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人材が欲しいのか奴隷が欲しいのか

作者: P4rn0s
掲載日:2026/03/06

夕方の商店街は、もうシャッターの方が多かった。


残っているのは、古い薬局と、色あせた看板の定食屋と、

駅前にぽつんと立つ求人掲示板だけだった。

そこには何枚もの紙が重なり合い、風にめくれ、

角が丸くなっている。


「急募」

「未経験歓迎」

「やりがいのある仕事です」


その文字は、

何度も雨を吸って乾いた跡のように波打っていた。


店の奥で、店主は腕を組んでいた。

昼の客は三人。夜の予約はゼロ。

厨房の火は、もはや意地のようなものだった。


「若いもんが来ん」


独り言のようにこぼれる。

しかし時給は十年前とほとんど変わっていない。


上げたくないのではなく、上げられない。

材料費は上がり、電気代も上がり、客単価は上げられない。

数字は静かに、首を絞めている。


一方、駅の反対側のマンションの一室で、スマートフォンを握る青年がいる。

求人アプリをスクロールしては閉じる。


「この条件で生活できるか?」


家賃、保険、食費。

数字を足すと、ため息が出る。

やりがい、感謝、地域貢献。

その言葉はどれも、通帳の残高を増やしてはくれない。


彼は働く気がないわけではない。

ただ、自分の時間と体力を差し出すなら、

それに見合う何かが必要だと思っているだけだ。

それは欲望ではなく、生存の計算だった。


商店街の定食屋の前を、彼は通り過ぎる。

店主は暖簾の隙間から外を見る。

目が合いそうで、合わない。


店主は思う。

「少しは店のために頑張ろうと思わんのか」


青年は思う。

「少しは人の生活を想像できないのか」


どちらも声には出さない。

声に出せば、言葉は刃物になるからだ。


夜。

商店街の街灯がひとつ消える。

定食屋の厨房では、火が落ちる。


店主は帳簿を閉じる。

青年はアプリを閉じる。


どちらも悪人ではない。

どちらも怠け者でもない。

ただ、それぞれの世界の計算式が、かみ合っていない。


働くことは祈りではない。

奉仕でもない。

そこには必ず、差し出すものと受け取るものがある。


その釣り合いが崩れたまま、

「なぜ来ない」

「なぜ払わない」

と言い合っても、

夜は深くなるばかりだ。


商店街に風が吹く。

掲示板の紙がまた一枚、はがれ落ちる。


誰かが悪いわけではない。

けれど、誰も折れないままでは、

灯りはひとつずつ消えていく。


そして朝が来ても、

その張り紙は、まだそこにある。

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