第21話
夕暮れ時、一人で海辺を歩いていた。懐かしい場所。小学生の頃、三人で「正直に話し合おう」と約束した海岸。波の音だけが、私の混乱した思考に寄り添う。
空はオレンジから紫へと変わりゆく色彩を見せている。亮太くんの絵に描かれていたような美しい夕焼け。しかし、その美しさを素直に味わう心の余裕はなかった。
波の音を聞きながら、これまでの出来事が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。古本屋での雨宿り、美術室での会話、夏祭りの花火、そして結花の悲しげな瞳。
自分の弱さへの自己嫌悪と、親友を裏切った罪悪感が私を押しつぶしそうになる。波のリズムに合わせるように、涙がこぼれ落ちた。
*私はなぜ正直になれなかったのだろう。なぜ最初から結花に話せなかったのだろう。*
「このまま全てを終わらせたい」
思わず口から漏れた言葉が、波に溶けていく。でも、それは本当の解決ではないことも分かっていた。
ふと、頭に浮かんだのは太一の言葉。「自分に正直になることから始めてみたら?」
そして美咲先輩の「本音で向き合わなかったから」という言葉。
手帳を開くと、そこには亮太くんからもらったスケッチと、その横に私が書いた言葉があった。「波が記憶を運んでくる海。過去と未来が交差する場所」
そうだ、ここは約束の場所。正直に向き合うことを誓った場所。
夕暮れの海を見つめながら、私は決意を固めた。もう逃げない。自分の気持ちにも、結花の気持ちにも、正直に向き合おう。
それがどんな結果をもたらすにしても、これ以上自分自身への嘘は続けられない。
「結花」私は波に向かって呟いた。「全て話すよ。私の本当の気持ち」
夕陽が海に沈む頃、私の心には小さな勇気の灯が灯り始めていた。明日、結花に会ったら、今度こそ全てを話そう。亮太くんへの気持ち、友情への思い、そして何より、自分自身の弱さと臆病さを。
波が足元を打ち、私の決意を受け止めるように静かに引いていった。
海辺を後にしながら、かつての約束を思い出した。「どんなに離れても、会えば必ず本当のことを話そう」
その約束を守るときが、ついに来たのだ。




