46「決勝戦・荒ぶる言葉の魔術師」※音楽あり
——決勝戦・YUICA vs CODAMA
【聖マリア病院・婆の病室】
白い壁、消毒液の匂い、規則的な心電図の音。
ベッドに横たわる婆の顔は、蝋のように白かった。
酸素マスクが、かすかな呼吸を助けている。
枕元には、スナック韻の常連たちが集まっていた。
——カズ、タケ、そしてKEN。
三人とも、項垂れたまま、言葉を失っていた。
「……もう、ダメなのか」
カズが、震える声で呟く。
「医者は……もっても、あと数時間だって。もしかすると、このまま……」
タケが、拳を握りしめる。
「……婆さん、まだやりのこしたことが、あったはずなのに。ミスティのあの姿を見て、安心してしまったんだろうな」
KENが、目を閉じた。
誰も、何も言えなかった。
ただ、心電図の音だけが、規則的に鳴り続けている。
その時——
病室のドアが、静かに開いた。
三人が、顔を上げる。そこに立っていたのは——
「……ミスティ!?」
カズが、驚きの声を上げた。
ミスティが、息を切らしながら立っている。
スナック韻を出禁になって以来、初めて婆の前に現れた姿だった。
「お前……なんでここに」
タケが、呆然と言った。
ミスティは答えず——ゆっくりと、婆のベッドに近づいた。
その目には、涙が溢れている。
「婆……」
ミスティの声が、震えた。
その瞬間——婆の目が、かすかに開いた。
「……ミス、ティ……か」
掠れた声。でも、確かに婆の声だった。
カズとタケが、息を呑む。
「……ずいぶん、デカく、なったな……」
婆の唇が、わずかに動く。
ミスティが、涙を堪えようとして——堪えきれず、溢れ出す。
「うん……」
「やっと……戻って来れたよ」
婆の手が、わずかに動いた。
「ああ……おかえり」
婆が、小さく笑った。
ミスティが、その手を握る。
冷たい手。
でも——まだ、温かい。
それは、昔と同じ——優しい笑顔だった。
「でも……あたいは、もう……逝っちまうよ……」
「ごめんな……ミスティ」
ミスティの涙が、止まらない。
顔を伏せる。肩が、震えている。
でも——ミスティは、顔を上げた。
その目には、涙と——決意が、宿っていた。
「だめ……ゆるさない」
婆が、目を見開く。
「……ミスティ」
タケが、慌てて声を上げた。
「おい、おまえ、まだそんなことを——」
「ちがう」
ミスティが、きっぱりと言った。
「YUICAが、まだひとりで戦ってる……最後まで、見届けてよ」
婆の目が、わずかに動く。
「……婆が託した、夢でしょ」
ミスティが、婆の手を握りしめる。
「あの子が、今、あなたのマイクで戦ってる」
「だから——」
「まだ逝くのは、ゆるさない」
沈黙。
カズとタケが、顔を見合わせる。
KENが、静かに立ち上がった。
「……分かった」
KENが、カバンからタブレットを取り出す。
「配信、繋ぐぞ」
すると看護師が言う。
「これ以上は、患者に負担が……」
婆が遮る。
「見せてくれ……むしろ、生きる理由が……欲しい」
タブレットの画面が光る。
そこには——ステージに立つ、YUICAの姿。
対するは、自分が鍛えた最強のMC……CODAMA。
婆が、画面を見つめる。
「やっぱり……YUICAとCODAMAが……最後か」
かすかな声。
でも——確かに、そこに力があった。
「……あの子、ちゃんと……立ってるな」
「うん……YUICAは強いよ。CODAMAよりね」
ミスティが頷く。
「あなたが選んだ光は、本物だったよ」
婆の目から、一筋の涙が流れた。
「……ありがとう、ミスティ」
心電図の音が、少し強くなる。
婆が、画面を見つめ続ける。
その目には——
誇り。
そして、安堵があった。
タブレットの画面から、司会の声が響く。
『それでは——決勝戦!』
『MC CODAMA——VS——YUICA!!』
会場の歓声が、病室に響く。
KENが画面を見つめる。
「CODAMAはYUICAの上位互換。たとえ100%の実力で戦っても勝てない……ただし」
「……最後に見たYUICAを基準にすればだがな」
それを聞いたタケがニヤリと笑う。
「あいつの成長速度は異常だ。バトル中も進化し続けてる……だから、勝機はある」
婆が、小さく笑った。
「……行け、YUICA」
「……おまえの、炎……見せてやれ」
ミスティが、婆の手を握りしめる。
カズとタケ、KENとミスティ、全員が画面に釘付けになった。
病室に、ビートが鳴り響く。
YUICAが、婆から継いだマイクを握る。
そして——最後の戦いが、始まろうとしていた。
【MCバトル会場・決勝戦ステージ】
ステージのライトが一斉に落ちた。
会場に漂うのは、息を潜める二千人分の緊張。
スクリーンの奥には、マイクを握る二つの影。
革命の名を背負った女と、言葉の魔術師。
司会が、告げる。
「決勝は16小節の2バース対決。それで決まらなけば延長戦!タイブレーク方式になります」
※タイブレーク(勝者が決まるまで延長を繰り返す)
「それでは——先行後攻を決定します」
会場が、息を呑む。
「先行は——」
司会が、カードを掲げた。
「YUICA!」
会場が、ざわめいた。
「先行かよ」
「YUICA、不利じゃね?」
「後攻有利だろ、このバトル」
配信コメントも、一気に流れる。
『YUICAのパターン、ディス受けて共感だろ?』
『先行だと、それ使えないじゃん』
『これ、詰んだんじゃ……』
ゆいが、バックステージで拳を握る。
「お姉ちゃん……」
私は——静かに、婆のマイクを握りしめた。
——先行、か。
予想外だった。いや、想定はしてた。
でも——正直、避けたかった。
なぜなら——
私は、CODAMAを分析して、後攻の方が有利だと思ってた。
——MC CODAMA。
言葉の魔術師と呼ばれる天才MC。婆に鍛えられた、最強の兄弟子。
その武器は——
まず、自虐ネタ。会社員、陰キャ、オタク。
基本的に、私と同じ属性。
リアルな痛みを武器にするエミネム系。
——自虐では、差別化できない。
つまり、自虐で相手のディスを封る、私の特技が使えない。
次に、リズムキープ力。婆に鍛えられた彼のビート感はミスティに匹敵するレベル。即興のリリックも言葉の魔術師と呼ばれるCODAMAの最大の武器でもある。
さらに、オタク気質な性格で韻を研究し尽くしてる。パターン、フロウ、言葉遊び。自虐、リズム、即興、分析力。すべてにおいて、私より経験も技術も上回る。
まともに戦えば——勝機は、ない。
客観的に見ればもう——詰んでる。
——でも私は「MCバトルの諸葛孔明」だ。
——考えろ。——思考しろ。
——絶体絶命から突破口を、見いだせ。
『俺は、MC婆よりも強い』
——CODAMAは、婆を使ってまで私を煽った。
その時、セイラとの戦いが、ふと頭をよぎる。
——圧迫からの寄り添い。
先行でしか使えないあの大技。
アドレナリン、ドーパミン、あるものは全て出せ!美咲。
思考が加速する。言葉が、脳内に溢れ出す。
生き残れ!攻撃しろ!
覚悟を決めた一撃を——放て。
ビートが鳴り始める。
私は、CODAMAを見つめた。
「なあ、CODAMA——会社員ラッパー?」
マイクを握りしめる。
「名刺がマイクか? ネクタイがチェーンか?」
会場が、ざわめく。
「スーツ着て韻踏んで、それをHIPHOPって呼ぶのか?」
CODAMAが、メガネを上げて笑った。
「……面白ぇ。やってみろよ、偽物」
【先行:YUICA - 1stバース】
“会社?リアル? そんなもん腐ってんだ。
スーツの下で死んでる奴ら、笑えねぇわ、本当だ。
アンタが守る“現実”なんて、私が捨てた檻なんだ。
だから今日ここで、檻ごと燃やすために立った
アンタは会社の“一般人”。
こっちは敗者の“百万人”。
SNSで笑って、配信で泣いて、
それでも今日、このマイクを握ってんだ
アンタが出勤で戦うなら、私は配信で立ち上がった。
上司の圧より、コメント欄の方が地獄、それが私の過去だ。
だけど、そこから生きた、這い上がった。
私は、負けた人間の代表、今日すべての敗者の声を撃ち込んだ。”
私の叫びが終わった瞬間、空気が爆発した。
歓声、拍手、悲鳴。
「おおお!YUICAの強烈なディス」
「攻撃だ!革命の詩人だ!」
「YUICAが社会をぶっ壊しに来た!」
照明が閃き、YUICAのアバターを紅く染める。
その姿は、敗北者の旗を掲げる女神のようだった。
だが次の瞬間、音が止まった。
マイクを掴む音だけが響く。
対面のCODAMAが低く笑う。
その声は、静かながらも獣のように研ぎ澄まされていた。
CODAMAが、眼鏡を掛け直す。
「いいこと言うじゃねぇか」
マイクを握る。
「でもな——偽物が本物を語るな」
会場が、息を呑む。
「画面の向こうで吠えて、配信切ったら消える声で、
何が"本物"だ? 何が"革命"だ?」
私は——唇を噛む。
「……言わせておけば」
【後攻:CODAMA - 1stバース】
“お前の百万人の声、確かに届いた。
でも、その中でお前自身はどこに消えた?
泣き顔も怒りも、全部リスナーに預けた。
“自分”って言葉、もう誰かが持ってった。
俺は“満員電車”でリリックを吐いた。
上司の説教も“サンプリング素材”にして、韻に変えた。
生活のノイズがビートを刻んだ。
この苦痛さえも、俺のヒップホップに昇華させた。
お前は叫ぶ、“革命だ”って。
でもな、革命は日曜には起きねぇ。
平日に汗で踏む一歩が現実だ。
地下鉄で韻を踏む、それが俺のリアルだ。
俺は社会の端っこの火花、でも消えなかった。
会社の名札が鎖でも、誇りに変えた。
バトルの外でもヒップホップで生きてる、それを証明した。
それが“職業ラッパー”、俺の選んだ生き方だった。”
静寂が会場を包む。
音が消えたのではない。
ただ、全員が息を止めていた。
どよめき、ため息、拍手が混ざる。
「平日に革命は起きねぇ……まさに」
「地下鉄で韻を踏む、それがリアルだよな」
観客の大半は、一般人。
CODAMAの言葉が一気に共感を生み出し、ステージを支配していた。
コメントが滝のように流れる。
『やべぇ、CODAMAが本気だ』
『言葉の魔術師、伊達じゃねぇ』
『YUICA、これ返せるのか?』
私は目を閉じた。
唇の端が、ゆっくりと上がる。
——さすがだよ、CODAMA。
でも——負けない。
私の返す言葉は熱く、それでいて冷静に、共感へとフロウするんだ。
私は、マイクを握り直す。
「さすがだよ、CODAMA」
深呼吸。
「でも"現実"を誇りにするなら——なんでここにいる?」
会場が、静まる。
「満員電車で韻踏むのが現実なら、
このステージは何だ? "夢"か? "逃げ場"か?」
CODAMAの目が、鋭くなる。
「……なるほどな」
【先行:YUICA - 2ndバース】
“平日に革命は起きねぇ? それがアンタの言い分だ。
じゃあ土曜の夜に泣いた奴は、どこへ行くんだ?
名札もねぇ、給料もねぇ、でもまだ生きてんだ。
この声で救われた命がある、それが私の革命だ。
アンタは"現実"を誇りにした。
私は"現実"に殺されて、それでも立ってる。
どっちが上でも下でもねぇ、どっちも正しい。
でも、どっちも生きてるなら——それがHIPHOPだ。
アンタのビートは満員電車、止まらず走ってる。
私の炎は無限列車、社会を燃やしてる。
止めた夢を蘇らせて、炎の先で誰かが立った。
連結させようぜ、二つの列車、それが革命だった。
アンタの鎖も、私の檻も、同じ鉄でできてる。
壊すんじゃねぇ、繋げようぜ、それが答えだ。
音で繋ぐ革命、それが私たちの正体だ。
今日ここで証明した、これが私たちのHIPHOPだ。”
会場が、息を呑んだ。
私の声は火花のように弾け、CODAMAの表情がわずかに動いた。
「まさかオタクネタをぶちこんでくるとは」
「これに乗らなきゃオタクじゃねえぞ」
「これはYUICA上手いな」
「満員電車受けての無限列車は最高」
CODAMAが静かに息を吸い込む。
心なしか目が笑っている。
「逃げ場ね——それ、そっくりそのまま返すよ」
マイクを口元に。
「"革命"? "無限列車"?」
会場が、どよめく。
「配信切ったら夢から醒める。
画面の向こうのブタに餌やるだけの人生——
それが革命か? それとも"錯覚"か?」
私は——怒りを堪える。
「……調子に乗ってんな」
【後攻:CODAMA - 2ndバース】
“無限列車?悪いが乗らねえ、
そもそも俺は柱じゃねぇ。
己の足で立つ、生殺与奪の権は渡さねぇ。
このマイクが俺の延命装置、命の"延長線"だ。
明日も電車で韻を積む、それが俺の現実だ。
お前の"音で繋ぐ"優しさ、嫌いじゃねぇ。
だが繋いだ鎖は時に、首を締める、それを忘れんな。
連結列車、お見事だ。でも止まれねぇのが運命だ。
ブレーキ無しで走る、それが命のレールだ。
見ろよ観客、どっちが正しいとかじゃねぇ。
この場で命燃やして韻を踏む、それが真理だ。
YUICA、お前が"革命"なら、俺は"継承"だ。
言葉で繋ぐ、それが俺たちのHIPHOPだ。“
ステージの照明が交差する。
YUICAの赤と、CODAMAの青が、中央で混ざり合う。
二人の呼吸が、同じリズムを刻んでいた。
そしてビートが止む。
余韻が、会場を満たしていた。
やがて波打ったかのように、観客が叫ぶ。
「すげえええ!これこそ決勝戦だ!」
「現実と革命の衝突!」
「でもどっちも、間違ってねぇ!」
「まじで互角」
会場全体が震えている。
YUICAとCODAMA。
その目にはもう、敵意ではなく——敬意があった。
それは勝敗を超えた——何か。
司会が、震える声で告げた。
「それでは——審査員の皆様、ジャッジをお願いします」
審査員席。
5人の審査員が、全員、目を閉じていた。
審査員A(ベテランMC・40代男性)が、ゆっくりと目を開ける。
カードを掲げた。
「CODAMA」
会場がざわめく。
「平日に革命は起きねぇ——この一行で、俺の心を撃ち抜いた」
「これが、プロのラップだ」
審査員B(女性ラッパー・30代)が、涙を拭いながらカードを掲げる。
「YUICA」
「土曜の夜に泣いた奴は、どこへ行くんだ——」
「この言葉に、私自身が救われた」
審査員C(音楽プロデューサー・50代男性)が、静かにカードを掲げる。
「CODAMA」
「満員電車でリリックを吐く——それがリアルなHIPHOPだ」
「技術と哲学、両方を兼ね備えている」
審査員D(詩人・60代女性)が、微笑みながらカードを掲げる。
「YUICA」
「敗者を救う優しさと、それでも立ち上がる強さ」
「詩人として、この言葉に敬意を表します」
最後の審査員E(DJレジェンド・70代男性)。
長い、長い沈黙。
会場全体が、息を止めている。
彼が、ゆっくりと顔を上げた。
そして—カードを掲げる。
「ドロー」
会場が、どよめいた。
「はっきり言う——二人とも、本物だ」
「革命と継承、どちらも正しい」
「満員電車と無限列車、どちらも走ってた」
「決められねぇよ。もっと聴きたい」
司会が、震える声で告げる。
「ジャッジ結果!」
スクリーンに、数字が映し出される。
「CODAMA:2票」
「YUICA:2票」
「ドロー:1票」
会場が、一瞬静まり返る。
そして——爆発した。
「引き分けだ!」
「延長戦!」
「決着がつかねぇ!」
「本物と本物の戦いだ!」
ステージ上。
私とCODAMAが、互いを見つめる。
もう、相手に敵意はない。
ただ、純粋な——そう思った時だった。
CODAMAが、急にマイクを掴んだ。
「ああ!くそっ!違う!ダメだ!」
CODAMAの声が、会場に響く。
「こんなんじゃ決着つかないだろ!リスペクトなんて要らねえんだ!」
会場がざわめく。
「なあ、YUICA——もっと俺を憎め!ディスれ!抉ってくれよ!」
私は、目を見開く。
「え……?」
「あんた優しすぎるんだよ!HIPHOPなめてんじゃねえよ!」
CODAMAが叫ぶ。会場が、さらにざわめく。
「え、何?」
「CODAMAが煽ってる?」
「どういうこと?」
配信コメントも混乱する。
『どうした急に?』
『煽りプレイ?』
私は——困惑していた。
——もっとディスれって?
でもこれ以上、強烈なディスなんて思いつかない。
そもそも、CODAMAに恨みなんてない。
むしろ——婆との出会いを作ってくれて、感謝してる。
困惑する私の表情を見て、CODAMAは、何かを思いついたように、表情を変えた。
「……あ……YUICA を怒らせる方法、思い出した」
CODAMAが、笑った。
でも、その笑顔は——どこか、狂気じみていた。
私は、嫌な予感がした。
CODAMAが、深呼吸する。
「しょうがねえ……黙っとこうと思ったんだが……」
CODAMAが、会場を見渡す。
そして——マイクに向かって、叫んだ。
「おい! 全国のブタども! よく聞け!」
会場が、静まり返る。配信画面が、一瞬止まる。
「"言霊の豚"って奴、知ってるよな?」
私は——息を呑んだ。
——言霊の豚?——なんで、その名前をCODAMAが?
会場が、ざわめき始める。
「え、言霊の豚?」
「あのヘビーリスナーのブタだろ?」
「時々赤スパ送ってたよな」
配信コメントも爆発する。
『死にたい時どうしたらいいかって人生相談してた』
『古参は大体知ってるわ』
『そういや最近見ないな』
CODAMAが眼鏡を外す。
そして——笑った。
「そうそう、そいつ——」
沈黙。
「——俺なんだわ」
会場が——凍りついた。
時が、止まったように。
配信コメントも、一瞬途切れる。
そして——爆発した。
「なに!?」
「マジかよ!?」
「CODAMAが、ブタだった!?」
配信コメントが、狂ったように流れる。
『ファッ!?』
『なにてめえ、ブタだったんか!?』
『うそだろ!?』
私は——立ち尽くしていた。
——まさかのリスナー?ブタどもだったの?
CODAMAが、マイクを握りしめる。
「まあ、聞けブタども」
会場が、静まる。
「俺はおそらく——初めてYUICAの"中の人"に会ったブタだ」
私の心臓が、跳ねる。何を言うつもり?!
「びっくりしたよ……すげぇ美人なんだもの」
会場が、どよめく。
「独女?嘘だろ?正直言って……好み、ドストライク。動揺を隠すの、必死だった」
CODAMAが、笑う。
配信コメントが、爆発する。
『てめぇ! ふざけんな!』
『Vtuberに中の人なんていねえ!』
『変な夢見させんじゃねえ!』
会場も、ざわめく。
「おい、それマズいだろ……」
「中の人の話、タブーじゃん」
CODAMAが叫ぶ。
「うるせえぞ、下等ブタども!」
「俺はもう——お前らより上に登ったブタだ!」
配信コメントが、さらに荒れる。
「そして今日、お嬢を倒してブタを、卒業する!」
「勝ったら俺が……お嬢を頂く」
配信コメントが、狂ったように流れる。
『お嬢様!この勘違い野郎をぶっ飛ばしてくれ!』
『許せねえ!クソやろうが!』
『姐さん、やっちまえ!』
『裏切り者!ブタの恥さらしめ!』
『言霊の豚、てめぇを……殺してえ』
私は——静かに、マイクを握りしめた。
手が、震えている。
でも——この震えは、迷いじゃない。
怒りだ。
私は、CODAMAを——いや、"言霊の豚"を、睨みつけた。
「おい」
低い声。会場が、静まり返る。
「躾が、足りなかったようだな」
CODAMAが、笑う。
「やっぱ……これには怒るんだな」
「当たり前だ」
私は、婆のマイクを握りしめる。
「よくも私のブタどもを傷つけたな」
配信コメントが、応援に変わる。
『姐さん!』
『やっちまえ!』
『こいつ、許せねぇ!』
私は——マイクを、口元に近づける。
「どっちが上か——」
目を、CODAMAに向ける。
「わからせてやる」
会場が、爆発した。
ビートが、再び鳴り響く。
今度は、さらに重く、激しく。
(延長戦へ続く)
——次回予告——
怒りを込めた、YUICAの延長バース。
そして、CODAMAの真意とは
リリックを確かめるためにつくった音源です。
人間の本物のラッパーには遠く及びませんし、理想どおりにはいかないのですが、MCバトルの様子が少し想像できるのではないかと思います。
【MCバトル決勝戦】私の革命【YUICA】
https://youtu.be/iTINP5vxcGs
【MCバトル決勝】革命は日曜には起きねえ【MC CODAMA】
https://youtu.be/qvhrXM2iz7Q




