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10-ⅲ)秘められし言霊〜花言葉

 ローゼンたちが客人として招かれた夜の宴会では西部の領主である王の他に、その王子たちが同席した。

 主人である王が上座に、その左手に王子たちが、右手にローゼンたちが列席している。ローゼンは主賓なので、最も上座に近い席である。サクはローゼンの希望で同じテーブルに着き、ローゼンの右隣に引っ付いて座らされていた。あとは上座に近い順からルーク、レイ、踊り子姉妹、モー、天堂兄弟と続く。

 美夜たち踊り子姉妹が舞を披露する。

「王様! 上手に踊れたら、ギャラをいっぱい下さいな?」

「こら、なんて事を! 無礼にも程があるぞ!」

 と、レイが美夜たちをたしなめるが、

「ああ、良い、良い。舞を見せてもらおう」

 西の王はワイングラス片手に上機嫌で応じた。

 華夜美夜、輝夜の妖艶な舞にうっとりする反面、アクロバットな動きに王や王子たちだけでなく、給仕係たちも「おお!」「うわぁ!」と驚きの声を上げる。

 給仕係の女が美人だったので、ルークがヘラヘラと笑っていると、美夜の手からナイフが飛んで来る。ルークの顔をれの所で通り過ぎ、後ろの柱に突き刺さった。

「フンッ!」と、ご機嫌斜めの美夜。

「ヒーッ……」と、顔から血の気が引いて青くなるルーク。

『バカだな』と、次席の弟を白い目でみるローゼン。

「美夜お姉ちゃん、プライド高いから、ルークさんに気がなくても、怒っちゃうんだよね〜」

 と、姉の性格を知るサクがローゼンに耳打ちする。ローゼンは人の顔の雰囲気からして性格を察しているので、

「ハハハ……。だろうな」と、苦笑いで答える。

 王も王子たちも、美夜のナイフさばきで一気に酒や踊り子の美しさへの酔いが醒めた気分だ。

「舞もさることながら、見事なナイフ捌きで……」

 と、王子の一人が言うと、他の王子が思い出したように言う。

「そうだ! ローゼン殿。明日あすは剣の御指南を」

「わたしは是非、ご自慢の弓矢の腕前を見とうございます」

 などと、王子たちから武芸の指南をせがまれるローゼン。王子たちも謁見の間で会った姫と同様に、貴族ですらないローゼンを呼び捨てにせず、敬称を付けるほど彼に心酔している。

 ローゼンは

『俺、弓矢の腕前を自慢した覚えはないんだけどな……』と、思いつつ、

「弱りましたなぁ……」と、頭をかき、

「わたくしは玄人ではありませんので、うまくは教えられませんよ?」

 と、言い訳する。

「なに、構いませんよ。太刀筋を見せて頂けるだけでも」

「そうです。誰も自分たちがローゼン殿のように巧くなるとは思っていませんよ。単なる珍しいもの見たさなんですから」

「天下一の武芸の腕前をこの目で見たいのですよ」

 王子たちがそう言うので、ローゼンは渋々、引き受ける。

「では、明日あす、少しだけ ご披露いたしましょう」

「おお! 楽しみだ」と、喜ぶ王子たち。

「ローゼンって、そんなに強いのぉ?」と、サクに訊かれ、

「どうかな?」と、はぐらかすローゼンだったが、隣からルークが話に割って入る。

「兄さんは子供の頃から武芸の達人たちから、みっちり仕込まれているからね。相当強いよ? カラヤの親戚も店の人足たちも、兄さんの武芸の腕前は天下一だと言っているよ」

 『ローゼンの武芸の腕前は天下一』という噂の出所は他でもない身内だった。これにはローゼンも目に手を当てて、

『身内が自慢してどうする。恥だ!』

 と、内心で嘆く。

「へー、そうなんだ〜」と、サク。彼女は激しい戦闘を目の当たりにしていないので、ピンと来ていない。カフェで絡んできた客を鯉口こいぐちを切って脅したり、人買いの女のみぞおちに一発喰らわせたり、ナルジートの剣を叩き落としたところぐらいしか見ていない。しかも、素人にはその抜刀の見事さが分かるはずもなく、ルークの言葉を信用するより他ないのである。

「もちろん、俺も仕込まれたよ」

 と、胸を張って『自分も凄い』と自慢するルークに

「お前はあまり真面目にやってないだろう」

 と、ローゼンが突っ込む。

 サクは夢の中であった子供時代のローゼンを思い出し、

「ローゼン、剣術のお稽古、本当にがんばったんだね」

 と、微笑んだ。どこか実感のあるサクの言葉にローゼンも夢の事を思い出して、思わずサクの両手を握り、

「もちろん、頑張ったよ……」

 と、サクの瞳を見つめる。今日のローゼンは何度もかなり踏み込んで距離を詰めてくるので、お芝居だと思っているサクでも だんだんと気恥ずかしくなってきて、顔を赤らめる。

 王が咳払いをしてローゼンに訊く。

「ところで、ローゼン」

「…ああ! はい。なんでございましょう」

 ドギマギと手を放して慌てて王の方を向くローゼン。

たびも当然、泊まっていくであろう?」

「はぁ。しかし、半年などと おっしゃらないで下さいまし」

「ハハハ。また、どうせ『仕事にならん』と言うのであろう。一週間でも長いと言われた事もあったな」

「ハハハ……、申し訳ございません」

「せめて、三泊はしてゆけ」

「ありがたく存じます」

 王とローゼンの遣り取りを聞いて、ルークの向こうの席のレイがワインを飲みながら、

『泊まりねぇ……』

 じろりと、ローゼンを睨んでいた。



 召使いの案内で客室へ向かうローゼンたち。モーと天堂兄弟は同室で、華夜、美夜、輝夜の三人が同室、ルークとレイはそれぞれに広い個室を割り当てられ、最後にローゼンとサクが同室で一番上等な客室を宛てがわれた。

 この部屋割りに異論があるのはレイやヒカルだけではない。サクも顔色を変えて後退あとずさりし、姉妹の後ろに隠れた。

 廊下でレイがローゼンの胸ぐらをつかんで、怒りが爆発寸前の抑え気味な口調で問い詰める。

「つまり、お前の目的は最初から “これ” だったのか……!」

「バ、バカを言うな。サクだけ同伴と言ったところで、レイだけは付いて来るだろうというのは織り込み済みだ。どの道、お前が許すわけないのは分かっている」

「じゃあ、この部屋割りはどういう事だよ」

「領主が勝手に気を利かせたんだ。部屋割りは変えてもらうよ」

「当たり前だ」

 やや残念そうに答えるローゼンの胸ぐらから、レイは手を放した。

 結局、「まだ、結婚前なので……」と言い訳して、部屋割りを変更してもらった。



「もう! 恋人役なんて二度と引き受けない」

 姉たちと同室にしてもらい、寝台の上に突っ伏して怒るサク。

「ローゼン、かわいそうね」と、笑う華夜に、

「うむ。かわいそう」と、輝夜が同調する。

「どこが?」と、起き上がって言うサクのおでこを美夜が人差し指で突く。

「あんたも、つくづく鈍いわね〜」

「うっ。なに?」

「まぁだ、ローゼンの好きな人が誰だか分かんないのぉ? あんた」

「え? 美夜お姉ちゃん、知ってるの?」

 サクの問いかけに姉たちは皆、「にやり」と意味深な笑みを浮かべる。

「えっ!? みんな知ってるのぉ? 誰? 誰? どんな人?」

 人の恋話コイバナと思って、無責任に興味津々で訊くサク。

「鏡を見れば分かるわよ?」

 と、美夜に言われて、サクは客室のドレッサーの鏡を覗き込むが、

『わたししか映ってない。わたしじゃ恋愛対象にはならないしぃ』と思い、

「ふ〜ん……」と腕組みし小首傾げて考え込んだ後、振り向いて姉たちに訊く。

「ねぇ、なんの謎かけ?」

 これには姉たちも相当に呆れた。

『ホンット、鈍いわねー……』蔑む目で見る美夜。

『かわいそうね、ローゼン……』溜め息つく華夜。

『サク、深く考え過ぎ……』仏頂面の輝夜。



 翌朝、食堂での朝食を終えた後、ヒカルとカヲルを捕まえて、こっそり訊ねるサク。

「あのね、ローゼンの好きな人って、誰なのか知らない?」

「ケッ! 知るかよ。そんなの」

「ローゼンさんを差し置いて、僕の口からはぁ〜……」

 知らないとシラを切るヒカルに、言えないと口をつぐむカヲル。二人とも知っている風だが、教えてはくれない。

「でも、サクはなんで知りたいの?」

 と、カヲルが理由を訊く。

「だってぇ、どんな人か分かれば、アドバイスしやすいと思って。ローゼンを応援したいじゃない?」

「ハハ、そういう事……。やっぱり、ローゼンさんの口から直接聞いた方がいいと思うよ」

 と、カヲルが助言すると、サクは気まずそうに言う。

「えー。無理だよぉ。恋愛が旨くいっていない人から直接訊くなんて……」

「はァ? だったら訊くな!」

 と、ヒカルは機嫌が悪い。怒鳴られて驚いたサクは「ビクッ」として、一瞬、目をつぶる。

「じゃあ、僕たちはローゼンさんたちの武芸の稽古を見に、外の練習場へ行って来るよ」

 ヒカルの背中を押して、カヲルはそそくさと その場を去った。

「ケチ。なんで、みんな教えてくれないの?」

 サクは仲間外れにされた気分で、ふくれっ面をした。



 ローゼンとレイが木太刀で激しく打ち合う。レイは昨夜ゆうべの部屋割りの一件でかなり機嫌が悪いので、殺気立っている。

 両者の太刀のあまりの早さと迫力に圧倒される王子たち。ヒカルとカヲルも二人の本気に近い打ち合いを目にした事はなかったので、驚愕して言葉少なである。

「レベル…、げぇな」

「……そうだな」

「兄さん並みに強いのが、もう一人いたのか。世の中、恐ろしいな……」

 と、ルークはルークで、レイの技量に驚いて青い顔をする。

 見本を見せたローゼンがヒカルに年の近い15歳の第一王子ルスランの相手をさせる。

「ヒカル、遠慮するな。本気で行け」

「いいのかよ?」

「構わん」

「わたしも望むところだ」と、木太刀を構えるルスラン第一王子。

 弟の王子たちが「兄上、がんばれ!」「負けるな!」と、声援を送る。

 いざ、打ち合ってみると、温室育ちの王子様かと思いきや、なかなか強い。ヒカルもそのうち本気になってきた。終いには足で土を蹴り上げて目潰しをしてくるヒカルに、目をやられたルスラン王子が怒鳴る。

「卑怯な!」

 ヒカルの木太刀がルスラン王子をとらえたと思われたその刹那、ローゼンの木太刀がすかさずヒカルの木太刀を払いけて、「勝負あった!」と、制止の声を上げた。

「ルスラン王子。これが実戦というものです」

 侍従が持って来た水で目を洗い終え、

「なんと粗野な」と憤るルスラン第一王子にローゼンが続ける。

「しかし、実際の戦場はもっとひどいものなのです。生き残る為には、手段に綺麗も汚いもありません。降り注ぐのは何も武器だけじゃない。土や砂をかけられるどころか、汚物を落とされる事だってある。さすがに、5年前の戦ではそれはなかったようですが、いずれにせよ、戦とは血腥ちなまぐさいものなのです」

 木太刀を地面に突き立てて持つローゼンの眼が厳しいものになる。

「敵から否応無しに攻め込まれる場合はともかく、基本的に戦はしない事です。しかも、戦をするか、しないかを決めるのは国王です。人にそんな事をさせるからには責任は重大であると、第一王子である あなたも肝に銘じておく事です」

「はい」と、ルスラン第一王子。

 ローゼンはさらに、王族相手に手厳しい事を言う。

「それに、後先考えずに、相手の挑発に乗るような軽率な行動も慎む事です。5年前の戦の敗因はそこにあります。なんの準備も勝算も無しに動くからです。負け戦に国民を巻き込むなど愚の骨頂。向こうが深追いせず、国境沿いの一部で済んだから良かったものの、下手をすれば、ご自分たちの命も落としていたところです」

 それは庶民のレイでも分かる。

『本格的な戦で負ければ、王族は皆殺しにされるからな』

 ローゼンの口からは、さらに深刻な現実が語られる。

「一国が敗れるとは、支配者が変わるだけではありません。戦勝国の思惑次第では敗戦国の国民は奴隷にされる場合もあるのです。戦で多大な犠牲を払った上に、生き残っても自由さえも奪われる」

 ローゼンの説明を受ける王子たちを

『この温室育ちのガキ共に、その悲惨さが本気で分かってんのかな』

 冷ややかな眼で眺めるレイは木太刀を肩に置き、鼻息をく。

 ローゼンは眉間の皺を戻す。

「それ故に、父君は悔いておられるのですよ。一介の商人の戯言たわごとにまで耳を傾けるほどに」

 当時、10歳だったルスラン王子の記憶にも、敗戦直後の父王が狼狽うろたえた様子が残っている。父王が変わったのはその後だ。ローゼンを城に召喚して敗因を聞いてからというもの、国政に力を入れるようになり、

『父上が頼もしくなった……』

 そう感じるようになった。

 ルスラン王子はローゼンの言葉に耳を傾ける。

「父君の良い所は、失敗した後に人の意見を聞く耳を持った事です」

「そう思います」しみじみと うなずくルスラン王子。

「失敗から学ばず、他人ひと所為せいにして、負けたのは家臣の所為だなどと言っていたら、今の西部はなかったと思います」

 ルスラン王子の言葉に静かにうなずくローゼン。弟の王子たちはローゼン相手にしっかり受け答えする兄を憧れの目で見る。

「その事がお分かりになっているのなら、西部は安泰ですね」

 ローゼンは係の者に木太刀を返すと、ルスラン王子に向き直る。

「随分と話がれましたが、普段の稽古では目潰しなど要りませんからね。生き死にが係った瀬戸際では、あのような戦法もあるのだという事を知っておいて下されば良いのです」

「いい勉強になりました」

 商人であるローゼンから王者の風格を感じ取り、ルスラン第一王子を初め王子たちは気圧けおされて、ローゼンの話を終始、神妙な面持ちで聴いていた。

「……しかし、ローゼン殿は本当に商人なのですか? まるで、王族のような事を申される」と、ルスラン王子。

「ハハハ。商人といえど、カラヤは大所帯ゆえ、人を仕切る上で似たような考えになるのでしょう」

 そうローゼンは言うものの、ルスラン王子には

『商人というより、この御仁ならではの資質と経験から来るのだろうな。本物の王族よりも王族らしい』

 と、思える。

 射場いばに向かう前に、ローゼンが振り返る。

「ああ! そうだ。最後に、武力は弱い者を守る為であって、暴走させてはならないという事も忘れないで下さい」

「はい」

 と、ルスラン王子はローゼンの言葉に素直にうなずいた。

 王子たちと共に侍従らまで一緒になって、ローゼンに心酔する様を傍らで見ていたヒカルとカヲルが ささやき合う。

「……あいつ、商人だよな?」

「た、たぶん……」

 レイは思った。

『先祖の呪いだな……』



 その頃、サクは姫君たちに誘われて、姉たちやモーと庭園を観に行っていた。春の花々で美しく彩られた庭園はあまりに広く、

「迷子になりそう……」

 と、サクがつぶやくほどだった。

 庭園を散策していて、変わった形の花を見つけた。

「あ! 可愛い〜」

 思わず声を上げたサク。



 姫君たちに案内してもらい、武術の練習場へ様子を見に来たレイの妹たちとモー。

「あらぁ? おにィたち、やってる、やってるぅ〜」

 と、手をかざして見る美夜。

「兄さんお得意の弓矢ね」

 と、合わせた両手を頬に当てて首を傾けて微笑む華夜。

あにィーッ!! 来たぞ!」

 輝夜が空気を読まずに大声で、弓を引くレイに声掛けするが、

「アアッ!」と返事しながらレイが矢を発射する。

 矢は的のど真ん中に命中した。

「おお! お見事!」

「素晴らしい集中力だ」

 などと王子たちが拍手する。姫たちも顔の美しいレイの意外な一面に「まぁ……!」と驚嘆する。

「兄、これしきの事で集中力、切れない」

 歩み寄って、ヒカルたちの横に並び、さも当然のように言う輝夜。

「レイさんとローゼンさん、どっちが巧いかな?」と、カヲル。

「どうだろうなぁ? 剣は互角だったけど」と、ヒカル。

 サクが兄のレイに近寄って、姫たちからもらった珍しい花を見せに行く。

「ねぇねぇ、お兄ちゃん。見て、このお花」

「なんだ? 変わった形の花だな」

「チューリップだな」と、ローゼンが花の名前を言う。

「ローゼン、知ってるの?」と、サク。

「ああ。以前、王様に庭園を見せて頂いた時にね」

「ふ〜ん」

「それにしても、君はそういう淡い色が好きだね」

「うん」

 笑顔で返事するサクが手にしている一輪のチューリップはピンク色だ。普段の街歩きでサクの好みを熟知しているローゼンに

「君らしくて、似合っているよ」

 と、褒められたサクは

「そ、そうかなぁ……」と、照れて うつむいてしまう。

 婚約の決まったエミネ姫が言う。

「チューリップには『博愛』とか『思いやり』という花言葉がありますのよ?」

「なんだか、ローゼンみたい」と言うサクに、

「いや。むしろ、君の性格に合ってると思うけど」と、ローゼン。

「でも ──」と、エミネ姫が続ける。

「花の色によって別の意味もあるんです。例えば、赤いチューリップには『愛の告白』と『真実の愛』。白だと『失恋』と『新しい愛』。黄色にも『正直』『名声』というい意味もあれば、『望みのない恋』『報われぬ恋』という悪い意味もあるの」

 エミネ姫はピンク色のチューリップ一輪を持つサクの顔を見て言う。

「そして、ピンク色のチューリップには『愛の芽生え』と『誠実な愛』という意味が ──」

 エミネ姫と年の近い別の姫は「本数にも意味があるのよ?」と付け加え、

「1本のチューリップは ──」

 ローゼンとサクの顔を見て

「あなたが私の運命の人!」

 と、赤らめた両頬を押さえて笑う。

「今のサク様にぴったりですわね。改めて、ローゼン様からプレゼントして頂くといいわ?」

 と、婚約中のエミネ姫がこれまた余計な事を言う。

「……………!」

 ローゼンと目が合ったサクはチューリップを握ったまま顔を真っ赤にし、ローゼンは笑顔で

『今日はいい事を聞いた!』と思い、

「さぁて! ここは一つ、俺の『運命のひと』の前でいいところを見せようかな?」

 と張り切って、射場いばに立った。

「兄さぁん! 頑張れよー!」と、ルーク。

「張り切り過ぎると、失敗するぞー!」と、意地悪く言うレイ。

 ローゼンが弓を引き切ったところで、

「ローゼン! サクがキスしてやるってよ!」

 ヒカルが横槍を入れる。サクは何も言ってないのに勝手にヒカルに嘘を言われて、

「えッ!?」と、驚き、

「なにッ!?」と、気が散ったローゼンの顔だけがサクの方を向く。

 ローゼンの手から矢が放れ、一瞬「ザマーミロ!」と、ヒカル。

 矢がれた。と、思われたが、矢は的の中心を「ズバーンッ!」と見事に射抜いた。

 誰もが外れると思ったので、一瞬、皆、呆然としてしまう。

『……あ…、当たった……』

 程なく、王子や姫たち、侍従、侍女らから「き、奇跡〜」と、拍手が起こる。

「なッ!?」と、驚くヒカルに

「俺がそんな嘘に引っ掛かると思ったか! 気が散ると思ったんだろうが、当てが外れたな」

 ローゼン、嫌味を言う。

「くっそーッ!! こんなもん、まぐれ当たりだ!」と、地団駄踏んで悔しがるヒカル。

「ローゼンさん、運が強いな〜」

 卑怯な手で妨害しようとして失敗したヒカルを横目で見ながら、カヲルが言う。

 華夜美夜、輝夜も『まぐれね』と、思っている。

 しかし、サクには射的の事など、もう、どうでも良かった。

『もう! みんな、人の事からかって!』

 ピンク色のチューリップの花を右ほほに当てたサクはすっかりご機嫌を損ねていたのだった。


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