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7-ⅲ)一途な想い〜すれ違い

 あの宴の後、サクはローゼンへの大きな借りで悩み、ローゼンはレイにサクとの街歩きや夜の語り聞かせをさせてもらえず落ち込んでいたわけだが、落ち込んでいたのは その二人だけではない。

 失恋したヒカルの為にカヲルは少しでも気分転換させようと、踊り子の華夜、美夜、輝夜の公演に誘った。このころのサクがローゼンへの大きな借りで悩んでいたので、それを察したレイと行動を共にする事が多く、天堂兄弟は暇を持て余していた。

 広場の舞台に近い最前列を確保した天堂兄弟。そこへローゼンの弟ルークも居合わせる。もちろん、ルークは美夜を目当てにちょくちょく観に来ている。

「あれ〜? ルークさんじゃないですか」

 と、カヲルがルークに声をかける。

「ああ、君たちも来てたのか。おや? ヒカルは元気ないな。どうしたんだい?」

 元気のないヒカルに代わり、カヲルが「実は ──」と、ルークに事情を話す。

「ヒカル、サクの事が好きだったんだけど、この間の宴でローゼンさんとキスしてたから、それがショックで……」

「ああ! なんだ、そんな事か」

 と、笑うルークにカヲルが怒る。

「何もそんな事はないでしょう! ひどいですよ、ルークさん !!」

「いや〜、ごめん、ごめん」

 と、ルークは謝り、真相を明かす。

「あれはさ、兄さんのハッタリだよ」

「は、ハッタリ !?」と、声をそろえて驚く天堂兄弟。

「この話、サクには内緒にしててくれよ? 俺も兄さんに口止めされてるから」

 ルークの言葉に、思わず互いの顔を見合わせるカヲルとヒカル。

 ルークが詳細を語る。

「兄さんとしては、サクに群がってくる蛆虫共うじむしどもを追い払いたいっていう思惑があるものの、いきなりキスして泣かれたくないもんだから、サクには “おまじない” だって嘘をついて目を閉じてもらってさ。その間に、キスした振りをして見せたのさ」

 真相を知って啞然とする天堂兄弟にルークが指摘する。

「考えても見ろよ。キスまでしておいて、相手の男を “お兄ちゃん” 扱いするかい? 普通」

「ま、まぁ、確かに……」と、カヲル。

「て、事はだ ──」

 ヒカル、両の拳をギュッと握って

「俺、まだ失恋してねーじゃん !!」

 急に元気になった。

「良かったな〜、ヒカルぅ」

 と、カヲルも喜ぶ。

『敵に塩を送ったかなぁ……』

 一瞬、悔やんだルークだったが、

『まぁ、兄さんの事だから、これぐらいでは怒らないか』

 と、思い直した。



 しかし、ヒカルは知らなかった。この日からローゼンとサクが街歩きを再開していた事を。

 夢で見たとおりの事が起こり、魔法にでもかかったようにローゼンに付いて宿を出たサク。ランチを食べ終えたところでローゼンに訊く。

「ローゼンはお姉ちゃんたちの踊り、観に行かないの?」

「俺はいいよ。踊り子なんて子供の頃に散々見飽きてるからさ。君は観に行かないのかい?」

 サクは「行けない」と答えると、

「人が大勢集まる所は、どんくさい わたしには危ないから。お兄ちゃんにも止められてる」

 と、訳を言う。それを聞いて、

『確かに、サクのような華奢な子が密集した所へ行くのは危ないな。押し潰されたり、痴漢に遭う恐れがある』

 レイの心配を察したローゼンは一緒に料理店を出た後、広場に近い宿を見つけて、眺めのいい部屋を一部屋押さえた。

 大きな窓から広場の舞台がよく見える。今、舞台では芝居の真っ最中だった。

 ローゼンがテキパキとサイドテーブルや椅子を窓辺に移動させる。

 先に下で注文しておいたドリンクが部屋に届き、それをローゼンが受け取る。

 窓辺に座って芝居を眺めるサクに、ローゼンがニコリと笑ってドリンクの入ったグラスを そっと差し出す。

「あ、ありがとう……」

 と、ちょっと戸惑いながら、サクは受け取り、一口飲んだ。

『ローゼンって、本当に親切だなぁ。飲み物まで持って来てくれて』

 と、感心するものの、

『普通こういうのって、女の人が男の人にしてあげる事なのにぃ。わたし、全ッ然、気が利かないなぁ……』

 一緒に窓辺に座ってドリンクを飲むローゼンの横顔を見ながら、自分の至らなさに落ち込むサク。厳しい現実に目を向けるように、視線を窓の外の舞台へ戻す。舞台上では お姫様役が王子様役の前で跪いている。

『どの国の話を聞いても、女がかしずくのが常識。かしずくような男は女を騙して金品を貢がせる詐欺師っていうのが、世間一般によくある話だけどぉ……』

 再びローゼンの横顔を見る。

『でも、ローゼンはわたしに何も求めない。きっと、ローゼンから見て、わたしは子供にしか見えないんだ。そういう意味では、とても安全。余計な心配しなくてすむから、安心だなぁ……』

 と、とんだ勘違いをしているサク。その視線に気付いたのか、ローゼンが急にサクの顔を「ん?」と、見るので、

「な、なんでもない……」

 と、気まずい思いをしつつ、ごまかし、窓の外へ視線をらすサク。その横顔を見て、

『まだ、宴での借りを気にしてるのか。律義だなぁ。俺はサクが幸せなら、それでいいのに……』

 と、ローゼンも勘違いしていた。



 芝居が終わると、楽器の音が鳴り響き始めた。美月の踊り子姉妹は地元楽団であったり、旅の楽団と共演して踊る事が多い。

 音楽と共に三人はヒラリと宙を舞って舞台へ上がる。そのアクロバットな動きに歓声が上がる。

「うわぁ───ッ!!」

 拍手も鳴り響く。

 踊りの巧さに加えて、三人の美貌にも魅入られ、溜め息やら、口笛やら、歓声やらが ない混ぜになり、熱狂を帯びる。

 輝夜はヒカルが観に来ているのを知り、張り切る。

 ルークは美夜に夢中だが、美夜は『また来てる』と呆れて、ルークの視線を無視シカトして踊る。

 カヲルは華夜美夜の両方に狂喜するが、華夜美夜共々、カヲルの事は眼中に無い。

 アクロバットな舞が一段落いちだんらくすると、美夜の独唱ソロが始まり、華夜と輝夜は曲に合わせた緩やかな動きで歌に彩りを添える。

 観衆は美しい恋の歌に酔いれた。



 広場に近い宿の窓辺からサクと共に舞台を観覧するローゼン。

『なるほどなぁ。最初に派手な演出で観客の心をつかんでおいて、後からじっくりと歌を聞かせる演出か。緩急つけて観る者を飽きさせない手法を取っているのか』

 などと分析を始める。

『これだけ人気もあれば、こりゃ、儲かるな。場所代と衣装代と楽団への支払いも要るだろうが、主催者側からの出演料やファンからのプレゼントも結構ありそうだな』

 踊り子姉妹の実入りに考えが及び、しまいには

『あの人気と知名度は使える。うちで扱ってる木綿コットンシルクで服を作らせ、それに合わせた宝飾品ジュエリーも作らせよう。そうだ! 靴もいる。これも新たに作らせよう。そして、その新作をあいつらに着せて宣伝してもらえば、ガッポリだな……』

 と、思わずニヤリと笑みをこぼす。

 つい、商人らしい事を考えてしまい、そんな自分に気付いて『いかん、いかん』と思わず、首を横に振って、仕事感覚を忘れようとする。

 サイドテーブルを挟んで座るサクがパチパチと楽しそうに拍手するのを見て、嬉しくなり、思わず顔がほころぶローゼンだった。



 美月姉妹が舞台を終えて、観客にお辞儀している。ふと、輝夜がサクがいる事に気付いて、「サクぅ〜!!」と手を振った。華夜美夜も気付いて手を振ってくれる。サクも窓から笑顔で手を振って答えた。

 その様子を見て驚いたのは天堂兄弟とルーク。

「なッ!? なんでローゼンの奴と あんなとこに居んだよ!」

 と、ヒカルはショックを受けて両手で頭を抱える。

「なんだかんだ言っても、兄さん旨くやってるなぁ」

 と、頭をかくルーク。

「いいなぁ。僕も華夜さん、美夜さんとデートしたぁい……」

 と、低い声で羨ましげにカヲル。

 ちょっと口の片端を吊り上げた人の悪い笑みを浮かべて、ローゼンが弟のルークや天堂兄弟に軽く手を挙げてみせる。後から気付いたサクも彼らに笑顔で手を振る。

「サクの無邪気な笑顔はいいとして、ローゼンのあの笑い方、ムカツクな」

「勝ち誇ったような顔だねぇ〜」

 ローゼンの笑みにヒカルは神経を逆撫でされ、カヲルも嫌味を言う。

「兄さん、彼女には とことん甘いなぁ。わざわざ見晴らしのいい部屋を押さえるとは。兄さんが あんなに女に貢ぐタイプとは思わなかったよ」

 ローゼンとサクに手を振った後、呆れたように言うルーク。

「え? そうなんですか?」

「女に甘いのは元々じゃないのかよ?」

 カヲルとヒカルが意外そうに訊く。

「いや〜、とんでもない。どっちかって言うと、覚めた目で女を見てて、女相手であっても容赦ないとまでは言わないが、けっこう厳しいとこはあるよ?」

 そうルークに言われて、サクにいつもデレデレしてるローゼンのイメージしかないカヲルは「い、意外ですね」と言う。

 ヒカルはローゼンが踊り子の姉妹たちには説教する事があるのを思い出す。

「いや。よく考えたら、そうかもな。踊り子の姉ちゃんたちには手厳しいこと言うよな、あいつ」

「男でも女でも人を見て対応を変えるとこはあるからね、兄さんは」

 と、ルークは兄ローゼンの事をそう評する。

「それにしても、いつもあれだけ甘々って事は、サクの事がよっぽど好きなんだなぁ、兄さんは。こりゃ、ヒカルは うかうかしてられないぞ?」

「ローゼンさんは “お兄ちゃん” 扱いとは言っても、それだけ距離を縮められた分、一歩リードだよな」

「ぐぬぅッ……」

 ルークとカヲルに現状を指摘されて焦るヒカル。一条ひとすじの光明が消えるか否かはヒカル次第と言ったところである。


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