14-ⅰ)雁字搦め〜それぞれの思惑
カラヤ商店支店の倉庫の敷地で、威勢のいい声と共に、木太刀や棒が打ち合う音が鳴り響く。空いた時間で武術の稽古をしている人足たちは警備兵でもある。
「よーし! 次!」
そんな彼らに時々指導しているのが、レイである。いつの間にか、人足たちに混じって稽古に付き合うようになっていた。美女のような顔のレイであるが、その気性は全く以て男だ。気の荒い人足たち相手に引けを取らない。
手拭いで汗を拭う休憩中の人足たちが、レイと他の人足との打ち合いを見て話す。
「綺麗な顔に似合わず、強ぇな。レイさん」
「あの若旦那と張り合えるだけの腕前だ」
「はっきり言って、鬼だな」
「あ、鬼とか言ってっから、もう一匹の鬼が来ちまったよ〜」
と、そこへ現れたもう一匹の鬼とは、無論、彼らの若旦那ローゼンである。
「おっ! やってるな」
ローゼンはサクとルーク、カーミル王子を連れていた。
「あ! お兄ちゃん、来てたんだ」
「時間のある時に、みんな、レイさんに稽古を付けてもらってるんだ。俺もシゴかれてるよ」
兄を見つけて声を上げるサクにルークが頭をかいて言う。
レイが休憩に入り、妹サクに声をかけた。
「おう! サク。お前もカラヤ商店に来てたのか」
「うん。ローゼンのお習字で。と言っても、もう教える事ないんだよねぇ。今は筆の使い方より、文字の勉強になってるんだー」
「サク先生のお蔭で楽しくやれているよ」
と、笑顔のローゼンを、レイが胡散臭そうに見て
「はァ? 俺のいない所でサクに悪さしてないだろうなぁ、貴様〜?」
と、ローゼンのみぞおちに自分の拳をグリグリと押し付ける。
「グッ! やめろよ、おい……」
レイと睨み合うローゼン。
「お兄ちゃん! ローゼン、いじめないで!」
サクが抗議するので、レイは引き下がってやる。
「しょうがないな。この辺にしといてやる」
ローゼンの兄弟子で玉葱頭のハッサンがコップの水を持って来てくれた。
「レイも飲めよ」
「お、悪いな」
みんなが一息ついている間に、ローゼンが言う。
「筋肉痛も治まったのなら、カーミル王子もどうです?」
ローゼンに勧められてカーミル王子も木太刀で打ち合いをする事に。
「わたしは剣の腕前もよく誉められたぞ!」
と、木太刀を手に自信満々のカーミル王子、
「とやーっ!」と、掛かって行く。
「ていッ!」
レイに軽く一太刀で木太刀を弾き飛ばされて、お終いだった。彼の武芸の腕はサッパリであった。取り巻き達に「お上手です」とヨイショされて育ってきただけに過ぎない。
「子供の方が強いんじゃないか?」
と、容赦無い言葉はハッサンだ。
「こ、こんなはずでは……」
地面に手を突いて落ち込むカーミル王子に、ローゼンが呆れつつも励ます。
「取り巻きの嘘を真に受けていたからですよ。今からでも鍛えれば、それなりには強くなるでしょう」
「練習すれば上手くなるよ。頑張って!」
かわいそうになり、サクも応援する。
「おお! 優しいな、サクは」
サクの手を握ろうとするカーミル王子の手を「バシンッ!」と、強烈に叩いて止めたのはレイではなく、ローゼンだ。
「嫁入り前の娘に気安く触るもんじゃありませんよ、王子」
と、自分の事はすっかり棚に上げているローゼン。
「醜い嫉妬だな」
カーミル王子、半笑いで睨み返す。
この一言がローゼンの逆鱗に触れた。
「おい、お前たち! しっかりカーミル王子の鍛練にお付き合いして差し上げろ!」
「へいッ!!」と、威勢よく返事する人足たち。
一転して、ローゼン、サクに対して にこやかな顔を見せ、彼女を外へ連れ出す。
「さぁ、サク。気分転換に街歩きに行こう!」
「う、うん」
ローゼンが表情を「ころころ」と変える事に戸惑いながらも、サクは鍛練する連中にきちんと挨拶をした。
「じゃあ、皆さん。お稽古 頑張って下さい」
「はい!」
「頑張りまーす!」
「お気を付けてー!」
などと、気の荒い人足たちも真面目なサクへの対応は甘い。
ローゼンとサクが出かけた後、人足たちにシゴかれるカーミル王子を眺めながら、レイとルークが話す。
「……なかなか恐ろしいな、お前の兄貴」
「女の嫉妬は怖いって、よく聞くけど、男の嫉妬も結構 怖いもんだね……」
「ありゃ、余裕がないんだろ」
と、ハッサンが話に割り込む。
「何があっても自分の方を見てくれているって安心感が、ローゼンにはないんじゃないの?」
「ハッサン、空気読まないわりに、時々、鋭いこと言うなぁ」
ルークがズバッと言うので、心外だと言わんばかりにハッサンが言い返す。
「失礼な奴だな。誰が空気読まないってぇ?」
「ハハハ……」
と、傍らで笑っていたレイだったが、
「とにかくさ、さっさと結婚しちまえばいいんだよ。そしたら、ローゼンのヤキモチも少しは落ち着くってぇ」
ハッサンの言葉で顔色を変えた。
「あァ〜ん !? なんだと、テメェッ!!」
「お、落ち着いて! レイさん !!」
ハッサンの胸ぐらつかむレイを止めるルーク。
「お、お前、異常だぞ。そこまで怒るか、ふつう妹の事で」
解放されたハッサンにレイが反論する。
「うるさい! とにかく、俺は心配なんだよ、サクが。旅に出てから俺が父親代わりで守ってきたんだ。ちょいちょい変なのに付きまとわれてる妹を持つ身にもなってみろ!」
「サクは小さくてお人形みたいに可愛いから、攫われやすい分、心配だよな」
ルークがレイの気を鎮めようと背中をさすった。が、つい余計な事まで言ってしまう。
「でも、兄さんは危ない奴とは違うからさ。安心して結婚を認めてやってよ」
「いや、俺は認めん! 結婚はまだ早い!」
レイ、腕組みして仁王立ちし、断固拒否した。
「えー……」
「完全に娘を持つ父親だな」
ルークとハッサンは呆れた。
カフェで甘いカフェオレを飲みながら、同じくカフェオレを飲んでいるローゼンの顔を見て
『ローゼンの怒りのツボって、謎……』
と、不思議に思うサク。
『嫉妬と勘違いされたぐらいで、あないに怒るんや〜。ほんでもぉ、カーミル王子もいかんのやわ。単に、うちを守ってくれただけやのに、意地悪な事ゆうきに』
サクはやっぱり勘違いをしていた。ローゼンが自分の為にヤキモチを焼いているとは思っていないからだ。
ローゼンはローゼンで眉間に皺を寄せて
『何が “醜い嫉妬” だ! 嫉妬に狂って犯罪に走る奴と一緒にするな。こんなのは健全なヤキモチだ』
と、内心で自己正当化していた。
ローゼンの視線が ふと窓の外に移る。
「サク。船だ」
港に入った大型の帆船が見える。ここは見晴らしのいい二階のカフェだ。
「あっ、ホントだー。ここ、眺めいいねぇ」
晴れやかな気持ちで船を眺める二人。
ローゼンが視線を目の前のサクに戻す。
「そう言えば、サクたちは このファルシアスまで、どのルートで来たんだい? 陸路、それとも海路」
ローゼンに訊ねられたサクは思い出しながら、喋る。
「えっとー、海路が多かったかな。和の国は島国だからぁ、央華までは船で。央華の旅はぁ海岸沿いの街を馬での移動も多かったけどぉ、央華を出てからは船旅がほとんど。船旅ってゆってもぉ、近くの港で乗り継いで行ったから、一度に長い日数じゃなかったけどね」
「確かに君の体の事を考えれば、長距離は避けた方がいいな」
ローゼンの言葉にうなずくと、サクは本来の旅の目的について話す。
「そもそもの旅の目的はぁ、お姉ちゃんたちのお婿さん探しなんだよねー。さっさと見つかれば、わたしも お兄ちゃんも和の国に帰れるのになー」
そう言って、サクは視線を窓の外の船に移した。
「サクがいなくなると、淋しいな……」
カップを見つめながら、ぽつりとローゼンが言うので、胸がキュッと締め付けられるような気がして、一瞬、ローゼンの方を見るサク。しかし、冷静に
『ローゼンとは住む世界が違い過ぎる……』
という思いもある。外の船を見るサクは思わず本音をつぶやく。郷里の和の国の西訛りで。
「早う和の国に帰りたい……」
しかし、それが彼女の本心の全てではない。
『そしたら、もう、ローゼンと会わんで済む。長うおればおるほど、あとあと別れがつろうなる』
そういう理由からだ。
『サク、和の国に帰りたいのか……』
淋しげな目でローゼンはサクの横顔を見ると、自分も外の船を見た。
サク、カップを見つめながら、考える。
『華夜お姉ちゃんにはカヲルがおるしぃ、カグには不本意やけど浮気性のヒカルがおる。あとは美夜お姉ちゃんだけか。ローゼンと結婚すれば美夜お姉ちゃんをここへ置いて、さっさと帰れるのに……』
思わず「はぁ……」と、ため息をつく。
『あの二人の仲が悪いって、最悪や』
サクにとっては計算違いである。
船を眺めながら頬杖を突くローゼン。
『サクを和の国へ連れて行ってやりたいが、今はファルシアスから動けないしなぁ……。当分、美夜の相手が見つからない事を願いたい』
ローゼンはローゼンで思惑がある。
『人の不幸を願うとは、俺も情けないな……』
内心で自嘲するローゼンだった。
街歩きでランチを取った後、カラヤ商店に戻ったローゼンとサク。廊下を磨くカーミル王子と会った。
「おや? 真面目にやってますね、王子」
「凄い! ピカピカだー」
褒められて気分がいいカーミル王子、モップの手を止めて答える。
「小さな丁稚ですら、見事な働きぶりだ。わたしも負けてはいられないからな」
カーミル王子の変わりようにローゼンは感じ入る。
「成長なさいましたね。王子がそのような事をおっしゃるようになるとは」
「ハハハ」と、笑った王子だったが、
「それはさておき、貴様。先程はよくも鍛練と称して、わたしをいたぶってくれたな !?」
と、恨みは忘れていない。
「上達したら、お前をコテンパンにのしてやる!」
「何をおっしゃいます。ちょっとやそっとの鍛練で、このわたくしを倒せると?」
カーミル王子とローゼンとの間に流れる不穏な空気にサクが
『あ、あああああ……、喧嘩になるぅ』
と、動揺していると、ルークが王子を呼びに来た。
「カーミル王子! 掃除に夢中になるのは結構ですが、お昼を召し上がってください。部屋に用意してありますので」
「ああ、そうであったな」
カーミル王子はルークに返事をすると、ローゼンに
「今に見ていろ!」
と、捨て台詞を残して、その場を去った。
「……青いなぁ」
呆れたように つぶやくローゼンはカーミル王子より年が一つ下だ。
「兄さんも あまりからかうなよ」
苦笑いのルーク。
『良かったぁ……。大事にならんでー』
と、真面目なサクは ほっと胸をなで下ろした。
この日はローゼンの嫉妬のせいで急遽、街歩きが午前中になったので、午後に東洋の文字の勉強の続きをする事に。ここからはルークも加わった。ルークは筆の使い方からだ。
「う〜ん……。なかなか難しいな」
ルークは筆に悪戦苦闘した。
「筆圧のコントロールが肝だ」
と、ローゼンがアドバイスする。彼は最初にサクの筆の動きを細かく観察していたので、呑み込みが早かった。
「トン、スー、トン。最後はグッと返して、スッと抜く」
サクから教わったとおりにオノマトペを交えながら筆を動かして、「一」を書いてみせるローゼン。最後の止めで出来る三角の形は筆先で意図的に作るのとは違う、古いやり方だ。グッと押さえて斜め上へすべらすと、軽く斜め下へ返す。
「最初から最後まで同じ力加減でなく、間は少し抜くんだ」
「ふーん……、なるほど」
腕組みして見るルーク。
「これが出来るようになると、だいぶ違ってくるよ? 頑張って」
と、サクが励ます。
休憩がてらにローゼンが自分の名前を漢字で書いた。この間、サクに考えてもらったものだ。漢字の横にカタカナで読み仮名も振る。
香羅矢 龐善
悠海 桜久弥
サクは本名に ひらがなで読み仮名を振った。
『なんだ、ルークにも教えるのか……』
サクが本名を書いたので、ローゼンはちょっと面白くない。サクを独占したい気持ちからだ。ただ、サクは母親の言うとおり、自分の直感に基づいて本名を公開したに過ぎない。
「この間、ローゼンにも教えたんだけどぉ、これが わたしの本名」
「へー……。あれ? 家名は『美月』じゃないの?」
「わたしは美月の跡継ぎじゃないから」
説明が長くなるので、簡単に話すサク。ローゼンが要領よく前に聞いていた事を代わりに説明する。
「なんでも、和の国では、名前が性格や人生を表すと考えている人もいるそうだ。出世したり、成長に応じて改名する人もいるらしいぞ? サクは成長に合わせて二回改名していて、それが最後の名前になるそうだ」
「へー。こっちじゃ、犯罪者が名前を変えて身を隠すイメージしかないけどな」
「そうゆうのは、どこの国も同じかも」
ルークの言う事に苦笑いするサク。
「でも、いいなぁ……。漢字の名前、カッコいい。俺も漢字の名前ほしいな」
と、無邪気にルークが言うので、サクが応じる。
「じゃあ、考えてみよっか?」
「人によっては いい名前が出るとは限らないらしいぞ?」
と、ローゼンがからかう。
「えっ? なんだよ、それ。からかってる? 兄さん」
「実は、ホントにそうなんだけどぉ……」
サクにそう言われて、ルークが「えー!」と、驚く。
「まぁ、やってみない事には分からないのでぇ……」
ローゼンが察し良く漢字の辞書を出して来て、笑顔でサクに渡し、サクも笑顔で「ありがとう」と受け取る。二人の何気ない遣り取りに『ホント、仲いいなぁ……』と、ルークは微笑ましく思うと同時に、二人の関係性が羨ましい。
『俺もこんな関係を築ける相手がほしいな』
サクが辞書のページをめくり、探す。「流」の字はすぐに決まったが、次で迷ったので、両方を書いてみた。
香羅矢 流来
香羅矢 流久
「二つもある」
と、言うルークに、サクが答える。
「なんか、ちょっと迷ったんだよねぇ。もしかしたら、ルークさん、過渡期かも」
「過渡期?」と、ルーク。
「成長の途中という事かい?」と、ローゼン。
「うん。ルークさんは直感で、どっちがいいと思う?」
サクに訊かれたルークは「え?」と、少し迷った後、「こっちかなぁ?」と、『流久』の方を指差した。
「やっぱり」と、あごをつまんで、つぶやくサク。
『この字は「良き運気の流れが来る」から「良き運気の流れは久しく続かん」。すなわち、運気が安定してくるゆうところか。ルークさんは今までの強引さが消えて、これからは謙虚な人柄になっていくわ』
と、サクは予感するが、ローゼンのように完全な現在形でないので、あえて言わない。
「これからは、こっちの新しい名前を使ってね?」
「うん」
サクは紙に書いた『香羅矢 流久』の方を指差してルークに勧めると、こんな事を言った。
「こっちの方がローゼンとの相性もいいなぁ。二人は大人になってからの方が兄弟らしくなるね」
「え? え? どういう事?」
不思議がるルークに、サクが分かりやすく話す。
「子供の頃はしっくりこなかったのがぁ、大人になって お互いに成長したから、仲良くやっていけるって事」
「サク先生の占いは当たるぞ?」
と、笑うローゼンにサクが否定する。
「占い師じゃないよぉ。なんとなく思った事を ゆっただけだから、二人ともあまり気にしないでね」
ルークは自分の古い名前と新しい名前とを書き連ねた紙を手に取って、見つめる。彼の目には、自分たちの世界にはない東洋の文字がとても神秘的なものに映った。
「なんだか、不思議だなぁ。たかが名前のはずなのに……。でも、いい名前のような気がするよ。ありがとう、サク」
「どういたしまして」
自分たちの名前を見せ合って話すローゼンとルークの笑顔を見て、
『兄弟が仲良うなるって、嬉しいなぁ』
サクは温かな気持ちになるのだった。
この日の夕飯をローゼンとルークと共にして、宿まで送ってもらったサク。一息ついて、ソファーでくつろいでいると、珍しく姉たちが早く帰って来た。
『あれ? 今日は遅うなるはず……』
帰って来るなり、輝夜が姉の美夜に向かって声を荒げた。
「なんだ、あれは!」
「うっさいわねー! だから、謝ったじゃない!」
「一度や二度じゃない。たるんでるぞ、美夜!」
「まぁ、まぁ、お二人さん!」
長女の華夜が美夜と輝夜の喧嘩を収めようとするが、収拾が付かない。
「男に相手にされないからって、仕事を疎かにするな!」
「そっちだって、ヒカル、ヒカルって、浮気男を追いかけ回してる暇があるんだったら、練習すればァ?」
「なんだと !?」
売り言葉に買い言葉になる輝夜と美夜を叱る華夜だったが、
「ちょっと二人ともいいかげんにしなさい!」
「アアッ!?」美夜、輝夜が二人して華夜を睨む。
「何よ。年下男とちょっといい仲になってるからって調子に乗ってんじゃないわよ!」
「うむ」
「な、なんですってぇ〜ッ!? カヲルは関係ないでしょ!」
華夜までブチ切れた。
華夜「大体あんたは生意気なのよ!」
美夜「あんたが頼りないから、あたしが仕切ってやってんのよ! ありがたく思いな!」
輝夜「どっちもどっちだ!」
しばらく言い合いが続いた後、美夜は「飲み直しだ!」、輝夜は「素振りしてくる!」と、二人とも出て行った。
「ど、どうしたの?」
あまりの剣幕に驚き、しばらく茫然としていたサクだったが、華夜に事の次第を訊ねる。最近は兄のレイと郷里の言葉で話す機会が増えてきたが、姉たちとは まだ大陸の言葉で話している。
ソファーに座った華夜が額に手を当てて、溜め息を吐いて言う。
「ハァ……。この頃、美夜、失敗が多くて。とりあえず、わたしや輝夜でフォローしてきたんだけど、とうとう輝夜が切れちゃって」
「原因は何?」
「まぁ、恋の悩みね。ルークが急に心変わりしたのもショックだったみたいなんだけど……、ああ! サクは気にしなくていいからね。ルークの事は大して気がなかったのに、向こうの気が変わった事が、捨てられた感じに思えて気に入らないのよ。プライド高いから」
「う、うん。それは分かる……」
本来、ルークの事は美夜が怒るような事ではない。だが、それでも根に持つのが美夜である。愛より自分のプライドが大事だ。
「おまけに、ローゼンの事を諦めてない上に、ローゼンは美夜に全く興味がないから、不貞腐れているのよ」
と、説明する華夜だが、
『要は、ローゼンもルークもサクに取られて悔しいのよね。その上、ローゼンとサクの仲がいい感じになってきて焦ってるのもあるかも』
と、あえて、そこまでは言わない。
『仕事に影響が出よるんやぁ。困ったなぁ……』
サクは事態の深刻さに頭を悩ませる。
「なんとかならないかなぁ……」
「まぁ、無理ね。自分の思い通りになれば、機嫌が直るんだろうけど、こればっかりは相手の気持ちの問題もあるから、美夜の思い通りというわけにはいかないわね……」
サクも華夜も二人して頬杖突いて、ため息をついていた。
さっきまでカラヤ兄弟を微笑ましく眺めていたのに、こっちの姉妹がまさかの修羅場であった。しかし、ローゼンとルークのカラヤ兄弟も、つい最近、西部から西南部へ移動する船の中でサクを巡って大喧嘩をしている事をサクは知らない。
『やっぱり、ローゼンと美夜お姉ちゃんがくっついてくれた方がええんかなぁ……。でも、ローゼンの気持ちもあるしぃ、難しいなぁ。なんで、こなに みんなが困っとる時に限って、千里眼で見えんのやろ……』
みんなにとっての最善が見つからず、もどかしい思いをするサクだった。




