跳べ!!》

頭の中でうわんと鳴った誰かの声に突き動かされて地面を蹴った。

次の瞬間、私がいた地面がはじけ飛ぶ。


ドガン!!


もうもうと塵介が巻き起こる。その中で、虎が私に迫ってきているのが見えた。

着地すると同時に、

《右だ!》

右側にごろごろと転がる。

虎は私の左腕すれすれを突きぬけて、背後の東屋に体当たりをかました。

またドガンと凄い音がする。東屋を構成していたレンガが割れ、音を立てて崩れ落ちた。


今、頭の中で―-―声が、聞こえた?

《油断すんなよ。あの程度じゃ死なない》

また聞こえた。

「・・・誰?」

ちっ、なんて舌打ちまで聞こえる。

《んなこと構ってる暇あんのか?》

促されて東屋を見た。ガラガラと瓦礫を崩しながら、白い虎が顔を覗かせている。

ネコ科の目が私を睨んでいる。殺気を込めて、睨んでいる。

のしのしと足音を立てて東屋から出てきて、また、尾で床を叩きだした。


「あれは何をしているんだろう?」

さっきは、尾を打ちならしているうちに床がはじけ飛んだんだった。

《奴の尾には針がついてる。それを、打ちだして攻撃してんだ》

「針・・・」

《毒針だ》

「まじか・・・」


そんな恐ろしい長距離攻撃法があったとは思わなかった。

全然虎じゃないじゃないか! 

見目で騙されて大変な目にあうところだった。


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