第二話「堕ちた黒」
エルは、生まれてからずっとランジェのそばにいた。
まるでそれが正解であるかのように。
まるで、それが当たり前であるかのように。
周りの神や天使たちは、エルを手に入れようと躍起になった。力づくでも、奪ってでも。
それでも、ランジェがいつも彼女を守った。
ランジェは決して、誰かを傷つけなかった。
たとえ自分がどれほど傷つけられても――。
――けれど、ある日。
ランジェは神を殺した。
その報せが天を駆け巡ると、神々も天使たちも騒然となった。
「ついに悪魔が牙を剥いた」と。
誰もが好機とばかりに、ランジェを審判にかけようとした。処刑は当然のように決まりかけた。
だが、直前で誰かが囁いた。
――“天界に生まれた悪魔を殺せば、天が呪われる”――と。
いつしかそれは天界全体に広まり、恐れた神々は、手を下すことをやめた。
その噂を広めたのが、エルだとは、誰も知らない。
こうして、裁きは「追放」へと変わった。
ランジェは天を追われ、地へと堕ちていく。
白く輝いていた羽根は、黒く染まった。
地上へと落ちていくその姿は、まるで夜そのもののようだった。
地に堕ちたランジェは、ぼろぼろの体を起こすと、真っ先にエルのことを思い浮かべた。
(……大丈夫だろうか)
彼の中にあるのは、ただそれだけ。
――けれど、それは杞憂だった。
「ランジェ」
背後から聞こえたその声に、ランジェは振り返る。
そこには、柔らかな光をまとった白の天使が立っていた。
「……エル?」
「ついてきちゃった」
そう言って笑ったエルは、眩しいほどに綺麗だった。
堕ちた黒の天使の隣で、白の天使は微笑む。
その光と闇が並ぶ姿を、誰も知らない。
天はただ、沈黙していた。




