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プロローグ。牢屋で生活するには 11


今日は一緒に眠ろうよ。


そう言うと、妹はとてもうれしそうに笑って、「喜んで!」 と答えてくれた。

私のベッドで、二人で眠る。

身を寄せ合って、お互いの体温を感じながら。

静かな夜はゆっくりと更けていく。

ただ、窓から差し込む月の光だけが、ゆらゆらと瞼の裏に残った。




悲鳴が聞こえた。

それで目が覚めて、私はゆっくりと瞼を開いた。

誰もいない、広い部屋の中、私は相変わらず天井から吊るされたまま拷問部屋に残されていた。

部屋の壁際に添えられている燭台に炎が灯っている。その明りで自分の体を見降ろした。

まず、足元には乾いた血だまりがある。矛盾するけれど、“夢じゃなかった”という思いが心に浮かぶ。

背中は割れたままだろうか。腕は裂けたままだろうか。

確認したいけれど、体勢が窮屈でうまく動く事ができない。

なんとか外れないだろうか?

手を伸ばしたり曲げたり、懸垂の要領で体を上に持ち上げたり色々やってみると、ふいに金属の輪から手が外れて、床に降りる事ができた。

-―-なんとか外れてしまった!

よく見ると金属の輪にはヒビが入り、輪の部分が広がって外れたようだ。

火事場の馬鹿力というやつ・・・だね?

なんだが釈然としないものを感じるけれど、まあいいや。それより大事な事がある。


まずはモーニングスターを食らった腕からだ。

持ち上げて、検分・・・するまでもなく、なんともなかった。

ささくれたはずの表面は、滑らかな筋肉のついた皮膚に覆われている。骨が折れていたとは思えない様子に、思わず一回二回と曲げ伸ばししてみたけれど、動きがおかしい場所もなく。

剥がされたはずの爪も、一枚の不備もなく綺麗についていた。

潰された足だってもちろん変形していない。背中は見えないけれど、手を伸ばして探ってみてもやはりなめらかな皮膚があるだけだった。


足元に血だまりがある。

だから、あの“悪夢”は本当にあったこと。

それなのに、私の体はなんともない。

なんだろう。やっぱり夢だから、ご都合主義のアフターサービスが行き届いているのだろうか。

謎だ。謎すぎる。

謎の牢屋、謎の男、謎のグッズ、謎の拷問部屋、謎のサド男。

まったく、この世は謎だらけだ。


そんな事を考えて深くため息をついていると、また悲鳴が響いた。

細く長く、尾を引いて耳に届くそれは、おそらく男性のものだと思う。

《ぃけ》


・・・ん?

今誰か喋った?

何かが聞こえた気がしてきょろきょろ周りを見回してみるけれど、誰もいない。

とにかく拘束も解けたのだし、行ってみようか。

私は燭台を一本手に持って、走り出した。


部屋を出て、長い暗い廊下を走る。この廊下には何もない。牢屋があったり扉があったりはしない。

階段に突き当たり、駆け上がる。最初にいた牢屋の階に出ると、何か鉄くさい臭いが鼻に届いた。

そこここでうめき声がする。

階段から一番近い牢屋の鉄格子に男が一人もたれかかっている。

「大丈夫ですか?」

声をかけると、胡乱な眼でこちらを見た。意識が朦朧としているらしい。

それもそのはずで、彼の腕には縦に裂傷が走っていた。鋭い刃物を上から突きおろしたかのような傷だった。

あまり高そうではない、長年着ているような服を着ていて、デザインから使用人のようだと当たりをつけた。燭台で彼の傷を良く見てみたけれど、流れ出る血をどう止めたらいいか分からない。

申し訳ないけれど、男の服を破り、肩口で強く縛った。三角巾の要領で彼の首に布を回し、腕をとめて縛る。それで正しいかは分からないが、何もしないよりは良いだろう。

じわじわと布を、血が染めていった。

男はぼんやりとした目を閉じて、眠ったらしい。

《行け》

早く人を呼んだ方が良い。彼の命に関わる問題だ。

また耳元が何か声が聞こえた気がしたけれど、自分の心臓の音が煩くてそれどころじゃない。

《先に進め》

先を目指して走る。

すると、倒れている人が一人二人と見えてきた。

床に倒れている者、牢屋を背に凭れかかって俯いている者。私はその一人一人の様子を見て、なんとか息がある事を確認して安堵の息を吐く。


やがて私が居た牢屋の前までやってきた。

ひとつだけ鉄格子がぴかぴかだからすぐに分かる。

私の牢だけ鍵が開いていたのか、中には山盛りになって人が倒れていた。

ほとんどが気絶していたので、一人ずつ床に寝かせて応急処置をしていく。やはり鋭い切り傷があったり、まるで獣に噛まれたかのような歯型があったりと、誰もが大けがをしていた。

沢山人がいたので、中には意識がある人もいたけれど、ガチガチと歯を鳴らして、話をきけるような状態じゃなかった。まるで、野犬に襲われて逃げる兎の様な怯えようだった。


きっと、この人たちは“何か”から逃げてきたのだ。

《敵がいる》

そうだ、敵がいる。鋭い爪と長い牙を持った、獰猛な獣のような。


私はそれを倒さなければならないと思った。

早く倒さないと、人が呼べず、今この場にいる人たちが助からないかもしれない。

彼らが負っている傷はいずれも重傷で、治療を待つために残された時間は長くない。


壁際に置いて並べてあった謎グッツの中から、何か役に立ちそうなものを掴んだ。

硬そうな石や針などだ。

武器となりそうなものはそれしかない。倒れている人たちも、剣などは持っていないようだった。


牢屋を出て、通路の端に上り階段がある。

それを上り、建物の内側に出たのをさらに走り、やがて外につながる、明るい出口を見つけた。


《さあ、外に出ろ》


ざぁ、と風が流れた。



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