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20-ⅱ)運命は残酷に〜悪夢の始まり

 ラズワード商会のシャバーズがローゼンたちが滞在する物流拠点へ訪ねて来たのは昼食の後だった。

 このシャバーズ、サクを異国のお姫様と勘違いして助けようとしたのだが、彼はすでにローゼンからその謝礼を使いの者から受け取っていた。しかし、野心家の彼は

『これでカラヤ商店と お姫様との縁故が出来た! せっかくの、この好機をのがすまいッ!!』

 と、野性的な眼をギラギラと光らせて、必死で口実を作ってやって来たのだ。

「いや〜。先日は過分なお礼を頂戴しまして」

「いえ、なに、安い物ですよ。大事な妻を助けて下さったんですから」

「え……?」

「ああ! あの後、結婚したんです」

 挙式はまだなのに、わざとらしく言うローゼン。その表情はいかにも嬉しそうだ。

「あっ! それは、それは、おめでとうございます!」

『やっぱり、そういう仲だったか』

 サクがローゼンにとって単なる友人の妹でない事は、あの事件の直後の昼食の場での雰囲気や、彼に届いた謝礼の品からシャバーズにも分かっていた。

『カラヤ家のローゼンが純金の鷲の彫像を贈って来るぐらいだ。あの娘は きっと身分の高い方に違いない!』

 だが、サクがお姫様だという勘違いはそのままだ。真実よりも自分に都合の良い解釈を信じる。ここに彼の欲の深さが出ている。

 一方、ローゼンに言わせれば、

『あの手の奴には純金製の物でもくれてやれば喜ぶだろう』

 というのが、シャバーズに対する評価だ。お姫様と勘違いして助けようとした事をサクたちから聞いているのと、普段の彼の評判を知っているので、

『サクを助ければ、大きな見返りがあると期待している、欲の深い男だ』

 という事ははなから お見通しだ。しかし、そんな事はおくびにも出さない。

「ところで、今日は、なんの御用で?」

うちは東洋の品を主に扱っておりまして」

「存じておりますよ? お宅は確か、海路で東洋から陶磁器などを仕入れていますよね」

 シャバーズが経営するラズワード商会は特に、東洋の陶磁器の販売で有名な事はローゼンも知っている。

「ええ。日用品や絹が中心なのですが、最近は美術品も扱うようになりまして。それで、ちょうど名品が手に入りましてね。ぜひ、カラヤ商店でも扱って頂けないかと?」

「ほう。美術品ですか」

 ローゼンは関心のある振りをしつつも、

『うちの販路を利用しようってはらか』

 と、警戒する。

「じゃあ、まず、実物を見せてもらってから考えさせて頂いても?」

「ええ、もちろんですとも! ぜひぜひ!」

 シャバーズは連れの部下に指示して布で覆った品物を出させる。長い物であるようだ。部下がテーブルに置く様子と「ゴトッ」という音から、ローゼンにも

『重量があるな』

 と、知れる。

 部下が巻いていた布を開いた。

『これは……!』

 ローゼンは目を見張った。



 ちょうど その頃、サクは『そろそろ薄物、取り込もか』と、乾きの早い洗濯物だけを取り込もうと、テント裏の干し場に出ていた。干し場の下には洗濯の時に洗った籠も乾かす為に置いてある。

 そこへ義父カイトのテントへ六家の家長たちが入って行くところを見かけた。

『あ! 今日の会議で次期当主を決めるって言よったなぁ』

 カラヤ家の家族との昼食の時に、義父から聞かされていた。

 ふと、結婚の内祝いでのローゼンとの会話を思い出すサク。あの時、義父が弟であるにもかかわらず当主に選ばれるなど、カラヤ家の厳しい一面を知った ──。


「うちとの結婚でローゼンが不利なるとか、そういう事、ない……?」

 申し訳なさそうに恐る恐る訊ねるサクに、ローゼンは驚いた声を上げると、

「ええ? そんなこと気にしてたのか。ハハハ。不利とか無い無い」

 と、笑って片手を左右に振り、否定する。

「それに、当主になってもならなくても、俺が商売人として生きていく事に変わりはないし、それだけで充分さ」

 ローゼンは普段の茶目っ気のあるウィンクをして見せた。


 それを思い出し、サクはつくづくと思う。

『ああいうとこ、ローゼンらしいなぁ……』

 ローゼンには当主の座への執着が無い。しかも、

『単に欲が無いゆうだけでのうて、何があっても自分らしさを見失わん、心の芯の部分が強い所、やっぱりぃ ──』

 途中でサクの洗濯物を外す手が止まり、青い空にローゼンの笑顔を思い浮かべる。

『好きやなぁ……』

 しばしの間、青い空を見上げていた。

 薄物を全て外し、籠に入れ終えたところで、サクは気付き、あごをつまんで考える。

『あっ! でも、欲が無いって、商売人としては致命的かも……。当主はやっぱり、ブランさんかなぁ? 西洋で大仕事 成し遂げて帰って来たみたいやし、カラヤ家は実力主義やってゆうしぃ』

 しかし、ローゼンが当主になれなくても、ローゼンのそばに居たい事には変わりない。サク、両手の拳を腰の横に当てた。

『まぁ、そんなん、どっちゃでもええか! 当主になろうが、なるまいが、うちはローゼンの事が好きなんやし』

 と、サクの気持ちも、ローゼンのようにブレない。

 サクが洗濯籠を持ち上げたところで、ローゼンがテントから出て来た。

「あっ! サク。レイは?」

「ああ。お兄ちゃんなら、演習場で剣術指南のはず」

「そうか。ちょうど良かった」

 と言うなり、ローゼンは自分のテントの入り口へ向けて声をかける。

「シャバーズさん!」

 ローゼンに呼ばれて、テントからシャバーズとその部下が出て来た。

「おおっ! これはお姫様」

 と、シャバーズに声をかけられて、サクは籠を地面に置いて会釈した後、誤解を解こうとしたが、

「ご結婚おめでとうございます」

「あ、ありがとうございます」

 シャバーズの祝辞への返事を言う為に言いそびれた。

「シャバーズさん。ひとまず、それを持って演習場へ行きましょう。馬を貸します」

 と、ローゼンは慌ただしくシャバーズとその部下と共に馬で演習場へ向かったのだった。

 ローゼンたちの三頭の馬を見送ったサク。

「なんやったんやろぉ?」

 と、首を傾げた後、

「しもたぁ! さっきの言いそびれた! うち、お姫様ちがうのにぃ〜!」

 思わず両手で頭を抱えた。



 カラヤ家当主カイトのテントに六家の家長が集まって、次期当主を決める為の会議が始まった。この会議は昨夜ゆうべの騒動のせいで、午後にずれ込んだのだ。

 カイトら七人が円卓を囲み、書類を前に口々に言う。

 一人が書類を「バン!」と、円卓の上に投げ付けた。

「こんなもの、議論するまでもない」

「これだけ色々と出て来たんじゃな……」

 と、目をつぶって眉間に皺を寄せ、腕組みする者も。

「才能以前の問題で、これは商売人としては致命的だ」

「幹部から次期当主の件について嘆願まで出るわけだ」

「しかも、幹部の意見は一致しているんだって?」

「央華にいるレオンや、天竺ティエンズーのティグリスも事前に書簡で意思表明をしているのだし、誰も文句はあるまい」

 家長の一人の口から出たレオンとティグリスはブランの兄だ。遠方の彼らからは随分前に手紙で次期当主の件について返事をもらっている。卓上に置かれた正式な書簡には本人たちの署名もされており、それら二通を六家の家長たちも本物であると確認した。

「では、次期当主の件はこれで皆、異論はないか」

 当主カイトの念押しに

「異議なし」

「同じく」

 などと答え、反対意見を表明する為に挙手する者は誰一人としていなかった。

「今回も我々一族への発表は各代表者がそれぞれに連なる一族に通達するという事で問題ないと思うが、店の者たちへの発表はいつにする?」

 と、家長の一人に訊かれたカイトが答える。

明日あすの朝でいいだろうか」

「うむ」

 と、六家の家長から返事や うなずきがあり、これもすぐに決まった。

「では、先に次期当主本人をここへ呼ぶとしよう」

 カイトが卓上のベルを鳴らすと、テントへ入って来たのはカラヤ商店の最年少の幹部だ。彼はブランたちのテントの前で


「身の程知らずが……」


 忌ま忌ましげに つぶやいた男だ。

『こんなにも早く結論が出たのか』

 呼び鈴で呼ばれた最年少の幹部は、早々に会議が終わった事に驚いた。

 カイトが彼に告げる。

「次の当主が決まった」

 最年少の幹部は緊張した面持ちで、その言葉に「ゴクリ…」と唾を飲み込んだ。



「ああ……! メンドクサイなぁ……」

 夕飯の後、ローゼンはソファーの上で仰向けになり、ぼやいた。急な来客の対応や、盗人を捕まえた褒美の事など、今日一日の必要な事を終えて くつろいでいるのだが、まだ何かあるようだ。

「どっち道、やる事は変わらんのやろ?」

 と言ったのはレイだ。ローゼンは夕食後にレイとサクのテントへ来ていた。

「まぁ、そうだが」

 不満そうなローゼンにサクが近付いて

「ドンマイ」

 と、励ますと、ローゼンが上体を起こして

「サクぅ〜」

 泣き声を演出して調子に乗って抱き付くが、サクは思いのほか、冷静に「よしよし」と、ローゼンの頭をなでてやる。

「俺の前でイチャつくな!」

 と、怒る兄レイに、サクはのんびりした口調で反論する。

「ほんでもぉ、ローゼンはうちの旦那さんやしぃ〜。落ち込んどん、『よしよし』してあげなぁ」

 サクにしてみれば、イチャついているのではなく、家族に同情しているだけという感覚だ。それはローゼンの立場が『お兄ちゃんみたいな人』から『夫』に変わった事や、挙式前とは言え、両家公認という事も大きい。

 ローゼンは『生きてて良かったァ〜』と、まだ抱き付いたままニンマリしている。

「勝手にせぇ!」

 と、不機嫌そうに言い返してソッポを向くレイに、サクが訊ねる。

「ほんで、お兄ちゃん。さっきから気になっとったんやけど、その刀……」

 レイが先程から手入れしているのは長剣ではない。和の国の湾刀だ。その刀身は央華の湾刀に比べて、細い。

「ローゼンのお蔭で手に入ったんや」

 と、レイが答えると、ローゼンがサクを隣に座らせて話す。

「今日、シャバーズさんが来てたろ?」

「うん」

「彼が持って来た美術品というのが刀剣だったんだ。その中に、その一振りがあってね」

「これはなかなかの業物わざものや。がねがええ……」

 と、レイはランプの明かりで照らした刀身をじっくりと眺める。その目付きには真贋を見極める鋭さがある。

「まさか、こななモンが異国の地で手に入るとは思わなんだぁ」

「良かったな? お兄ちゃん」にこにこするサクに

「あぁ」

 と、レイは返事した後、ローゼンに事情を少し話す。

「刀は消耗品と思うて、あんまり、そこにカネかけてこんかったいうのもあって、前に持っとった刀は安物やすもんでなぁ。すぐに折れたきに、困っとったんや」

 サクが兄の話を補足する。

「最後の刀は天竺てんじくる時に折れたん。向こうやと、和の国の刀が全然、うて。央華やったら、高いのから安いのまで色々あったんやけど」

「仕方ないきん、他ので辛抱してきたんや」

「辛抱ねぇ……」

 ローゼンが腕組みして微妙な表情をするのは、

「こんで、『鬼に金棒かなぼう』やな?」

 サクが笑顔で言うように、刀を得た事でレイがますます強くなるからだ。

「……誰が鬼や」

「あはは…。ごめん」

 不服げな兄レイに、苦笑いしながら謝るサク。ローゼンまで納得したように

「昼間、練習してるところを少しだけ見たけど、確かに、あれは『鬼に金棒かなぼう』だな。人足たちも顔面蒼白してたよ」

 などと言うので、レイが突っ込む。

「お前まで言うんか」

「あぁ…。レイに見せなきゃ良かったー」

 と、ローゼン、ソファーの背もたれに上体をねじってもたれて、冗談っぽく後悔した振りをする。それを「ふふふ…」と笑うサクは

『これで、抜刀の時のイライラもなしんなるなぁ』

 と、兄のもどかしさが解消されて安心したが、ローゼンはまだ、ぼやいている。

「レイには差を付けられるし、仕事ではメンドクサイ事になるし……。あぁ…。ホント、世の中、旨くいかないなぁ」

「そう、ぼやくな。お前にも教えてやるきに」

「えっ!? マジ? いいのか」

 レイが抜刀の仕方を伝授するというので、ローゼン、レイの方を向いて聞き返して喜んだ。

「ええも、なんも、その為に お前も一振りうたんやろう」

「え? そうなん?」

 レイの言葉で初めて知るサク。

「ははは」

 と、笑うローゼンはシャバーズと面会中に、ちゃっかり刀を一振り購入していたのだ。これにはサクも驚いて言う。

「パパのテントに呼ばれる前に、そなな事になっとったとは、ちゃっかりしとるなぁ。ローゼンは」

「まぁね?」と、ローゼンはウィンクする。

「そんだけ、ちゃっかりしとったら、お仕事の方も そうなるわな」

ほんや」

 サクとレイが呆れたように、そのように言うのには理由がある。



 話は午後の次期当主決定会議の後にさかのぼる ──

 次期当主がカイトのテントへ呼ばれた後、カイトの家族とライト一家も呼ばれて、六家の家長も同席する中、次期当主が決まったとの報告を受けたのだ。

 カイトの家族の中には、長男の嫁であるサクも含まれる。緊張して事態を見守るサクはテントに集まった顔触れを眺める。

 ライト一家は家長のライト、妻のマンダネ、三男ブラン、三男の本妻ロクサネである。ブランの妾らは正式な家族としてカラヤ家からは認められておらず、呼ばれていない。

 カイトの家族はサクの他に、次男ルーク、母カーラ、前当主である祖父のローキ、祖母リナ。そして、長男のローゼンは六家の家長を背に、現当主である父カイトの隣に立っていた。

 サクやロクサネのようにカラヤ家に入ったばかりの者は知らないが、ブランなどはローゼン一人が先に呼ばれている事や、その立ち位置を見て驚愕している。

『なんで、こいつが先に呼ばれているんだ !?』

 「次期当主の発表がある」と使者に呼ばれて行った当主のテントに、自分よりも先に、ローゼンがいたのだ。しかも、六家の家長を従えるように、彼らの前で立っている。それは当主カイトの言葉を待たずとも明白だ。

 サクやロクサネはともかく、他の者たちは『もありなん』という顔をしている。ブランの父であるライトまで腕組みして うなずいているのが、ブランには現実ではないように感じられた。

『こ、こんなのは只の夢だ……』

 ブランの心の中で動揺が始まる。

『俺の名が呼ばれれば、現実に戻るんだ』

 そう信じたい気持ちのブラン。

 当主カイトの口が開かれた。皆の視線がカイトとローゼンに集まる。

「次の当主は ──」

 その言葉の後に、一瞬の沈黙が流れたような気さえする。

「ローゼンに決まった」

 腕組みしてうなずくローキや、「あぁ…」と小さく安堵の声を上げるリナ。『そんなこったろうと思った』と言わんばかりに頭をかくカーラ。

 ルークは「ほらね?」と、サクにウィンクするので、サクも微笑みで返すと、ローゼンの方を見た。

 当のローゼンは特に喜ぶでもなく、そうかと言って緊張しているようでもなく、しかし、どこか厳しい表情のようにも見える。

 六家の家長の誰かが拍手し始めたのを皮切りに、皆がローゼンに拍手をした。その光景を目の当たりにしたブランはショックのあまり、しばし動けない。

『あああああ……、悪夢だ !!』

 内心では絶望の叫びを上げている。

 信じられないのはロクサネも同じだ。

「ど、どういう事 !?」

 叫んだロクサネは扇を捨てて、ブランの胸ぐらをつかんで問い詰めた。

「あなたがカラヤ家の当主になるんじゃなかったの !?」

「こっちが訊きたいぐらいだ!」

「痛いッ!」

 激昂したブランに強く腕をつかまれて、ロクサネが悲鳴を上げる。

 ブランの乱暴さに恐ろしくて身を硬くしたサク。それを見たローゼンがルークに目配せすると、長身のルークが小柄なサクを守るように半歩前に出る。

『兄さんの弱点はサクだ。頭に来てるブランに何かされたんじゃたまらない』

 警戒するルーク。彼としても、大事な家族となったサクを守りたい。

「どういう事ですか、叔父さん! やっぱり、我が子 可愛さの依怙えこ贔屓ひいきですか !!」

 激しい口調と身振りで説明を求めるブランにカイトが落ち着いた口調で答える。

「そんな依怙えこ贔屓ひいきができる訳ないだろう。わたし独りで決められるものではない事は、お前も知っているはずだ」

 カイトの言葉に、彼の兄であり、ブランの父でもあるライトがうなずいている。ライトもブランを含めた家族の意見を総合した結果を、家長としてカイトに述べており、カイトとよくよく相談もしての決断である。

 六家の家長らもブランに対して反論する。

「そのとおりだ。現当主の意向だけで次期当主の決定はできぬ。我々、六家の家長とて、下に連なる一族の意見をまとめて、ここに集まっているのだ」

「不服があるのなら申し立ては聞くが、当然、それ相応の理由であろうな?」

 と、睨みを利かせる家長もある。だが、ブランは屈する事なく、言い返す。

「ああ! 理由ならある。俺は西洋で最新兵器を大量仕入れして手柄を立てた」

 そして、本妻のロクサネを指差して主張する。

「しかも、ロクサネとの結婚で海運王とのつながりだってあるぞ!」

「そ、そうよ! わたしのお父様は超大手の貿易商よ !?」

 いつの間にか拾った扇を前に突き出し、自分のバックを強調するロクサネ。

 さらに、ブランは人をおとしめようとさえする。

「それに引き替え、ローゼンの嫁なんぞ、一体なんの役に立つんだ。聞けば、農民の子だと言うじゃないか」

 それに対して、ローゼンが口を開きかけたが、先に言い返したのは彼ではなく、サクでもなかった。

「あら? わたしも庶民の子だけど?」

 前当主夫人の祖母リナだった。ブランが気まずげに言い訳する。

「べ、別に、ばば様の事を言ってるわけじゃないさ。当主の嫁としての品格の問題を言ってるんだ」

「品格? 品格なら問題ないと思うけど?」

 そう言って、リナが家族の方を見遣ると、皆が口々に言う。

「どこぞの高慢ちきと違って、礼儀正しい子だ」

 と、カイトは暗にロクサネの事を非難し、カーラは肩をすくめて言う。

「ローゼンの邪魔しないし」

「サクと出会ってからは、兄さん、毎日 活き活きしてるよ」

 笑顔で兄の日常を喋るルークの言葉を受けて、祖父ローキも言う。

「そうだな。以前にも増して、よく働いているしな。これもなかなかの手柄だな」

 そんな家族にローゼンがやや苦笑いすると、

「品格とは関係ない事も言ってるけど、何より、サクは俺にとって『心のオアシス』だ。いないと困るし、まぁ、品格よりは人としての善良さの方が、俺は重要だと思うがね?」

 などと言って、ウィンクするので、サクは照れて顔を赤くする。

 ライトは人としての善良さを重視するローゼンの言葉に納得する。

「確かに」

「ええ。それに、さっきの発言はサクさんにも、ばば様にも失礼よ」

 マンダネが母として、息子のブランを叱る。ブランは顔をゆがめてソッポを向き舌打ちする。

「ごめんなさいね。サクさん」

 マンダネに謝られて、サクは両手を胸の前で左右に振って「いいえ」と答えて、気を遣う。

「申し訳ありません、お義母かあさん。わたしの育て方が悪いんです」

「いいえ。わたしはあなたの育て方が間違っているとは思ってないわ? だって、レオンもティグリスも立派に育っているもの」

 リナは異国にいるブランの長兄レオンや次兄ティグリスを引き合いに出し、謝るマンダネを気遣った。

 両親まで敵に回るので、動揺するブランは

「よ、嫁がなんだ! 問題なのは仕事の中身だ」

 話を逸らすが、ローゼンに思わぬ事を言われる。

「何が仕事の中身だ。致命的なミスを犯しておいて」

「ミスだと?」

「ブラン。お前は商人としての基本を忘れたようだな」

 いぶかしげな顔をするブランに見せたローゼンの顔は厳しいものだった。


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