第22話
放送部室は機材の並ぶ無機質な空間なのに、太一の存在がそこに温かみを与えていた。窓からは曇り始めた九月の空が見え、夏の終わりと秋の始まりが交錯する季節感が漂っている。
太一は椅子に座り、モニターの前で何やら映像を確認していた。そこに健太先輩と美月先輩が入ってきた。
「呼んだんだけど、何かあったの?」美月先輩が最初に口を開いた。彼女の切れ長の目には好奇心と懸念が混ざり合っていた。
「取材という名の作戦会議をしたくて」太一はいつもの軽口とは違う、真剣な口調で答えた。
健太先輩は眉をひそめた。「作戦会議?」
太一は立ち上がり、モニターを二人に向けた。「これを見てほしいんだ」
画面には学校生活のさまざまな場面が映し出される。陽菜と結花、亮太が別々に、そして時に一緒に映る瞬間。カメラは微妙な表情の変化、視線の交錯、そして少しずつ変わっていく三人の距離感を捉えていた。
「これは…」美月先輩が静かに言った。「あなたずっと撮っていたのね」
「放送部のドキュメンタリーとして始めたんだ。でも今は…」太一は言葉を選ぶように間を置いた。「友達として心配で」
健太先輩は腕を組み、モニターを食い入るように見つめた。「結花のことか」
太一は頷いた。「三人の関係が崩れかけている。それも、誰も望んでいない形で」
美月先輩は少し考え込むように髪を耳にかけた。「北野君も随分悩んでいるわね。彼の絵にも出ている」
「三人とも、本音を言えなくなってる」太一は静かに続けた。「僕たちに何かできないかと思って」
健太先輩は深いため息をついた。「結花は最近、朝の特訓の時も集中できていない。何か抱え込んでいるのは明らかだった」
「あの子の強がりが、本音を押し殺してるのね」美月先輩の声には理解が滲んでいた。
太一はカメラのメモリーカードを取り出しながら言った。「亮太は陽菜のことを特別に思っている。それは彼の絵が証明している」
美月先輩は頷いた。「でも同時に、結花さんを傷つけたくないという気持ちも強いわ」
「結花は…」健太先輩が言葉を継いだ。「亮太のことを好きだと言ってきたけど、本当にそうなのか、最近俺は疑問に思っている」
「どういうこと?」太一が尋ねた。
「バスケットの練習中、亮太の名前が出たときの彼女の反応が、以前と違うんだ」健太先輩は言葉を選びながら続けた。「昔は目が輝いたのに、今は少し曇るというか…」
三人は黙り込み、それぞれの視点から見えてきた状況を整理していた。
「つまり」太一が沈黙を破った。「三人とも本音を話せていないんだ。そして一番苦しんでいるのは陽菜」
「陽菜さんが鍵を握っているのね」美月先輩は静かに言った。
健太先輩が決意を固めたように立ち上がった。「本音での対話が必要だな。それ以外に解決の道はない」
太一も立ち上がり、カメラを手に取った。「俺が陽菜を説得する。あの三人の約束を思い出させるんだ」
「わかったら連絡してね」美月先輩が言った。「私たちにできることがあれば」
健太先輩は窓の外を見やり、低く言った。「天気が崩れそうだな」
三人が見上げた空には、黒い雲が少しずつ集まり始めていた。




