第4話
美術室の空気は、絵の具の香りと木材の匂いが混ざり合い、独特の雰囲気を醸し出していた。初夏の陽光が大きな窓から差し込み、床に明るい四角形を描いている。私は緊張した面持ちで椅子に座り、周囲を見回した。
文芸部と美術部の合同会議。思いがけない展開だった。
「今年の文化祭では、『言葉と色彩の交差点』というテーマで、両部の合同企画を実施します」
美術の石川先生が熱心に説明する様子を、私は半ば興奮し、半ば不安に思いながら聞いていた。文学と絵画の融合。言葉で表現できないものを色で、色では伝えきれないものを言葉で補完する試み。素晴らしいアイデアだと思う反面、自分にそんな表現力があるのか不安だった。
「各部から一人ずつコーディネーターを選出します」文芸部の村田先生が続けた。「文芸部からは紅林さん、美術部からは北野君にお願いしたいと思います」
*え?私?*
驚きのあまり声が出なかった。文芸部のコーディネーター。昨年はただの見学者だった私が、なぜ?
「紅林さんの感性は、この企画にぴったりだと美咲さんからも推薦がありました」村田先生は微笑みながら言った。
美咲先輩が私に向かって小さく頷いてくれた。あの「藤見」の作品を読ませてくれたことが、こんな形で繋がるとは思わなかった。
先生の言葉の続きで、もう一つの驚きが待っていた。
「美術部の北野君は、昨年の県展で入選した風景画の才能を、この企画に活かしてもらいましょう」
そのとき初めて、対面に座っていた彼と目が合った——亮太くん。彼も少し驚いたような表情を見せたが、すぐに小さく頷いた。
古本屋で話した日から二週間。偶然校内で顔を合わせる機会はあったものの、あの日のような長い会話はしていなかった。それなのに、こんな形で再び接点ができるなんて。
会議が終わると、美術部の生徒たちが三々五々退室していった。私も立ち上がろうとしたとき、亮太くんが近づいてきた。
「紅林さん」彼は静かな声で言った。「これから協力することになるみたいだね」
「はい…」どきどきする心臓を落ち着かせるよう努めながら答えた。「よろしくお願いします」
「あの本、読んでくれた?」
彼が貸してくれた作家の伝記。「はい、とても興味深かったです。特に彼の風景画に対する考え方が…」
会話は自然と続き、私たちは廊下を歩きながら企画についての最初のアイデアを交換し始めた。彼の考えは深く、作品に対する姿勢は真摯で、話せば話すほど引き込まれていった。
そこで、ふと気づいたのは、美術部の先輩らしき女子が私たちをじっと見ていたことだった。切れ長の目と知的な雰囲気を持つ彼女は、少し意味ありげな微笑みを浮かべていた。
亮太くんが気づき、「あ、美月先輩」と呼びかけた。
「邪魔するつもりはないわ」彼女——美月先輩は言った。「ただ、面白い化学反応が起きそうだなと思って」
その言葉の意味を考える間もなく、彼女は優雅に立ち去っていった。
「美月先輩は三年生で、美術部の部長」亮太くんが説明してくれた。「鋭い観察眼の持ち主だから、色々見抜いてるみたいで時々怖いんだ」
彼の少し照れたような表情に、思わず笑みがこぼれた。