6月17日(木)『モンゴルの十二支話』part1
すたすたすた。
現在、午後1時を少し回ったところ、授業中だ。
すたすたすた。
今は科学の時間、しかも今日は実験をするということ。
いやにテンションが上がっているやつもいれば、堅実に身の心配をしている者もいる。
すたすたすた。
・・・だろう。
すたすたすた。
俺は今、廊下にいる。
決して先生に教室からほうり出されたわけではない。
むしろまだ先生と対面していない。
すたすたすた。
そうだ、サボりだ、サボタージュだ。
一言、言っておけば・・・、これは不可抗力だ!
「いいわけ?」
「うるさい、いきなりナレーションに入ってくるな」
「あはは♪」
こいつ、読心術士か?
まぁいい、実際いいわけだしな。
昼休みに昼寝して、そのまま起きずにみんな移動教室。
そういえば、誰も起こしてくれなかったな・・・む、空しい。
「なぁ。ところで、俺はいったい何をすればいいんだ?」
「え?あー、うん。まぁついてきて」
さっきからこの調子。
だが、たぶん言いたくないとかそういうことじゃないだろう。
葉弓はどうも説明下手な節がある。
自分で見て確かめろって事なんだろう。
「あー、こっちこっちぃ!」
「ん」
ぼーっと歩いていたら、いつの間にか葉弓が廊下を曲がっていた。
「あーすまん、ちょっとぼーっとしてた」
「もー、とーやってばー、あはは」
よく笑うやつだ。
語尾に『☆』をつけてもいいぐらいだな。
ところで、話は変わるが。
この学校は、広い。
かなり、広い。
ここ、天上学園高等部は『天上グループ』が管轄する学園都市で、小中高大すべてが揃っている。
校舎のサイズも小<中<高<大と、上に行くに連れてサイズが大きくなっている。
俺は中学は天上ではなかったが、葉弓は小中高と通ってきたらしい。
だから、葉弓にとってはたいしたことないようだが、俺にとっては驚きの連続だよ、まったく。
「とーやっ!」
「ぉわ!?」
「着いたよー!」
「あぁ、やっと着いたのか。・・・で?」
「?」
疑問符が目に見えるようだぜ。
正直、疑問符を掲げたいのは俺の方だよ。
葉弓が「着いたよ」といったこの場所。
いわゆる、というか見たまんま、『廊下の突き当たり』だ。
意味が分からん。
「こんなとこで何しようってんだ?」
「あー・・・そっか、とーや知らないんだっけ?」
「・・・は?」
「んーとねー、ここねー、生徒会室の入り口なんだよ!」
「・・・はぁ?」
以前にも同じリアクションを使った気がする、デジャブか?
葉弓の言葉を聞いて、もう一度あたりを見渡してみる。
目の前には壁、なんと言うこともないただの壁。
左には窓、今日もいい天気だ。
右には教室らしきもの、だがしっかり『多目的室3』と札がついている。
となると・・・後ろ?
振り返ってみる。
異様に長い廊下がある、それだけ。
向き直る。
・・・もう一度振り向く!
さりげないが、廊下の長さが半端じゃなかった!
向こうの壁が見えねぇ・・・まじかよ。
向き直る。
・・・・・・
「なぁ」
「ん?なぁにとーや?」
「入り口はどこだ?」
適度なところを突っ込んでやった。
「ふっふっふ~!そーくると思ってたよ!」
テンション高いな、こいつ。
「聞いて慄け!見て喚け!」
ちょっと違う。
「これがぁその入り口だぁ!!」
だんっ!と、その場で足を踏み鳴らした。
つられて足元を見ると―――!
「・・・何もないが・・・」
何もなかった。
いや、何もないことはなかった。
廊下の床にピンポン球くらいのシールが張ってあった。
「お前の目は節穴かぁー!ほら!ここだここ!スイッチあるじゃないか!!」
「・・・スイッチ?」
葉弓が差し指でそのシールを紹介した。
「いや、これはシールだろ」
「違う!スイッチだっ!」
「いや、シールだ」
なぜ俺がここまでその存在をシールと呼称しているのかといえば、そのシール(スイッチ?)のデザインにあった。
そのシールには文字がプリントされている、『しーる』、と。
「葉弓、よく見てみろ、これは・・・シールだ」
「違う!」
「そうか、じゃあスイッチだ」
このやり取りも飽きたので、清々しいくらいに潔く認めてやった。
「まったく・・・!最初っから認めてりゃーいいんだ」
ちょっと勝ち誇ったような顔をして、葉弓は体をかがめてスイッチを押した。
「ぽちっとな☆」
古典的なセリフをつけて。
刹那、俺たちが立っていた廊下の周囲に鉄の壁が下りてきて、閉鎖された。
あたりが真っ暗闇になったかと思うと、天井から青い明かりが小密室を照らし出した。
ガコンガコンと歯車由来な音が聞こえたかと思うと、突然さっきまで廊下の突き当たりだった場所が開きやがった!
と、同時に床が動き始めた!
開放された廊下の突き当たりのその向こう側へ、私たちをいざないっていく!
結構なスピードで。
慣性の法則で俺は後ろの鉄壁まで吹っ飛ばされ、後頭部を強打。
でも、0.3秒で回復、俺のクイックリカバリーすごいでしょ?
というか、葉弓は吹っ飛ばされるどころか、両手を腰に当てて前を見て仁王の如く立っている。
こいつには物理法則が効かないのか?
などと考えながらも、2,3回ほどのカーブを食らいつつ、待つこと10数秒。
ドガンと、とてもブレーキとはいえない止まり方で急停止。
例の如く、私は慣性の法則を受け、今度は前方に、顔面から壁に衝突。
例の如く、葉弓は仁王よろしくな立ち振る舞い、微動だにしない。
「よし!ついたよ、とーや♪」
「あぁ・・・、そうか・・・」
顔面打撲した俺は鈍い痛みが走る口を懸命に動かし返事をした。
「じゃ、今ドア開けるね~」
ドア?壁だろ・・・。
突っ込みたいが口が動かない。
「ぽちっとな☆」
葉弓は再び足元のシール、もといスイッチを押して前方のドア(壁だ)を開け放った。
ゆっくりとドアが開いていき、そこから白い光が差し込んできた。
(ここが生徒会室か・・・)
とりあえず、この異質な移動手段にケチの一つでもつけてやろうと心に決め、まだ光に慣れていない目をこすりながら、歩を進めた。