表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/5

04 「毒舌お嬢様の人生相談室」

【待機人数2万人】


 私は配信ボタンを押した。


「あー……えーっと、こんばんは」


 いきなり画面が爆発した。


『お嬢様きたー!』

『YUICA♡お嬢様お疲れ様です!』

『待ってました!』

『今日も罵倒お願いします!』


 ——うわあ、すごい勢い。


 チャットの流れが早すぎて全然読めない。こんなの妹は体験したことあるんだろうか。


「えーっと……みなさん、昨日はありがとうございました。正直めちゃくちゃ動揺してます」


『素直なお嬢様も最高』

『ギャップがたまらない』

『今日は何してくれるんですか?』


 何をする?


 ——何をするって言われても、何していいかわからないよ。


 昨日は勢いでキレただけだし。企画とか全然考えてない。


「あの……正直、何していいかわからないんですが」


『雑談でいいですよ!』

『お嬢様のお話聞きたいです』

『人生相談とかどうですか?』


 人生相談?


「人生相談って……私、彼氏いない歴イコール年齢の独女なんですけど、人生相談される立場じゃないんですが」


『だからこそです!』

『リアルな意見が聞きたい』

『綺麗事じゃない本音が欲しい』


 ——なるほど、そういうことか。


「まあ……いいですけど。でも期待しないでくださいね。たぶん辛辣なこと言いますから」


『だがそれがいい!』

『むしろお願いします!』


【スパチャ:1000円】

『メッセージ:彼氏が浮気してるかもしれません。どうしたらいいですか?』


 おお、いきなり重い相談が。


「浮気ですか……えーっと、証拠はあるんですか?」


 コメントで詳細が流れてくる。LINE既読無視、急に優しくなった、香水の匂いが違う等々。


「あー、それ完全にクロですね」


『やっぱりですか……』

『どうしたらいいでしょう』


「いや、どうしたらって……別れたらいいじゃないですか」


 チャットが一瞬止まる。


「だって浮気するような男、この先信用できます?結婚したって絶対また浮気しますよ。時間の無駄です」


『でも好きなんです』

『5年も付き合ってるので』


「好き?5年?」


 私の声がだんだん低くなっていく。


「5年も付き合ってる彼女がいるのに浮気する男のどこがいいんですか?そんなクズのために女の貴重な時間をこれ以上無駄にするつもりですか?」


『で、でも……』


「でもじゃない!目を覚ましなさい!」


 完全にスイッチが入った。


「男なんて世の中に何億人もいるんですよ?なんでわざわざ浮気するクズを選ぶんですか?」


「幸せになりたいなら、ちゃんとあなたを大切にしてくれる人に、あなたの大切な時間を使ってあげようよ」


『はい!お嬢様の言う通りです』


「浮気男?そんなもの“思い出”にして燃やしなさい」


『目が覚めました』

『ありがとうございます!』


 ――あ、なんか効いてる?


 次の相談が来る。


【スパチャ:500円】

『メッセージ:会社の上司からパワハラされてます。辞めたいけど転職できるか考えると怖いです』


「パワハラですか。具体的にはどんな?」


 詳細を聞くと、かなり酷い内容だった。


「それ完全にアウトですね。録音してすぐ労基署に行きなさい」


『でも転職活動に失敗したら……』

『今は業界も不況だし……』


「不況だから、なに?」


 私は画面に向かって溜息をついた。


「あのね、そんなブラック企業にしがみついてる方がよっぽどリスキーだよ」


「転職なんて何回でもできる。パワハラ上司の顔色伺いながら精神病むより、さっさと逃げて新しいところ探した方が絶対いい!」


『う、ううぅ』


「まずは立って!そこに座ってても何も変わんないよ!」


『はい!お嬢様……』


「パワハラ上司なんて、履歴書の肥やしにしてやれ」


『なんか勇気出ました』

『明日辞表出します』


 その後も相談が続く。


 友達に金を貸したのに返してくれない。

 →「友達なんて名前だけです。金貸して返さない奴は泥棒と同じ。さっさと縁切りなさい」


 親の介護で疲れてる。

 →「これは……辛いですね。でも一人で抱え込まないで。行政のサービス使って、たまには自分の時間も作ってください。あなたが倒れたら元も子もないんですから」


 気がつくと、3時間が経過していた。


 視聴者数は5万人を超えている。

 チャンネル登録者も気がつくと10万人に到達していた。


『お嬢様の相談室最高でした』

『また明日も来ます』

『人生変わりそうです』


「あー、えーっと……ありがとうございました。今日はこれで終わりに——」


 その時、嫌なコメントが流れてきた。


『この相談者たちバカすぎwww』

『そんなことで悩むとかメンタル弱すぎ』

『俺ならもっと上手くやるのに』

『相談してる奴ら全員雑魚でしょ』

『浮気されるのは魅力がないから自業自得』


 ——はあ?


 私の顔が一瞬で険しくなった。


『YUICA♡優しすぎ、もっと罵倒してやれよ』

『こんな弱い奴らに時間使うの無駄でしょ』

『そもそも相談するぐらいなら最初から付き合うなよな』



「ちょっと待ちなさい」



 声が一オクターブ低くなる。


『あれれ、正論言われてキレてるの?』

『だって本当のことじゃん』


「相談してくれた人たちを馬鹿にするのは許さない」


『え?』

『マジで怒ってる?』


「あのね、勇気出して相談してくれた人に向かって、バカとか雑魚とか言う神経が理解できないんですけど」


 チャットが一瞬静まる。


「あんたたちは何もしないで、人の悩みを笑ってるだけでしょ?そんな奴らに人を馬鹿にする資格なんてない」


『でも実際に弱いからじゃん』

『底辺が努力したって無駄でしょ』


「努力が無駄だ?」


 私の怒りが爆発した。


「だったらさぁ……なんであんたは人の真剣な悩みを馬鹿にするような“惨めな人間”になってるの?」


『は?言い過ぎだろ』

『ひどくない?』


「ひどい?悩んでる人を笑い物にしてる奴らがよく言うわ!」


「この人たちはね、現状を変えようと行動してる。あんたたちは何?画面の向こうで、匿名で文句言ってるだけの役立たずでしょうが?」


『すみませんでした……』

『確かに悪ノリだった』

『なんか怒られて良かった』


「わかったならいいよ」


 すると、予想外の反応が起こった。


『俺もお嬢様に罵られたいのに!』

『ボクらは役立たずのブタです!』

『ずるい!わたしにもお願いします!』


 Mなリスナーたちが一斉に騒ぎ出す。


「気持ち悪りぃなあブタども!」


『はい!はいぃ!』

『ありがとうございます!』

『もっとお願いします!』


「じゃあそこに並んでブヒブヒ泣いてみろ!」


『ブヒブヒブヒブヒブヒブヒブヒィ!』

『このブタは一生お嬢様に飼われたいです!』

『ブヒーーーー!(泣)』


 チャットが「ブヒー」で埋め尽くされる異常事態。


「……なにこれ」


 私は完全に状況を理解できずにいた。


『ブヒこれが我々の愛です』

『お嬢様に罵られる幸せブヒ』

『相談者を守るお嬢様最高ブヒ』


「あなたたち……病院行った方がいいですよ、マジで」


『はい!行きます!』

『お嬢様のお陰で健康になります』


「もう意味わからない……今日はこれで終わりです。おやすみなさい」


 配信終了。


 私はぐったりと椅子にもたれかかった。


「疲れた……でも、なんか楽しかった」


 人の相談に乗るなんて、普段の生活じゃ絶対ない経験だ。しかも皆、真剣に聞いてくれて、感謝してくれて。


 ——これが……人の役に立つってことか。

 なんか違うような気もするけど。



 スマートフォンを見ると、SNSが大変なことになっていた。


「#YUICA相談室」がトレンド入り。

「#毒舌お姉様」も急上昇中。


『YUICA♡の人生相談が神すぎる』

『綺麗事言わないのが逆に救われる』

『この人のアドバイス的確すぎ』


 登録者数を確認すると……


 25万人!?


「え、ええええ!?二十五万人って何それ!?」



 すごい……でも、妹に申し訳ない。

 このままでは、旅行中のゆいにバレるんじゃなかろうか。

 頼むからネット見ないでくれ。


「ゆい、ごめん……またやっちゃった」


 でも正直、もうやめられそうにない。


 明日も配信したい。もっと色んな人の相談に乗りたい。


 ——私、生まれて初めて、やりがいを感じてるかも。




【一方その頃、九州某所の朝】


 旅館の一室で、ゆいがスマートフォンをいじっている。


「今日はどこに行こうかな……」


 何気なくニュースアプリを開くと、トップに大きな見出しが。


『V界の革命児「YUICA♡」、毒舌相談配信で再び大バズり!登録者数20万人突破』


「え……?」


 記事をタップすると、見慣れたピンク髪のアバターの画像と共に、昨日と今日の配信についての詳細な記事が。


『従来の清純派路線から一転、毒舌キャラで大ブレイク』

『「しねブタ」発言から始まった奇跡の大逆転』

『リスナーからは「お嬢様」「悪役令嬢」と呼ばれ……』


 ゆいの手が震え始める。


「あたし……配信なんてしてない……」


 そして記事に添付された切り抜き動画をタップ。


 画面に映ったのは、確かに自分のアバターなのに……


 YUICA♡で検索すると切り抜きショート動画が画面に溢れる。


『この罵倒で会社辞めました!』

『お嬢様の声で泣けるなんて初めて』


(え?これが……あたしのチャンネル?……)


「はあ?気持ち悪い!」

「しね、ブタ!」


 聞こえてきたのは、聞き慣れた声だった。


「お……お姉ちゃん?」


 スマートフォンを取り落とし、ゆいは立ち上がる。


「まさか、お姉ちゃんが……あたしのアカウントで……?」


 慌てて配信サイトを確認すると、わずか2000人だった登録者数が30万人になっていた。


 急いで荷物をまとめ始めるゆい。


 その表情には、並々ならぬ決意が宿っていた。



(つづく)



 ――次回「急いで帰路につく妹ゆい!そして運命の姉妹対峙!?」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ