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17-ⅲ)決断の時〜結婚の条件

 サクとしては

『どうせ、親の反対にうやろうなぁ』

 と、思っていたので、ローゼンの事が好きでも、結婚をすぐには受けなかった。

『家柄の問題に、うちの体の事、嫁としての能力的な問題、他にも色々あるし……。結婚ゆうたら、色々と問題が出てくる。そんな簡単に出来ること違う』

 などと、移動中の馬車の中で、あれこれと思い悩んでいた。悩みに悩むサクは、ついには頭を抱え、

『ああッ! それより、うちなんかと結婚してローゼンが不幸になったら、どうしょおぉぉぉ……!』

 特注の寝床の上に倒れ、

「ローゼンを幸せにする自信ないー。絶対、断るぅー!」

 と、責任を感じて、独りで勝手に断る気でいた。

 サクたちは今、街からカラヤ隊のキャンプがある山麓へ移動中だ。朝食の後、少し休憩してから出発した。ローゼン、サク、レイ、ルーク、ハッサン、ヒカル、カヲル、モー、一緒に朝食を取ったメンバーの他に、番頭のトリンタニー、ローゼンが捕り物の為に連れて来た11名のカラヤ隊の精鋭も伴っている。

 サクたちを先導する馬上のローゼンは、朝の食堂でのサクの照れて真っ赤になった可愛い顔を思い出し、

『サクが即答しないのは、恥ずかしがり屋だからだ。食堂でのあの反応なら、きっと旨くいく!』

 と、信じて疑わない。こちらはオメデタイ頭である。

『ハッサンには感謝だな』

 ローゼンがご機嫌な顔で武術の兄弟子・ハッサンの方を振り返ると、ルークやレイと話している。

ハッサン「それにしても、ローゼンもサクちゃんも鈍いよな〜」

ルーク「そうそう。二人とも両想いなのに気付くの遅いよね〜」

レイ「ホンマや」

 それを聞いて、ローゼン、後ろの三人の間に割って入り、馬を並べて訊く。

「おい! それ、どういう意味だ」

 詰め寄るローゼンにハッサンが愉快そうに笑う。

「ええっ? どうもこうも、お前らが鈍いって話だよぉ〜」

「い、いつから、サクは俺に惚れてたんだ!」

 ローゼンに食い付くように問われて、弟ルークが答える。しかも、兄にそっくりな人の悪い笑みを浮かべて。

「俺は西南でサクとデートした時に気付いてたよ? サクは兄さんの事、本当に好きなんだなぁって」

「なッ……!」

 驚きのあまり「なにッ!?」と言えず、絶句するローゼン。すると、レイからは

「俺は西部の城でった時から、様子がちごうてきたなぁとは思いよったけど」

 と、言われ、ローゼン、一瞬、あんぐりと大口を開けて驚いた。

「ま、マジかッ!? そんなに前から……。そうと分かっていたら、もっともっと押して押して、押しまくったのに……」

 今になって激しく後悔するローゼンは手綱を持つ手を「グッ」と握り締めた。

「そもそも、みんな、なんで俺に言ってくれなかったんだ!」

 恨み半分で訊くローゼンにハッサン、ルーク、レイが訳を言う。

「そりゃ、その方が面白いからに決まってんだろ」

 と、カラリと陽気な笑顔でふざけた事を言う兄弟子ハッサン。

「兄さんは自分から告白したいだろうなぁ、と思って、遠慮してたー」

 と、兄の為だと言うが、視線を逸らして、どこか人が悪い弟ルーク。彼らを

「むうぅ……!」

 と、睨むローゼンだが、

「俺はサクの父親代わりや。相手の男を品定めせないかん立場やし、そう簡単に結婚を許せるわけないやろ。お前の親やって賛成するかどうかも分からんのに」

 レイはもっともな事を言うので、ローゼンに反論の余地無し。周りに意地悪をされて面白くないローゼンは意趣返しのように言う。

「いいさ、いいさ。どうせ、父さんも反対してないし」

「えっ? そうなんか?」

 驚くレイに、和の国の言葉が聞き取れるようになったルークが父親の意向を話す。

「うん。手紙では『そんなに好きなら、さっさと落とせ!』って、父さんが。父さんは見合いがキッカケで母さんと知り合ったけど、政略結婚じゃなくて、恋愛結婚なんだよね。その辺は理解があるというか、むしろ、『好きな女と結婚した方が生活や仕事に張りが出るぞ』って言うぐらいの人だから」

「まぁ、我が家は代々、そんな感じだ。じじ様もそうだしな」と、ローゼン。

「へぇー」

 と、表向きは感心するレイだが、内心では

『カラヤ家の男は、恋愛体質なんか……。俺には分からん』

 と、微妙な反応だ。

 そんな彼らの後ろでは、

「あーあ! 結局、女ってのは金持ちがいいのかよ」

 むくれるヒカルに隣の馬のカヲルが手を振って突っ込む。

「いやいや。問題、そこじゃないだろ」

「サクちゃんの場合、女癖が悪い奴はお断りだと思うけどね」

 サクの馬車を操るモーが嫌味たっぷりにズバッと鋭い所を突く。

「なんだよ、それぐらい。男の甲斐性ってもんだろが。それが分かんねぇ女なんか、こっちから願い下げだぜ!」

 と、負け惜しみを言うヒカル。

 サクの馬車を囲む精鋭たちもローゼンの結婚を話題にする。サクの馬車の後ろを守る数名の間でも、その話題で持ち切りだ。

「やっと、ローゼン様も結婚か」

 誰かが感慨深げに言うと、他がカラヤ一族の動向について言う。

「そう言えば、西洋からの品を見にカラヤ一族も集まるんだろ?」

「ブラン様が前もって手紙で知らせてあるから、今日、明日あすには山の麓の物流拠点に到着するんじゃないか?」

「結婚に賛成だ反対だの、揉めますかね?」

 と、西洋にいて詳しい事情を知らないキルスが言うと、他の隊員が説明する。

「それはないだろ。ローゼン様が中部の西側の支店に滞在中に ── もっとも、その時だけはローゼン様は北部へ出てたから不在だったが、カラヤ家の人たちが集まって大反対したのを、番頭のトリンタニーさんが収めたぐらいだからな」

「へー」と、驚くキルス。

 さらに、隊員たちはローゼンの父親について話す。

「それに、旦那様の事だ。マジでダメな場合は、絶対に出て来るぜ?」

「まぁな。ローゼン様が実権を握ってから、引退して一度も出て来ない。『好きにしろ』って事だろ。なかなか出来ないぜ? 親ってのは普通、我が子 心配のあまり、あれやこれやと余計な口出し手出しするからな」

 ふと、何かに気付いた隊員が声を落として言った。

「そう言やぁ、マルジャーナ様の件はどうなるんだろ」

 隊員たちの間に微妙な沈黙が流れた後、ローゼンの過去に触れ、サクに同情する。

「確か、昔、ローゼン様がマルジャーナ様に片想いしてたって噂が……」

「親の反対じゃなく、そっちの修羅場かよ~」

「サク様、可哀想だなぁ……」

 そんな隊員たちの話に

「マルジャーナねぇ……」

 キルスは片側の顔をしかめて、不愉快げにつぶやいた。



 途上、別のカラヤ隊と合流したローゼンの一行。

「おおー! 若旦那!」

「これは将軍!」

 ローゼンは合流した隊のおさをそう呼んで挨拶した。『将軍』は口や頬、顎に、ふさふさと白いヒゲを蓄えた恰幅かっぷくの良い老人だ。

「『将軍』はやめて下され。今はカラヤ商店に再就職して第二の人生じゃ」

 と、馬上生活が長い彼は馬で軽く走りながらの会話など、なんて事はない。

「ハハハ。もう、無理ですよ。その呼び名は すっかりみんなに定着していますからね。何より、カラヤ隊の統率には、将軍の技術スキルが欠かせません。今後も後進の指導をしっかり頼みますよ?」

「承知。それがし、カラヤ商店に骨を埋める覚悟。お任せあれ!」

 将軍より頼もしい返事を聞いた後、ローゼンは先にレイに将軍を紹介する。レイは年下だが、客人扱いであるのと、将軍の方はローゼンに雇われている身であるからだ。

「この人はバハラームと言って、昔、中部で将軍を務めていた人だ。今は将軍職を引退して、どういう訳かうちにいるんだが、前職からの由来で皆が彼を『将軍』と、あだ名で呼んでいる」

 と、説明するローゼンの顔はどこか意味深だ。

「中部の将軍って、まさか……」

 レイの想像どおりの事をルークに聞かされる。

「もちろん、王都の将軍さ。いざという時はファルシアス王国の全軍を指揮する立場にあった人だよ」

 将軍の経歴に気圧けおされているレイをローゼンが紹介する。

「将軍。こちらは俺の親友でレイと言います」

「初めまして。清天キヨタカ麗翔レイショウと申します。レイとお呼び下さい」

 と、将軍に対して、右手を胸に当てて軽く会釈するレイ。彼は鶏の動きのような顎を突き出すお辞儀はしない。真っ直ぐな姿勢で礼をする。

 その姿に将軍は顎ヒゲをなでながら「うむ」と感心し、

「良い若者ですな」

 と、ローゼンに一言、レイの印象を述べる。

「ちなみに、花嫁の兄です」

「えっ!?」

 ローゼンにしれっと言われて、不意打ちかれたレイ。将軍とローゼンが話を続ける。

「おお! 噂の恋人と結婚されたのか。めでたい、めでたい」

「式はまだですが、決まったも同然です」

 将軍の言葉からサクがすっかり「噂の恋人」として認知されている事に驚愕するレイ。

『おいおい。その噂、どんだけ方々にまで広がっとんや』

 と、ローゼンに突っ込みたいのは山々だが、さすがに偉い人の前では慎む。

 ローゼンが結婚が決まったも同然という顔のまま、将軍に今後の事を話す。

「これからキャンプで家族と合流して顔合わせになります」

「ほう。して、若旦那。その噂の恋人とやらは?」

「紹介しますよ」

 ローゼンに呼ばれて、御者台の上に出て来たサクに、さっそく将軍から挨拶する。

それがしの名はバハラームでござる。カラヤ商店の警備隊の育成を務めております」

「馬車の上から失礼します」

 と、サクは目上の将軍に断りをした上で、丁寧に挨拶をした。

はる桜久弥さくやと申します。呼びにくいと思いますので、サクと呼んで頂いて結構です。よろしくお願い致します」

「いや。こちらこそ、よろしゅう願いますぞ。奥様」

「えっ!? あ、あの、まだ、結婚は……」

 まだ結婚していないのに、「奥様」と呼ばれて驚くサクを余所よそに、勝手に将軍とローゼンが話で盛り上がる。

「いや〜、良い娘御をつかまえましたな。若旦那」

「分かりますか!」

「うむ。兄も妹も、良い挨拶をする。実に礼儀正しくて、よろしい!」

「挨拶ぐらいで褒め過ぎですよ、閣下。誰にでも出来る事です」

 と、真面目に否定するレイに将軍は

「いやいや。挨拶ぐらいという事はないぞ。レイ殿」

 と、言うと、ローゼンに向かって言う。

「若旦那。万が一にも旦那様が反対された場合には、このバハラームが推挙すると、説得いたしましょうぞ」

「それは心強い」

 と、喜ぶローゼン。

『なんか、えらい事んなったなぁ……』

 首筋に手を当てるレイに、

『外堀埋められ、逃げ場無し……?』

 のど元を押さえるサク。妙にトントン拍子に話が進むので、二人とも だんだんと不安な面持ちになった。



「うぉー! スゲー…」

「キャンプと言っても、一つの街ですねぇ」

 山麓にある物流拠点に到着したヒカルとカヲルの天堂兄弟の感想だ。「サクちゃん! 着いたよ」と、モーが声をかけたので、サクも馬車から顔を出す。

 ローゼンがサクたちに物流拠点の説明をする。

「ここ一帯はカラヤ商店の倉庫として、カラヤ家が所有する土地だ。普段は倉庫を管理する人員しかいないが、今は西洋から入った品物を確認したり、演習の為にかなりの人員が集まっているんだ」

 崖には幾つもの穴が掘られていて、その洞窟が倉庫になっている。洞窟の入り口には扉が設置されており、今も幾つかの扉が開いていて、そこから物資を運搬している様子から、そこが倉庫だと分かる。

 ローゼンが鉄砲を試し撃ちした場所について言う。彼は買い物に行っていたサクたちには「検品」とだけ言って、実は、昨日きのうの午前中は「検品を兼ねた演習」に出ていたのだ。

「演習はここから少し離れた所でやるんだが、そこもカラヤ家の土地で、周辺には人里もないから、普段は全くひとが無いような所だ。だから、威勢のいい連中が暴れても騒いでも全く問題ないのさ」

 最後はローゼンが笑って言ったので、サクも天堂兄弟も「威勢のいいカラヤ隊」が実戦さながらの訓練をする光景を想像してしまう。

サク『つ、強そう…』

カヲル『きっと大暴れなんだろうなぁ…』

ヒカル『もう民間人じゃねーだろ』

 ローゼンは居住用の円形テントにサクたちを案内する。簡易式の山型テントと違い、大型で一家族は住めそうな物がたくさん建てられており、先程カヲルが倉庫前で言ったように、むしろ、こちらの方が街のようだ。

「これだけあると、にぎやかやなぁ」

 と、サクも言うように、移動式住居とは言え、居住区となっているだけあって、倉庫前とは違い、こちらには生活感がある。

 将軍が顎ヒゲをなでて言う。

「テントで茶を一杯飲んだ後、噂の新兵器を見せてもらうとしますかな?」

「そうなさって下さい」

 ローゼンが将軍に答えると、西洋帰りのキルスに向かって指示する。

「キルス! 後で将軍をブランのもとへ案内してくれ」

「へい!」

 精鋭たちや将軍らのカラヤ隊は一度、各自のテントへ。

 自分たちのテント前まで来ると、馬を降りたローゼンとルーク。レイたちも馬から降りた。

 ローゼンがサクたちの為に用意したテントを指差す。

「レイとサクにはこのテントを使ってもらおう。天堂兄弟とモーさんはハッサンたち人足と相部屋にさせてくれ」

カヲル「はい」

モー「分かりました」

ヒカル「しゃあねーな」

 各自が返事して、モーがサクの馬車をテント横にめると、ハッサンの馬に乗せてもらい、

「じゃあ、俺たちは向こうな」

 と、ハッサンたちは人足用のテントへ向かった。

「俺とルークは隣のテント、一つ向こうのテントにはトリンタニーたち数名のカラヤ商店の重役がいるから、何か困った事があったら、俺たちか、トリンタニーのテントへ声をかけてくれ」

 一通りの説明が終わると、番頭のトリンタニーは「それでは後ほど」と一礼して、一旦、自分のテントへ入った。

 レイもローゼンとルークのように自分の馬をテント脇へつないだ後、サクと用意されたテントへ入ろうとすると、ローゼンに声をかけられる。

「俺たちの家族はまだ到着していないようだ。その前に、少し話しておこうか」

 ローゼンはサクとレイを自分たちのテントへ招いた。ルークがテントの入り口を開けて、レイとサクを通してくれた。

「おぉ…。広いなぁ」

「うわぁ……」

 テントの上を見ると、天井には放射状の梁が見え、下には寝台やテーブルなどの家具も一通りそろっていた。

「まぁ、座れ」

 と、ローゼンが二人に丸椅子を勧める。四人が囲むように座ったところで、

「結婚の事だが ──」

 と、ローゼンが話を切り出した。

「今朝、サクが言ったように、お互いの家族の事もあるし、慎重にならざるを得ない気持ちも分かる。まず、サクが気になる事を一つずつ確かめようか」

 サクはうなずいて「ありがとう」と言うと、話し始めた。

「えっとぉ、まず、わたしに大店おおだなの奥さんが務まるとは思えない。体も弱いしぃ、頭も良くないし、何より、親御さんが絶対に反対すると思う」

 ローゼン「うん」と相槌あいづちを打つと、微笑みながら答えた。

「サク。君の気持ちや能力的な問題は俺も最初から分かっているよ。君に強要するつもりは無い。もし、君が店を切り盛りしたいのなら、その時は考えるけど?」

「ううん。絶対、無理」

 即、首を横に振ったサクにルークも笑う。

 ローゼンがサクの顔を見た後、レイの方も見て話すのは、レイが気掛かりにしていたローゼンの両親の許可だ。

「それと、俺の両親の事だが、さっきレイには父親からの反対がない事は伝えておいたが、正確には父だけじゃなく、家族で君との結婚を反対する者はいないんだ」

「俺も賛成」と、ルークが右手を軽く挙手した。

 さらに、ローゼンの口からは思いも寄らぬ事実が明かされる。

「たぶん、サクと家族の事はトリンタニーを初め従業員を通して父さんに筒抜けだ。父さんは情報収集においては抜け目がないから」

 これにはサクだけでなく、レイもあまりの事に一瞬、口を「ぱかん…」と開けて啞然とすると、これもまた、兄妹そろって顎下の辺りで握った両拳を震わせて

「ひぇー……」

 と驚く。そんな二人を笑ってローゼンが言う。

「二人は知られたところで後ろ暗い所はないだろう」

「それもそうかぁ」

「まぁ、それはそうやけど……」

 単純なサクはすぐに「けろっ」とした表情に戻るが、レイとしては複雑だ。

『カラヤには密偵もったんやった。さすがに、サクの千里眼の事はバレとらんとは思うが……』

「知られてマズイのは『あの三人』の方だよね」

 と、ルークがレイたちの元姉妹を話題に出したので、レイが言いにくそうに訊ねる。縁を切ったとは言え、罪人の家族と見られて破談になる事はよくある話だ。

「その、『あの三人』の事やけど、ご家族は……」

「無論、知っている。俺たちからも手紙で報告した。それでも構わないと父さんたちも言うんだから、心配はない」

「そうか」

 安堵するレイだが、サクにはまだまだ心配事がある。

「あのぉ…、それと、子供の事だけど……」

 と、サクが訊くと、ローゼンはハッキリと答える。

「それは西南の城で言ったとおりだ。俺の考えは変わっていない」

「うん」うなずくサク。

「それに、体が弱いのは、うちのばば様も同じだ。昔、ばば様もそれを理由に数々の縁談を断った事があるけど、じじ様が諦め切れなくて結婚したという経緯がある。だから、それは障害にはならない」

 と、ローゼンは首を横に振る。

 ローゼンから家族の事情を聞かされて、サクは目を「ぱちぱち」とさせて驚いた。さらには、

「ばば様だけじゃない。実のところ、うちの母さんは子宝に恵まれるまでに相当の年数がかかっている」

「え……」

 ローゼンが西南の城で話したたとばなしと似たような事がカラヤ家にもあった事に、サクは驚いた。

「本人は至って健康な人だが、どういう訳だか、なかなか子が出来なくて、さすがの母さんも精神的に滅入った時期があるぐらいだ。父さんの話では、周りから圧力があったわけではないんだが、ちょっと自分から追い詰めてしまったようでね」

「だから、母さんもサクには変にプレッシャーになるような事はしないと思うよ?」

 と、ルークもサクを気遣う。

「そうなんだ……」

 それを聞いて、サクは自分事で安堵する以上に、カラヤ兄弟の祖母や母の苦労に同情して、沈んだ表情になる。

「俺たちは二歳差で、兄さんの後に俺が生まれるのは早かったけど ──」

 ルークの言葉をローゼンが継ぐ。

「俺が母さんのお腹に身籠もったのは、結婚7年目だったそうだ」

「え……」

 サクもレイも言葉を失い、思わず顔を見合わせた。

『ひょっとして、ローゼン、マザコン?』

 と、レイは一瞬だけ思うが、『武闘派商人』なローゼンを知っているだけに

『いやいや。普段のこいつ見よったら、とてもそなな風には見えんか』

 と、思い直す。

 サクとレイの深刻な反応でローゼンは「どうした?」と訊くと、サクが思った事をそのまま伝える。

「えっと、その…、『そんな待望の長男に、うちやこが嫁いで、ほんに大丈夫なんやろうか』と思うて」

 サクの緊張をローゼンがいつものようにカラッと笑い飛ばす。

「ハハハ。確かに待望だったかも知れないが、俺に過剰な期待や愛情がかかっているわけじゃないよ。気にするな。『元気で生きてりゃ上等』ぐらいに思ってるような人だよ、うちの母さんは」

「大丈夫だって、二人とも。兄さんはマザコンじゃないよ」

 と、ルークがからかうと、ローゼンが逆にルークをからかう。

「マザコンはルークの方かな?」

「えっ!? 俺だってちゃんと乳離れしてるよ! ひどいなぁ、もう!」

 カラヤ兄弟の冗談で皆で笑い合う。

「でも、まぁ、ローゼンとルークさん見よったら、なんとなしに家族の雰囲気が分かるような気ぃするわ」

「ほうやな」

 サクの感想にうなずくレイもカラヤ兄弟の明るい雰囲気は嫌いではない。むしろ、安心している。

『やっぱり、サクをローゼンに託そう』

 この時点で、レイの腹はほぼ決まる。

「他には?」

 と、ローゼンに訊かれ、サクの質問は続く。

「えーとぉ…、お互いの価値観とかぁ、あと、おうちの宗教の事とか、政治的な思想とか」

『サクって、しっかりしてるなぁ』

 と、改めて思うルークには

『きっと、美夜たちの口からは出て来ないような気がする』

 と、美夜を初め華夜、輝夜が結婚について語るとすれば、

美夜「収入はいくら?」

華夜「贅沢させてくれなきゃ嫌よ?」

輝夜「弱い奴、斬る」

『── と、言われそうな気がする……』

 そんな想像が付く。

 ローゼンはこれらの質問についても笑顔で答えた。

「価値観とかは今更だと思うけど? 俺は女遊びも、ギャンブルもやらない。煙草も飲まない。酒はたしなむ程度。俺が遊びで身を滅ぼす人間じゃないって事は分かってるだろ?」

 これにはレイもルークもうなずく。

「それに、街歩きで普段の君の事はよく分かってるし。性格や体力、食べ物や服や雑貨の好みとか」

 そこへレイが意地悪く、妹サクに突っ込む。

「お前、街歩きがデートやったとは、全ッ然、思うとらんかったやろ?」

「ゔっ!」言葉に詰まるサク。

 全く兄の言うとおりなので、言い返せなかったのだ。

「兄さん、いっつも、ウキウキして出かけてたよ?」

 ルークもサクの反応が面白いのか、笑いながら、そんな事を言う。

『今更やけど、街歩きで、めちゃくちゃローゼンに観察されとったんかと思うたら、恥ずかしい……。おまけに、おんぶされる事も多々あった……』

 と、てっきり自分は子供扱いされていただけだと思い込んでいたサクは恥ずかしさで思わず口元を両手の指先で隠し、

「あ、あはははは……」

 と、乾いた笑い声を出した。そんな照れるサクを

『可愛い……♡』

 と、ローゼンは微笑んだ後、普段の生活について話す。

「まぁ、結婚しても、俺の場合、これまでどおり街歩きはするから、生活は今とあんまり変わらないと思うぜ? 本宅は一応、王都にあるけど、どうせ行商であちこちするし」

うちの母さんなんて、気分転換だーとか言って、よく旅行に出てるよ。父さんの行商とは別行動で。家事も仕事もやった事ないよ、あの人」

 と、ルークは実母の事を笑いながらボロカスに言う。それをローゼンが補足する。

「まぁ、その単独旅行は俺たちが成人してからの話だ。それまでは家族単位の行商だ」

 それを聞いて、カラヤ兄弟の母を『まともそうなお母さんや』と、思うレイとサクだったが、

「その旅行とやらも、あれはあれで、父さんの役に立っているからな。あちこちで色んな情報を仕入れて来るし、時々、お供の護衛隊と一緒に街道の掃除もするし……」

 と、ローゼンは母親を弁護するものの、なぜか苦笑い。武闘派商人・ローゼンが言う「街道の掃除」が「盗賊退治」であろう事は想像に難くない。

『ちゃんと仲良う出来るんやろうか。うち……』

『一体、どなな母親や……』

 と、サクもレイも一抹の不安が拭い切れないでいると、ローゼンが「そういう訳だから」と、ごまかすと、真面目な顔で言う。

「君はこれまでどおりでいい。俺としては、君の何気ない行動や、何気ない言葉の方が重宝するんだよ」

 と、言うローゼンの中では、サクの言動による数々の事が思い出される ── 初めてサクと会ったナン屋で食べたナンの味や、踊り子姉妹の衣装のセンス、宝くじの事、隠れ家カフェの路地の事故をまぬがれた件、西部の領主の毒気を抜いた事、ルークの人生観を変えた事、葉茶屋に限らず商店街での何気ない感想、馬立てのアイデアの事など。

『これら全てを招いたのは、きっと、サクの……』


── 純粋な心 ──


 欲の無いローゼンには、

『俺には、そうとしか思えない』

 そして、

「俺もそう思うよ」

 と、言うルークには、西南の意地悪い姫たちを


「ろ、ローゼンと結婚する人って、た、大変だ……。夫婦喧嘩になった時、こ、こっわぁ……」


 という一言で撃退した事も印象的だ。

「そうなんかなぁ……?」

 ほほに人差し指を当ててピンと来ないサクを見て皆が笑い、サクの凄さについて思う。

ルーク『踊り子姉妹が売れたのはサクのセンスのお蔭なのに……』

レイ『こいつ、何気に、ええ人間つかまえてくるしな。モーさんにしてもそうやったし、天堂兄弟はヒカルの方は微妙やけど…。一番の収穫はローゼンやな』

 ローゼンも

「本当に自覚が無いなぁ、サクは」

 と、微笑んだが、お人形のようなサクは無邪気にキョトンとするのだった。



 カラヤ兄弟とレイとサクの兄妹がテントで話している頃、将軍はえらく、ご立腹だった。彼は子供のように怒鳴り散らしたりしているわけではないが、顔の筋肉をヒクつかせ、怒りをこらえているのが、ふさふさのヒゲの揺れもあって、誰の目にも分かる。

 将軍の顔色を見て、周りのカラヤ隊の隊員たちには気まずい空気が漂う。

『馬鹿だなぁ。将軍を怒らせやがった』

『引退した爺様じいさまとは言え、まっとうな事を言う人だけに、ローゼン様からもカラヤ隊からも信頼の厚いお方だぞ。大丈夫なのか、ブランの奴』

『西洋から鉄砲や大砲のデカイ仕入れ先をつかまえたからって、調子に乗ってやがるな。ブラン』

 ブランに対する不信感が募るのは、本国に残っていたカラヤ隊だけではない。それはブランと共に西洋に行っていた者たちも同様で、ローゼンから言い付かってブランのもとへ将軍を案内したキルスもその一人だ。

『やっぱり、ロクな事がねぇな』

 キルスは唾を吐き捨ててやりたい気分を抑える。

 そんな中、怒りをこらえる将軍が口を開いた。

「では、ご自慢の新兵器とやらを拝見しようか」

 ブランは将軍の様子に気付いているのか、いないのか、平然とした顔で

「見たら、ぎもを抜かれますよ?」

 前髪を指先で払って自慢した。



 先程、微笑んでいたローゼンが話を戻す。

「あとは宗教だったか…、政治もだな。うちは狂信的な信徒ではないし、偏った政治思想もない。あちこちへ行商をしてる事もあって、その辺については窮屈な事はない。かなり自由な方だ。どこの神様の神殿でも参拝に行くぐらいだ」

 深刻な話なのか、サクの口調や言葉遣いが硬くなる。

「そうなんや。ちょっと安心した。わたしは訳あって、今の信仰は変えられんきに」

「訳とは?」

 と、ローゼンに訊ねられ、サクは兄レイと顔を見合わせる。兄がうなずくのを見て、サクは話す。

「信じてもらえるかどうか分からんけど、わたしは神様や仏様に生かせてもろうとるようなところがあるきに」

 その言葉をレイが補う。

「このとおり、サクは体が弱い。旅に出る前も氏神様、つまり、地元の神様に願うてから村を出たぐらいや」

「つまり、サクは改宗は出来ないというわけか」

 と、ローゼン。

 サクは和の国の宗教観についてカラヤ兄弟に説明する。通じないと困ると思うのか、彼女は極力、訛りはける。

「改宗は出来ないけど、他の神様を拝むのは問題ないよ? 和の国には『八百やおよろずの神様』と言って、たくさんの神様がいて、誰でも他の神様を拝んでもいいの」

「カラヤ家と同じで、そこはゆるいんだね」

 と、ルーク。

「うん。ただし、氏神様以外の神社へ初詣はつもうでに行ってはいけないけど。氏神様は自分が生まれた土地の神様の事なんだけどぉ、他のお宮さんへ初詣に行ってしまうと、氏神様に守ってもらえなくなるから。今ではあまり、一般の人は知らないけど、旅の安全にはその方がいいの。わたしは、これだけは守りなさいって、教わってる」

「まぁ、こいつは弱っちぃきん、なおさらやな」

「お兄ちゃんやって、お化け、怖いくせに!」

 兄レイに小馬鹿にされて、サクが仕返しにレイの弱点をばらす。

レイ「なッ……!?」

ローゼン「へー。鬼にも怖い物があるのか」

ルーク「意外だねー」

 興味深げにレイを見るカラヤ兄弟にサクがレイの過去について語る。

「お兄ちゃん、子供の頃は幽霊がいっぱい見えてたんだって」

「ほう…。羨ましい」

 お化けが平気なのか、好奇心いっぱいな目でローゼンが言う。

「羨むようなモンちゃうわ! あななおとろしぃモン!」

 頭を抱えて横に振って怯えるレイ。よほど、お化けが怖いらしい。

「子供の頃って事は今は見えないの?」

 ルークに訊かれて、レイが答える。

行者ぎょうじゃさん、あー、行者ぎょうじゃいうんは仏教の修行者の事で、山でほんもんの厳しぃ修行積んだ偉い人や。俺は5歳の時に、その人のお蔭で見えんようにしてもろうたきん、今は悪霊あくりょうたぐいはいっちょも見えへん」

行者ぎょうじゃというのは荒行あらぎょうをするのか」

「まぁ、そうやな」

 レイがローゼンにそう返事すると、ルークが兄ローゼンに耳打ちする。

「じゃあ、あの人と同じだね」

「うむ」

 ルークにうなずいた後、ローゼンは

「ますます、興味が湧いてきたな」

 と、言うので、レイが手を前に出して真剣に止める。

「いや、宗教に興味やこ持つな。荒行はマジで命懸けやぞ」

「誰も、そこまでは」と、笑うローゼンが続けて言った事は

「世の中には色んな人がいて面白いというだけの事さ」

 人に対する興味だった。

 サクが話を戻す。

「お兄ちゃんのせいで話が逸れちゃったけどぉ、これも肝心な事だと思うから言うね。和の国の大体の人は氏神様を信仰する氏子だけど、同時に仏教徒でもあるの。人は生まれたらぁ、その土地の氏神様の氏子になるけど、死んだら仏教徒として供養される事になる。長年、この風習は変わってないぐらいだから、これもなんらかの深い意味はあると思う」

「ふーん。二つの宗教に所属する事になるんだね」

 ルークの言葉にうなずくサク。

「中には神様を信仰する神道だけとか、仏教だけを信仰する人もいるけど、そういう人は少ない方かな」

 レイが二つの宗教に関わる意味について言う。

「俺も詳しい事は分からんけど、基本的に神様はけがれを嫌うきに、死者の穢れは仏教の方で扱うんかも知れん」

『二人の口から信仰に関する話が、こんなにも出て来るのか。以前、サクからは写経の話も聞いていたし。しかし、人に迷惑をかけてまで自分の思いを押し通したり、軽率な事をしない用心深い二人だ。狂信的とか妄信的というわけではなさそうだ』

 と、この兄妹が信心深いと知ったローゼンが訊ねる。

「例えば、俺が和の国の宗教に変えても問題はないのか?」

「それは問題ない。変えても変えなくてもいいが、結婚しても改宗しないとしたら、死後は別の世界になるかもな」

 と、レイに言われて、腕組みして「フーン…」と鼻息つくローゼン。

「無理なら、結婚自体やめた方がいいよ?」

 と、サクはこの結婚に消極的だ。彼女は最初から人に無理強いする気は無い。

「それに、他の兄妹きょうだいはともかく、わたしだけは必ず戻って来いって、お母さんからゆわれてるし。この約束は破れない」

 真剣に話すサクの中では、結婚よりも母親との約束が優先されるらしい。

 レイは母の言葉の裏を理解して、思う。

『それは俺も必然的に戻らないかんゆーこっちゃ。どうせ、サクが心配で俺も付いてーって来るん、お見通しやな。母さん』

 ローゼンが腕組みをいて言う。

「まぁ、改宗については一度、こっちも神官様に相談しておきたい。差し障りがないかどうかについて。あまり小うるさい事を言う人ではないから、大丈夫だとは思うが、用心の為だ。この手の事は見えない人間が下手に動くのはマズイだろうからな」

 そう言うローゼンに、レイが目を丸くした。

「意外だな。霊的な事を信じるのか」

「俺たちは幽霊なんぞは見た事はないが、神官の中には本当に見える人もいてな。自分以外、誰も知らない事を言い当てられるんだから、信じざるを得ない。ちなみに、その神官様も山奥で荒行を積んだ人だ」

「確かに、あの人だけは怖いよね……」

 ルークもその神官と面識があるようで、怖々と両腕をさする。

「おるんやなぁ、どこの国にも、そういう人」

 と、レイもサクと顔を見合わせて苦笑いした。

「もし、改宗しても問題ないなら、俺がサクの方に改宗する。死後が別々になるは嫌だからな」

ほんにええん?」

「うん」

 改宗の事で念を押すサクにローゼンがうなずく。そんなローゼンに、

『死んでも一緒にりたいんか。ホンマ、恋愛体質やな』

 若干、呆れるレイ。

「それと、さっきの和の国へ帰るという話だが、それは しばらく待ってくれ。いずれは俺も和の国へ行くつもりだから」

「えっ!?」

 と、口元を指先で隠して驚くサク。まさか、一番の難関をクリアされるとは思ってもみなかった。しかも、ローゼンは

「サクのご両親にもご挨拶したいし、販路拡大の目的もあるから、俺の拠点はどの道、東へ移る予定だ。それに何より、サクが育った国だ。とても興味がある」

 拠点まで移すと言う。

『宗教の事や故郷へ帰るゆうたら、絶対に結婚は無理って、ゆわれると思うとったのに……。跡継ぎのくせに、この人、どんだけ身軽いんやろう……』

 想定外だらけで啞然とするサクに、ローゼンが確認する。

「他に訊きたい事は?」

「えっと、その……」

 と、言いにくそうに両手を握り合わせて小刻みに動かして「もじもじ…」とするサク。

「二人きりの時に、痛い事や不潔な事はされとうないし、しとうない」

 世間には暴力的だったり、異様な事を好むおかしな大人がいるのを知っているので、サクは結婚を怖がっていた。

 それを聞いて、ローゼンは一瞬、従兄弟のブランの妻の一人、ダリアを思い出す。自己紹介の際に間近で彼女を見ていた彼は、彼女の首や胸元にキスマークがあった事に気付いていた。

『キスマークと言えば聞こえはいいが、要は内出血の痕だ。あれをして喜ぶ奴の気持ちが俺には分からん』

 そう思うローゼンは真面目な顔でサクに約束した。

「大丈夫。俺は君を傷付けるような事や、君が嫌がる事は絶対にしない」

 しかしながら、最後はサクを安心させる為に優しく微笑んだ。

「良かった……」

 サクは ほっとした。

「それに、君を泣かせたら、レイの刀のさびにされるからな。怖くて、とてもとても……」

 と、おどけて手を左右に振るローゼンに、サクも周りも笑うが、レイは笑えない。

「……おいおい。俺は鬼か」

 皆で一笑いした後、サクが気付く。

「そうや! うちばっかり聞いてごめん。ローゼンから聞きたい事は?」

「そうだなぁ……」

 指先で顎をつまんで上を見て考えるローゼン。

『サクはすぐに顔に出るし、普段が正直だし、今更あったかな?』

 と、考えた挙げ句、あっさりと言う。

「無いな。君、分かりやすいし」

 にこやかなローゼンだが、サクは複雑な思いだ。

「そ、そうなんだ〜……」

 と、返事をするものの、

『何気にバカってゆわれよる気ぃするぅ……』

 と、勘繰る。が、そんなバカと結婚したがる男もバカであるという事に気付かないサク。ふと、気付いて、ローゼンに訊ねる。

「あのぉ、聞きそびれてたんだけど、ローゼンはいつから、わたしの事……」

 ローゼンが答える前にレイが口を挟む。

「こいつは最初っからお前と結婚したがっとったんや」

「えっ!? さささ、最初って、いつから?」

 驚きのあまりどもるサク。

「最初も最初、一目惚れやったらしいぞ?」

 レイの説明にうなずくローゼン。

「そんな前から……」

 今度は驚きのあまり口元を両手で覆うサク。

「でもぉ、なんで、言わんかったん?」

「それは、君……、俺の事なんて眼中に無かっただろ」

 サクに理由を訊かれて、遠い目で当時のサクが言った事を話すローゼン。


「あ、いいこと思い付いた。ローゼンさん、いい人そうだから、もし、良かったら、お姉ちゃんのお婿さんになって?」


 姉たちの婿探しを最優先に考えていたサクにあのような事を言われ、ローゼンは

「あれじゃあ、すぐに振られると思って……」

 と、当時の心中を打ち明ける。それに対して、気まずげにサクが謝る。

「ご、ごめん。まぁ…、そのぉ、あの頃はお姉ちゃんらが先に結婚せんといかんと思うとったのでぇ……」

 ローゼンは

「今となっては結果オーライだからいいけど」

 と、笑顔を見せると、身を乗り出して訊ねる。

「逆に訊くが、君はいつから俺の事を意識してくれていたんだ?」

「う、う〜ん……」

 サクがほほに手を当てて首を傾げるので、兄レイに

「いよいよ自覚ないな、お前」と呆れながら、

「西部の城でった時でないんか?」

 と、言われるが、

「どうやろ? 自分でもよう分からん……。なんか、いつの間にかゆー感じで」

 と、まだ、ハッキリしないサク。人は自分の事は案外、分からないものである。

「まぁ、いいさ。君と両想いなら」

 と、サクの手を取って微笑むローゼン。彼としては遠回りしたが、報われた思いがする。ローゼンに見つめられて、ちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめるサク。

 一旦、サクの手を放すと、ローゼンが今後の事を言う。

「改宗の問題がクリアできたら、一度、こっちで挙式しておこう」

「それがいいね」

 ローゼンの提案に弟ルークが真っ先に賛同する。

「和の国に帰ってからではないんか」

「うん」

 兄レイの疑問にサクもうなずく。改宗の事もあると思うからだ。

「挙式だけは早くしておきたい。サクが俺の妻である方が、守りやすいからだ。正式に俺の妻となれば、俺の一存で いくらでも護衛を付けられる」

「そうか」

 と、納得するレイに、ルークが「そういう事!」と合いの手を入れる。

 ローゼンがサクたちに気遣いを見せる。

「もちろん、後で和の国で挙式してもいい。サクのご両親も娘の花嫁姿を見たいだろうから」

「ありがとう。ローゼン」

 感謝の気持ちでいっぱいのサクは両手を胸元に当てて笑顔を見せ、それにローゼンも笑顔で答える。微笑み合う二人にレイとルークも笑顔になり、互いの顔を見合わせた。

 と、そこへ、


 ドンッ!


 という音が響いた。大きいが、遠くで花火でも鳴っているような音に聞こえる。

「なんの音?」

「ああ。大砲だな」

 訊ねるサクにローゼンが平然と答える。

「ブランが持ち帰った西洋の最新兵器?」

 と、ルークが言うのは店で留守番をしていたので、まだ、現物を見ていないからだ。

 この物流拠点に到着した際に、ローゼンがキルスに将軍を案内するように指示している。

「将軍へのお披露目デモンストレーションだろう。ルークも後で見て来い」

「うん」

「わたしも見た方がいい?」

 と、サクが訊くと、ローゼンは「う〜ん……」と、考えた後、答える。

「君には危ないかな」

「俺もやめといた方がええと思うぞ?」

 と、レイにも止められた。

「……分かった」

 知らない事に興味津々でも、「危険」と言われれば、おとなしく引き下がるサク。基本、慎重派である。

「近くで見るのは危険だが、俺たちと一緒に離れた所からの見学なら構わないよ」

 そんなサクにローゼンは条件付きで許可した。


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