19/31
第19話
夜、自宅の部屋で私は机に向かっていた。しかし、ペンは一行も進まない。「二つの月」の物語は、主人公と同じように私自身も迷宮に迷い込んでいるようだった。
窓から見える満月に問いかける。「どちらの月を選べばいいの?」
しかし月は黙したまま、ただ冷たい光を投げかけるだけだった。
階下から両親の気まずい沈黙が伝わってくる。夕食時の無言の食卓。言葉にしない感情が積み重なって作る壁。それは私が最も恐れていた関係の形だった。
結花との友情。亮太くんへの気持ち。どちらも大切で、どちらも失いたくない。でも、このままでは両方を失いかねない。
美咲先輩の言葉が蘇る。「本音で向き合わなかったから」
勇気を出せば、何かが変わるだろうか。それとも全てを壊してしまうだろうか。
答えの出ない問いを抱えたまま、私はベッドに横になった。天井を見つめながら、亮太くんの言葉を思い出す。夏祭りの夜、花火の下で言いかけた言葉。「僕は…」
その続きは何だったのだろう。知りたいような、怖いような。




