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01「妹の部屋で誤配信」

 私の名前は田中美咲。


 アラフォーに突入した三十六歳。

 職業はフリーランス(自宅警備兼アルバイト)。


 彼氏いない歴イコール年齢という、絵に描いたような負け組である。


「もう無理ッ!Vtuberなんて絶対やめる!!」


 三日前、妹のゆいがそう叫んで家を飛び出していった。

 大きなバックパックを背負い、「日本一周してくる!しばらく帰らないから!」と言い残して。


 ちなみに妹のゆいは二十九歳。

 私より七歳も年下なのに、女子力高め、顔もフワフワのモテ系。

 万年モテ期で恋愛経験は私の百倍くらいありそうな、いわゆるリア充だった。


 そんな彼女が二年前に突然「Vtuberで有名になる!」と宣言して配信を始めたのだが……結果は散々だった。


 視聴者は常連でも十人程度。

 スパチャ(投げ銭)なんて月に数千円あればいい方。

 それでも毎日配信を続けていたゆいの根性は、正直すごいと思っていた。


 でも、ついに心が折れてしまったらしい。


「はあ……」


 ついに実家で一人ぼっち。両親は既に他界しているので、今は完全に独り身だ。

 買い物から帰っても誰もいない。夕食も一人分。なんだか急に寂しくなってきた。


【現在土曜日 午後20時】


 ブックオフに売るつもりで整理してた『のだめカンタービレ』が数巻分足りないことに気がついた。


「そういえば、ゆいに貸してたっけ」


 ゆいの部屋から回収しなければ。

 まあどうせいないんだから、勝手に入っても文句は言われまい。




「うわあ……これはひどい」


 ドアを開けた瞬間、目に飛び込んできたのは戦場のような光景だった。服は脱ぎ散らかし放題、本やCDは床に散乱。


 旅行の準備で慌てていたとはいえ、これは……。


「のだめはっと……お?あれは何だ?」


 本棚に向かう途中、デスクの上に見慣れない機械がいくつも置かれているのを発見した。

 高そうなマイクに複数のモニター、そして巨大なデスクトップPC。


「へえ、これがVtuberの配信機材かあ……」


 ゆいが「これでお金稼げるんだよ!」と嬉しそうに話していたのを思い出す。

 確か機材だけで総額で数十万円はかかったとか言っていた。

 さらにアバターの制作にも数十万使ったらしい。


 それで結果は……2年間で登録者2千人だっけ?

 聞くところ、なんとか生活できてる程度のVtuerでも登録者数は数万人。

 業界トップレベルとなれば数百万人がザラらしい。


 うーん。収益的には完全に失敗投資案件だな。


 ていうか、何が悪かったんだろう。妹は地がかわいいのだから、顔出しの方がよかっったんじゃないか。

 そんなことを考えていると、どんなアバターを使っているのかだんだん興味が湧いてきた。


「せっかくだし、ちょっと見てみるか」


 好奇心に負けて、PCの電源ボタンを押してみる。


 しばらく待つと、デスクトップ画面が表示された。


 たくさんのアプリアイコンが並んでいる中に、「VtubeStudio」なるものを発見。


「これがゆいのアバターってやつだな」


 クリックすると……


「おおおお!?」


 画面にピンク髪の美少女キャラクターが現れた!そして、私の動きに合わせてそのキャラクターも動いている!


 手を振ると、アバターも手を振る。

 首を傾げると、アバターも同じポーズ。

 笑顔になると、アバターも笑顔に。


「うわぁリアルじゃん……これは確かにすごい技術だ」


 思わず感動してしまう。

 これなら確かに「バーチャルアイドル」という肩書きも納得だ。


「えーっと、他にも何かボタンがあるな……衣装とかも変えられるのかな」


 画面下部には色々なボタンが並んでいる。

 適当にクリックしてみると、背景が変わったり、エフェクトが出たり。まるでゲームをしているような感覚だった。


「これは何だろう?……ん?」


 大きな赤いボタンを発見。その隣にも小さなボタンがいくつか並んでいる。


「うーん、よくわからないけど押してみるか」


 軽い気持ちでポチッと。


 すると――


「え?なんだこれ」


 いきなり画面の表示が変わった。

 右上に小さな窓が現れ、数字が表示されている。そして、横にはチャットのような文字がどんどん流れ始めた。


『YUICA♡ちゃんお疲れ様!』

『久しぶりの配信だね!』

『あれ?なんか今日は様子が変?』


「ちょ、ちょっと待て。これはまさか……」


 嫌な予感がして画面をよく見る。

 右上の窓には「★配信中★」という文字が赤く点滅していた。


 そして視聴者数を示す数字が――


 5人……7人……10人……


「うわああああああ!!!配信しちゃった!」


『風邪でも引いた?いつもより声が冷たいような』

『今日は機嫌が悪いの?大丈夫?』

『なんか声が違うような気がするけど……』


 常連らしき人たちが心配そうにコメントを送ってくる。

 でも私は完全にパニック状態だった。


「え?え?これどうやって止めるの!?」


 画面のあちこちを必死にクリックしまくる。でも全然止まらない!


『YUICA♡ちゃん?どうしたん?』

『初心者ロールプレイとか……』

『まさか別人じゃないよね……?』


 ――やばい。このままだと妹じゃないってバレる!


 視聴者数はじわじわと増えている。15人……20人……25人……


 底辺Vtuberとはいえ、そこそこ固定ファンはいるらしい。

 やばい、やばいよ。


 私の心臓は今にも止まりそうなほど激しく鼓動していた。


 これは……一体どうすればいいんだ!?


(つづく)


 ――次回「美咲、可愛子ぶりっ子に挑戦するも大失敗!?」

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