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2-ⅱ)波瀾〜強者と弱者

「みんな、無事か?」

 戦闘を終え、ローゼンが人足兼警備の『カラヤ隊』に声をかけた。それに警備隊長が応じる。

「ええ、こっちは問題ありませんぜ。なんの訓練をしてきたんだか、歯応えのない連中ばかりだったな。それに、今夜は満月で明るいし、うちの連中は夜目も耳もいい連中ばかりですからな。討ちもらしはありません」

「うん、上出来だ。バカ領主とは言え、領主だ。盗賊じゃない。バレたら大軍を出して討伐されるだろうからな」

 と、微苦笑するローゼン。

 馬を降りて、ローゼンとレイが握手を交わす。

「とりあえず、追っ手の兵を全滅させた盗賊団を、俺たちが成敗したという事で、領主には取り繕っておくよ」

「悪いな。ローゼン」

「お前たちはさっさと他へ行くことだな」

 と、ローゼンは忠告すると、踊り子たちには

「もう、あの領主には近付くなよ? そもそも大金のご褒美を目当てに色目なんかつかうから、こういう目にうんだ」

 と、レイが言いそうな お説教をする。そんなローゼンに美夜が反論する。

「あら? あたしがいつ、あんなスケベ領主に色目をつかったって?」

 そう言われて、ローゼンはルークの方を見るが、『そう言えば、振られたんだっけ? ん?』と、自分の顎を指でつまんで「ふーん…」と天を仰いで考え込む。

「鈍いわねぇ、あんた以外に誰がいるのよ!」

 と、むくれて言う美夜の言葉に「はァ?」と間抜けな声を上げるローゼン。

「そうよ、他にいる?」と、華夜。

「うむ」と、輝夜もうなずく。

美夜「当然、あたしと結婚するわよね?」

華夜「いいえ、わたしよね?」

輝夜「カグにしろ」

 三人の美女たちに言い寄られて、「いっ!?」と、両手を前に出して退くローゼンに

「どうする? ローゼン。妹たちは三人とも乗り気だけど」と、意地悪く笑うレイ。

「いよッ、色男!」と、あるじの真面目な性格を知っていて、わざと からかうカラヤの警備兵たち。中には口笛まで吹く奴もいる。

「兄さん、ひどいよォ〜!」と、嘆くルーク。

「いるよなぁ。たまに、こういう奴」と、他人ひとごとのように言うヒカル。

「それとも、例のお相手がいいのなら、引き下がるけど?」

「お前には申し訳ないが、そこの三人との縁談は断る」

 レイに向かって、改めてハッキリと断るローゼン。

「俺はあまり多くを望む方じゃない。自分が “これぞ” と思った一つに心血を注ぐタイプなんでね」

「やっぱり、欲の無い奴だな」

 お手上げとも言わんばかりにレイは肩をすくめる。レイに「諦めろ」と言われ、「え〜」と指をくわえて残念がる華夜美夜。

 輝夜はローゼンに振られたショックで

「兄。こいつ、斬ってもいい?」と剣のつかを握るので、レイが慌てて

「やめんか! そんな物騒なこと言うのは。お前が言うと、シャレに聞こえん……」

 制止した。

「ところで、ヅキ麗照レイショウ ──」

 と、ローゼンがわざとらしく レイをフルネームで呼び、

「友であるこの俺に何か隠している事は…ないか?」

 レイの肩に腕を回して、耳打ちする。

「はァ? なんの事だよ」

「ふ〜ん……? まだ、白状しないのか。レイ、お前はなかなか嘘つきな奴だなぁ」

 そこへ馬車を連れてカヲルが戻って来た。

「ああ、やっぱり。静かになったから、戻って来たよ」

 ローゼンが馬車を見るなり、レイから離れて馬車へ駆け寄り、

「やぁ、どうも。モーさん」

「ああ! こりゃ、カラヤの若旦那さん」

 中年の東洋人の男こと御者のモーと握手した。

『こいつ、なんでモーさんと知り合いなんだ?』

 と、不審に思うレイはモーとローゼンの様子をしばらく見守る。

「サクちゃん、中にいますけど、お会いになりますか?」

「頼むよ」

 モーが中のサクに声をかける。

「サクちゃん! お客さんですよ!」

「え? こんな時にお客さん? それよりぃ、みんなは大丈夫だったのぉ?」

「大丈夫、大丈夫。見たところ、みんなピンピンしてる」

 モーに呼ばれて馬車から出て来たサクが満月の明かりに照らされて、お人形のような端麗な顔を見せる。

「 ─── !? 」

 彼女は兄、姉ら、天堂兄弟、モーの他に大勢の騎馬隊がいたので驚いて声が出ない。

「やぁ。君、無事かい?」

 と、ローゼンが手を差し伸べて、サクが馬車から降りるのを手伝う。

「え? はい……」と、緊張した面持ちで答えつつ馬車のステップから降り、『誰?』と思うサク。

「なんだ? お前の友達、サクとも知り合いなのか?」

 と、ヒカルに訊かれたレイだったが、

「いや、まさか、そんなわけ……」

 レイの頭の中では まだ何もつながらない。

「俺の事、覚えてるかい?」

 陣羽織のような豪華な上着を着ていたので、すぐにローゼンと気付かないサクだったが、ローゼンが左手の金の指輪を見せたので、思い出す。

「あれ? あの時の… “指輪のお兄さん”?」

『ん?』

 その聞き覚えのある言葉にレイの耳が反応する。

「そう言えば、まだ名告なのってなかったね。俺はカラヤ・ローゼン。『ローゼン』と呼んでくれ」

 サクは聞き慣れない名前を覚えようと

「カラヤ・ローゼン……」

 思わず小声で復唱すると、場の雰囲気に呑まれてか、

「えっとぉ、わたしは『サク』と言います」

 と、かしこまって名告る。

「それにしても、違う格好だから分からなかった……」

 と、驚いた様子で口元を指先で隠すサクにローゼンが答える。

「あぁ、これはね、さっきまでお偉いさんの宴に呼ばれていたから」

「でも、なんで、ここにいるの? 大勢、人もいるけど……」

 と、胸元で丸めた右手を左手で握り隠し不安そうに訊ねるサクに

「君のお姉さんたちが無粋なやからに追われていたから、みんなで助けに来たのさ」

 と、カラヤ隊を指し示すように右手を広げるローゼン。

「え、あ、あの、ごめんなさい…と言えばいいのか、あ、ありがとう…と言えばいいのか…」

 姉たちの為に騎馬隊の援軍という予想外の展開にサクは かなり戸惑う。

「なに、君のお兄さんとは親友だからね。当然の事をしたまでさ」

 と、サクの前でいいカッコをし出すローゼンを見て、「……なんかキザな奴だな」と、嫌な予感がするヒカル。

「それより、君 ──」

 背の高いローゼンが片膝を突き、小柄で華奢きゃしゃなサクの小さな手を取る。その光景にローゼンの想い人が誰であるかという事に、さすがに誰もが気付いた。ヒカルの顔が引きつり、カラヤ隊からは口笛が聞こえる。

「兄さん、あの子が好きなのか」意外そうにルーク。

「ま、まずいわね」眉間にしわを寄せる美夜。

「ままままま、まずいどころじゃないわよ」おどおどする華夜。

「こここ、殺される。サクにちょっかい出す男、皆、あ、兄に殺される……」爪をくわえて、大袈裟な事を言い、真っ青な顔の輝夜。

 そんな踊り子姉妹の心配を余所よそにローゼンはサクに言う。

「あの時のお礼がまだだったね。今回は突然の事で、用意できていないんだ。何か欲しい物はあるかい? 今度、用意して持って来るよ」

「わたしは特に何も……」

『助けてくれた こっちがお礼しなきゃいけないのに。あの程度の事でお礼だなんて、要るかなぁ?』

 と、困った様子で、右手の人差し指を ほほに当てて真面目に考え込むサク。

「そうか、そういう事か。話に聞いていた “指輪の男” というのはお前だったのか……」

 と、ようやく腑に落ちたレイのはらわたが煮えくり返る。その、わなわなと震える姿に天堂兄弟も踊り子の妹たちもおののく。

 レイの怒りがいよいよ爆発するかと思われた、その時、サクの頭に『ピン!』と妙案がひらめいた。

「あ、いいこと思い付いた。ローゼンさん、いい人そうだから、もし、良かったら、お姉ちゃんのお婿さんになって?」

「え……?」

 思いがけないサクの提案に、石のように固まってしまうローゼン。サクの左手を持ったまま微動だにしない。周囲もその様子に黙り込み、虚しい風が吹き抜ける。

 それはまさしく、最強の色男が最もか弱い少女の何気ない言葉によって打ちのめされた瞬間であった ──。



 いつでも休めるようにと、レイが寝室としてしつらえさせた馬車の中で すやすやと眠るサク。

 モーが操る馬車と並走するレイたちの馬。

「あの人、ちょっと可哀想だったわねぇ」

 と、華夜がサクに袖にされたローゼンの事を言う。

「まぁ、しょうがないんじゃない? サク、自分の事になるとニッブイし。それにしても、鈍い男が鈍い女に気付いてもらえないだなんて、皮肉な話よね。くくく……」

 と、意地悪く笑う美夜。

「いい気味だな」と、ヒカル。

「報い」と、輝夜。

「……さすがに気の毒だよ」と、カヲルが同情する。

「まさか、サクに目を付けていたとは、まッたく油断もすきもない!」

 と、左掌ひだりてのひら右拳みぎこぶしをぶつけて怒るレイ。先程、ローゼンの意気消沈ぶりに怒るタイミングを失った分、後から怒りが沸々と込み上げてきたのだ。

「なんで、俺に話してくれなかったんだ。モーさん!」

 むくれた顔でレイが訊く。

「いや〜、すいません」と、御者のモーは頭をかき、ローゼンに紋章入りの指輪を見せられた時の事を思い出しつつ話す。

「サクちゃんにサプライズでお礼がしたいとか言われたもんで。それに、相手は『カラヤ家』の若旦那だし、素性が堅いと思って」

 モーにこれと言って落ち度はないので、レイは叱りようがない。質問を重ねる。

「ところで、あいつに どこまで話したんだよ」

「家族構成とか色々訊かれました」

「どこまで手抜かりのない奴なんだ、あいつは!」

 と、再びてのひらに拳を打ち付けて、ましげに言うレイ。

 レイとモーの会話を聞いたヒカルが

「カラヤ家って、なんだよ? そんなに凄いのか?」と訊く。

「なに言ってんだよ、ヒカル! カラヤ家と言えば、この大陸の中央地域で一番の大金持ちだぞ」

 と、言うカヲルに、レイが説明を加える。

「カラヤ家は卸売りの行商人の一族で、その商売の規模はデカイ。中央地域をべる『ファルシアス王国』の王都に本店があって、そこを中心に国の内外の至る所に支店を構えてるんだ。要は、方々にネットワークを張っているって事だ」

 そこへモーが言いづらそうに、レイにもう一つ、報告する。

「それと…、いつでも連絡が付くようにと、行く先々で『カラヤ商店』へ報告をしてくれとも頼まれました。そこから早馬で若旦那に知らせが行くようにするとか」

「なんて、抜け目のない!」

「やめときましょうか?」

 と、モーに訊かれ、レイは少し考え込み、

「……いや、知らせてやってくれ」

 と指示し、モーが承知する。

「いいのかよ? そんな事して」

 と、不思議がるヒカル。

「この際だ。使える物は使うさ。さっきも見てのとおり、カラヤの人足たちはつわものぞろいだ。何かあった時には頼りになる」

「……あんたも抜け目ねぇな」呆れるヒカル。

「顔良し、スタイル良し、お金持ち、おまけに腕が立つ ── なんでもそろってるなんて、羨ましい〜」

 羨むカヲルにレイが言う。

「だからと言って、それが幸せかどうかは分からんぜ? 噂では、ローゼンはカラヤ一族の中でも一番の跡取り候補ともくされているらしいからな。その分、苦労も多いと思うけどね」

「ふ〜ん……、お坊っちゃんも意外と大変そうだな。そう言やぁ、お坊っちゃんとは思えねぇ太刀筋だったな〜。そうだ、輝夜。あいつ、どれぐらい強いか分かるか?」

 ヒカルに訊かれて輝夜が答える。

「分かる。近付いた時、嗅いだ。兄と同じくらい強い」

「て、事は相打ちになる……」と、華夜。

 し〜ん……と、皆がレイを見る。

「べ、別に、俺が真正面から あいつと決闘するわけじゃないんだ。向こうもそんな気ないさ。まぁ、なんとか諦めさせるよ」

 とは言いつつも、頭を抱えるレイ。

『一番 問題なのは、ローゼンが悪人じゃないって事だ。それだけに厄介だ。あれじゃあ、いずれサクが懐いてしまう。さっさと手を打っておかないと……』

 満月の光に照らされたレイの横顔は悩ましいものだった。



 カラヤ隊を率いて帰るローゼンとルーク。すっかり心がくじけたローゼンにカラヤ隊の連中が同情し、まるで、お通夜のような雰囲気に包まれていた。

「あの若旦那が振られるとはなぁ……」

「自分じゃなく、『お姉ちゃんのお婿さんになって?』は ないよなぁ」

「ありゃ、カウンターパンチ喰らったようなもんだ」

「盗賊退治で名高い天下の “武闘派商人” も、これじゃあかたしだな……」

「哀れ過ぎる……」

「見ちゃいられん……」

「……恐るべし。乙女の鈍感力」

 などと、カラヤ隊の中で「ぼそぼそ」と ささやかれた。

「結局、俺たち二人とも振られたね……」

 と、兄ローゼンと馬を並べたルークが溜め息混じりに つぶやく。

「お前はまだ、いい方だよ」

 恨めしげにルークをにらむローゼン。

「俺なんて、手を握っても全く相手にしてもらえなかった……」

 ローゼンが目に右腕を当てて泣く。


 先程、ローゼンはサクの提案に

「君の頼みでも、それは出来ない」

 と、断っていた。そして、今は望み薄いと感じ、サクに本心を伝える事なく、

「他に好きな人がいるから……」

 とだけ言い残し、うつろな目をして去ったのだった。


『兄さん、凄くモテるのに、肝心な人に相手にされないなんて、なんて不幸な……』

 ルークは兄に同情し、天を仰いだ。満月が明るく美しいだけに余計に虚しい。

『世の中って、うまくいかないもんだなぁ……』

 途上、取引で得たカネを積んで、残りの警備兵を引き連れた番頭と合流する。

「長居は無用と思い、領主を高いワインで酔い潰しておいて、『あるじに急用ができたゆえ』と家臣に申し伝えて、出て参りました」

「うむ。後で今夜の事を一筆書いて早馬を出しておこう。ご苦労さん」

 番頭をねぎらったローゼンは「中部へ戻るぞ!」と号令をかける。

「そう言えば、絶世の美女の件はどうすんだよ、兄さん」

 皆と一緒に馬首を巡らしつつ訊くルーク。


「領主様に、あんッな、薄汚い小娘どもなど、相応ふさわしいわけがございません」

「良いでしょう。いつか旅の途中で、わたくしめが絶世の美女を見つけた際には、ぜひ領主様に献上いたしましょう!」


 などと、踊り子たちに逃げられた領主の怒りを鎮める為に、ローゼンが口から出まかせを言った時の事を訊いているのである。

「フンッ、そんなもの、『いつか』は『いつか』だ。一生来ない『いつか』だってあるさ」

 と、鼻で笑うローゼン。

「そもそも、俺があのバカ領主の女の趣味なんて知るかッ! どうせ女なら誰でもいいのさ。いずれ、商売敵の誰かが しょうもない女を献上して、身代を潰すに決まっている。まぁ、あの領主の様子だと、反感を買って領民に討たれるという未来も有りるだろうな……」

 機嫌が悪い分、ローゼンの口振りは辛辣だ。

「長い目で見れば、バカ領主との大口取引で成り立つ商売敵も大損を出す。つまり、いずれは共倒れになるという事ですか。深謀遠慮 ── ローゼン様は策士ですな」

 と、感心する番頭に、澄まし顔で答えるローゼン。

「なに、そんな大層な事じゃないさ。俺が画策などしなくとも、『類は友を呼ぶ』『自業自得』で、いずれは そうなるものだ。ただ、今回はそれを早める事になるかもしれないってだけの事さ」

 だが、最後は不敵な笑みを浮かべるローゼンだった。

「では、後で、バカ領主に推薦するのに相応しい底意地の悪い商人をリストアップしておきますかな」

 と、番頭が顎をなでて笑う。

「頼むよ」と、ローゼンも人の悪い笑みを浮かべて返すのを見て、ルークは内心で

『兄さんは恐ろしい人だなぁ……』

 と、身震いした。

 のちに、一月ひとつきも経たないうちに南東部の領主の家はお家騒動になり、領主の首がげ替えられ、領内は平和になり、新しい領主はようたし商人をカラヤ商店に指定したという。


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