第一話「天に生まれし悪魔」
天使。
それは天の使いであり、天の死を知らせる存在。
天――すなわち神は、不死ではない。
神の源は、人に信じられていること。
人々の願いを叶え、信仰を得る善神。
人々を恐怖へと突き落とし、畏れられる邪神。
その信仰の形は神によって異なるが、ただひとつ、共通している。
信じられれば信じられるほど、神は強くなる。
やがて人の記憶から消えると、神は少しずつ力を失い、
最後には――存在そのものが消えてしまう。
だからこそ神は、天使と契りを結び、信者を増やす。
神が死ぬ理由はそれだけではない。
他の神に殺されることも、自ら命を絶つこともある。
死んだ神の体は、数百、数千年をかけて朽ちていく。
その際に生まれるのが、天使だ。
――ある日、一柱の女神が死んだ。
理由は分からない。
彼女の妹は、何も語らなかった。
女神の死から数年。いくつもの天使が生まれた。
そして今もまた、新たな天使が生まれようとしていた。
だが、その天使を見た瞬間、誰もが息を飲んだ。
天には似つかわしくないほどの黒。
全てを塗りつぶすような、底の見えない闇の髪と瞳。
それなのに、その背には、白く大きな羽根が生えていた。
「……悪魔だ」
誰がそう呟いたのか。
その一言を皮切りに、誰もが黒い天使へと石を投げつけた。
黒い天使は、抵抗することもなく、
すべてを受け入れるように――ただ微笑んでいた。
それから、数千年が経った。
女神の体はすでにほとんど朽ち、
まもなく完全に消え去ろうとしていた。
生まれた天使たちはそれぞれの神に仕え、契りを結んだ。
ただ一人、黒い天使だけが、今も石を投げられていた。
その体は、傷だらけだった。
また一人の天使が石を掴み――
その瞬間、辺りを白く、眩い光が包んだ。
光の源は、消えゆく女神の体。
皆がそちらを見た。
そこには、白く輝く髪に、透き通るような瞳を持つ少女が立っていた。
彼女の姿に、神も天使も息を呑む。
力ある者たちは皆、その白い天使に手を伸ばした。
だが、彼女は誰の手も取らなかった。
迷いなく、一人の天使のもとへ歩いていく。
そして――黒い天使の前で立ち止まった。
「お兄ちゃん、名前なんて言うの?」
「……“天に生まれた悪魔”って呼ばれてる」
「違うよ。生まれた時に与えられた名前」
「……ランジェ」
「そっか、ランにぃ。私はエル。よろしくね」
周りの驚きも、羨望の視線も、
白い天使は気にすることなく、黒い天使の手を握った。
そして、儚く――美しく、笑っていた。




