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2-ⅰ)波瀾〜満月の激闘

 次の街でも華夜、美夜、輝夜の踊り子三人『恋愛天使』の歌と踊りは大盛況。その噂が南東部の領主の耳にも届き、領主の邸宅にお呼ばれする。

 ローゼンとルークのカラヤ兄弟はこの日、領主に客人として招かれ、宴席で踊り子たちの舞を観覧する。

 普段は地味な格好のローゼンもきらびやかな衣装に身を包んでおり、均整の取れた長身でなおかつ風格がある分、まるで、どこかの王族か貴族のように見える。ルークはルークで長身だが、兄を凌ぐ筋骨逞しい姿は勇ましい武人のようだ。二人とも、たぷたぷの贅肉ぜいにくを高価な絹の服で包んだ領主の姿とは対照的であった。

「兄さん、あの踊り子だよ!」

「……そうだな」

 浮かれてる場合でないとか思っていたルークだったが、結局、浮かれていた。兄のローゼンは相変わらず冷淡な目で答える。

 弟ルークの言うとおり、彼女たちの舞は実に美しいが、所々にバク転などの軽業かるわざを入れており、

『とても只者とは思えない動きだな。黒髪の女のつるぎの舞なんて殺気立っていて、寒気がする』

 と、分析しつつ、身震いするローゼン。

『その上 ──』

 赤毛と栗毛の女はやたら色目をつかったり、“しな” を作るので、

『なんて厄介な連中だ。権力者に色目をつかって只で済むと思っているのか。はや、嫌な予感しかしない……』

 と、青い顔をして広い額を手で押さえ、溜め息をくローゼンに、傍らで控える番頭が苦笑いする。

『人の心配ばかりして、苦労性ですな。ローゼン様は』

 ワインを注ぐ召使いの女に何気にローゼンが「ありがとう」と礼を言うと、彼女が「え?」と、ビックリしてワインの入った瓶を落として割ってしまう。

 音に驚いた踊り子が舞をやめ、領主が立ち上がって召使いを叱責し始める。

「客人に対して無礼な! 剣で腕を斬り落としてくれる!」

「お、お許し下さい!」

 おびえてその場にひれ伏す召使い。ローゼンがすぐに立ち上がり、領主をなだめる。

「領主様。わたくしめは大丈夫ですので、どうか剣をお納め下さい」

 ローゼンはさらに言い加える。

「それに、領主様の大事な剣が穢れては、このローゼンも心苦しゅうございます」

 どうにか場を収め、宴会が再開された。

「兄さんが召使いの女に色目をつかったから、びっくりして落としたんじゃないのか?」

 ルークが声を潜めて冗談めかしてからかう。

「まさか。ここの流儀が うちとは違うんだよ」

 番頭がローゼンの言葉にうなずく。

「それもあるでしょうな。召使いや使用人に一々、礼を言うあるじなど、普通はおりませんからな」

 しかし、番頭は内心でこうも思う。

『ローゼン様本人に気はなくても、周りが勝手に好きになってしまう。全くもって罪な お人だなぁ……』

 機嫌を直した領主から今後も取引したいと持ち掛けられるが、先程の召使いへの態度が気に入らないローゼンは

「そうしたいのは山々ですが、東洋からは絹に茶葉、陶磁器、香水。西洋からは蜂蜜、皮に毛皮に絵画。なにぶん これほどの品を一度にそろえるのは、実際のところ、わたくしどもでも難儀いたしております。なんでしたら、ようたしの件は他の方々を推薦させて下さい。それぞれの専門店と契約を結んだ方が、早く品物が手に入るかと存じます」

 と、舌に油でも塗ったかのようにベラベラと言い訳を並べ立て、やんわりと断る。

「そうか。それもそうじゃな。そうしよう」

「ところで、お前たちも好き者かの?」

『案の定だな』『うわぁ……、やばいなぁ』などと、内心で身構えるカラヤ兄弟。

「ええ…。まぁ、そこそこ……」と、ひとまず適当に答えておくローゼンだった。



 夜も更けて、領主がウキウキとして、カラヤ兄弟を伴い、踊り子が泊まる部屋へ入ると、そこはもぬけの殻だった。裂いたシーツをつないでロープ代わりにし、三階の窓から脱出していた。

 しばし、呆気に取られる領主を尻目に、シーツを引っ張り上げたルークとローゼンがひそひそと話す。

「ここ三階だぞ。しかも、シーツの長さは二階分。飛び降りたのかぁ」

「あの軽業かるわざだ。可能だな」

『領主を気絶させる手間は省けたが……』

 と、思うローゼンだったが、踊り子たちに逃げられ、領主は怒り心頭に発する。

「おのれ! 誰かッ、誰かおらぬか!」

 領主が踊り子たちを捕まえようとするのをローゼンが止める。

「領主様! 落ち着いて下さい」

「これが落ち着いておられるか! あの小娘ども、このわしを馬鹿にしおって!」

 ローゼンは領主の興奮状態に同調せず、淡々とした口調で話す。

「領主様、それは違います」

「何が違う?」

「領主様ともあろうお方が、たかだか踊り子風情などを相手にしてはいけません」

 ローゼンは首を横に振り、さも、もっともらしく説得する。次第に芝居がかった物言いになってゆく。

「領主様に、あんッな、薄汚い小娘どもなど、相応ふさわしいわけがございません」

 と、わざと踊り子たちをおとしめて、別のえさをチラつかせる。

「良いでしょう。いつか旅の途中で、わたくしめが絶世の美女を見つけた際には、ぜひ領主様に献上いたしましょう!」

「ぜ、絶世の美女か……」

 領主は上目で妄想して舌なめずりすると、ゴクッと唾を飲み込み、納得する。

「そ、それもそうじゃな。見つかったら、他へよこさず、必ず、わしのもとに連れて来いよ、ローゼン」

 ローゼンはドンッと胸を叩いて「お任せ下さい」と請け負い、その場を収めた。

『嘘だろぉ、舌先三寸で丸め込んだァ……!』

 これにはルークもぜんとする他ない。

「さあさあ、領主様。飲み直しましょう!」

 と、宴席へ促すローゼン。

 宴席に戻るや否や、急ぎ駆け付けたカラヤの俊足の警備兵がローゼンに報告に来て、耳打ちする。

「どうも兵士の一部が、逃げた踊り子たちを侵入者と勘違いして追っているようで。気絶して倒れた門番に見回りの者が気付いたらしく」

 報告を聞いたローゼンの眼光が鋭くなる。サクの前で見せた優しいお兄さんの顔とは別人のようだ。

『あの領主の事だ。捕まれば只では済まない』

 踊り子たちの身の安全を危惧するローゼン。

「追っ手の数は?」

「ざっと ──」

 ローゼンと警備兵が遣り取りしている間に領主の方にも知らせが入る。

「何、侵入者?」

「領主様、わたくしめが成敗して参ります!」

 と、すかさず申し出るローゼン。一見、キザな二枚目のローゼンだが、領主の前ではなりり構わず、どこまでも従順な太鼓持ちを演じてみせる。

「良いのか? お前たちは一介の商人であろう」

 領主のその言葉にルークと番頭がわずかに眉をひそめるが、その事に領主を初め周囲は気付いていない。

『こいつ、兄さんの異名を知らないのか!』

『なんと世間知らずな!』

 ルークと番頭の心の声など知る由もない領主にローゼンは

「なに、どうせコソ泥でしょうから、優秀な兵士を出す必要などございません。我らの人足たちで充分です。ささっと行って片付けて参りましょう」

 と、言うや否や、「番頭さん!」と傍らの番頭を呼び付けて、耳打ちする。

「俺とルークは警備の半分を連れて行く。残りはカネの警備に置いていく」

「かしこまりました」

「じゃ、番頭さん! 領主様のお相手を頼んだよ。それでは領主様!」

 一礼すると、ルークと俊足の警備兵を伴って宴席を離れ、駆け足で向かうローゼン。

「ルーク、もっと早く走れ!」

 廊下で少し遅れるルークを、太鼓持ちの仮面を脱ぎ捨てたローゼンがかす。

「分かってるよ!」とは言うものの、兄と警備兵の俊足には劣る。

「チッ! 日頃から言ってるだろ。見栄を張ってないで、もっと動ける筋肉に仕上げとけよ!」

 舌打ちして、若干、イラッと来てるローゼン。

 邸内の庭のかがりの明かりで壁に騎影が映り、30騎の馬のいななきが満月の夜空に響く ──。

 街を取り囲む城壁を出て、街道に出ると、ローゼンが道化を演じていた時とは打って変わって鬼の形相で警備隊に号令する。

「いいか、お前たち! 踊り子たちの命が危ない。兵士は残らず討ち取れェ!! 一人も生かして返すなァ──ッ!!」

「オオ───ッ!!」

 怒濤の追撃が始まった。



 60機の騎兵に追われる三人の踊り子たち。

「なんでこんなに付いて来んのよー! もう、最悪ゥ!!」と、赤毛の華夜。

「しょうがないわよ、おねェ! それだけ あたしたちが魅力的って事でしょ」と、栗毛の美夜。

「アーッ! こんな事ならギャラを前払いにしてもらえば良かった!」と、華夜は後悔する。

「ああ、メンドクサ……」と、黒髪の輝夜。

 三人とも喋りながら馬を走らせる。

「どう、カグ? 行けそう?」と訊く美夜に

「行ける。今夜、満月。カグ、最強」

 と、答えたカグが器用に振り向きざま弓矢を構え、放つ ──



 踊り子姉妹が進む先ではレイたちが馬に乗って待っていた。

「なんで、街道の途中で落ち合うんだよ?」

 と、訊くヒカルにレイが前髪を軽くかき上げて答える。

「お偉いさんの豪邸でお泊まりなんて言うからさ。どうせ抜け出す破目になるだろうから、そのままトンズラしようって段取りなのさ」

 その時、カヲルが二人に知らせる。

「なんか、にぎやかな音が聞こえてきたぜ?」

「あ? どらどら」

 と、ヒカルが遠くを見遣みやる。そのうち、ヒカルだけでなく、カヲルもレイも血相を変えた。

「おいおいおいおいおい…なんで、あんなに追っ手が来てんだよ」と、ヒカル。

「チッ! あいつら、しくじったのか!」

 舌打ちしたレイが

「モーさん、馬車を出せ! 先に逃げるんだ! カヲルは馬車を守れ!」

 急いで御者のモーと護衛のカヲルに指示を出す。自らはヒカルを伴い、馬を走らせ踊り子の妹たちと合流する。



 背後からひづめの音が聞こえて、「援軍か?」と振り返ろうとした最後尾の兵士。いきなり、背中から風を鋭く切る矢に心臓を撃たれて落馬した。ついに、背後の正体が彼の視界に入る事なく ──。

「やるなぁ、若ッ! 商人にしておくにゃあ勿体無い !! この距離で命中とはねェ」

 警備隊長がローゼンを褒めるが、当のローゼンは誰からも商人と思われない事に「ハハハ…」と、やや苦笑い。

「俺だって!」と、ルークも負けてはいない。ルークの射程も長かったが、兵士の肩に刺さり、「チェッ!」と悔しがる。

「ボンはまだまだだねぇ」

 と、言いながら、余裕の警備隊長も矢を発射し、確実に敵の心臓を撃ち抜いていく。

 ローゼン率いる警備隊・通称『カラヤ隊』は剛力ぞろいである上、長弓と、それに見合った重さの矢を装備しており、長い射程を風を鋭く切るように射抜いてしまうのだ。

 射程圏内に入ったと見たカラヤ隊は次第に陣形を変えて、三列の横並びになる。最前列が発射すると速度を落として後退、発射準備ができた二列目が互い違いに前に出て発射すれば、再び一列目が前に出て発射と ── 繰り返す。

 それを落馬した兵士や騎手を失った馬などの障害物をけながら、時には踏み付けながら、大きく陣形を崩す事なくやってのける。三列目はそのまま最後尾を固め、落馬などで取りこぼした敵を槍などで確実に倒して行く。

 カラヤ隊の確実に撃ち落とす手法と手慣れた行動に対し、領主の騎兵は後方の兵が馬首を巡らし迎え撃つも、背後からの不意打ちに慌ててバタバタとした動きで矢を放つ。その上、射程の短い弓で下手クソなので、まともに当たらない。

「え、援軍じゃないのか !?」

「一体どうなってるんだ !?」

「後ろから盗賊か !?」

 などと、領主の騎兵らには動揺が広がるばかりだ。動きもバラバラで一斉発射とはならない。カラヤ隊による あまりに素早い矢継ぎ早の発射に手も足も出ず、馬を反転させようとする後列から順に撃ち落とされて、あっという間に攻撃力を削がれていく。

 前からはレイたち美月兄妹とヒカル、後ろからはカラヤ兄弟の警備隊に挟まれ、矢が尽きて、斬り合いの大乱闘となる。

「あッ!? ローゼン!」と、驚くレイ。

「レイ !! 助太刀するぞッ!」

「すまん! おい、みんな、助っ人だ! 同じ鎧の兵隊だけを狙え! 間違えるなよ !?」

 レイの指示に

「なんだよ、俺の出番減るのかよ?」

 と文句を言いつつ、ヒカルが剣で槍をスパッと切り飛ばす。

「カグ、つまんない」

 輝夜も不満をこぼしつつ、剣で鋭い突きを繰り出す。

 カラヤ隊も美月兄妹、ヒカルも手綱を放して戦うので、騎馬戦の練度がポンコツ兵士らとは格段に違う。

「やるなぁ、君。どこで馬術を習った?」

 ヒカルと背中合わせになったローゼンが訊く。

「見よう見真似だよ!」

「いいセンスだな」

「そういう あんたこそ、ェじゃねーか!」

「俺は荒っぽい事は好きじゃないんだけどね。嫌々仕込まれた!」

 と話しながらもローゼンは敵の攻撃をかわしつつ、一太刀で倒す。

 剣同士の打ち合いが少ない、一撃必殺のローゼンの太刀筋に気付いたヒカルは

「嫌々ってレベルかよッ!」

 と叫びながら敵の槍を左手で取り、剣で脇腹を刺す。

 片やルークは力任せの剣法で大刀を振り回す。

「俺の踊り子に手を出すなーッ!!」

「あら? あんたもいたの?」と、呆れつつ美夜が手裏剣で兵士を倒す。

「しつこーい」と、華夜は柔らかい体を後ろに反らして剣撃をける。

 レイがつわものぞろいの助っ人に驚き、近くにいた警備隊長に大声で訊く。

「あんたたち一体何モンだ !?」

「カラヤ商店の人足さ」

「ただの人足にしちゃ、ずいぶん強いじゃないか。馬もいいのに乗ってる」

「うちの若はケチケチしてないんでね!」

 剣撃のなかでレイと警備隊長が遣り取りしている近くでは大男の敵兵相手に、スラリとした輝夜が派手な金属音を立てて激しい剣の打ち合いをする。輝夜が二刀流なのは途中で奪った剣を使っているからだ。

「それより、あのバケモンみたいに強い娘は誰だい?」

 と訊ねる警備隊長にレイが美しい顔を凍り付かせて答える。

「……俺の妹だよ」

 美しい黒髪をなびかせて輝夜が宙を舞う。一の太刀で相手の剣を払いのけて、すかさず二の太刀で突き、その剣を放して相手の馬上から自分の馬に飛び移る。

 満月を背に馬上に立ち、剣を構える輝夜の姿は異様なまでに美しかった。

「カグ、誰にも負けない」


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