第24話
静かな図書室。陽菜は一人、窓際の席に座り、本のページをめくっていた。しかし、目は文字を追っているのに、心はどこか遠くを彷徨っているよう。
太一が静かに近づき、彼女の前に立った。
「ここにいると思った」
陽菜は顔を上げ、驚いたような表情を浮かべた。「太一…」
「小説書いてるんじゃないの?」太一は彼女の前に座り、窓の外を見た。空はますます暗くなっていた。
「書けなくて」陽菜は小さな声で答えた。「言葉が見つからないの」
「小学生のときの約束、覚えてる?」太一は唐突に言った。
陽菜の表情が微かに変わった。「約束…」
「あの海辺で、三人で交わした約束さ」太一は陽菜の目をじっと見つめた。「どんなに辛くても、正直に話し合うことが三人の約束だった」
陽菜は目を伏せた。「覚えてる…でも…」
「でも、怖いんだよね」太一は優しく言葉を継いだ。「本音を言って結花を失うかもしれないって」
彼女の目に涙が浮かんだ。「どうして分かるの?」
「知らないふりをしていただけだよ」太一は静かに笑った。「ずっと見てたから。カメラを通してじゃなく、友達として」
陽菜はバッグから破られたノートのページを取り出した。図書室の本の間に挟んでいたあのページだ。「私、結花を裏切ってる」
「それは違う」太一は首を振った。「裏切りは嘘をつくこと。本音を話すのは、最高の誠意だよ」
「でも結花は…」
「結花も苦しんでいる」太一は静かに言った。「あなたが思っている以上にね」
陽菜は驚いたように顔を上げた。「どういう意味?」
「健太先輩によれば、結花の亮太への気持ちも変わってきているみたいなんだ」太一は慎重に言葉を選んでいた。「大事なのは、三人が正直に話し合うこと。そうじゃないと、誰も幸せになれない」
窓の外で風が強くなり始め、木の葉が舞い上がった。陽菜は破られたノートのページを見つめながら、長い間黙っていた。太一もまた、彼女の決断を静かに待った。
「全てを話すしかないよね」ついに陽菜は決意の言葉を口にした。「もう逃げない」
太一は安堵の表情を浮かべ、優しく微笑んだ。「勇気を出して」
「でも、どうやって…」
「シンプルに」太一は言った。「あの約束をした場所で」
陽菜は窓の外に広がる暗い空を見つめながら、ゆっくりと頷いた。「海辺で…」




