第12話
放課後の文芸部室。私は「二つの月」の続きを書いていた。物語は主人公の少女が二つの月の光の間で苦悩するシーンへと進んでいた。
「光をもたらす月は温かく、人々に愛されている。影を生み出す月は孤独で、誰にも理解されていない。でも、少女は影の月にこそ、真実が隠されているように感じていた…」
ペンを走らせながら、私は自分がこの物語に自身の葛藤を投影していることを痛感していた。親友への忠誠という「光の月」と、亮太くんへの気持ちという「影の月」。その両方の引力に引かれる自分自身。
「紅林さん、進んでる?」
美咲先輩の声に顔を上げると、彼女が穏やかな表情で私の横に立っていた。
「はい、少しずつですが…」
美咲先輩は私の原稿に目を通した後、少し考え込むような表情になった。「素晴らしい表現力ね。でも…」彼女は言葉を選ぶように間を置いた。「これは単なる物語ではないわよね?」
その鋭い指摘に、私はハッとした。美咲先輩の目は優しいけれど、何かを見抜いているように感じられた。
「私も昔、似たような物語を書いたことがあるわ」彼女は静かに打ち明けた。「自分の心の葛藤を、フィクションという仮面に隠して」
私は言葉に詰まった。否定することもできず、かといって素直に認めることもできず。
「藤見…は先輩なんですか?」思い切って尋ねてみた。
美咲先輩は微笑むだけで、直接の答えはなかった。代わりに彼女は言った。「紅林さん、才能があるわ。だからこそ、書くことから逃げないで」
彼女は私の肩に軽く手を置いた。「ただ、物語が行き詰まったら、それは現実も同じかもしれないわ。答えは自分の中にある」
美咲先輩が去った後、私はもう一度原稿を見つめた。書きながら涙がこぼれ落ちていることに気づいたのは、インクが滲んだ時だった。
急いで拭ったが、うまく消えない。紙に染み込んだ涙のように、私の気持ちも簡単に拭い去ることはできないのだろう。




