表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
親友と好きな人の間で  作者: Ray
裂ける青空
18/31

第18話

放課後、文芸部室には誰もいなかった。一人静かに座り、「二つの月」の物語を続けようとしたが、言葉が出てこない。主人公の少女もまた、選択の岐路で立ち尽くしたままだった。


ドアが開く音がして振り向くと、美咲先輩が立っていた。


「あら、紅林さん。一人で?」


「はい…」


美咲先輩は私の隣に腰掛け、私が書いている原稿に目をやった。「行き詰まってる?」


「はい…」再び同じ返事しかできなかった。


「私もよく経験したわ」美咲先輩は静かに言った。「物語が進まないとき、それは作者自身が答えを見つけられていないから」


先輩の言葉には、いつも的確な洞察が含まれていた。だからこそ、今は少し怖かった。私自身の心の内を、そのまま映し出されるような気がして。


「先輩」勇気を出して尋ねた。「何か辛い経験をされたことは…ありますか?」


美咲先輩は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに優しい微笑みに戻った。


「もちろんよ」彼女はメガネを外し、静かに拭き始めた。「実は私、高校一年の時に…親友の好きな人と付き合ってしまったことがあるの」


その告白に、私の心臓は早鐘を打ち始めた。


「その時は、自分の気持ちに素直になることが、一番大切だと思ったの」美咲先輩は遠い目をして続けた。「でも結局、親友も彼も、両方を失った」


教室に重い沈黙が落ちた。


「どうして…」私は小さな声で尋ねた。


「本音で向き合わなかったから」美咲先輩は真っ直ぐに私の目を見た。「三人で正直に話し合うべきだったの。代わりに私は、親友に隠れて彼と会い、彼には親友の気持ちを話さず…結局、全てが歪んでしまった」


美咲先輩はため息をついた。「それからよ、私が『藤見』として小説を書き始めたのは」


「先輩が…藤見さんだったんですね」


「そう」彼女は穏やかに頷いた。「匿名だからこそ、本音を書けた。でも、それは一種の逃げだったと気づいたの。だから最近は、自分の名前で作品を書くようにしているわ」


美咲先輩の話に、私は深く考え込んだ。本音で向き合わないことの代償。それは私も既に支払い始めていたのかもしれない。


「紅林さん」美咲先輩が続けた。「あなたに助言できるのはここまでよ。あとは自分自身で答えを見つけなければならない」


帰り際、彼女は振り返って言った。「でも覚えておいて。本当の友情も、本当の愛も、誠実さから始まるものだということを」


その言葉は、長い間私の心に響き続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ