16-ⅱ)運命の悪戯〜三羽烏の事情
ある日の午前中、ローゼンのもとに不動産屋がやって来た。カラヤ商店の玄関にある商談スペースで話を聞くローゼン。
「ここなんですけどね。大通りの前にあって交通の便もいいし、敷地も広いし建物も大きいし、いい物件だと思いますよ? 支店か営業所なんかに いかがですか」
と、不動産屋がテーブルの上に広げた地図や建物の図面を見せながら売り込む。
「フーン……」
鋭く鼻息を吐いて、しばらく腕組みして考えるローゼンだったが、
「悪いが、今回は見合わせるよ。また他にいい物件があったら教えてくれ」
と、不動産屋の話を断り、東洋の勉強をしに奥の部屋に戻った。
「なんの話だったんだ?」
と、レイに訊かれてローゼンが答える。
「不動産を買えと言われたんだが、断った」
「へー。どうして?」
と、理由を訊ねたのはルークだ。
「ほら。お前も知ってる、あの土地だよ」
「あ! ああ……」
兄の言葉に納得するルーク。
「どういう土地なんだ」
と、レイが訊ねると、ルークが説明してくれた。
「昔から誰がやっても店が流行らないんだ。今は長く空き店舗になっているよ」
ローゼンがそれに続ける。
「あそこはカラヤ商店が一度、爺様の代で店として購入した事があったけど、失敗したと聞いてる」
サクが筆の手を止めて言う。
「あるよねぇ〜。そういう根付かない土地」
「そうだな。俺らの田舎でも大通りにあって便利なのに、すぐに住む人が変わるような所あったなぁ」
と、レイが言うと、央華人のモーも うなずいて言う。
「いやぁ〜、どこの国でもあるんですね。似たような話」
「でも、ずっと空いてると物騒ですね」
「変なのに住み着かれても困るよな」
カヲルとヒカルが治安を心配する。
「まぁ、そうだな。早く買い手が見つかるといいな」
と、言うと、ローゼンはサクから教わったとおりに、軽い力でゆっくりと墨を磨り始めた。そして、何気なく、こう言った。
「ああいうのは詐欺師とかに悪用される事もあるからな」
サクに姉妹の縁を切られてから、安宿に泊まる三羽烏の華夜、美夜、輝夜。安宿だけあって、中は埃っぽく、天井には蜘蛛の巣がかかっている。
「ねぇ、どうするぅ? 手持ちのおカネ、底を尽きそうよ?」
長女の華夜が軽くなった巾着の中の金貨を数枚見せて、妹の美夜と輝夜に訊く。
「この頃、まともな仕事も入って来ない。ジリ貧だ」
と、三女の輝夜は相変わらずの無表情だが、さすがに危機感を募らせている。
「そのうち、ここの宿代も払えなくなりそうね」
そのように次女の美夜はまだ幾分、冷静な面持ちで言うが、華夜は巾着を寝台の上に投げた後、自らの身も寝台に投げて、頭を抱え身をよじりながら嘆く。
「前は仕事のお誘いも、ナンパも、あんなに引く手数多だったのに、なんでぇ〜!?」
「仕方ない。時流だ。カグたちの歌も踊りも今は受けない」
と、輝夜は仕事が無いのを時代のせいにしているが、実際のところは仕事に穴を開けまくって信用を落とした事と、サクの助言がなくなった事で歌や衣装のセンスが悪くなったのが原因である。
輝夜が顎をつかんで深刻な顔をする。
「それにしても、カネは唸るほどあったのに、なぜだ。なぜ、カネが残っていない……」
「そうよね〜? 宿代は ほとんど兄さん持ちだったし」
と、華夜は呑気な調子で言う。
「カグたちの実入りは、兄やサクには内緒にして、丸々自分たちの懐に入れていたのに……」
「宝石も服も食事代だって気前のいいオジサマたちが出してくれてたのに、なんでかしらぁ〜?」
平気な顔で酷い事を言う輝夜と、他人事のように首を傾げる華夜。そんな姉妹に美夜が突っ込む。
「入った分だけ、あんたたちが無駄遣いするから、残るわけないじゃない」
彼女たちは人からの奢りとは別に、高級料理や高級エステ、高級化粧品、芝居見物に人気俳優への御祝儀などなど ── 自分たちの贅沢の為だけに、踊り子の稼ぎ全てを使い果たしていた。
「よく言うわよ。美夜だって、おんなじじゃない」
と、華夜が突っ込み返すが、美夜は「ふふふふふ……」と、不気味な笑い声を立てた。
「あたしは、あんたたちとは違うのよ」
優越感に浸る美夜に、
「どういう事よ?」と、訝しげに華夜。
「これよ!」
得意げに美夜は懐から紙切れを出した。
「何? これ」と、華夜が訊ねる。
「金を購入したって証書よ」
「は?」
「金よ、金! 金相場。金が安い時に買って、高くなったら現金に換えるのよ。つまり、カネが増えるってわけ!」
「そんな夢みたいな……」
美夜の説明を華夜は疑い、輝夜も
「『相場には手を出すな』と、母、言ってたぞ」
以前、母に言われた忠告を口に出すが、美夜は鼻で笑う。
「バカねぇ〜。母さんは堅いのよ。金持ちは みぃんな、やってるんだから」
「ホントにぃ〜?」と、まだ信じられない華夜に美夜が とある人物の名を出す。
「ローゼンもやってるらしいわよ?」
「えッ!?」
「ホントか!」
『ローゼン』の名前が出た途端、華夜も輝夜も目の色を変えて食い付いた。美夜が金を買う事になった経緯を語り出す。
「こないだ飲み屋で知り合った相場師から教わったのよ。めちゃくちゃ儲かるからって」
そして、景気良く大量の金貨をばらまくかのように、パッと両腕を広げて嬉々とする美夜。
「あたしの貯金、全額つぎ込んだから、今は相当な額になってるんじゃない? これを現金に換えれば倍になって返ってくるわ!」
「ゆ、夢みたい……」
「お、おぉ……」
華夜も輝夜も、よだれを垂らして金貨がジャラジャラ降って来る妄想をした。
「さっそく交換しに行くわよ!」
張り切る美夜に、二人も乗り乗りで付いて行った。
ところが、相場師から教わった店に三人して行ってみると、そこは空き店舗になっていた。そこは先程、ローゼンが不動産屋に持ち掛けられていた空き店舗が建つ土地だった。
「え……。嘘……」
固まる美夜を横目で見て、華夜が言う。
「騙されたんじゃない?」
「そ、そんなわけないわよ。こ、ここでちゃんと手続きしたのよ?」
華夜と輝夜が冷たい視線を美夜に浴びせるので、通りすがりの男を捕まえて訊ねる。
「ちょっと、お兄さん! ここ、金の取引所よね」
「は? なに言ってんだい、お姐さん。ここは長いこと空き店舗だよ」
「えッ……!」
と、言葉に詰まる美夜。
「ほら。やっぱり、騙されたのよ……」
華夜は肩を落として落胆するが、美夜はまだ認めない。
「そ、そんなはずないわ! これを持って、ほ、他を当たりましょ!」
と、証書の紙切れを握る美夜に、輝夜が訊く。
「他って、どこをだ」
「………」
返答に窮する美夜だったが、華夜が思い付いた。
「やっぱり、金だけに貴金属店かしら?」
「そ、それよ! 宝石店通りへ行くわよォ~ッ!!」
美夜が華夜を指差すと、その右手を一旦引っ込めて、宝石店通りの方向を思い切りよく指差した。
気を取り直した三羽烏は走った ──。
とある小さな宝石店。そこの店主は夕方になり、店内のあちこちの照明器具に火を灯し始めた。この店は あと二、三時間で閉店になる。夜も少しだけ営業しているのは、換金に来るところを見られたくない客もいるからだ。
この夕方過ぎにも、そんな客が訪れた。
「これで金貨と交換してちょうだい!」
宝石店の店主に美夜は金購入の証書を突き出した。
「は? なんです? これは」
啞然とする店主に美夜はあくまで強気な態度で言う。
「金を買ったっていう証書よ」
「証書? 金は普通、カネを払ったら、金の延べ棒か、純正金貨と交換する『現物交換』ですよ。お客さん」
「えっ?」
現物交換だと言われた美夜は、店主に「かくかくしかじか」と事情を話すと、店主は驚いて、こう言った。
「はァ? 純正金貨と その紙切れを交換しただって !? 騙されたんだね、詐欺師に。そもそも純正金貨を持ってたんなら、相場が上がった時に貴金属店に売れば良かったのに。まぁ、でも、今は大きい戦がないから、金の相場も低いからね~。売っても あまり意味はないけどね」
「じゃ、じゃあ、なに? おカネ、戻って来ないって事ォ〜ッ!?」
美夜が頭を抱えて絶望的な現実を今更ながら確認した。
「気の毒だけど、まぁ、そういう事だねぇ」
店主は口では哀れがっているが、実際の表情は さほどでもない。彼は内心では
『よくいるんだよなぁ、こういう間抜けな人たち』
と、呆れているだけだ。
「そ、そんなぁ~……」
「お、終わった……」
華夜も輝夜もガックリ肩を落とす。
落ち込む三人を店主が手を振って追い払う。
「ま、話が終わったんなら、帰った、帰った」
「おじさん、ひどい……」
「鬼……!」
邪険にされて涙目の華夜と睨む輝夜が店を出ようした時だった。
「待って! まだ、終わっちゃいないわ! これだったら、いくらになる?」
諦めの悪い美夜が自分の腕輪を外して店主に見せた。
「あっ! この腕輪の石……」
凝視する店主の反応に「ゴクリ…」と唾を飲み込んだ三羽烏。
「イミテーションですね」
しかし、店主の言葉は無惨なものだった。
「う、嘘 !? ほ、ほんとに偽物なの !?」
「これが本物。ほら、輝きが違うでしょ」
詰め寄る美夜に店主が本物の宝石を取り出して、見せる。
「じゃあ、こ、これは?」
と、左の小指から指輪を外して店主に渡す美夜。華夜と輝夜も自分たちのアクセサリーを外して、店主に鑑定をしてもらう。
「わ、わたしのアンクレットは?」
「カグのイヤリングは?」
しかし、どれもこれも「偽物」と鑑定されていく。
「そ、そんな……」絶句する華夜。
「じょ、冗談よね?」目が現実逃避する美夜。
「ヒカルに買ってもらった指輪もか……」その場で崩れ落ちる輝夜。
そんな三人に店主は容赦無く現実を突き付ける。
「嘘だと思うなら、他でも見てもらうんですね。カラヤ宝飾店か、ソライヤー宝石店で見てもらっても構いませんよ? 一番確かな鑑定をしてくれる所ですからね。ま、向こうでも同じこと言われると思いますがね」
華夜が膝を突いて頭を抱え、激しく嘆いた。
「う、嘘よォ〜!! お金持ちがくれる物だから、高価な物ばっかりだと思ってたのにィ〜!!」
「あの男共、人を馬鹿にして!」
美夜は今まで自分たちに貢いだ男たちに怒り、地団駄踏んだ。
さっきまで、ひどく嘆いていた華夜が ふと気付いた。
「……てか、なんで兄さん、見抜けなかったのかしら」
「兄、鑑定のプロ……」
輝夜はレイの職業を口にする。
顔を見合わせて、ハッとする三羽烏。顔を引きつらせた美夜がまさかの一言を放つ。
「もしかして、分かってて、わざと……」
その言葉を輝夜が継ぐ。
「黙ってたのか……」
「性格、悪ッ!」
と、顔を歪める華夜だが、性格が悪いのは、男たちを色仕掛けで騙し、大きい収入がありながら生活費も出さずに自分たちだけ贅沢してきた彼女たちの方である。
三羽烏が話をしている間にも鑑定は進み、店主が言った。
「あ! これは本物ですね」
「ホント!?」食い付く三羽烏。
それは随分前にローゼンから「レイとその家族に」という名目で、番頭のトリンタニーを通して贈られた宝飾品だった。華夜と美夜に指輪と首飾りと耳飾り、輝夜には細身の宝剣だ。
「えーと……。数万から十万レベルの物だな。剣の値打ちまでは、うちでは分かりませんが、付いてる宝石だけ見ますね。う〜む……。詳しく言いますと、指輪はそれぞれ5万なので二つで10万、ネックレスもそれぞれ5万が二つで10万、イヤリング一組2万で二組あるから4万、宝剣の石は12万で、えーと、全部で36万リルですね」
「たったの36万 ── !?」
三羽烏が一斉に声を上げた。
「たったって、お客さん。これ、全部、ちゃんとした物だよ。そこそこのイイ品ですよ」
店主の言う「そこそこ」が「イイ品」なのかと突っ込みたくなる話だが、今の彼女たちには それどころではない。
華夜が店主に聞き直す。
「一粒100万の間違いじゃないのォ!?」
「一粒100万リルって、そんな高い物を、普通の男がポンポンと貢げるわけないでしょ」
美夜「ローゼンのくせに、36万……」
輝夜「一人当たり12万。ドケチだ」
店主はローゼンの名前を聞いて驚く。
「えっ!? ローゼンって、あのローゼン?」
「そうよ。カラヤ商店のローゼンよ!」
忌ま忌ましげに答える美夜。
「へ、へー……」
と、だけ言った店主。実は、心の中では
『ローゼンがこんな阿婆擦れに、36万リルも出してやった事の方が奇跡だな』
そう思ったが、思い直す。
『いや。本当にローゼンが出すかな。こいつら、偽者のローゼンにでも引っ掛かったんじゃないか? 詐欺師に騙されるぐらいだし』
当時はローゼンが「想い人であるサクに気兼ねさせないようにと、仕方なく姉妹にも くれてやった」という背景を知らない彼はそう推測した。その心の内を読まれたのか、
美夜「何よぉ、疑ってんのォ!?」
華夜「失礼ね、本人からよ!」
輝夜「そうだぞ!」
と、三人から凄まれる。
「ハハハ……。そんなこと思ってませんよォ」
店主はごまかすと、「話はここまでにして」と、話題を変え、右手を出した。
「はい」
「この手は何よ」
と、美夜が訊く。
「鑑定料を払って下さい」
「は?」
「うちは真贋に関わらず1点1万リルですから、全部で20点見たから、締めて20万リル」
「そんなに取るの !?」
美夜の後に、華夜と輝夜の「高ッ!」という驚きの声が上がる。
店主は涼しい顔をして言う。
「うちなんて安い方ですよ。これが目利きの鑑定士だったら、もっと取られますよ? 例えば、『レイ』とかいうカリスマ鑑定士の鑑定料だと一個で2万リルだとか」
「に、2万 !?」目を剝く美夜。
「し、しかも、一個で……」呆然と天を仰ぐ華夜。
「ぼったくり……」半目でつぶやく輝夜。
「まぁ、なんせ、あちらは神業鑑定なんで。むしろ、もっと高くてもいいくらいですよ。そんな事より、早く払って下さいな」
店主は話を打ち切り、鑑定料を催促する。
「もし、現金で払えないんなら、さっき鑑定した本物から代金分を頂きます。それでも構いませんが」
「………………」
しばらく、三羽烏は互いに顔を見合わせて、沈黙した。
「どうします? お客さん」
と、店主が再度、催促した直後、
ガンッ!
顔面に美夜の拳を喰らわされた。
店主が気絶しているうちに、三人は宝石をかき集めて逃げた。それも、自分たちの宝石だけでなく、店内に展示してある売り物の宝石も持って。
そして、華夜、美夜、輝夜の三姉妹こと『三羽烏』の姿は夜の闇の中へと消えて行った ──。
意識を取り戻し、荒らされた店内を見渡した店主は「ど、泥棒……」と、つぶやいた後、叫んだ。
「泥棒だァ──ッ!!」
「昨夜、宝石店通りで強盗があったらしいですよ?」
カラヤ商店の従業員たちにも情報が広まっていた。営業回りや帳場の担当、接客の店員に、配達の人足たち、部署を問わず、その話で持ち切りだった。
「閉店前に狙われたんだって」
「怖〜い!」
「女の三人組らしいぜ」
「店主をいきなり殴って気絶させて、その隙に盗んだってよ」
「大胆な犯行だな」
井戸端で顔を洗っている時に噂を聞き付けたレイとサクが、朝の身支度を終えて早々、店に出ているローゼンに確認に来た。後からヒカルとカヲル、モーも駆け付ける。
「お前の所の系列店は無事か?」
と訊ねるレイに、ルークを初め店員たちに囲まれたローゼンが答える。
「カラヤ宝飾店は入られていないようだ。あそこは警備が厳重だから、あまり狙われにくい。襲われたのは、もっと小さい宝石店だったみたいだ」
それを聞いてレイもサクも安堵したが、サクが ふと気付いてレイに言う。
「そう言えば、お兄ちゃん、よく、強盗と鉢合わせなかったね。昨日は午後から鑑定の仕事に出てたのに」
「俺は夕方前には仕事を終えて、宝石店通りを出てたからな。もし、遭ってたら、叩っ斬ってやったのに!」
と、悔しげに右拳を左掌に打ち付けるレイに、皆、苦笑いをする。レイは優しい見掛けによらず、剣の腕が立つからだ。
『レイさんの手に掛かれば、一刀両断だな』
と、思ったのはルークだけではない。
「命が惜しければ、悪事に手を染めない事だ」
ローゼンの言葉に皆がうなずいた。
「しかしまぁ、女の強盗たぁ、驚いたな」
「おっかないよなぁ。どんな女だよ、ホントに」
ヒカルとカヲルがそんな感想を言うが、自分たちもよく知っている女たちであるという事を知るのは、もう少し先の話である。
すると、モーが至極もっともな事を言った。
「男だろうが、女だろうが、そんな事をする奴はロクな死に方はしないよ」
これにも皆がうなずいたところで、
「よし、みんな!」
と、ローゼンが大声で皆に注目を促した。
「ともかく、まだ、盗賊は捕まっていないようだから、俺たちも普段以上に用心をしよう!」
「はいッ!!」
ローゼンの指示に店員たちが一斉に返事した。
「じゃあ、みんなで朝ご飯を食べに行こうか」
そして、ローゼンはいつものように弟ルークと、レイとサクの兄妹、ヒカルとカヲルの天堂兄弟、モーと共に朝食を取りに店を出た。
後日、また、不動産屋がローゼンのもとを訪ねて来た。ちょうど街歩きに出ようとしたところだったので、サクも一緒に店の玄関にいた。
この間の空き店舗の土地の事だ。
「若旦那~! お願いしますよぉ。なかなか買い手が見つからないんですよ」
「そう言われてもなぁ……」
両手を握り合わせて懇願する不動産屋を前に、困って頭をかくローゼン。その後ろから、ひょこっと顔を出したサクが提案する。
「ねぇ。馬立てとして使うのは、どぉお?」
その言葉に、ローゼンはなぜか「ピン!」と来た。「地図、地図」と、ローゼンが商談スペースへ手招きして催促し、不動産屋が急いで地図をテーブルに広げた。
「ふ~ん……」
ローゼンは深くゆっくりと鼻息を吐いた。すでに彼の心は決まったのである。
「いいかもな。今まで店舗として考えていたが、潰して馬立てとして使うのも悪くない」
そう言うと、地図を指差して理由を述べる。
「この近辺は店が多いから、買い物客が馬や馬車を駐めるのに ちょうどいい」
「では……」
と、不動産屋が期待の目でローゼンを見る。それに応えるかのように、ローゼンは自分の意思をハッキリと口にした。
「よし、やってみよう。この土地を買おう!」
「ありがとうございます! 若旦那」
不動産屋が契約書の準備をしている間、ローゼンがサクを褒める。
「しかし、よく思い付いたな。サク」
「うん。たまたまなんだけどぉ、昔、おばあちゃんが ──」
「三角土地には家を建てたらいかん。家は四角に建てて、残った三角の角は畑にするとか、物置か馬小屋とか建てるとかしたらええ」
「── って、ゆってたのを、後から思い出して。だからぁ、流行らない土地も、人が長くいる建物でなければいいのかなぁと思って」
「ほう……。“先人の知恵” という奴か」
「でも、旨くいくかどうかは分からないよぉ? ホントにいいの? 契約しても……」
「ああ。君は気にするな。俺は “自分の直感” と “先人の知恵” に賭けてみるよ」
失敗したとしても、サクのせいにするつもりはないローゼンは、そう言って気遣った。
こうして、カラヤ商店がその土地を買い取り、馬立てとして運営する事になった。その料金収入で長く儲かった事は言うまでもない。




