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白い燕  作者: 雪の花
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鹿王の宮

三人は中つ島に上陸し、洗練され何一つ無駄のない雰囲気を醸し出しているヒバ製の宮殿の前に立っていた。数寄屋造りのその建物は、来訪者を拒んでいるようにも感じられた。


カランコロンと竹の呼び鈴が合わさる音がし、宮殿の中から出てきたのは凛とした白鹿だった。

「あなた方は誰ですか?何の御用でこちらにいらしたのですか?ここを鹿王の宮とご承知か?」

白鹿は、たて続けにまくしたてた。


「はじめまして、あなたが鹿王さまですか?」

国王が遠慮がちに、素っ気ない白鹿に聞いた。

「違います、私は鹿王さまの侍女で、身の回りのお世話をしています」

その言葉を聞いて納得した国王が、自分が彼の甥であり、お会いしたい旨を伝えた。

「かしこまりました。ご主人様に伺ってきましょう」

白鹿は宮殿の中には入らず、四本の足で沼の水の上を弧を描いて飛ぶように消えて行った。


「なんというか・・・冷酷さを感じる鹿だなあ」

阿王がぽつりと呟くと、

「確かにねえ・・・わらわは背筋がゾクッとした」

「へええ、香出でもそんなことがあるんだね」

「阿王はさ、びびってたでしょ」

「そんなことはない、様子をみてただけさ」

「ふーん」

・・・・・

そのような会話の応酬がとめどなく繰り返された。


やれやれと思いながら、国王は辺りを警戒した。

わずかに背後から水音がしたので、振り返ってみると、そこには自分によく似た大柄の男が立っていた。

「もしかして・・・叔父上の鹿王さまでしょうか?」


国王の発した言葉に反応した阿王と香出は首だけ動かした。

「めっちゃくちゃ似てる。ちょっと年を重ねた国王に増し増しで精悍さを足した感じ」

「まさにな・・・俺には全く似てない・・・」

「いや、武術を極めている的な感じは、なんか阿王に似てるよね」


鹿王は国王に手を伸ばし、肩を叩いた。

「ようこそ、国王に・・・阿王・・・あとは桂の木の妖怪かな・・・」

「叔父上、私たちのことを覚えておいでなのですか?」

「ああ、誕生した時に兄の宮を訪問したからね。その時の面影がそのまま残っているから、すぐに分かった」

阿王と香出が駆け寄って来て、挨拶をした。

「叔父上、阿王です」

「わらわは香出と申します」

「いらっしゃい、兄からの手紙で詳細は聞いているよ。大きくなったんだなあ、年月が経つのは早いものだ。三人とも、さあ、宮殿の中へお入りなさい。珀李(はくり)が宴の用意をしている。珀李にはもう会っているね。私の侍女だ」

「珀李さんとおっしゃるんですね、いつからいるんですか?」

「彼女は私の婚約者だった紀女(きひめ)の友人だ。結婚の祝いに来たのだが、紀女があんなことになってしまって・・・ああ、ここで長話はいけない。さあ、中でおいおいお話しょう」


三人は、鹿王の後について玄関を入り、長廊下を進み、客間へと入って行った。

中に入ってみると、高い天上に飾り棚には上品な白磁の壺がいくつも飾られ、磨かれたヒバの床に置かれた大きな花瓶には大輪の百合の花が爽やかな芳香を放っていた。中央にある応接台は大理石でできていて、すでに料理が並んでいた。

だが、それは果たして料理と言ってよいのか・・・食べ物といってよいのか・・・を見て、驚いたのは国王だけではなかったようで、あとの二人は目を丸くしていた。

「これって、卵?」

「なんの?」

「さあ?」

大きな皿の上には、白、黒、黄、青、赤、桃色のこぶしほどの卵が山積みされている。


「座りたまえ、長旅で疲れていることだろう」

三人は甚く疲れていたことを思い出し、鹿王の隣に国王が、反対側の席に阿王と香出が座り、一息ついた。


しずしずと色白のたおやかな女が、酒の入った壺と盃を銀盆にのせて持ってきた。

「ありがとう、珀李。ここはもういいから、先におやすみ」

「はい、ご主人様」

珀李は名残惜しそうに部屋を出て行った。それが卵を食べたかったからなのか、皆と話をしたかったからのなのかは分からない・・・。


「では、乾杯!」

鹿王がカチッカチッと盃を合わせてゆく。

「叔父上のご健勝を祈ります」

「うむ、国王も阿王もな。あ、香出どのも・・・」


大皿の上に身を乗り出した香出が卵を一つ掴んで、横にしたり縦にしたりしている。

「これって食べられるものですか?どうやって食べるのか教えて下さいませんか?」

「妖怪の卵なのさ、珀李が採って来てくれてね。飲み込んでもいいし、割って食べてもいいよ」

「いつも、こんな食事をされているのですか!偏っていませんか?」

国王が心配そうに切り出した。

「そんなこと考えたこともなかった。ずっとこれだからね・・・」

「ずっととは・・・珀李が来てからってことですよね?」

「ああ、そうだ」

「さきほどの話が気になって仕方がないのですが、詳しくお尋ねしてもかまいませんか?」

「もうずいぶん昔の話さ、お前達もこれから結婚するわけだし、私の話を聞いても損はなかろう」

香出は卵をそっと元に戻して、酒をすすった。

阿王はちらちらと叔父を見ては、自分が噂で聞いていた鹿王のイメージとはかなりかけ離れているなと、会った瞬間から思っていた。話では、婚約者を殺して、妾を囲い、酒池肉林三昧だと。


「あれはもう・・・15万年以上も昔のことだ。お前たちが生まれて、すぐのことだった。私にも天からの婚約者が来てね。若かったし、恋愛を夢見て、とても嬉しかったことをよおく覚えているよ」

鹿王は目尻に光るものを湛えて・・・目をつぶり・・・語り始めた。




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