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16-ⅳ)運命の悪戯〜接触

 央華の日用品店からの帰り道、サクたちの前に一人の女が現れた。

「久しぶりね」

 と、彼女は言った。

「???」

 一瞬、誰の事か、三人とも分からなかったので、とっさに声が出なかった。

「え、えーと、どちら様で?」

 やっと、カヲルが訊ねると、

「わたしよ、わたし」

 と、女が言うので、

「はァ? あらの詐欺か」

 ヒカルがさんくさげに、女を睨むと、

「失礼ね。誰が詐欺師よ」

 と、女の背後から もう一人の女が出て来たと思ったら、また、もう一人の女が姿を現す。

「さすがに、この顔、見忘れたとは言わさないぞ。ヒカル」

 三人目の女は髪の毛が短いが、紛れもなく、

「か、輝夜!」

 だった。ヒカルが思わず大声で その名を呼び、輝夜を指差していた。

「── て、事は……」

 と、カヲルの視線が他の二人に移る。その二人の女の事をヒカルはこう言った。

「どうしたんだよ、その髪。輝夜は短くなってるし、華夜美夜は二人とも真っ黒じゃねーか」

「ちょっと! 馬鹿みたいに大きい声で、あたしたちの名前を出さないでよ……!」

 美夜が声を潜めて、ヒカルに文句を言うが、ヒカルも言い返す。

「知るかよ。声がでけぇのは生まれ付きだ。てか、華夜美夜、なんか、顔も変わってねーか?」

 ヒカルの言うとおり、華夜と美夜の顔付きが今までと違う。

「そっか、化粧……」と、カヲルが気付く。

 今の華夜は優しげな三日月眉でなく、吊り上がった眉になっている。

『華夜、髪の毛の色も、眉毛の形も元に戻っとる』

 それが本来の華夜の姿だと知っているのは、この場ではサクだけだ。

 一方、栗毛で吊り上がった眉だった美夜は

『美夜、髪の毛は地毛に戻ったけど、眉毛がない。なんか、前よりおとろしー顔になっとる……』

 眉を剃って、ますます怖い顔になっていた。

「ちょっと事情があってね。ま、立ち話もなんだから、その辺のカフェで話さない?」

 華夜の誘いを、サクが前で抱えた文具の包みをギュッと抱き締め、

「うちは、もう話す事は なんも無い」

 と、拒む。

「あらぁ。せっかくの姉妹の再会なのよォ?」

「うちは縁、切った。もう、関係無い!」

 華夜が切ない表情で優しげに言っても、頑なに聞き入れないサクを今度は三人がかりで拝み倒しにかかる。

「お願い、サク。助けてよ。このとおり!」

 と、プライドの高い美夜が両手を合わせて、頭を下げる。

「もう、我らは文無しだ……」

 と、伏し目の輝夜は抜け殻のような表情だ。

「もちろん、わたしたちなりに頑張ったのよ? でも、踊り子なんて人気商売は水物だから収入も不安定で、そのうち仕事もなくなって、今では食べる事にも事欠く有り様なの」

 と、華夜が両手を胸元に当てて悲痛な顔を見せた後、

「もう、どうしたらいいのか……」

 頬を伝い流れ落ちる涙を隠すように顔を横に向けて目元を両手で覆った。美夜も輝夜も顔を両手で覆い、「ううぅ……」と泣く。

 その憐れな姿にサクも天堂兄弟も顔に同情の色を見せると、華夜が両手を握り合わせて、祈るように懇願する。

「お願い、サク。あなたから兄さんに言ってくれないかしら? 仲直りしようって」

「……嫌や!」

 それでも、同情しないようにと、必死に首を横に振るサク。

 そんなサクを美夜が顔の左右が極端に変わるほどのしかめ面で見る。

「あんた、姉妹きょうだいを見捨てるって言うの?」

「薄情なり」と、仏頂面の輝夜。

「わたしたち、血のつながった兄妹きょうだいじゃない!」

 必死に訴える華夜。しかし、それでもサクは拒む。

「縁切った」

 焦れた美夜が大声を出す。

「そんなモン、切ったって、切れるモンじゃないでしょうが!」

「そうよ。そんなこと言ったところで、血のつながりは消えやしないわ! わたしたちには同じ親の血が流れているんだから」

 華夜も “血のつながり” でもってサクの心を引きとどめようと説得する。

「それでも、もう、兄妹ちがう! あんたらには真心が、ひとっちゃ無い。そんなん家族とちがう!」

 元姉たちを非難するサクだが、美夜が思わず馬鹿にする。

「うわっ! まるで、母さんみたい。だッさい田舎言葉」

「年寄り臭ッ」

 と、鼻をつまむ輝夜も普段からサクを馬鹿にしている一人だ。

「そんなに強情だと、ローゼンにも嫌われるわよ?」

 皮肉たっぷりに華夜に そう言われて『はっ?』と、疑問に思うサク。『別に最初から好かれとるわけでないし』と、言い返したいが、口下手なので、パッと言葉が出て来ない。

 口下手なサクを援護する為、ヒカルとカヲルがしゃしゃり出る。

「なにが『きょうだい』だ。聞いて呆れるぜ」

「そうだ!」

「なによ。あんたら、他人には関係無いでしょ!」

 怒鳴り返す美夜に動じる事なく、カヲルが さも当然のように肩をすくめて言い返す。

「悪いけど、僕らはサクの護衛なんでねェ」

「こいつを悪い奴から守るのが俺らの仕事だ。怪我しねぇうちに、とっとと帰んな!」

 ヒカル、剣のつかに手をかけて脅す。

「ふんっ! このあたしらとマジで斬り合う気?」

 鼻で笑う美夜にカヲルが応じる。しかも、現地のファルシアス語で通行人にも聞こえるように。

「お前たちが西南の宝石店で強盗した三人組だってのは分かってるんだ!」

美夜「なッ!?」

華夜「なんで ──」

輝夜「手配書もまだ出ていないのに」

 「知っているのか」という言葉まで出ないほどに驚く姉たちに対し、輝夜は冷静に言う。

 そんな三姉妹に、カヲルが言ってやる。

「あの事件の後、カラヤ商店にも役人たちが事情を聞きに来て、それで役人から犯人の人相とかを聞いたんだ」

 つまり、カヲルもヒカルも意地悪から、わざと知らない振りをして話していたのだ。サクがその話を出せなかったのは、同情しないように必死なだけである。

 ヒカルもこう言った。

「強盗に入られた宝石店のオッサンが ──」


 治安部隊の役人に被害届を出しに行った宝石店の店主がこう証言する。

「若い女の三人組でした」

「鑑定料を請求したら、いきなり顔面を殴られて、痛いのなんの……」

 思わず腫れた顔を押さえて「てッ!」と叫ぶ店主。

「名前なんて分かりません。うちへは初めて来た客だったんで。ただ、嘘かホントか分かりませんがね、身に付けてた宝石を、ローゼンが買ってくれたとか、なんとか言ってましたよ。どうせ、嘘でしょうけどね。金を買ったとか言って偽の証書をつかまされるような間抜けな連中ですからね」

 役人に犯人の人相について訊かれると、身振り手振りを交えて説明した。

「赤毛の女は一見すると、優しげな顔立ちなんだけど、化粧が濃くて……、あっ! 確か、垂れ目で…眉は三日月みたいだったかな? でも、あの眉、不自然な感じに見えたな。たぶん、化粧でごまかしてんですよ!」

 彼は視線を上にして華夜の顔を思い出しながら喋っていると、急に思い出せば拳で手の平を叩いたり、人差し指を上に向けたり、最後は中年のおばさんのような手招きの仕草をした。

「栗毛の女もこれまた厚化粧で、垂れ目なんだけど、どこかキツそうな顔付きで、あっ、そうだ! こんな吊り上がったキツそうな眉毛でしたよ」

 店主、自分の眉尻を指で吊り上げて美夜の人相を説明すると、今度は自分の目尻を指で吊り上げて輝夜の人相について話す。

「黒髪の女は目尻の上がった切れ長の目で、一番キツイ顔付きでしたね。顔だけじゃなく、性格もキツそうでしたよ。三人の中で一番キツイんじゃないんですかね?」

「そう言えば、三人とも唇の形がおんなじだったな。下唇が “ぽってり” と厚くて色っぽい感じの……」

 という具合に、夜間の店内の照明であっても、間近で見ていた為、バッチリ顔も見えていた。


「── って、証言してたってよ」

 つまり、三羽烏はたずものになった今、目立たぬように髪の色から髪形、化粧までを変えたのだ。

 ヒカルの話を聞いた三人が怒りをあらわにする。

美夜「誰が厚化粧だって !? あんのッ、ぼったくり店主!」

華夜「わたしは薄化粧なのに、ひどいわ!」

輝夜「一番キツイとは心外だ」

 三人とも勝手な事を言う。厚化粧も性格がキツイのも事実である。だが、問題なのはそこではない。犯罪に手を染めた事である。

「いや〜、それにしても、殴ったのが輝夜でなくて良かったよな、そのオッサン。あの馬鹿力じゃ死んでるぜ」

 ブンッ!

 飛んで来た輝夜の鉄拳を辛うじて、しゃがんでけたヒカル、

「あぶッ、危ねー……」

 心臓がバクバクしている。

 カヲルからはローゼンの事を聞かされる。

「その宝石店の店主の証言のせいで、ローゼンさんまでお役人に色々と訊かれてさ ──」


 宝石店を襲ったという女三人組の強盗の人相は店主の証言から分かっている。その人相書にんそうがきを見せられたローゼンが答えた。

「それなら、心当たりがあります。きっと、踊り子の、あの三人に違いありません」

 大して似てない人相書ではあったが、これ幸いと思ったか、キッパリと言い切るローゼン。

 買い与えた宝飾品について問われると、「間違いありません」と答え、さらには、道化のような芝居がかった物言いになる。

「いや〜。あいつらには、ホンットに迷惑していたんですよ、お役人様。なんせ、親友の妹だからと散々たかられて……。あいつら、恐喝罪とかの罪に問えませんかね?」

 泣く子も黙る『武闘派商人』が自分も被害者だとか言い出す始末。これには、役人たちも驚いて思わず顔を見合わせた。


「── という訳さ」

 それを聞いて、

「あいつゥ〜……! あれで顔がブサイクだったら、絶対、ブッ殺してるわ!」

 怒りで握り拳を作る美夜の判断基準はあまりに滅茶苦茶だ。

「ひどぉ〜い、ローゼン!」

 口元を爪を突き立てるように隠して心傷付く華夜も、自分が悪いとは露ほどにも思っていない。

「鬼!」と、恨みがましく一言、輝夜。

 しかし、ローゼンが仕方なく贈り物をやったのも、彼女たちが たかっていたのも事実である。そんな彼女たちの様子にカヲルも呆れ返って物も言えない。

『こいつら、どんだけ自分勝手なんだ……』

 ヒカルに

「潔く自首しろよ」

 と、勧められるが、美夜は反発する。

「なによ、ほんの出来心じゃない!」

「そんなもん、信用できるか!」

 無論、ヒカルだけでなく、カヲルも彼女たちを信用していない。

 狡い華夜が お人好しのサクに向かって言う。

「でもぉ、サクの身内が犯罪者って事はぁ、そばにいるローゼンの立場だって悪くなるんじゃないの?」

 そして、手を合わせて頼み込む。

「ねっ? サク。身内が犯罪者なんて嫌でしょ? ここは一つ、あなたから有力者のローゼンにお願いして、事件を揉み消してくれないかしら?」

 犯罪を揉み消すなど、いくら同情心の強いサクでも許せない。

 ブチッ!

 サクの堪忍かんにんぶくろの緒が切れた。完全に頭に来た彼女は突き放すように拒んだ。

「無理。お兄ちゃんも『あいつらに “づき” の苗字は もう名告なのれんようにしてやる』ゆうて、お役人にも事情、話した ──」


「たぶん、そうでしょう。元妹です」

 人相書を見せられて、レイはそう答えた。ただし、人相書があまりに下手クソだったので、明言はけた。

 役人に「元妹とは、どういう事か」と訊ねられ、

「実は、今から一ヶ月ほど前に、兄妹の縁を切ったんですよ」

 と、答え、事情を話す。

「あいつらは昔っから、親の言う事は一ッつも聞かない。隠れて男遊びはする。色仕掛けで男を釣ってタダ飯を喰らったり、真剣に結婚を考えてもいないのに宝飾品を貢がせたり、悪さばかりしてました。兄として何度も注意しましたが、一向に直らない始末で」

 さすがの役人も彼女らの素行の悪さに引いた。今回の事件も、ただの出来心とは思えない。

「特に許せないのは、体の弱い、この妹の事です」

 レイは隣に座るサクの頭に手を置いて、優しくなでた後、手を離し、拳に力を込めた。

「この子が風邪で寝込んでいた時、看病をせずに、ほったらかしにして夜遊びをしていたのには、本ッ当に頭に来ましたよ!」

 ドン──ッ!!

 両の拳で机を叩いた。

「なので、それ以来、あいつらには任せられないので、この子の看病はずっと俺がしてきました。それに、俺が仕事で動けない時は御者に看病を代わってもらう事だってありました。本来なら、まず身内がやらなきゃいけないのに、あいつらのせいで他人に手伝ってもらわないといけないなんて、本当に恥ずかしい話です」

 隣で座る小さなサクは暗い顔でうつむく。

 これには役人たちも同情した。

「おまけに、生活費は全て俺に出させておいて自分らが儲けたカネは全部、遊びに遣い込む。挙げ句、世話になった友人のローゼンや仲間にまで迷惑をかけ、仕事でも穴を開けるわ ── とにかく、ろくな連中じゃないんです」

 レイ、このように彼女たちの日頃の行いを事細かに語った。

「それで、とうとう、こっちも見限って、兄妹の縁を切ったわけです。なので、俺の妹は、このサクだけです。あいつらとは一切、関わりありません」

 そこへ、ローゼンが横から口を挟んだ。

「確かに、兄妹の縁を切ったのは事件が起きるより、一ヶ月ぐらい前の事ですから、この二人は全くの無関係ですね」

 レイはさらに、切ったのは兄妹の縁だけではない事を告げる。

「それから、あの三人は実家の美月家とも関係ありません。なぜなら、家長である祖父が絶対に許さないからです。家の名を辱めるような事をすれば、祖父なら、きっと『勘当』するに違いありません。もし、あいつらが本当に犯人なら、どうぞ遠慮なく処罰して下さい!」

 レイの決意が固く、実家が彼女たちをかくまう恐れもなくなった。


 サクからレイの発言を聞かされた元姉妹たちは

「兄さん、ひどぉい!」

 両手の拳で口元を隠して嘆く華夜はどんな時でも “ぶりっ子” な自分を演出する事を忘れない。

「妹を売ったのか! あいつ!」

 と、地団駄踏む美夜。

「下衆!」と、歯を剝き出しにして怒る輝夜。

「下衆はどっちだよ!」

 と、ヒカルに突っ込まれ、カヲルからはレイのある思いを聞かされる。

「レイさんはこうも言ってたぞ ──」


「それでも、まともな男と付き合えば、少しはマシになるかと、淡い期待を抱いていた時もありました。しかし、今となっては、ローゼンとの縁談が破談になって良かったと思ってますよ」


「レイさん、最後まで、ギリギリまで、お前らがまっとうになるって信じてたんだぞ! それを裏切るなんて最低だな!」

 と、カヲルに罵られるが、華夜たちの心には届かない。

華夜『ハッ! 兄さん……、誰のせいで破談になったと思ってるのよ』

美夜『サクのせいじゃん! あいつがいなけりゃ、ローゼンもルークもあたしの物になってたのに』

輝夜『サク、いなければ、みんな旨くいった』

 反省どころか、仏頂面でそんな事を思っている。

 カヲルたちを無視して華夜が妹たちに言う。

「でも、なんで、まだ手配書が街に出回ってないのかしら?」

「手配書が出る前にと思って、わざわざ変装したのにさ」

「うむ」

 眉毛まで落とした美夜の後に、髪を切った輝夜がうなずく。

「どうせ、てめぇらを油断させる為の役人の作戦だろ。盗みを働くような奴はコソコソと潜伏してるからよ。現に、そうやって髪形や化粧を変えてるもんな」

 と、指差すヒカルだが、彼女たちの興味はすでに次に移っている。円陣を組むように三人が寄り集まって、算段を始めた。

華夜「やっぱり、この国ではやりづらいかも。盗んだ宝石もお高い一点物は、すぐに足が付くから売るに売れないし」

輝夜「一度、売りに行ったら、怪しまれて、すぐに引き返したものな」

美夜「じゃあ、最悪、故郷くにに帰るしかないか」

華夜「そうね……。おじいちゃんなら、孫かわいさに巧く言いくるめられるしね」

輝夜「うむ」

 などと言っていると、サクが性悪三人組に向かって言う。

「無駄やで。お兄ちゃんが手紙に、あんたらのしたこと書いといた。しかも、今度のはカラヤ商店の人たちが届けてくれる事んなったきに、確実に お母さんとこに届くはずや」

 それを聞いた華夜の口がしばし、開いたまま「あわわ…」と動き、とっさに言葉が出ない。

「…お、おじいちゃんに知られたら、故郷に帰れないじゃない!」

「くそっ! チクるなんて卑怯なマネして!」

 頭を抱え狼狽うろたえる華夜と逆ギレする美夜に、ヒカルが反論する。

りぃの、全部てめぇらだろ!」

「手紙を回収するか」

 と、姉たちに提案する輝夜をカヲルが止める。

「もう手遅れさ。西南にいた頃の話だからね。そこの港から出た船で運んでるから、今頃は海の上だよ」

美夜「クッソー!」

華夜「最低!」

輝夜「ムカツク!」

 悪態つく美夜らに、サクは祖父の期待を裏切った事に対する怒りをぶつける。

「武芸の腕が凄いきん言うて、『美月の三羽烏』やって褒めるんでなかったって、おじいちゃん、悔やむわ。おじいちゃん、可哀想や!」

「フンッ! なにが可哀想よ。可哀想なのは兄妹に売られた、あたしらの方よ」

 どこまでも身勝手な美夜がサクを睨み付ける。ふと、美夜の視線がサクの持ち物に移る。

「てか、さっきから大事そうに抱えてるモンは何よ?」

「食い物じゃなさそうだ」近付いて来てクンクンと匂いを嗅ぐ輝夜。

「金目の物かしら?」ニタリと不気味に笑う華夜。

「こ、これは、みんなのお習字に必要な物……」

 びくつきながら答えるサク。

「嘘つけ! だったら、中を見せな!」

「嫌や! あんたら、人が貸したもん、いっつもわや・・にする!」

「やめろ!」と止めに入ろうとするカヲルを華夜が、ヒカルを輝夜が剣を抜いて妨害する。

「カヲル。あなたの相手は、わたしのはずよ? わたしに憧れてるんでしょ?」

「いつの話だよ!」

「ヒカル。浮気、許さない……!」

「勝手なことかしてんじゃねーッ!」

 双方の剣戟のなか、サクと美夜とで包みの引っ張り合いになる。

 揉めているうちに人集ひとだかりができ始めた。

「なんだなんだ」

「喧嘩か?」

 しかし、四人が抜刀して暴れているので、遠巻きに見ているだけだ。

「このッ! 寄越しなさいよ!」

「嫌や! これは、みんなが使う大事な文房具や!」

「なにが文房具よ! どうせ金目のモンを隠してんでしょ! さっさと出せ!」

「ぅわっ!?」

 小柄で華奢なサクが力で敵うはずもなく、美夜に力尽くで奪い取られる。その拍子に包みがほどけて、半紙の束や筆、墨が散らばった。

「─── !?」

 驚いたのは美夜の方である。てっきり金目の物を持っているとばかり思ったら、中身は本当に文房具 ── 美夜には なんの値打ちも無い物だったからだ。

「なに…これ……」

 怒りに震える美夜を見て、嫌な予感がするサクは体を硬直させて立ちすくむ。

「ふッざけんなァ──ッ!」

 怒りに任せた美夜が半紙の束を踏み付けた。案の定、サクが「わや」と言ったとおり、つまり、めちゃくちゃにしたのである。

 そんな怒り狂う美夜の姿に恐れおののき野次馬が静まる。

 非力なサクは泣きそうな顔で、踏み付けられ、さらには踏みにじられている半紙の束を茫然と見るしかなかった。

『ふざけとんはどっちや! その紙やって貴重なもんやのに!』

 と言って止めたいところだが、今、止めると、カンカンに頭に来ている美夜に何をされるか分からないという恐怖心が歯止めをかけた。だが、今となっては抵抗しても何もしなくても結果は同じだった。

「クソッタレェ──ッ!」

 半紙の束を踏みにじってボロボロにした後、振り向いた美夜がサクに向かって思いっきり蹴りを飛ばした ──

「サク!」「危ない!」

 ヒカルとカヲルは応戦中で間に合わない。サクはかすれた声で「ハァッ…!」と思わず頭を手で隠した。


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