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3-ⅱ)徒花〜医師の忠告

 三人組の踊り子『恋愛天使』はこの街でも人気を博した。愛嬌たっぷりの栗毛の美夜、優しいお姉さんキャラの赤毛の華夜、冷たくツンツンとした黒髪の輝夜 ── それぞれの個性にはまるファンが付くのは当然の事だった。

 出待ちのファンから花や贈り物をもらい、投げキッスをして上機嫌で帰って行く華夜美夜と、若干ウザそうな輝夜。清楚な舞台衣装とは打って変わって、華夜美夜の私服はいつも派手な色で、輝夜の私服は真っ黒けだが、派手な姉たちの中でいると、かえって黒が目立つ。


 三人が宿へ戻って来ると、彼女たちが泊まる部屋の扉の前でウロウロと歩くヒカル、そばで しゃがんで待つカヲル、腕組みして壁にもたれるローゼンがいた。

「あんたたち何やってんのよ?」

 訊ねる美夜に、ヒカルが

「こいつがさぁ、医者を連れて来てよぉ」

 親指でローゼンを指す。

「サク、風邪 引いたの?」

 華夜が眉をひそめると、輝夜がもらった花束を「バサッ」と落とし動揺するので、華夜が「落ち着いて、輝夜」と案じる。

「いや、違うんだ」

 と、ローゼンが口を開きかけると、美夜が彼に向かって

「あんた、もうサクに手を出したの?」

 と、突拍子もない事を言うので、ヒカルやカヲルが驚きのあまり、開いた口が塞がらない。おまけに「え? え? おめでたなの?」と、華夜が追い討ちをかけるように言う。

「そんなわけあるか!」

 と、ローゼンが怒って、思わず大声で否定する。と、そこへ部屋から「うるさいぞ」と老医師が顔を出し、注意されたローゼンがバツ悪そうに「すみません」と謝る。

「診察はすんだから、もう入っても構わんよ。あんたたちはあの子の姉さんたちか? お入り」

 と、老医師に促されて、説明を聞きに部屋に入る。中では寝台に腰掛けたサクと、その傍らで椅子に座るレイがいた。

 輝夜が泣きそうな顔でサクに抱き付く。

「サクぅ〜」

「大丈夫だよ、カグ。どうもないから」

「サク。じゃあ、おめでた?」

「え? なんで……?」と、げんな顔のサク。

 ローゼンが咳払いして事情を話す。

「実は、この間、レイからサクは体が弱いというのを聞いて、『一度、名医にてもらうといい』と勧めたんだ。こちらのタリム先生は貴賤を問わず患者を診てくれる人だ。俺も子供の頃からお世話になっている」

「なァんだ〜。紛らわしい」「良かったァ〜」

 と、美夜と華夜が安堵の声を上げる。

 タリム医師が説明を始める。

「まぁ、診たところ、今は特に異状はない。ふつうに暮らしてれば問題ないじゃろ。だが、この子は元々虚弱なのは確かじゃな」

 と言うと、タリム医師はローゼンの方を見る。

「ところで、ローゼン。お前さんは大人になってから、わしの所に来なくなったが、どうだい? 風邪は引かなくなったか?」

 ローゼンは顎をつまんで視線を左上に移し、思い出す。

「はぁ…、たまに引く事はありますが、鼻詰まりぐらいですね。それも一日ぐらいで治ります」

 タリム医師はうなずくと、解説する。

「お前さんはそれだけ体力があるという事じゃ。地の体力がある上に、体を鍛えておるからな」

 タリム医師は視線をローゼンからサクに移して言う。

「それに比べて、この子の場合、風邪を引くと、まぁ、治るまで二週間はかかるじゃろうな」

 その言葉にレイがうなずく。

「いつもそれぐらいか、下手をすると長引く事もあります。ただ、旅に出てからは風邪を引く事は減ってきましたが……」

「それは体力が上がってきたのかな。しかし、人並みの鍛え方では逆に体を壊すし、全く動かんのも体に悪い。この子に合った鍛え方でちょうどいいんじゃよ。旅に出たのも良かったのかもしれんな」

 一通り話を終えて、タリム医師が万一の時にと風邪薬を渡してくれ、レイが「診察代ですが」と訊ね、ローゼンが「いや、俺が」と申し出ると、

「ああ、お前さんたちはいいよ。そこのボロ儲けしてそうな姉さんたちから もらおうかの」

 宝飾品をジャラジャラと身に付けている踊り子三人が、贈り物を手にして戻って来たのを見逃していなかったタリム医師がニヤリと笑う。美夜と輝夜が「プイッ」と、知らん顔をするので、華夜が「え〜……」と、渋々支払う事になった。



 タリム医師を見送るため、ローゼンも一度、退室した。

「先生。無理を言って、すみませんでした」

「いや、なに。たまたまこっちの方まで来ていたから、構わんよ」

 馬の前に来て、タリム医師が忠告する。

「それより、ローゼン。あの娘はやめておけ。跡継ぎの嫁には出来んぞ」

 タリム医師にそう言われ、ローゼンが仏頂面で

「別に、正式に俺が跡継ぎと決まっているわけではありませんよ」

 と、否定する。

「お前がそう思っておっても、周りがそうさせんじゃろ。そう情けない顔をするな。諦め切れんのなら、別に妾を持つ事じゃな」

 伏し目がちに視線を左下へらすローゼンにタリム医師も呆れる。

「それも出来んのか。お前さんも意外と不器用な奴じゃなぁ」

 「よくよく考える事じゃな」と、言って、タリム医師は馬に乗って帰って行った。



 部屋では輝夜が安心したのか、「良かったぁ」と言って、自分の寝台に突っ伏した。

「どうもなかったんだし、良かったじゃねーか」と言うヒカルに「本当に良かったね〜」とカヲルも同調する。

「それにしても、心配し過ぎじゃね?」

 輝夜の様子を見て、そう言うヒカル。

「実はね ──」

 と、華夜が話す。

「子供の頃、サク、風邪をこじらせて死にかけた事があって、輝夜はその時の事がショックで、お医者が来ると今でも凄く不安がるの」

「そっか……」

 華夜の話を聞いて、ヒカルは何も言えなくなり、カヲルも沈黙する。

 サクは「ごめんね。心配かけて」と、輝夜の頭をなでなでしていた。

「俺はこれで失礼するよ」と、ローゼンが声をかけに来たので、レイが引き止める。

「お前、この後、特に予定がなければ、一緒に夕飯食べに行かないか? 今度は俺が奢るよ」

「いや……」と、言いかけたローゼンだったが、レイが「サクもその方がいいよな?」と訊いて、サクが「うん」と返事するので、断れなくなった。

「ヒカル、カヲル、華夜、美夜、輝夜は自腹な」

 レイの言葉に5人とも「えっ!?」と、反応する。

「お前らには ちゃんとそれなりの給金払ってんだ。それで払えよ」

 レイはヒカル、カヲルを指差してそう言い、華夜、美夜、輝夜には

「踊り子の仕事で相当 儲けてるじゃないか。最近は変装しておいて、色仕掛けで男を釣ってタダ飯食ってるだろ、お前ら」

 と、お見通しだった。「ちぇ〜」「バレたか」「むむ」と言う華夜、美夜、輝夜にローゼンもサクも、ヒカル、カヲルも ただただ呆れるしかなかった。



 この日の夕飯の席でも、さりげなくローゼンがサクの左隣の席を取る事で、やや殺気立ったものになったが、鈍いサクはまるで気付いていなかった。

『今日だけは勘弁してやる』

 と、長テーブルの短辺側ですぐ目の前のローゼンを睨むレイ。

『あの野郎、また抜け抜けと……!』

 と、反対の短辺側からはヒカルが睨み付ける。

 サクの真向かいに座るカヲルは華夜美夜に挟まれた席で有頂天だが、華夜美夜はカヲルを全く気にかけておらず、ガツガツとよく食べ、ワインもお代わりする。サクの右隣の輝夜は病気の事で安心しているため、珍しくニコニコとして食事する。

 ローゼンは殺気に気付いて最初は苦笑いしていたが、サクの笑顔に癒されて、思わず笑顔に変わっていたのだった。


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