一話
今から一年前に遡る。
日本で普通の暮らしをしていた男は後藤 敦という、しがない人間だった。
「また残業か…。」
ぽつりと呟くと誰も居ない社内にわずかにこだました気がした。
ここ最近の生活に嫌気がさした。
自身の何もかもが空虚に思えて仕方がない程に疲れ切っていた。
普段の生活は退屈なものだ。
世界情勢やら、日本の政治や貧富の差
さらには身内からも結婚はしないのかと言われる始末。
もういい加減にして欲しいものだ…。
自分のワークスペースに散らばっていた書類を片しながらそう思っていた。
この頃は芳しくない身の回りの出来事を脳内で考え始めると仕事が手につかなくなっていた。
「今日はもう家に帰って休もう。」
嫌いな上司に頭を垂れる事にもう何も感じなくなっている。
タイムカードを切って会社を後にした。
帰路についてる途中、公園の隣にある歩道で少し大きな鞄程の大きさの物が落ちているのを見つけた。
「なんだこれ…」
持ち上げみると微かに重く、ずしっと重量感のある物体は微小に震えていた。
拾い上げた物体は布に包まれており、微かに光を帯びて何かに鼓動しているように感じ取れた。
「マズイもんじゃないだろうな?」
不安げになりながらも包まれていた布をほどいてみると、正体は石のようで何らかの文字が刻まれていた。
よくその石を観察するとルーン文字に似た何かが書かれていた。
多少なりともゲームやアニメなどの知識があるが、それとはまるで違うような異質なもので、異世界にある文字の様である。
「この石なんか変だぞ」
そう思った矢先に石の振動が大きく増し、何かに応えるかのように崩れ落ちた。
「はぁ!?なんだこれ!?」
手に持っていた石は砂のようになってしまい、跡形も無くなってしまった。
「なんか…目眩が酷い…」
急に目の前が薄暗くなっていき、今にも倒れそうな勢いになっていた。
「とにかく家に帰らないと」
そう自分に言い聞かせながら、家までの道をただ無心に歩く。
自宅のあるアパートに到着し、玄関の扉を開いて入った途端その場で力尽きるように倒れてしまった。