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16-ⅴ)運命の悪戯〜英雄(ヒーロー)は突然に

 ドォーンッ!

 その凄まじい衝撃音に、サクのか細い首が折れたかと誰もが思った。

「おうっとぉ、危ねぇ。間一髪セーフ……!」

 美夜の長い脚を受けたのは、玉葱頭のハッサンだった。

「なッ!?」

 思わぬ伏兵に驚いたのは、美夜だけではない。

「ハッサン!」

 天堂兄弟も、華夜たちも、その名を思わず叫んで剣戟を中断した。サクはハッサンの体に覆われるようにかばわれていたので、いきなり影が出現した格好になり、一瞬、何が起きたのか分からなかった。周りが その名を叫んだ事で知ったぐらいだ。

 カヲルが手の甲で汗を拭い、サクの無事に安堵する。

「た、助かった……」

「ラッキー……」

 と、ヒカルも思わず、つぶやいた。

 身をていしてサクを守ったハッサン ── 突然のヒーローの登場に、野次馬らが拍手喝采して騒ぎ出す。その中には央華の日用品店の所有者オーナーの姿もあった。

「はっ…、ハッサン。大丈夫?」

「おう。マジで俺で良かったよぉ」

 心配するサクに、美夜の強烈な蹴りを肩の辺りに受けたのにもかかわらず、ハッサンがケロッとした様子で答えると、美夜の方を振り向いて、こう言った。

「お前、絶対に許さねぇからな……」

 抑制された声だが、その顔は怒りに満ちている。怒りが爆発する寸前だ。

「チッ!」美夜は とんだ邪魔が入って舌打ちをする。

「この事は、必ずローゼンに報告するからな」

「ハッ! 勝手にすればァ?」

 美夜はハッサンの言っている真意を分からぬまま、自棄やけくそでそう答える。

「こんだけの蹴り、サクちゃんの細い首なら折れてるぞ! この人殺しッ!! 」

 いかるハッサンにそう言って人前で指を差され、

「なによ、大袈裟ねぇ」

 と、取り繕う美夜だが、野次馬からはブーイングの嵐を浴びる。

『あれ、当たっとったら、うち、死んどったん !?』

 ハッサンの言葉や野次馬の反応でサクは驚愕の事実を知る共に、

『うちのこと殺すって……。今まで、さすがに暴力まではなかったのに。美夜、前より凶暴になっとる』

 姉妹の縁を切った途端に、ここまで敵意を抱かれるとは思ってもみなかった。しかも、そこまでうらまれる原因がサクには分からない。

 ハッサンの思わぬ登場に驚き、剣戟が中断した華夜と輝夜が美夜と合流して撤退を勧める。

「いつの間にか、こんなに人が増えてる」

「ずらかるか」

「仕方ない」と、美夜も納得し、逃げようとしたが、ハッサンが

「逃がさねぇ!」

 と、つかみかかる。美夜はそれをかわしてハッサンの背後を取るが、ハッサンもすかさず反対の手を後ろへ回して応戦する。

「美夜!」

 華夜がかすが、ハッサンとの格闘で手一杯の状態で逃げるに逃げられない美夜は苛立つ。

「うっさいわね!」

 玄人のハッサンの突きや蹴りは分かりにくい。肘先や膝先がどう動くか読みづらいのだ。しかも、格闘戦は至近距離である為に余計だ。それをどうにかかわしている美夜も常人ではないが、

『抜刀する隙が出来ない!』

 なかなか美夜の優位に持ち込めない。

 華夜と輝夜が美夜を援護しようとすれば、カヲルとヒカルに邪魔される。

カヲル「逃がさないぞ!」

ヒカル「おとなしくばくいたらどうだァ?」

華夜「しつこい男は嫌われるわよ?」

輝夜「うざい」

 剣戟が再開する。

 美夜も、華夜も、輝夜も食うに困っているはずの人間とは思えぬ俊敏な動きだ。その肉付きの良さも相変わらずで、

『やっぱり、こいつらのは嘘泣きだ!』

 と、カヲルでも思う。

 英雄ヒーローハッサンと狂乱女・美夜の格闘戦と、四人の剣戟に野次馬たちがはやし立てる。

「玉葱頭のあんちゃん、いいぞォ! やっちまえ!」

「なんだなんだ! 金髪のにいちゃん、しっかりしろ! 女に押されてるぞォ!」

 その熱気にサクだけは酔えない。

『なんで、誰も止めんの?』

 喧嘩を止めるわけでもなく、

『なんで、助けてあげようとせんの?』

 ハッサンたちを援護するわけでもなく、古代西洋の闘技場の観客よろしく喧嘩を楽しんでいる群衆が薄情にすら見え、悲しくなる一方で、自分はどう動けばいいのかも分からないサクは

『どうしょう……』

 と、戸惑うばかりだ。

「やばい、やばい! あの色っぽい姐ちゃん、斬られちまう!」

 カヲルとの戦闘で不利になった華夜を助けようと野次馬の誰かがカヲルに石を投げ付けた。

てッ!」

 石がカヲルのこめかみに当たり、華夜がすかさず腹を蹴ってカヲルを地面に叩き付けると、ハッサンを背後から剣で斬り付けに行く。その対応に追われたハッサンの一瞬の隙をいた。美夜が右腰の巾着に手をやる。

「うわっ!?」

 白い粉がハッサンの目に直撃した。そこへ美夜の右拳がハッサンの横っ面を捉えた。まともに喰らってはハッサンとて脳震盪のうしんとうを起こし、ノックアウトだ。

「随分と、てこずらせてくれたわね……」

 息を切らしながら美夜が倒れたハッサンを見下ろす。

「ひ、卑怯だぞ!」

 腹を押さえて立ち上がろうとするカヲルが叫ぶが、近付いた美夜が高圧的に言い返し、

「戦いに卑怯もへったくれもないわよ!」

「そうよ〜。負ける方が悪いんだからァ〜♡」

 華夜も軽い口調で否定すると、急に鋭い目付きに変わり、剣の鞘でカヲルを突き倒す。

 倒れたハッサンに近付こうとしていたサクがカヲルの悲鳴に驚き、

『カヲル !?』

 気にしつつも、意識の無いハッサンに近付く。

「ハッサン……!」

 声をかけるものの、

『どうしょう。今、下手に動かせんかも』

 体を揺すって起こしてもいいものか、素人のサクでは判断が付かない。

「誰か! ハッサンを助けて!」

 涙目でサクが群衆に助けを求めるが、皆、強い男共を倒してしまえる鬼のような女たちに恐れをなす。

 ヒカルと剣で競り合っていた輝夜の細身の宝剣が折れた。

「チッ! 剣も安物か!」

 輝夜はローゼンからもらった宝剣に舌打ちすると、それをヒカルに向かって投げ捨て、素手で立ち向かう。

 ゴンッ!

 ヒカルが折れた剣を叩きのける瞬間に間合いを素早く詰められ、ついに輝夜の頭突きで倒された。

「さぁて……」

 美夜たちの視線がサクに注がれ、サクの血の気が引く。

「ちょーっと、待ったー!!」

 と、現れたのは央華の日用品店の所有者オーナーだ。

「あんた、誰よ?」

 不機嫌な顔で美夜が訊ねる。

「よくぞ聞いてくれた! わたしはラズワード商会のシャバーズだ」

 と、群衆に聞こえるように大声で自己紹介を始めたシャバーズ。

「最近、この街で東洋から取り寄せた日用品を扱う店を開きました。店の名は『央華雑貨店』! わたしはその店の所有者オーナーです。皆さん、どうぞ贔屓ひいき願います!」

美夜「はっ!?」

華夜「なに? 宣伝?」

輝夜「むむ?」

 驚く三人に向き直り、シャバーズが言う。

「あなた方、このお姫様を傷付けたって、なんの得にもなりませんぞ?」

「はぁ?」

 ますます、なんの事かと頭が混乱する美夜たち。

「ち、違います! わたし、そんなんじゃありません!」

 と、サクは立ち上がってシャバーズに強く否定するが、

「まあまあ。ここはわたしに任せて」

 と、取り合わない。

「サクがお姫様?」

「なに、訳わかんないこと言ってんの? このオッサン」

 華夜美夜が怪訝な顔をする中、起き上がり、ヒカルを起こしに行こうとするカヲルは心当たりに気付く。

『そう言えば、この人、店の前でれ違った。さっき、店の所有者オーナーとか言ってたな』

 痛む腹を押さえて、カヲルはシャバーズの方を見つつ、よろけながら歩く。

『もしかして、サク、文字が書けるから、そう思われてるのか。とにかく、あいつらが あの人に気を取られているうちに、態勢を整えないと……』

 美夜がサクを指差して怒る。

「こいつがお姫様なわけないでしょ! 馬鹿馬鹿しい!」

「ほ〜んと! どうせ間違うなら、わたしたちにしてちょうだい?」

「馬鹿も休み休みに言え。サクは農民の子だぞ」

 華夜が、輝夜も

「そうです。違います!」

 サクも力一杯に否定する。

「いやいや、隠しても無駄です。そこはかとなく感じられる品の良さと言い、何より、あの達筆ぶりは庶民のものではない。おそらく、ご身分を偽ってのお忍びの旅なのでしょう」

 サクは必死に首を横に振るが、シャバーズは聞き入れない。

「もう、ご心配には及びません! このラズワード商会のシャバーズがあの者たちを説き伏せてご覧に入れましょう!」

 などと、彼が大口を叩くのは何も善意からではない。

『今、このお姫様に恩を売っておけば、後々あとあと、商売にはずみが付くに違いない。この騒動を収めれば西部での知名度はアップするし、東洋の王様からはご褒美が頂け、おまけに王家御用達にもなれるやも知れぬ!』

 そんな打算的な思惑からである。

「あなた方、ここは一つどうです? このお姫様を わたしに譲って頂ければ、謝礼をたっぷりとさせて頂きますよ?」

 取引するシャバーズの横顔を見て思うサク。

『この人、うちをお姫様やと思うて助けようとしよんやったら ──』

 これで思惑違いと知れば、

『勘違いやって気ぃ付いたら、元姉たちに売り渡される!』

 どの道、サクの身に危険が及ぶ。

「へー。で、いくら、出すってーの?」

 カネになるとなれば、美夜は話に飛び付く。

「30でどうだ!」

「一人当たり10万リルって事?」

 華夜の計算を聞いて、美夜の神経が逆撫でされる。


「全部で36万リルですね」


 あれは忘れもしない。西南の宝石店で鑑定されたローゼンからの贈り物の総額。それは

『一人当たり12万リル……』

 である。しかも、シャバーズの言い値は

『それより、まだ安いんかい!』

 ますます、怒りが込み上げる美夜が大きく出る。

「安過ぎない? 300は出しなさいよ」

「なッ!? そ、それは高過ぎる。だったら、60でどうだ!」

「話にならん!」

 輝夜がシャバーズの顔面にパンチを喰らわして、取引は不成立に終わった。

「あー……」「弱っ!」

 野次馬たちが他人ひとごとのようにシャバーズを軽蔑する。

 倒れたシャバーズを見て、焦るカヲルが仰向けに倒れているヒカルの肩を叩いて呼ぶ。

「ヒカル! 起きろ! ヒカルッ!」

 そうこうしている間にも、事態は動く。サクを前にして、美夜たちが相談を始めた。

「こいつ、どうする? あたしとしては殺しても良かったんだけど……」

 と、親指でぞんざいに指差す美夜に睨まれて、サクは怖くて動けない。

「そうよね〜」

 頬に手を当てて華夜が美夜に同調すると、こう言った。

「泣き落としにかけても拒絶されちゃったんじゃあ、ローゼンにも兄さんにも取り入る事が出来ないものね。今となっては、サクにメリットなんて無いわねぇ」

『取り入る……?』

 華夜の計算高い発言を聞いて、サクの頭は混乱する。サクにはそこまでの狡賢さが無いからだ。

「おにィがあたしらの『兄貴』でなくなった以上、もう生活費を出してもらえないから、おにィの奴と一緒にいる意味もなくなったしね」

『え……?』

 美夜が兄の事を金蔓かねづるとしか思っていなかった事に驚くサク。

「生活費の為に奴の顔色をうかがわずに済むとなれば、もうサクを傷付けても問題ない」

 輝夜の発言に華夜が「そうね」と、美夜も「いいんじゃない?」と納得し、背の高い三人が不気味な笑顔で小柄なサクを見下ろす。

『今まで、うちに暴力ふるわんかったんは、全部、お金の為……』

 元姉たちがここまで性根が腐っているとは思ってもみなかったサクは何かが壊れたような気がした。

 縁を切ったとは言え、子供の頃から寝食を共にして暮らしてきた家族なら、多少の愛着はあっても、おかしくはない。しかし、元姉たちは「利用できるか、できないか」── そんな基準でしか家族を見ていなかったのだ。

 子供の頃の雑魚寝や囲炉裏を囲んでの団欒だんらん

『全部、嘘やった!』

 サクは今更ながらに思い知らされた。

 サクやレイは家族としての愛着の為に彼女たちと なかなか縁を切れないでいた一方で、彼女たちには家族としての愛着が最初から欠片かけらも無かったのだ。

「どうしよっか?」

 華夜に訊かれた美夜が

「一思いに…なんて、そんなんじゃ気が済まないわ」

 と言うと、サクの顔を見る。

「格下の分際で、このあたしを差し置いて、美形の大金持ち・・・・・・・に気に入られるなんて……」

 サクに負けて、美夜のプライドはズタズタだ。そこがうらまれる最大の原因なのだが、サクには『美形の大金持ち』とやらに寵愛されているという心当たりがない。

「殺しても殺し足りないわ」

 と、美夜に おでこを指で突かれて怯えるサクを見て、幾分、胸がスッとしたのか、美夜がサクから少し離れて、考えを変える。

「でも、よく考えたら、殺したら一文にもなりゃしないのよね」

「じゃあ…、色街にでも売る?」

 下唇に当てた人差し指を離して「くるり」と回して言う華夜。

『い、色街 !?』

 恐ろしい事を次々と平気で言ってのける事にサクは震える。

 しかし、華夜の提案に輝夜は

「こんな痩せ、高く売れるのか?」

 と、腕組みして顎をつまんで疑問視するので、サクは一旦、ほっとするものの、輝夜などは自分たちの方がどの世界でも女としての値打ちが高いと信じて疑っていないだけである。それは美夜も同じ考えだ。

「それもそうね。あたしらみたいな豊満な美貌なら、まだしも……。仕方ない。売り物にならないんなら、傷物にするか」

 美夜の発案を華夜が軽いノリで楽しげに賛成する。

「あら〜、いいわね〜。顔に一生消えない傷痕とか?」

 それを聞いて、サクは気が遠くなりそうだった。顔にコンプレックスを持っているサクでも、それは恐怖だ。

『下手したら、目ぇやられる……。目ぇ見えんようになったら、どうしょう!』

 そんな恐怖から

「ローゼン、どんな顔するかしらね」

 という華夜の言葉も耳に入らない。

「滅茶苦茶な顔、ヒカルも嫌がる。フッ…」

 と、輝夜が不気味に笑う。

 見ているだけの野次馬たちも

「あいつら、女のくせに、ひ、ひでぇ……」

「なんのうらみかは知らないけど、やり過ぎだろ」

 などと、声を上げ始めた。

「誰だよ !? あんな怖い女どもの味方なんかして石を投げた奴!」

 と、責任を追及する声も上がるが、

「外野は黙ってな!」

 般若の面のような恐ろしい美夜の一喝で静まってしまう。

『うち、なんも出来ん……。力でこの人らに勝てんし、逃げ切る脚力もない。ハッサンたち助けてあげる事も……』

 倒れたハッサンのそばで絶望と無力感で打ちひしがれるサク。極限状況にあって、人は本性を表すものだ。

 ハッサンの顔に「ぽたぽた…」とサクの涙が落ちる。

「ハッサン、ヒカル、カヲル、ごめぇん! うち、全然、役に立たなんだぁ……。ぅわぁー……!」

 子供のように泣くサク。彼女は このに及んで人の心配をしていた。それがサクという人間である。

 泣いている小さなサクを多少は哀れに思う者もあれば、

「惨めね」と人の窮地を赤い唇のはしを吊り上げて、ことほか嬉しげに笑う者もいる。笑うのは他でもない華夜である。そこに彼女の底意地の悪さがにじみ出ている。

「泣いても状況、変わらず。無駄な涙」

 冷ややかな目で冷たい言葉を放つのは輝夜だ。

『ヒカルがカグになびかないのは、サクがいるせいだ』

 と思う彼女は自分の横暴さが原因で嫌われているとは考えないし、それについて反省など、これっぽっちもしない。

 反省心が無いのは美夜も同じだ。

『こいつがいるせいで、いつまで経ってもローゼンの目があたしに向かないじゃない!』

 ローゼンの気持ちなど考えない、どこまでも自分勝手な事を思う美夜は

『おまけに、サクのくせに、いつの間にかローゼンを好きになってるだなんて、生意気な!』

 と、ますますサクが気に入らない。

「うっ…、うっ……」

 声尽きて、うつむいて手で涙を拭うサクに向かって美夜が

「力が無い奴は最下層で大人しくしてりゃ良かったのよ。さぁ〜て、どう傷付けてやろうか……」

 と、手裏剣を手にした。今からその手裏剣でサクの顔に傷を付けるのだ。

「おい! まだ、俺、生きてるぞォ?」

 立ち上がったヒカルがカヲルと共に近付いて来る。

「そうそう。まだ泣くには早いんじゃない? 感動的な場面はまだまだ先だと思うよォ?」

 カヲルが肩をすくめてみせる。

 すると、今度はハッサンが復活した。

「ごめんな、サクちゃん」

 と、言うや否や、勢い良く飛び起きたので、サクも驚く。

 ハッサン、サクの故郷の言葉は分からないが、泣いているのは分かった。そして、さらに驚きの理由を話す。

「しばらく寝てた。こいつら相手にすんのは骨が折れるからさ」

 驚いて涙が止まるサクにハッサンは

「ああ、でも、サクちゃんがヤバイってなったら、すぐ起きるつもりではいたけどな」

 と、ニカッと笑うと、ハッサンの表情が急にピリッと変わる。

「ほんじゃ、まあ、サクちゃん。危ねぇから下がって!」

「はい!」返事するが早いか、サクはハッサンから離れた。サクとしては足手まといになるのだけはけたかった。

 美夜がサクに手裏剣を投げようとするが、ハッサンに妨害されて落としてしまう。

「チッ!」舌打ちする美夜。

 美夜たちと対峙するハッサンが軽蔑の眼差しでもって言う。

「まさか、お前らがここまでクズとはな……」

 いちは意識を失ったハッサンだが、後の会話は寝た振りして、ほとんど聞いていた。

「よくも そこまで残酷な事、思い付くな!」

 禍々まがまがしい物を見る目付きで美夜たちを見ながらも、攻撃の隙をうかがうハッサン。

 美夜たちは互いの顔を見合わせ、うなずくと、天堂兄弟を無視するように散開してハッサンを囲んだ。

「おいおい、俺ら無視かァ!?」

「舐めてんのォ!?」

 ヒカルが輝夜に、カヲルが華夜に向かってリベンジしに行く。が、輝夜と華夜は殴りかかる振りをして天堂兄弟をすり抜けた ──

「ヤバイッ! サクちゃん!」

 叫ぶハッサンに美夜の剣が襲いかかる。

「よそ見してんじゃないわよ!」

 美夜の斬撃をかわすハッサン。


 ギリリ……

 どこかで弓を引く音がしたが、群衆には聞こえない。


 ヒカルがどうにか喰らい付いて、輝夜の足を取り、二人して一緒に倒れる。

「クソッ!」悪態つく輝夜。

 牽制の一太刀によってカヲルを後退あとずさりさせた華夜が逃げようとするサクを追い詰めた。

「兄さん似の、その綺麗な顔、ぐちゃぐちゃの血だらけにしてやるッ!」

 嫉妬に狂った本性をき出しにした赤い唇の華夜が不気味な笑みをたたえ、振り上げた刀身がアーケードの天窓からす陽光を受けてギラリと光る。


── 万事休す ──


 誰もが覚悟した。


 何者かが矢を放った。


 ズゥビュ────ンッ!


 矢が風を切り裂く。


 カァ───ンッ!


 矢で華夜の剣がはじき飛ばされる。

「クッ…… !?」

 右手首の衝撃で、一瞬、顔をしかめた華夜。

 剣は地面へ落ち、矢は軌道がれて、アーケードに刺さる。

 すぐに、馬蹄の音と共に「どいた、どいたァー!」という音が近付いて来た。

 先駆けの男が馬上で「どいた、どいたァー!」と、通りの人々にこえけして道をあけさせる。子供を抱える者、足をもつれさせる者、皆が慌てて道の端へける。

 先駆けの男が力の限り、こう叫ぶ。


 武闘派商人のお通りだァ──ッ!!


 その声で矢を放った人物の正体を知った美夜たちの目が大きく見開かれる。

美夜「ななな…、なんでェ!?」

輝夜「そ、そんな、馬鹿な……」

華夜「今日、ローゼンは街にはいないはずなのに!」

 カラヤ商店の従業員の一人をたらし込んでローゼンの予定を聞き出していた彼女たち。まさか、それが罠とも気付かず、まんまとサクを泣き落とししに来たのだ。

「あっ! お前ら、それを狙って、サクを泣き落とししようとしたのか」

 三匹の計画に気付いたヒカルが叫ぶと、押さえ付けられていた輝夜がヒカルを平手打ちビンタして逃げ出し、美夜のもとへ駆け寄る。

 華夜は痛めた右手首を左手で押さえて、妹たちと合流する。

 形勢が変わって戦闘が中断し、ハッサンたちがサクのもとへ集まる。

「実は俺、あいつらが泣き落としに失敗した時はサクちゃんを守れって、ローゼンから頼まれてたんだ」

「僕は行き帰りのルートを指示されてた」

 ハッサンとカヲルから裏でローゼンの指示があったと打ち明ける。その事を聞かされて驚くサク。

「そ、そうだったのぉお…… !?」

「お、俺はなんも聞いてねぇぞ!」

 ヒカルも驚いた。

「そりゃ、お前ら、顔に出るもん!」

 と、ハッサンに指摘されて、

「そ、そうだね……」潔く認めるサクに、

「悪かったな!」悪態つくヒカル。

「あっ! でも、俺、ローゼンが戻って来るなんて聞いてなかったなぁ」

 頭をかくハッサンに

「あ〜、それは〜、ハッサン…、お喋りだから……」

 と、言いにくそうに理由を告げたカヲルだけがこの四人のメンの中で唯一、全てを知らされていた。

『知らされてないって事は当てにされてない…』

 ローゼンの判断は的確だが、複雑な思いのサクたち。


 野次馬の輪をどけて現れたのは、少数の騎馬隊を率いたローゼンだった。そのすぐ隣には険しい顔をしたレイの姿もある。

「サク! 無事か!」

 馬上からローゼンが声をかける。

「うん! 大丈夫ぅ! ハッサンたちが守ってくれたぁ〜!」

 両手を振って訛りで返事するサクの傍らにはハッサン、ヒカル、カヲルが鼻の下を指でこすったり、親指を立てたりして、ローゼンの方を見る。

 元気そうなサクや善戦したと思われる彼らを見て、

「よし!」

 と、安堵の笑みを漏らしたローゼン。今度はそのまま馬上から美夜たちを見下ろして、

「あいにくだったな。性悪三人組!」

 人の悪い笑みを浮かべた。


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