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20-ⅰ)運命は残酷に〜断たれし退路

 物流拠点から離れた荒野へ放り出された盗人五人組。

 身をよじるが、縄はほどけない。

その1「クソッ! 固く縛りやがって!」

その2「おかあちゃ〜ん……!」

その3「泣くな! 男だろ!」

その2「男だって泣きたいよぉ!」

その4「諦めろ。これが俺らの運命だ」天を仰ぐ。

「クソッ! このまま終わってたまるかッ!!」

 ヒカルは立ち上がり、独り歩き始める。

「おい! どこ行くんだよ?」

 盗人の一人が呼び止める。ヒカルは振り向いて言う。

「街道を探すんだ。馬車か、なんかに拾ってもらえるだろ」

 しかし、他は悲観的だ。

その1「そう簡単にいくかよ」

その2「徒歩でぇ〜?」

その3「俺ら、人相悪いから、見つけてもらっても助けてもらえるとは限らねぇぞ」

その4「ご丁寧に、背中にこんな貼り紙までされてさ」

 彼らの背中には「罪人ゆえ助くべからず」という貼り紙がされている。

その3「出会ったのが、文字が読める商人なら即アウトだ」

 と、縛られたまま肩をすくめる。

「そうだ! 街から街までの街道を行くまともな旅人なんて、安全の為に大抵は集団行動だ。文字が読める案内人とかが付いてる事が多いんだった……」

 その1がガクッと頭をうなだれる。ガナンの家族も行き帰りはカラヤ商店の荷馬車に相乗りさせてもらっているぐらいだ。

「んな事、言ったってェ、諦めたら、そんで終わりだろ !?」

 ヒカルが「ドンッ!」と足で踏み鳴らした。

 四人が互いに顔を見合わせる。

「まぁ、それもそうか…」

「そうだな」

 皆、立ち上がり、ヒカルと共に街道を目指して歩き出す。

 しかし、その時、唸り声を上げるハイエナの光る複数の眼が彼らを捉える。

「ヒィッ……!」

「うわぁー!」

 ハイエナらがヒカルたちに飛び掛からんとする刹那、


 ズドンッ! ズドンッ!


 ゴロリと倒れたハイエナらの体には矢が刺さっていた。仲間がやられるのを見て、残りのハイエナは すばしっこく逃げ去った。

 星明かりのもとに突如と現れた救世主に盗人らは思わず

「ああッ! 女神様ァ──ッ!」

 と、歓喜の叫び声を上げた。が、ヒカルは

「ゲェェ──ッ!?」

 思わず顔をしかめた。



 昨夜ゆうべは居住区の警備に当たっていたガナンは、朝、井戸端で顔を洗いに来たカヲルに声をかけた。

「聞いたぜ? 大変だったな」

「はぁ……。皆さんには、本当にご迷惑をおかけしました」

「気にすんな。で、若と契約すんだろ?」

「ええ……」

 カヲルはハッキリしない返事をした後、

「兄弟があれだけのご迷惑をかけた以上、やっぱり、独りで一からやり直そうかと……」

 などと言うので、ガナンが驚く。

「おいおい。独りになって、どこ行くんだよ」

「旅をしながら、日雇いでも なんでも食い繫げれば……」

「やめとけ、やめとけ。一人旅はさすがに危ねぇぞ」

 そこへサク専属の護衛を務めるキルスが顔を出した。

キルス「おはようッス!」

ガナン「おう! おはよう」

カヲル「おはようございます」

 カヲルが井戸の水を汲み上げている間、ガナンがキルスに訊ねる。

「あれっ? キルス、お前、若奥様の護衛だったよな?」

「途中でばんを交代して、一眠りしてきたとこです。朝メシ食ったら、また交代っス」

「それにしても、お前も大変だな。しかも、護衛隊長だろ」

「大変? 大変どころか、楽っスよ。もう、死ぬほど楽っス!」

 カヲルがつる桶の水をたらいに移したので、「お先にどうぞ」と言おうとしたら、キルスの長い愚痴が始まった。地面を踏み鳴らして踏みにじったかと思えば、手で髪をかき乱すなどして喋る。

「ロクサネなんぞの下にいりゃあ、やれ、暑いから団扇うちわあおげだの、夜に急にスイーツが欲しくなったから買いに行けだの。俺らは護衛だっつーの! そんな事してたら、護衛の仕事になんねぇのが、分かんねーんだ、あの頭は。使用人には他の用事を言い付けてあるから、お前がやれとか、逆らうなら給料から天引きするだの、クビにするだの。言われたとおりスイーツ買いに行ったら行ったで、『何やってるの。遅いじゃない!』とか怒るし、もう、無茶苦茶だァ!」

 キルス、配置換えする前はブランの傘下にいたのだが、その頃は本妻のロクサネのワガママに翻弄されていた。

「大変だったな、そりゃ……」

「相当、溜まってたんですね。鬱憤……」

 両の拳を握り締めて愚痴るキルスに、ガナンもカヲルも同情の念を禁じ得ない。

「西洋から戻ったら、ローゼン様の配下に戻れて、もう万々歳でさぁ! ワッハッハッハッハー!」

 キルス、両手を天に向かって差し出して喜んだ。

 先に顔を洗ったガナンとキルスが手拭いで顔を拭きながら会話する。

「こいつがよ、辞めるとか言い出してよ」

「なんで?」

「兄弟が迷惑かけたから居づらいって言うんだが、若は出て行けなんて言わねぇと思うんだがな」

「お前、馬鹿だなぁ」

 と言って、キルスが顔を洗っているカヲルの頭を手で軽くしばいた。

「えっ!?」驚くカヲル。

「あの若旦那がそんな事、気にするかよ」

「え……?」

 カヲルは水で濡れた顔のまま振り返る。その顔にキルスがしゃがんで顔を近付けると、説得を始めた。

「よく考えてみろよ? あっちはクビで、お前には わざわざ残れって言ったんなら、辞めて欲しくないに決まってんじゃん。しかも、昨夜ゆうべの一件で、若旦那も若奥様もお前の味方するぐらいだ。辞めるとか言ったら、泣くぞ、二人とも。いや、他の仲間も泣くぞ」

 昨夜ゆうべ、檻の前での皆の様子をキルスも見ている。

 カヲルもあの時のみんなの言葉を思い出して、涙が出て来た。思わず顔を伏せて、

「すいません、洗い直します……」

 キルスに背を向けて、たらいの水で顔を洗う。

 顔を拭き終えたカヲルにキルスは言った。人差し指でカヲルの胸を突く。

「こっちにも都合ってモンがあるんだ。お前に辞められたら、俺らも困る。急に、俺らみたいな厳ついのに囲まれて、サク様も戸惑うだろ? 古参のお前がサク様と俺らのパイプ役やれ」

「は、はい」

 強制的にも聞こえるが、それがキルスなりの優しさだった。それに、カヲルは思わず返事していた。

 「じゃあな」「後でな」と、去って行くガナンとキルスの後ろ姿を見ながら、カヲルは思った。

『俺、みんなに励まされてばっかりだな』

 一度、明るい天を仰いだ後、カヲルは自分の頬を両手で叩いて気合いを入れた。

「よしっ! 頑張るぞッ!」


 カラヤ商店の仲間と朝食の準備に取り掛かるガナンたち。

 野菜をカットするガナンが米を研ぐキルスに礼を言う。

「助かったぜ。カヲルを説得してくれて」

「なぁに。思った事を言ったまでですよ」

 と、キルスは笑った。


 こうして、カヲルはローゼンが起きるのを待って、ローゼンと契約したのだった。



 朝食の後、サクは兄レイと近くの川へ洗濯に行った。

 手で揉み洗いするサクの手加減は軽いものだ。薄物の服なので、生地を傷めないように強くはこすれない。

「それんしても洗濯、楽になったなぁ」

 そんなサクの感想に、厚手の細袴をゴシゴシと洗濯板で洗っていたレイは天を仰いで遠い昔の事のように思い出す。

「あいつら、ほっぽって遊びに行っとったきんなぁ……」

 かつては三人の姉妹たちの洗濯物もレイとサクが二人で洗っていた。つまり、全部で五人分だ。特に、レイの細袴は乗馬の為に厚手の生地なので、サクの腕の力では絞り切れない。レイ一人で絞る事もあったが、その一端をそれぞれに持って、二人で一緒に絞ったりもした。それが今となっては、サクにとって楽しい思い出となっている。

『あぁ、これからは兄妹でする事もなしんなっていくなぁ……』

 と、サクが少し感傷に浸っていると、後から洗濯籠を持って使用人たちがやって来た。

 先に洗濯を始めていたサクが彼女たちに声をかける。

「すみません。ここのところ、お任せしてしまって」

 結婚が決まってから何かと多忙になり、大奥様であるリナの好意に甘えて、洗濯物などをローゼン一家の使用人に頼んでいたサクだったが、使用人たちにしてみれば、その為に雇われているし、今ではサクも主人である。

 年長者の使用人がサクに向かって言う。

「とんでもない! わたしたちに任せて下されば、よろしいのに……」

「いえ。まだ式を挙げてませんし、今は わたしと兄の二人分なので、凄く楽なので」

「そうはおっしゃっても、大奥様も奥様も お認めになっていますから、遠慮などなさらなくても……」

 妹と使用人の遣り取りを見兼ねたレイが川の水で「じゃぶじゃぶ」と洗う手を止めて、サクに言う。

「俺のは自分で洗うきに、お前はええぞ」

「えー。手伝うた方が早いのにぃ〜」

「これからは旦那と旦那の家族の事をするようになるやろ。そうなったら、お前ひとりの手ぇでは合わんぞ。手伝うてもらえ」

「……うん。分かった」

 兄に説得され、ちょっと淋しげなサク。

「これからは、皆さんと一緒に洗います。忙しい時は、お任せします」

 と、サクが使用人たちに素直に申し出ると、彼女たちは顔を見合わせた後、答えた。

「サク様は女主人なのですから、なんでも遠慮なく申し付けて下さい」

「そうでないと、わたしたちがローゼン様に叱られますから」

「はい」

 若い使用人がレイに声をかけるが、

「良ければ、レイ様の分も……」

「お、俺のは結構です」

 丁重に断った。そんな恥ずかしがるレイを見て、サクも使用人たちも思わずクスクスと笑う。

 使用人たちは一度、水に浸した洗濯物に石鹸を付けて足で踏み洗いをしたり、石に叩き付けたりしている。

 サクと並んで薄物を手で揉み洗いする使用人が笑顔で話しかける。彼女はこの中では最年長だ。

「それにしても、若奥様は大奥様と似たタイプですねぇ」

「そうなんですか?」

 サクは思わぬ事を言われて目を「ぱちぱち」とさせた。

「実は大奥様も時々、わたしたちと一緒に家事をなさるんです」

「へー」

 サクは感心の声を出しながら、

『上品な物腰やけど、気取ったところがないんは、ローゼンのおばあさんって感じするなぁ』

 と、大奥様のリナの人物像について内心で納得する。

「今は婚礼準備にお忙しそうなので、しばらくお休みのようですけど」

 と、隣の使用人に言われて、気付いたサク。決まり悪そうに訊ねる。

「あ……。わたし、他に準備で手伝う事、ありますよね?」

 実のところ、サクの花嫁衣装に関してはオシャレ好きな祖母リナが仕切っている。式を執り行う神殿への使者はすでにローゼンが出した。カラヤ家から出す結婚の挨拶状の送り先は祖父ローキ、父カイト、母カーラと相談の上、これもローゼンが決めている。

 結婚が決まってからサクがやっている事は、ローゼンの従兄弟のブランの嫁たちへの対応や、護衛の事、今後の生活についての相談などで、ファルシアス王国に縁故がないサクとしては仕方のない事ではあるが、真面目なサクはつい、『ちゃんとせなぁ』と思ってしまう。

 隣の古参の使用人が

「いえ、大丈夫ですよ。お式は内々ですると、若旦那様もおっしゃっていたじゃないですか。式に出席されるのは当主御一家とライト様の御一家だけです。それに、六家の方々へのご挨拶も済んでおりますしね」

 そう言った後、踏み洗いする使用人が明るい声で口を挟む。

「心配いりませんよ! カラヤ家の方は派手好みではないので、気楽になさって下さいな」

「はぁ」

 隣の古参の使用人も「そうですよ?」と言うと、大奥様のリナが孫の婚礼準備で張り切る理由を笑顔で話す。

「ローゼン様は内孫で、大奥様のお気に入りですからね。あれだけ張り切っているのも、それだけ嬉しいからなんです」

 しかし、その後、彼女は洗う手を止めて目を伏せ、声のトーンを落とした。

「それと、いずれ分かる事なので申し上げますけど、大奥様は娘さんのお嫁入りを喜べなかったので、その分、余計に嬉しいのかも知れません……」

「え……」

 サクだけでなく、レイの手も止まった。

 一昨日おとといの内祝いの昼食会での話を思い出したサク。

「確かぁ、ローゼンからは叔母さんは遠い所にいて、なかなか会えないと聞きました」

「確かに、なかなか会えない場所ではありますね。後宮ですから」

 暗い表情で そう答えた古参の使用人の言葉に、他の使用人たちの手や足も止まり、ほとんどの者が悲しげな雰囲気になる。

 古参の使用人が続ける。

「ナディアお嬢様は陛下、つまり、当時の王子殿下に見初められたのですが、あの時は、当主だった大旦那様も猛反対なさいました」

「えー! わたしだったら、絶対に喜んで行くのにぃ〜」

 当時の事を知らない若い使用人は呑気に言う。

「そりゃ、あなたはそうでしょうけど……」

 と、古参の使用人が若い使用人に言った後、レイに話を振った。

「レイ様でしたら、どうなさいます? もし、サク様が国王陛下や王子殿下のような御身分の方に見初められたら」

「あー」と、言った後、あまり迷わずにレイは答えた。

「死んだ事にして、サクを隠すでしょうね」

 その回答に若い使用人は驚きの声を上げた。

「エーッ!? なんでですかァ?」

 そんな疑問を抱く彼女とは違い、サクはある程度の察しが付くので、隣の使用人に向けて訊く。

「ひょっとして、後宮が怖い所だと、カラヤ家の人たちは分かっていたのでは」

 それに うなずいた古参の使用人が話す。

「単なる姑の嫁いびりどころか、跡目争いも起きるでしょうから、大旦那様も大奥様も毒殺などの暗殺も恐れていました。先程、レイ様が言われたような策を講じる事もお考えでした」

 そして、その使用人の口から、ローゼンの叔母・ナディアの気性が窺い知れる言葉が出る。

「しかし、勝ち気なナディアお嬢様はご両親の反対を押し切って『嫁ぐ』と言われて。もっとも、王族のような偉い方に断る事も、命を取られるかもしれない危険な選択になるわけですが」

 サクもうなずいて思う。

『そうやな。気位がたこうて、権力 持っとる人らやったら、断られただけで「面目、潰された」ゆーて怒って、何するか分からんわな』

 レイは両手を腰に当てて、

「大体、言うこと聞かないなら命を取ろうかっていう血も涙もない奴の所へ、誰が喜んで行くものか。これだから、権力者は嫌いなんだ!」

 と、忌ま忌ましげに鼻息つく。

「うっへー……!」

 大人たちの話を聞いて、若い使用人も夢から醒めたようだ。

 そんなサクたちの周辺にはサクの護衛らが警戒している。不審な足音に気付いて、剣のつかに手をかけるが、ブランの使用人たちだと分かり、手を放した。

 ブランの使用人たちも洗濯に来たのだが、サクの様子に驚いて呆気に取られていた。

『主人が洗濯するだなんて……』



 が高くなり、ローゼンがルークや人足らと外で遅い朝食を終える頃に、一頭の早馬が物流拠点に到着した。

 日避けテントの下の食卓に着いているローゼンに使いの男が耳打ちする。

「早馬が着きました。番頭さんがお待ちです」

 何人もの手を渡って、船や馬で繫げられた遠方よりの知らせはカラヤ兄弟のテントに届いたが、ローゼンが朝食に出ていた為、代わりに番頭のトリンタニーが受け取ったのだ。

「分かった。すぐに戻る。トリンタニーに俺のテントに来るよう伝えてくれ」

「はい」

 返事するなり、使いの男はローゼンよりも先に番頭の元へ走った。

「ごちそうさま」

「お先に」

 と、ローゼンとルークは給仕の使用人や食べ終えていない人足らに声をかけると、二人ともナンの最後の一切れを口に放り込んで、水を流し込み、口をもぐもぐさせながら、急ぎ足でテントへ戻った。

 トリンタニーから手紙を受け取り、目を通すローゼン。一通り目を通した後に、兄が溜め息をいた事で、それが悪い知らせだとルークにも分かり、彼は眉根を寄せた。

 この遠方からの報告に関しては、ローゼンはカラヤ一族の当主である父と一族のうちの各代表者である六家の家長に報告した。



 その後、しばらくして、物流拠点から一番近い街の支店、つまり、サクたちがキャンプ入りする前に滞在していた支店からは、余った在庫が荷馬車で送られて来たと共に、ある一報も入った。

 ローゼンが体力作りと気分転換を兼ねて、倉庫で荷の積み下ろし作業を手伝っていた時だ。作業を中断して、支店から来た商人の報告を聞いた彼は苦虫を嚙み潰したような顔をして、「フンッ!」と、鋭く鼻息をいていた。



 そして、カラヤの遠縁で探偵のシドもやって来た。彼は西南部の都の支店でローゼンの所在を訊ね、この物流拠点を訪れたのである。

「申し訳ねぇ!」

 シドはテントに入るなり、ローゼンに土下座した。西南部に滞在中に依頼していた女用心棒探しだが、まだ見つかっていないと言う。


「このシド様が全力でチャッチャッと探してくっか!」


 と、威勢よく言っていた割には結果はサッパリであったのだ。

 シドはローゼンに椅子に座るよう促され、使用人に入れてもらった果汁ジュースで喉を潤すと、訳を言った。

「色々と当たってはみたんだが、これが、もう、てんでサッパリでよ。そもそも、武術を習ってる女自体がいねぇんだ。嫁に行けなくなるとか、体裁の問題もあってさぁ……」

「いや、こっちも難しい頼み事をしたんだ。仕方ない」

「で、お前、あの娘と結婚したんだって? さっき、ハッサンに会って聞いたぜ」

「あぁ。挙式はまだだが、両家公認だ」

 照れ臭そうに頭をかくローゼン。

「とうとう、ローゼンも結婚かぁ」

 感慨深げに腕組みするシドに、ローゼンが訊ねる。

「それより、お前の方は最近、どうなんだ?」

「それを聞くなよ。家を留守にしがちな稼業だ。しかも、お前んトコみたいに家族連れて行けるような日向稼業でもねぇ」

 それを聞いて、言いにくそうにローゼンがつぶやく。

「……また、恋人に逃げられたのか」

「ハッハッハッ。自慢じゃねぇが、連戦連敗だ」

 シドの胸を張って乾いた笑い声を出す様が痛々しい。それを気の毒に思ったローゼンが申し出る。

「うちの従業員にも若い娘がいるから、見合いするか?」

 しかし、シドは「いいよ!」と、手の甲を外側へ振って断ると、「自分で見つけらぁ」と言うので、

「そうか。それで、さっきの女用心棒の話だが ──」

 ローゼンが話を戻す。

「また、探すよ」

 と言うシドに、

「いや。一旦、打ち切りにして、他の仕事に専念してくれ。こっちは ついでで構わない。今までの経費や足代はちゃんと払うよ」

「そうか? りぃな」

「トリンタニーに請求書を渡しておいてくれ」

「分かった」

 シドが立ち上がり、トリンタニーのもとへ向かおうとドアの前まで来た後、振り返った。

「ああ! 今度、なんか祝いでも持って来るよ」

「気にするな」

「まぁ、大したモンは贈れねぇけどよ」

「気持ちだけもらっとくよ」

「おう。じゃあな!」

 背中を見せてサッと一振り、手を振って去って行くシドをローゼンは笑顔で見送った。



 シドが去った後、レイとサクはローゼンのテントに呼ばれた。そこにはローゼンの弟・ルークら家族もいた。さらには、サク専属の護衛たちや、ハッサンやモーも招き入れられた。カヲルもいる。彼はシドの訪問前に契約書にサインして、サク専属の護衛となっていた。

 シドが訪ねる前に届いた街の支店からの一報について、ローゼンが知らせる。

「少し前に街の支店から情報が入った」

 皆を前に重々しい口調でローゼンは話し始めた。

「あの三姉妹が脱獄したそうだ」

 その言葉にサクの身が恐怖で一瞬、「ビクッ」と硬くなる。

 「あの三姉妹」とはレイとサクの元姉妹の華夜、美夜、輝夜の事だ。兄妹に縁を切られた後、盗賊に堕ちた彼女たちは泣き落としが効かないサクに危害を加えようとして捕らえられたのだが、案の定、脱獄した。

「やっぱり、街の小役人ではダメだな」

 と、ローゼンの祖父・ローキが不満を口に漏らす。

「という事で、次は無い」

 ローゼンがキリッとした『武闘派商人』の顔で言うと、待ってましたとばかりに護衛隊長のキルスが言う。

「次こそは役人に渡さず、俺らで処分って事ですね?」

 配置換えでローゼンの直属となってからは水を得た魚のようだ。

 ローゼンが護衛たちに指示する。

「そういう事だ。あいつらは生き残るチャンスを自分たちの手で潰したんだ。手加減は無用だ」

 祖母のリナが頬に手を当てて呆れる。

「ちゃんと罪を償っていれば、こういう事にならずに済んだのに。自分から罰を重くするなんて、馬鹿ねぇ……」

「馬鹿は結局、馬鹿なんですよ。ま、そのお蔭で こっちも腕が鳴るってもんだ」

 と、母カーラは不敵な笑みを浮かべて「ボキッ、ボキッ…」と手指の関節を鳴らしている。それに加え、祖父ローキまで

「俺も『元祖・武闘派商人』の本領発揮だな」

 しっかりした右腕を左手で「バシッ」と叩く。

「頼むから、二人とも無茶だけはしないでくれよ?」

 心配で手を額に当てるのは父カイトだが、彼もカラヤ家の男だ。

『こっわぁー……。父さんも普段は温厚だけど、盗賊相手だと容赦しないのは兄さんとおんなじだからなぁ』

 と、背筋が凍る思いで父と兄を見ているルークに、ハッサンがケロッとした顔で耳打ちする。

「なんか、みんな張り切ってんな」

「ばば様とサク以外、みんな、武闘派だからねー……」

 どこか遠い目をして言うルークもカラヤ家の男であるが、威厳や威圧感においては祖父、父母ちちはは、兄には敵わないと自覚している。

 自分の腰に提げた長剣のつかに手を掛けたレイは、長剣を見て、思わず鼻息をいていた。サクはそんな兄の様子に気付き、

『もどかしいわな』

 と、兄の思いを察していた。


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