プロローグ。牢屋で生活するには 1
書いたらすぐ投稿していますので、誤字脱字がありましたら都度訂正いたします。ご連絡いただけますと助かります。
また、思いつきにより遡って細かな設定変更をすることもあると思いますが、温かい目で見てやってください。とりあえず続けることを目標に。
仕事をして一人暮らしの家に帰る。シャワーを浴びて軽食を食べ、就寝。
・・・・したはずなんだけどなあぁぁ!!
かぱ、と開けた目に映るのは、暗い暗い石の天井。
思い出すように感じる床の冷たさ。湿った空気と静寂と。
錆びた鉄柵なんかが見えたりします。
はあ、と私はため息をついた。
何度見ても思うけれど、牢屋以外の何物でもない。
そんな所で目覚める、朝。
最悪です。
朝と言っても、窓もないし、おそらく地下なので、時間感覚はいまいちわからない。
それでも、寝起きだから朝、と便宜上呼んでいる。
のろのろと体を起して、鉄柵に近づく。鉄格子と言っても良い。
一日一回、鉄格子の前には食事が置かれている。
冷たい薄い何かのスープと、そのまま齧ると歯が欠けそうな石のように硬いパン。
それと、よくわからない何か。
今日はボタン。何だろうこれ。分からないけれど暇なので、とりあえずもらっておく。
「あーこんなのいつまで続くんだろう」
愚痴りながら、パンをスープに浸してふやかして、適当に口に放りこむ。
こういう食べ方を、何かの小説で海賊がやっていたけれど、
本当、食べ物を腐敗から死守しなければいけない船の中とか、食料選択の自由のない牢屋の中以外じゃ絶対口にしたいと思わない味わいだよなー。と、思う。いつもながら。
ねっちゃくっちゃとゆっくり食べながら、あらためて自分の境遇を考えてみる。
形式美に則って言うと、囚われの身。
そのままずばり言うと、投獄中。
しかもこの扱いは終身刑っぽいんだよなあ、と最近は思う。
どうしてこうなったのか?
正直に言おう。分からない。
なぜなら、これは私の夢の中、だからだ。
奇妙な夢を見るようになったのは、もうひと月くらい前なのか。
夢の中で目覚める度に壁に着けていた傷によると、(ひー、ふー、みー・・・)今日でちょうど30日目になる。
日常を過ごして夜眠ると、そこは牢屋の中だったのだ。
夢の言っても、石の手触りや冷たさは本物で、最初は混乱したものだ。
けれどなにせ牢屋なので、何もしようがない。隅から隅まで見回して、
1、天井と床と壁三面が石でできていること。それは同じ材質で、均等に切られていること。
2、残り一面の壁に鉄格子がは嵌められていて、マジックペンくらいの太さのそれは、錆び具合から見て相当の年月を経ているはずなのに、ゆすっても叩いてもびくともしないこと。鉄格子の枠の大きさは、手のひら一枚分くらい(…15センチ×15センチ?)の顔が入らないサイズであること。
3、牢屋の大きさは一人暮らしの部屋と丁度同じくらいで、目算で8畳ぐらいだろうということ。
4、鉄格子から一番離れた壁にそって、衝立のような、腰くらいの高さの板きれがあって、そこの床だけが剥き出しの土で、隣に水を入れた甕が置いてあるということ。
などを検証した。
これだけで色々と分かることもあるけれど、何をおいても重要なのが、4番だったね!
一目見た瞬間から、そこが何であるか分かったけれど、そう遠くない未来で使う羽目になることは分かっていたけれど、思わず遠い目をして現実から目を背けたね!
粗末な食事と謎のグッズはその日からあって、良くわからないながらも取りあえず食料を牢の中に引き込んで、放置した。
直に地面に置いてあったパンなんて、現代人は食べないからね?
謎のスープも、端が欠けて唇切りそうな木製のお椀だったからね?
寝起きだからおなかも特に空いていなくて、それよりもこの現状がさっぱり理解できなかった。
私は眠っている間に誘拐でもされたのか?
一般市民の私を誘拐して幽閉してなんの利点が?
と、壁で体育座りをしながらその日は一日悶々としていた。
そして、目を覚ましたら自分の部屋でした、という。
起きて早々、私は「あれー?」と首を傾げた。
ここはどこ? 私はだれ?
ここは自分の部屋。私は森永絵美里。
では、さっきまのでは?
ああ、なるほど、夢、ね!!
と、こんな寸法だ。すっかり安心した私は、そんな奇妙な夢のことなど気にもせずに、出勤して、ご飯を食べて、帰宅して、シャワーを浴びて床についた。
そしてまた薄暗い牢屋で目を覚まして、人生で一番長い溜息をついた、という。
そんな寸法なんですよ。
それからは毎日欠かさず、夜寝ては牢屋暮らし、朝起きては日常生活、を繰り返している。
いったいこんな生活がいつまで続くのか? それは誰にも分からない。
私がため息一つで長い夢を受け入れたのには理由と根拠がある。まあ、それは後にまた披露するとして。
次は謎のグッズの話をしようと思う。
初日についていたのは、目の粗い紙ヤスリだった。最初は、仲間か何かがいて、私に脱出の手引きでもしているのかと思ったけれど、当然ながら紙ヤスリでは鉄格子を切断できたりはしない。
二日目は錆びた釘だった。
これをどうしろと、と思いつつ、石壁に正の字なんか書いちゃったりして、日付の計算をするのに役だっていたりする。
三日目は器に入ったどろどろの何かだった。最初はスープの添え物かと勘違いして危うく食べる所だったけれど、なんとか思いとどまってその日のグッズだと気づけた。
指で掬ってひと舐めしたら涙が出るほど苦く、背筋がぞくっとしたので、毒なのかもしれない。
とはいえ無味無臭でなんとなく除湿剤を思い出されたので、不浄所、というかトイレというか隅の土くれの上のまいてみた。これが大正解で、臭くないのだ!
食事中の方には申し訳ない話題だが、その時点では私も観念してその場所を利用させてもらっていた。
でも水洗トイレ世代の現代っ子なので、自分のアレやソレとはいえ、匂うのが辛かった。むしろ自分のであるからこそ、臭いと認識せざるを得ないのが悲しかった。
くそ、夢のくせによぅ! とやさぐれもした。
小さい方はひとまず置いておくとして(ほんとにすいません)、大きい方。土に窪みがあって、その中に済ます(ほんとにほんとにすいません)。で、脇にある土の山を崩して被せる。そのあとは水甕の中の水をかけてもかけなくても良い。
ネコか! と突っ込まずにはいれなかった。
しかも使用後は、次に使うためにまた窪みと土の山を用意しないといけない。同じ場所を掘ったら出てくるにきまっているじゃないか。
使う前から臭っていた場所だから、きっと前の使用者のもの(ほんとにほんとにほんとにすいません)だって埋まっているに決まっている。
うわああああと頭を掻き毟りたい衝動にかられていた私には、何よりありがたい差し入れだった。
そのローション的なスライム的などろどろした何かを土に撒いて、混ぜて、あとは、魔法の呪文「これは肥料」と唱えながら撹拌して使っている。
はは、いらぬスキルを身につけてしまった・・・。
他には、棒きれがそっと添えられていたり(例の土の撹拌に使っている)、ボロの布が置かれていたり(水瓶の水に浸して体を拭くのに使っている)、針と糸だったり、針金だったり、兎のようなリスのような何かの置物だったり、焼き物だったり、石だったり、絵具のような染料だったり。
何がしたいのかさっぱり分からないので、暇つぶしに有効活用している。
さて、ひと月も同じことをしていると、いい加減生活のサイクルができてくる。
牢屋生活は、まず起きたら食料と謎グッズの回収。
グッズを眺めまわしながら口に食事を押し込む。
食べ終わったら、釘で正の字を追加。
水瓶の水で顔を洗い、時々髪の毛も洗い、体を拭く。拭いた布は良く絞って乾かす。
ストレッチをして、腹筋背筋腕立て伏せ、ラジオ体操第一第二、鉄格子を使ってジャングルジム昇り、懸垂、などなどなど、思いつくまま体を動かして鬱憤を消化する。
そうすると目が覚めてくるので、今までのグッズを床に並べて検証。使い道はないか、新しい遊び方はないか? 新しく思いつけばそれで時間をつぶして、思いつかなければ初日のグッズ紙ヤスリで、鉄格子を磨き始める。
これがなかなか、ハマる。
良く使う中央から磨いていて、ちょうど全体の四分の一くらいの鉄棒はピカピカのつやつやだ。
牢屋の外にかがり火があるのだが、その炎をキラキラ反射して綺麗なのだ。俄然やる気がでるけれど、あんまり磨きすぎてやることがなくなっても詰まらないので、毎日少しずつ、丁寧に磨いている。
食事を持ってくる係りの人(牢番?)は、これを見てどう思うんだろうなーなんて時々妄想したり。
まあ、とにかく、暇なのである。