第29話
屋外バスケットコートには多くの観客が集まり、バスケ部のデモンストレーションを見守っていた。結花はコート中央でボールを持ち、対面には健太先輩が立っている。
「ここからは、バスケットボールの基本技術と実践的な動きをご覧いただきます」部顧問の先生がマイクで説明する。
結花と健太先輩の動きは完璧に同調していた。パスを交換し、スクリーンを使い、シュートを決める。まるで長年一緒にプレーしてきたかのような息の合った動き。
観客から拍手が起こる中、結花の中で何かが変化していた。バスケットという自分の居場所で、全力で動くことの心地よさ。そして何より、健太先輩との絶妙な連携が生み出す安心感。
デモンストレーションのクライマックスとして、結花がドリブルから三点シュートを放った。ボールは美しい弧を描いて、ネットを揺らす。観客から歓声が上がる。
「よくやった!」健太先輩が結花にハイタッチを求めてきた。彼の笑顔が眩しい。
その瞬間、結花の心に確信が生まれた。「ずっと目の前にあった大切なもの」。それは亮太くんへの憧れではなく、毎日の努力を共にし、自分をありのまま受け入れてくれる存在だった。
デモンストレーションが終わり、結花はタオルで汗を拭きながら観客席を見渡した。以前なら真っ先に亮太くんを探したはずなのに、今は自然と健太先輩の方へ足が向いていた。
「先輩」結花は笑顔で近づいた。「ありがとう」
健太先輩は少し驚いたような、でも嬉しそうな表情をした。「何が?」
「いつも私のそばにいてくれて」彼女は率直に言った。「気づくのが遅くてごめん」
健太先輩の頬が少し赤くなった。彼は言葉に詰まりながらも、満面の笑みを浮かべた。
「次の大会、絶対勝とうな」彼はようやく言葉を絞り出した。
「うん!」結花は力強く頷いた。
二人の間に新しい可能性が芽生え始めていた。それは長い時間をかけて育まれた信頼と理解の上に築かれる、確かな感情だった。




