第20話
文化祭の準備期間が始まっていた。学校中が活気に満ちている。廊下は各クラスの飾り付けで華やかに彩られ、どの部活も出し物の準備に追われていた。
私は合同企画の最終調整のため、美術室への階段を上っていた。ノートを抱え、文芸部の原稿と美術部の作品配置図を照らし合わせながら。
美術室のドアを開けると、そこにはすでに亮太くんがいた。一人で絵に向かう後ろ姿。窓から差し込む光が、彼のシルエットを柔らかく照らしている。
「亮太くん」
彼は振り向き、私を見て微笑んだ。「陽菜、来てくれたんだ」
私たちは机を挟んで向かい合い、展示の最終確認を始めた。話し合ううちに、夏祭り以来の緊張感も少しずつ溶けていくのを感じた。
「ここの配置、こうしたらどうかな」亮太くんが提案する。
「うん、それいいね。私の文章もそれに合わせて…」
気がつくと、私たちは以前のように自然な会話を交わしていた。彼の絵と私の言葉が溶け合う感覚。それは不思議と心地良かった。
「あのね、亮太くん」勇気を出して言った。「夏祭りの夜、言いかけたことが…」
亮太くんの表情が真剣になった。「ああ、あれは…」
その時、彼の目が私の髪に留まった。
「髪に絵の具が…」亮太くんが手を伸ばし、私の髪に絡まった絵の具の跡に触れた。
その瞬間、時間がゆっくりと流れる感覚。彼の指が優しく髪をかき分け、私たちの距離はいつの間にか近づいていた。
私の心臓が早鐘を打つ音が、この静かな美術室に響いているのではないかと思うほどだった。
「亮太くん…」
そのとき、階段から足音が聞こえ、私たちは慌てて距離を取った。振り向くと、そこには結花が立っていた。
彼女の顔には、言葉にならない感情が浮かんでいた。驚き、疑念、そして深い悲しみ。
「結花…」私は言葉を失った。
結花は一瞬私たちを見つめ、何も言わずに踵を返した。
「待って!」私は慌てて彼女を追いかけようとした。
その時、亮太くんが反射的に私の腕をつかんだ。「陽菜…」
私は彼を見つめ返し、その目に迷いと苦悩を見た。亮太くんも、この状況をどうすべきか分からないのだ。
「どうすればいいのか分からない」彼は小さな声で言った。
その言葉に、私も返す言葉が見つからなかった。




