裁判終結。証言よりも証拠です。
「裁判官。アメリーは記憶が混乱しているようです。体調も悪そうでしたのでこのまま別の証人を呼びたいと思います」
エタンが何事もなかったかのように裁判官に告げる。ふと見ると、弁護人席の後ろに座っていたクラディオンの取り巻きの一人が消えている。アメリーを捕まえに行ったのかもしれない。もしくは、今のうちに退散したのか。
万が一の為に家族席に座ってもらっていたモルガンに目配せをする。アメリーに危害を加えられていてはいけないからだ。モルガンは直ぐ様理解して退廷していった。
しばらくしてエモニエ男爵家のオレリーが入廷してきた。
「私は私の信念に置いて真実を述べることを誓います」
こちらは堂々としたものだ。私の信念とは何かはわからないが。
「私は特別室棟にある音楽室を出て歩いていた際にソフィーリア様にバケツの水をかけられました。そして、クラディオン殿下に話しかけるな、身分をわきまえろ、と言われました。
何が起こったのかと思いましたが、学園の皆さんや王妃殿下が素晴らしいと褒め称えるソフィーリア様は本当はこのような幼稚な嫌がらせをする狭量な方なんだと思いました」
これはまた酷い言い方である。何かソフィーリアに恨みでもあるのだろうか?あるとしたら、クラディオンの婚約者に選ばれてしまったことしか思いつかないが、まさかそれでここまでするだろうか。
そもそも男爵家では身分差があり過ぎてメルディレン侯爵家がどうとかではなく、カリーヌ妃が選ぶことは絶対にない。
「オレリーさん。その水をかけられた日というのはいつで、何時頃でしたか?」
レティシアが挙手をしたあと問いかけた。
「日にちは忘れましたが春先だったと思います。お昼の休憩が始まった頃でした」
「そうですか。でも、先程も申し上げたのですが、学園内で水浸しになった日はありませんでした」
オレリーがちらりとレティシアを見ると何とも言えない顔でにんまり笑った。
「当然です。音楽室は一階で、水に濡れたままでは昼からの授業に出られないと思い、急ぎ迎えの馬車を呼び、私が馬車の中で着替えている間に御者に掃除をさせました。だれかが通ってうっかり滑ってケガをしても困りますから。
私はこういった気遣いができるのですよ。何せ男爵家ですから、色々なことを使用人に混じってしますから使用人との仲も良好なので、御者は直ぐに掃除をしてくれました」
「ほらみろ!こういった女性もいるんだ!掃除をした人間なんて当てにならん!」
「不規則発言は認められません」
裁判官が静かにクラディオンを制する。
「御者は掃除道具をどこから調達したのでしょうか?」
レティシアが不思議そうに首を傾げる。
「近くに掃除用具入れがあるのを見つけたそうです。そこからバケツと雑巾を出して拭いたそうです」
「素晴らしい!嫌がらせをされたにもかかわらず先のことをよんで掃除まで指示するとは!それでは掃除担当も知ることはできませんね」
エタンが勝ち誇ったようにソフィーリアたちを見る。レティシアが溜息をつくと更にオレリーに問いかける。
「その御者の方は掃除道具を使った後きちんと片付けられましたか?」
「もちろんです!と言いたいところですが、掃除をして慌てて私のところに戻ってきた御者は間違ってバケツと雑巾を持ち帰ってしまったのです。それがこちらです」
その声に一人の男性が入ってきた。服装から見て御者だろう。バケツと雑巾を持っている。
「これがうちの御者が慌てて持ち帰ってしまった掃除に使った道具です。この後学園に返しに行こうと思います」
どこか誇らしげに見えるのだが。
「そうですか。そうなってくるとおかしな点が二点出てきます」
「まだグダグダと言いがかりをつけるのか!こんな完璧な証拠があるではないか!」
「不規則発言は認められません」
裁判官が静かにまたもクラディオン殿下を制する。
「まず始めに、学園内に職員と学園生以外が入ることができるのは行事の時。これは学園生が招待状を送った家族や婚約者などが招待状を提示して入ることができます。次は学園生が問題を起こして親が呼ばれた時、それから学園見学をしたいという入学前の方たちの見学要請です。
その場合は学園から通行証が送られてくるのでそれを持って通ります。それ以外の場合は例外なく通ることはできません」
「な、なんですの一体!!緊急事態なのだから通してもらっただけよ!」
「それはありません。命に関係することでもないのに、床が水浸しなのを拭きたいという理由で御者を通す門番はおりません。その場合は御者を入らせず、清掃担当部門に連絡し掃除を依頼します」
御者が慌てだす。
「きっと門番がよそ見をしていたのです!」
「では帰りはどうなりますか?通した覚えのない人間が学園内から出てきたら問いただすのではありませんか?」
「うるさい!屁理屈ばかり言いやがって!オレリー嬢は親切にも廊下を拭いたというのならその通りだ。門番は二人してサボっていたんだろう」
エタンは髪をかきむしりながら言っている。
「そうですか。わかりました。では次の点に移ります。これは四日前に連絡をいただいて話を聞きに行って知ったことですが、掃除担当者は作業が終わった後所定の位置に道具を戻すそうです。
その際に壊れたり、古くなったものに関しては、使用者が上司に報告し、新しいものを買ってもらったら古いものと交換するそうです。学園の運営費からもちろん払われるものですから備品を購入すれば必ずそのことがわかるように記録されています」
「だったらなんなんだ!」
エタンは更に頭を搔きむしっている。
「ですから、道具が減っていたら紛失届を出さなければなりません。新しいものを買ってもらわなければ仕事ができませんからね。ただ、ここ数年、紛失事案はありません。しかしながら、不思議なことに一週間前に、音楽室の近くの掃除用具入れからバケツと雑巾がなくなっていたそうです。これはどういったことでしょうか?」
「私が盗んだとでも言うの!!」
御者はガタガタ震えている。
「いいえ、ただ記録、証言、色々な面から不思議な事案だと申し上げているだけです。あなた方の言っていることは誓って正しいですか?」
「黙れ!!そんな記録があるなら持ってこい!でもきっとそれらは捏造されたものだ!そうに違いない!おまえたちが本当のことを言っているという証拠はあるのか!?」
「証拠ねえ。各年度毎に綴られた記録用紙を一部分だけ捏造するというのは逆に無理な話ではありませんか?」
裁判官がオレリーを見つめる。
「証人は退廷を。その証拠は証拠として認められません」
「そんな!私は私の真実を誓ったのです!嘘なんて言いません!」
「もう、結構ですよ。退廷してください」
これ以上この場に居させる方が不利であろうにエタンたちが動く気配がない。すると、
「おまえ!嘘をついたんだな!!僕がソフィーリアに傷つけられ悲しんでいる者たちに呼びかけた時に!」
クラディオンがオレリーを攻め立てる。
「不規則発言は認められません」
「うるさい!僕は騙されたんだ!一人でも悲しみ傷ついている者を癒したかったのに!僕の優しさに付け込んで盗みまで働いていたなんて!おまえのような人間の顔もみたくない!出て行け!」
「そ、そんな!クラディオン様!証拠があれば側妃にしてくださると、、、」
まさかの、愛するカロン以外に側妃候補がもういたとは。
「黙れ!そんなことは言っていない!しかも嘘の証拠を出されて僕が喜ぶとでも思ったか!!」
「不規則発言は認められません」
「うるさい!どっちしろおまえはもう僕たちの証人ではない消え失せろ!」
衛兵がオレリーを退廷させる。ざわめいていた法廷から不審の目がクラディオン側に向けられるのを感じた。
「裁判官、発言の許可を」
ルシールが挙手し裁判官の許可を得る。
「舞踏会の時にソフィーリア様に何かされた、と訴え出たのは6名だったと記憶しています。残りの4人からはまとめて話を聞きたいのでお呼びください」
エタンもポールも渋い顔をしている。
「どうしたんですか?証人を早く呼んでください」
「いない」
「はい?」
「いないと言ってるんだ!4人は辞退した!」
何ともいずれもやはり辞退したのか。侍女たちが仕入れた情報によると、どの家も懐事情が良くないとのことだった。
しかしながら、両親は真っ当で、このような嘘を娘につかせてまでお金を手に入れようと考えるような人柄ではないとのことだった。裁判に負ければ嫁ぎ先がなくなってしまう可能性もあるからだ。
娘の評判と家の評判を落としてまで手に入れたいお金ではないし、そんなことをしてまでクラディオンにつく必要もないと判断したのだろう。
アメリーの家が一番厄介だった。本人は真面目な性格で、学園の後にカフェで働いて家計の足しにしていた。父親はアルコール依存症で働きもせず家にいて、母親は幼い子どもの為に領地経営をしながら、家にいてもできる裁縫の仕事をしている。
アメリーには年の離れた弟がいるのだ。領地からの収益では賄えないくらい生活が逼迫しているのは高い酒ばかり買ってくる父親のせいだ。
最後に思い留まったアメリーに何かできることはあるだろうか、とソフィーリアは考えていた。あの走っていく後ろ姿が目から離れない。アメリーを追い込んたのはクラディオンだ。お金で虚偽の発言をする女性を釣ろうとしたのだから。それでもオレリー以外は思い留まった。オレリーに関してはお金ではないからあのような発言をしたのだ。
「では被告人側の証人は以上ですね?」
ルシールが確認する。
「いないものはいない!」
「そうですか。それでは裁判官。証人を呼んでもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「証人だと!ソフィーリア嬢の悪事を暴く裁判にそっちから証人などいないだろう!」
エタンが怒鳴ってくる。
「いいえ、勘違いが過ぎるのではありせんか?この裁判はソフィーリア様がカロンさんを含め嘘の証言で名誉毀損されたことと、それに伴ってクラディオン殿下から賠償金を支払うように強要されたこと、更にアルビン新聞社が捏造した記事を掲載したことにより、ソフィーリア様と私たち二人、並びにメルディレン侯爵家の名誉を傷つけ信頼を失墜させたことに対する裁判です。よってこちらにも当然証人が存在します」
エタンが黙って証人入口を見ている。そこへフルールとシルヴィが入ってきた。
「おまえたち!」
エタンの顔色がサッと変わった。
「嘘の証言をすれば罰せられるんだぞ!こちらを貶めるような嘘をつけば、おまえの家にしている援助金の額も下げるからな!」
エタンがシルヴィに向かって怒鳴っている。無しにするとはいえないのだろう。それを決めるのはバルビエ子爵だ。
無しにすれば当然婚約は解消となり、フォール伯爵家の援助金もなくなるが、それと同時に名門伯爵家のフォール伯爵家の後ろ盾もなくなることがわかってはいるようだ。
「法廷の場で恫喝ですか?彼女たちは私たちの証人として出廷してくださったのです。そのような発言は控えてください」
ルシールが冷たい視線をエタンに送る。シルヴィとフルールが証人席へとついた。エタンがかかとをならしている。シルヴィを威嚇しているつもりだろう。
「静粛に。では証人は前へ」
裁判官が二人を促す。
「シルヴィ・フォールです。噓偽りなく述べることを誓います」
「フルール・バイヤースです。同じく噓偽りなく述べることを誓います」
二人が席から立ち上がり宣誓をした。
「シルヴィさんはそちらのバルビエ子爵のご子息の婚約者ですね?」
「はいそうです。ですが、彼の言動に怒りを覚えています」
「怒り、ですか?どういったことがありましたか?」
「私の婚約者は、友人のフルールに妾になるよう強要しています」
「はい。私もそれは知っています。強要している現場に遭遇しましたので」
ルシールがその時の状況を説明する。
「ソフィーリア様がこのようなことは今後しないようにとお伝えしたのですがその後も続いていたのでしょうか?」
「はい、続いていました。フルールがソフィーリア様に助けていただいた後、私に相談に来ました。私たちは仲が良いのでフルールは黙っていることができなかったそうです」
「そうです。私の大切な友人のシルヴィの婚約者がこんな人だなんてと思い相談しました。どうにかこの婚約を回避できないか、と」
「何だと!!」
エタンが立ち上がり叫んでいる。
「でもシルヴィの家の事情もあるのでどうすればいいかわかりませんでした。そんな私たちが二人でいるところにもバルビエ子爵の子息はやってきて、シルヴィを正妻に、私を妾にと執拗に言ってくるようになりました。仲が良いなら一緒に住んでも問題はないだろうと」
法廷内が驚きとともに嫌悪の眼差しが主に女性たちからエタンに向けられる。
「私には婚約者がおりますし、何とか断り続けていたのですが、先日の舞踏会の一週間前に二人でいるところにバルビエ子爵の子息がやってきました。学園の庭園にあるベンチにいました」
「おい!何を言い出すんだ!!」
エタンがフルールたちの側に行こうとするのを衛兵が止めに入っている。
「何を言われたのですか?」
ルシールが二人を見て問いかける。するとシルヴィが真っ直ぐ前を向いて裁判官の目を見つめた。
「舞踏会でソフィーリア様に嫌がらせを受けた女性はいないかとクラディオン殿下が呼びかけるから、その時に壇上に上がってこいと言われました」
法廷内の温度が一気に上がったようだった。
「嘘をつくな!そんなことは言っていない!」
「嘘ではありません。完璧な証人が必要だからシルヴィはソフィーリア様と同じクラスだから信ぴょう性があるから証人に相応しいと言っていました。そして私に、シルヴィがこの話を受けたら、私を妾にする話はなかったことにしてやってもいい、と言ってきました。私たちが困っているのをわかっていたはずですからそれを条件にしてきたのだと思います」
「更に我が家への援助金の額を増やすように父親に言ってやる、その代わり出てこなければ、私に不貞があったといって援助金の額を減らすと言ってきました」
「嘘をつくな!そんなこと言うわけないだろ!そうやって嘘をつくようにソフィーリア嬢に頼まれたんだな!!」
「いいえ、嘘ではありません。ソフィーリア様からも何も頼まれていません」
エタンが衛兵に押さえつけるように止められている。
「いい加減にしろ!エタンがそのような姑息なことをするはずがない。ましてや婚約者に対してそのような不誠実な態度をとるような男ではない。正直に言えば今なら許してやろう。ソフィーリアと同じクラスだったな。頼まれたんだろう?ソフィーリアがもっともらしい話を捏造までして僕たちを貶めて裁判に勝つ為に」
側近候補の何を見ているんだろうか、この王子は。
「この二人は先程宣誓しました。噓偽りなく証言すると。二人の言っていることは全て事実です。舞踏会でクラディオン殿下が呼びかけた際、シルヴィさんとフルールさんのことをチラチラとバルビエ子爵の子息が見ていることが気になったので、後日三人で話を聞きに行きました。
その席でこの話を聞いたのです。その時点で既に二人のご家族もこの話を知っていました。その上で私たちに裁判で証言すると言ってくれたのです」
ルシールが裁判官に向けていた目をエタンへと移す。
「だいたい、いくら友人だからといって正妻と妾を一緒に住まわせるなどという気持ち悪い発想をする女性はいるでしょうか?悍ましい思考の男性の発想です。
ちなみに庭園でフルールさんに絡んでいたのを見ていたのは私たちだけではありませんでしたよ?周りには他の学園生もいました。探せば証言してくれる方が見つかるかと思います」
「言っていないと言ったら言っていない!シルヴィ!おまえの家族が泣くはめになるぞ!」
「いいえ、泣きません。舞踏会の前に、あなたから今回の話をされたのを家族に相談しました。その上で従う必要はないと父からは言われています。そして、フルールも同じです。フルールのお兄様が心配してくださり、不誠実な婚約者と縁を切るように勧めてくれました」
「バルビエ家から切られたら困るのはお前の家だろ!!」
フルールがエタンを睨みつける。
「フォール伯爵家が困ることはありません。今回の件で私の兄が私たちのことをとても心配してくれて、兄の資産でフォール伯爵家の援助をすることが決まりました」
「はい。フルールのお兄様が援助を申し出てくれまして、それを父が受け入れました。ですから、私、シルヴィ・フォールはエタン・バルビエ様との婚約を解消します!」
法廷内のざわめきが更に高まっていく。もはや熱気で暑いくらいだ。
「何を勝手に言い出すんだ!父上がそれを許すと思っているのか!おまえの家にどれだけ援助したと思ってるんだ!」
「父は今回の件で、バルビエ子爵家と裁判をする覚悟です。このようにソフィーリア様を貶める為の虚偽の発言を娘である私にさせようとしたことに関して、虚偽申告を強要したとして訴えるそうです。
また、バルビエ子爵家は気づかれていないと思ってらっしゃるようですが、私と婚約中であるにも関わらず、子息はバルビエ子爵家のメイドに手を出し、その間に子供が産まれているそうですね!父はこれに関しても訴えて、婚約解消を成立させる予定です。
これまで受けた援助には感謝しますが、それと同じくらいバルビエ子爵家は父から便宜を図ってもらったはずです。バルビエ子爵では入れないサロンをいくつも紹介して入れるようにしたり、バルビエ子爵が支援する画家の個展をする為に、バルビエ子爵では借りることができない美術館を父の名義で借りて開催したりと、そういった面で支援してきたはずです。それで充分バルビエ子爵は上位貴族との交流が増えたはずです。一方的に我が家が援助してもらっていたわけではございません!」
ルシールがシルヴィの肩にそっと手をかける。
「バルビエ子爵のご子息の子どもを身籠ったメイドは、それが分かったその日に解雇され、荷物を持ち出すこともできず、身一つで放り出された為聖堂の支援施設を頼り、そこで出産したそうです。その情報を得た当家の侍女長が会いに行きました。
婚約者とは愛のない結婚だ。愛しているのは君だけだ。正妻にはできないが妾として側にいて欲しいといってメイドに手を出したそうですね。泣きながら、信じた自分がバカだったと言っていたそうですよ。そのメイドは紹介状もなく解雇されたのでメイドとして働くのは難しく、昼間は聖堂の子ども園に子どもを預け、今は食堂で働いているそうです」
法廷内が一気に静まり返った。傍聴人のほとんどが庶民である。貴族がメイドや侍女に手を出すことはよくある話だが、こうやって聞かされるのは噂で聞くより生々しく、許せない気持ちが静かな怒りへと変わっているのだろう。
「バルビエ子爵家は血も涙もないことをなさいますね。フォール伯爵家が裁判を起こす前にさっさと婚約破棄に同意した方が賢明ではありませんか?裁判になれば、まだまだもっとでてきますよ。
フォール伯爵が裁判所に行くと言っていたのは今日だったが明日だったか、ちょっとそこら辺の記憶は定かではありませんが」
ルシールが首を傾げながら言うと衛兵に抑えられていたエタンが急に出口に向かって走り出した。エタンは父親の元へ行くのだろう。
「おい!どこに行くんだエタン!裁判中だぞ!まあいい、ポール頼んだぞ」
クラディオンの言葉にポールは力なく首を振る。もはや戦線離脱したいのだろう。
そこへヘンリーが入ってきてソフィーリアに耳打ちする。その言葉に驚き、ルシールとレティシアにも伝える。二人も驚いたようだ。だが直ぐに立て直すとレティシアが挙手をして発言の許可をもらった。
「お二人への質疑は終わりに致します。次は、予定にはなかった証人を呼びたいと思います」
レティシアの言葉でフルールとシルヴィが退廷する。お互い安堵した様子で更にスッキリとした表情になっている。そして入れ替わりに入って来たのは、クラディオンの側近候補をしていたオスマン伯爵家のコンスタンと中年男性二人。一人はオスマン伯爵だ。もう一人は服装から考えると貴族ではない。
「おい!コンスタン!来ないと思ったら何故そっちの証人をしているんだ!」
「不規則発言は認められません」
裁判官が静かにクラディオンを制する。コンスタンは俯いたままだ。
「お名前と宣誓をお願いします」
レティシアが三人を促す。
「オスマン伯爵家当主、アラン・オスマン。真実を述べると宣誓する」
「アルビン新聞社で編集長をしております。クレマン・オレールです。同じく宣誓します」
「コンスタン・オスマンです。同じく宣誓します」
三人の登場に静まり返っていた法廷内が再びざわめきだす。
「アルビン新聞社は被告席にいなければならないはずですが原告側に立って証言をするということですね。では原告、彼らへの質疑を原告本人が行ってもかまいませんよ」
裁判官の思わぬ言葉に三人で顔を見合わせるとソフィーリアが挙手をした。
「裁判官、ありがとうございます。では原告である私自ら質問させていただきます」
ソフィーリアが立ち上がるとオスマン伯爵たちの方を見た。
「突然証言がしたいと言って控室に来られたそうですが、どういった証言かを事前に教えてくださらなかったそうですね。控室にいた兄が断ろうかと思ったそうですが、どうしてもとおっしゃるのでこの場にお呼びしました。どういった証言かお聞かせください」
そうなのだ。控室に突然やってきた三人は兄にどうしても原告側で証言させてほしいと言って聞かず、どういった内容かわからなければ許可できないと言っても、必ずソフィーリアの有利になる証言をするからと粘り続けたので、ポワレが了承し兄が伝えに来たのだ。
そしてソフィーリアはどちらの味方でも構わないから三人の話を聞きたかったので許可したのだ。
「我オスマン家はアルビン新聞社に出資しており、常日頃から新聞に興味のあった次男のコンスタンが新聞社に出入りしておりました。そのことをご存じだったクラディオン殿下がコンスタンに舞踏会の翌日の朝刊に記事を掲載するよう要望してこられたそうです。
記事の内容は粗方クラディオン殿下とご友人たちが考えてありそれを記事にしてほしいとのことでした。息子はクラディオン殿下がおっしゃるならその通りなのだろうと思い、アルビン新聞社に持って行き、朝刊担当の記者に記事を見せ、クラディオン殿下のご用命ならと引き受けたそうです」
そこでオレール編集長の方を見た。
「記者は受け取った記事をところどころ修正したそうです。余りにも言葉が新聞として、その、相応しくないものが含まれていたそうで。それでも変更点が多いと殿下からお叱りを受けると思い、最小限の修正にとどめて準備しておいたのですが、舞踏会の夜にコンスタン様が来られて、付け足して欲しいという文章を持って来られたので慌てて付け足して朝刊にしました」
編集長がうつむき加減で言っている。やはり途中までは準備してあったのだ。
「恥ずかしながら、私はそのことを知りませんでした。舞踏会から帰ってきた息子も何も言いませんでしたし、翌日新聞を見て、大変なことが起こっていたのだなあと思っただけでした」
あくまでも息子がしたことで自分には関係ないと思わせたいようだ。ソフィーリアはオスマン伯爵に話しかけた。
「アルビン新聞社は貴族向けの新聞社です。他に二社貴族向けの新聞社がありますがどちらもあの日の一面は、十二月に行われる王家主催の舞踏会に大公殿下が久しぶりに参加されることになったことと、そのご子息が初めて公の場に参加されるという記事でした。
こちらの記事より、学園の舞踏会、すなわち正式な舞踏会ではなく、学園生の練習用の舞踏会ですが、こちらの方が優先される記事だと判断したアルビン新聞社に疑問を持たれなかったのですか?また、この二社が今回の記事を掲載したのは三日後でした。それも三面記事で小さな扱いでした。
それから、舞踏会から二日後の庶民向けの新聞では各社今回の記事が一面で掲載されましたが、アルビン新聞社との記事と違う部分が多くあることはご存じですか?」
「ソフィーリア嬢には申し訳ありませんが、当家ではアルビン新聞社しか読んでおりません。それに庶民向けの新聞など手にも取りませんし」
「そうですか。ではオレール編集長はいかがですか?部下である記者から記事を見せられたかと思いますが、あの日の一面に相応しい記事だと判断されたんですよね?また新聞社ですから様々な情報が入って来られると思うのですが、庶民向けの新聞社の記事についてはどう思われましたか?」
「どちらを一面にするか迷いましたが、大公殿下の記事は他も入手している情報です。その日に王家の広報から正式発表があったことですから。新聞とはどこも知らないことを一面に掲載するのも重要なことです。
大公殿下のことはその次でも構わないと判断しました。第二王子殿下が侯爵家のご令嬢と婚約破棄するという記事は貴族たちも興味があるでしょうから。次の日になって庶民向けの新聞社から似たような記事が出ていることを知り買って読みました。
内容が真逆の印象を受ける記事だと思いましたが、しょせん庶民向けの新聞なので恋愛物語のような記事の方が売れるのかなと思っただけでした」
「なるほど。アルビン新聞社以外の二社は舞踏会の翌日の夕方取材に来られましたよ。アルビン新聞社の記事に書かれていることは事実かどうか。第二王子と第三王子が関わる記事なので詳細を知ってから記事にしたいとのことでした。
私のところ以外にも取材に行かれたようですよ。アルビン新聞社は自分で直接取材もせず、持ち込まれた記事もどきを言われたまま一面に掲載するというのはゴシップ新聞社のようですわね」
ちらりとオレール編集長を見ると顔が真っ赤になっていた。
「侯爵家のご令嬢とはいえ、些か失礼な発言ではありませんか?我が社をゴシップ新聞社などと!我が社は王家の広報室にも入出を許可された名誉ある新聞社です!」
「そうですか。ところで、先程から聞いてますと、兄から聞いていた話と少し違うように感じますね。控室にいる兄からは、私が有利になる証言をするから原告側からの証人として出して欲しいと言っていると聞きましたので、前もって証言の内容を教えていただけなかったのですが、証人として許可をしてこの場にお越しいただいたのですが、私に有利になる証言をされているとは先程からの話からは思えないのですが?」
「いやいや、それは違います。まず、今回の記事の掲載については息子の独断で行ったことです。私は知りませんでした。知っていたら止めました。いくら当家が出資しているとはいえ、独立した新聞社ですから記事に口を出すことはしてはならないと考えております。
またアルビン新聞社もクラディオン殿下のおっしゃることだから嘘ではないと判断して掲載したのであって、ソフィーリア嬢を不快にさせるような意図はありません。そうだよな?」
オスマン伯爵の言葉にオレール編集長が深く頷いている。どう考えても不快で貶める内容だったと思うのだが。父の方を見ると怒り形相でオスマン伯爵たちを睨んでいる。
「不快にさせる意図はない、とのことでしたが、他社の記事を読んでオレール編集長は取材のし直しなどは考えなかったのですか?」
「もちろん考えました。特に庶民向けの新聞の記事と当社の記事では真逆ですから、きちんと取材をして真実を伝えなければと思いました」
「でもまだされてませんよね?少なくともこの二週間、アルビン新聞社から連絡はありませんでした。それはアスラン侯爵家、オブラン伯爵家も同様で、他社の新聞社からは多く取材依頼が来ましたがアルビン新聞社からは何一つありません。取材もせずに真実を伝えることは可能でしょうか?」
「誤解なさらないでください。これから取材依頼をします。我が社は被告人側なので、接触は控えた方が良いと判断し今回の裁判が終わったら取材する予定でした」
「今あなたが立っているのは原告側の証人の場所ですよ。本来なら被告人側からの証人として出廷し、今と同じことを証言されても良かったはずですよね?
わざわざ原告側からとおっしゃるので何か新しい情報を入手し、被告人側ではなく原告側に来られたのかと思ったのですが、先程もお伝えしましたが、話を聞く限り、有益な情報はありませんね。私に有利になる証言とやらも出てきません。出てくるのはオスマン伯爵のご子息の独断でクラディオン殿下の指示の元記事を書いた、ということと、これから詳しい取材をするということ。
ですがこのあと直ぐに今回は判決が出ることになっています。判決が出てからでは新聞社として素早く正しい情報を読者に伝える精神に反するものではありませんか?」
「ソフィーリア嬢落ち着いてください。私が責任を持って正しい判決をされた記事をアルビン新聞社には書かせますから」
コンスタンは下を向いたままだ。父親にかなり叱られたのだろう。判決によってはアルビン新聞社だけではなく、出資者のオスマン伯爵家の信頼も薄れてくる。
クラディオンの方を見ればコンスタンを睨みつけているようだ。そちらの方も恐れているのかもしれないが、クラディオンより父親の方が怖いのだろう。被告人側の弁護人など受けられるわけがない。
「オレール編集長は他の新聞社の記事を読んで、記事の訂正または、新情報として他社が取材した記事を他社に転用許可を要請したり、自社で直ぐに取材をして確認をしようとは考えなかったのですか?
この二週間の間に、黙って被告側としての立場のまま取材もせず、今日の日を迎え、原告側に立った証言をと言っていきなりやってきてこの場に立ち、このような内容を話すだけでは何の為に来られたのでしょうか?」
「ですから、あくまでも、愚息が勝手にやったことでアルビン新聞社としてもクラディオン殿下が関わっている問題なので、真実だと思わざるを得ない状況であったということです。ですから、悪意は全くありません」
オスマン伯爵が言い募るが全く納得できる話ではない。あの記事はどう考えても悪意の塊であった。どうやらこれ以上話してもソフィーリアに有利になる証言なるものは出てこないだろう。
大人二人が己の責任から逃れるために学園生である息子コンスタンとクラディオン殿下に責任があることにしたいのだろうが、そうはいかない。立場はどうあれ、責任はアルビン新聞社に必ずある。
「メルディレン侯爵家ではアルビン新聞社を含め三社の新聞を配達してもらっていますが、これからはアルビン新聞社は必要ありませんわね。
だって、いくら伯爵家の子息が持込み自国の王子が執筆に関わった記事とはいえ、真偽も確認せず掲載し、どう考えても悪意しか感じられない記事を一面に掲載するような新聞社の記事はこの先信じられませんわ」
「そのようなご発言は侯爵家のご令嬢とはいえいかがなものでしょうか?この場には多くの貴族、庶民が傍聴しております。ソフィーリア嬢の発言によってアルビン新聞社の売上部数に変化が出るかもしれません。
このような発言は我々への恫喝ではありませんか?自分に不利な記事を掲載する新聞社はいらないと言っているのと同じような身勝手極まりない発言です!」
身勝手なのはどちらなのだろう。自分は悪くない。でも責められれば反論しそっちが悪いと言ってくる。しかも恫喝とは、どのような思考をしているのだろうか。伯爵家当主ともあろう者が。嫡男が王太子殿下の側近になれなかったのは当たり前だ。
このような父親に育てられた嫡男となれば、当然似たもの親子になるだろう。
そのような人間を側に置くような王太子殿下ではない。人を見る目を持った賢明な方であるのだから。
「オスマン伯爵、恫喝などと発言されるとは。こういった証言でしたら被告人側からされればよろしかったのではありませんか?そもそもアルビン新聞社は被告席に座るべきでしょうに。
でも、私、あの記事で気に入っている箇所がありますの。記事に大きな挿絵がついてましたでしょ?その挿絵がとても素晴らしかったです。描かれた人物も立ち位置から顔立ちまでそっくりで、何より臨場感たっぷりの素晴らしい挿絵でした。ですから直ぐに訂正記事を書いていただければ良かったのにと、とても残念です」
ソフィーリアが扇で口元を隠しそっと目をオレール編集長に向ける。
「そうでしょう、そうでしょう!あの絵はうちの記者が描いたものなんですよ!まだ若いのですが文章も挿絵もこなす良い記者なんですよ!」
法廷内にピシリとヒビが入った音がしたように感じた。ソフィーリアは持っていた扇を閉じるとオレール編集長はしまったという顔をしている。オスマン伯爵も同じだ。だがもう遅い。
「あの挿絵を描いたのがアルビン新聞社の記者だというなら、あの場にいたということではありませんか?背景も人物全員の立ち位置も衣装も顔もあれだけそっくりに描けるということはあの場にいたとしか思えないくらい完璧な挿絵でした。
聞いただけではあれは描けません。それくらいの精度で描かれています。ペンだけで描かれた絵だというのに詳細すぎて驚いたくらいです」
「いや、その、そういったわけでは。そ、そうです。関係者以外学園には入れませんよね?我が社の記者ごときが学園の舞踏会に招待されるとは思いませんし」
「学習も兼ねた学園行事ですから、家族や婚約者に招待状を出す学園生も中にはおります。遠方に家族が住んでいる方が出すことが多いそうですが。招待状を出せる枚数も決まっておりません。家族の人数が違いますから。
学園の決まりは、門番が判断しやすいように、学園の事務官に欲しい枚数を伝え、専用の便箋と封筒を受け取るだけ。便箋に書く内容も相手によって違い個人的なことが書かれている場合もあるだろうと、封筒のみの確認で入ることが可能です。
誰に出すかの申請も必要ありませんし。ですから、記者が家族のフリをして招待状を持って入ることは可能です。学園生の誰かからもらえばいいだけです。あの場に記者がいたとするなら、その記者は、起こったことを全て正しく記事にしていないことになりますね」
「紙面には限りがありますから、、」
「限りある文字数の中で正確な情報を掲載できないのであれば記者とは言えませんね」
「な、何がおっしゃりたいんですか!」
「あの場にいたなら、カロンさんの証言があやふやであることがわかったはず。私はしっかり反論しましたから。そのことについて何も触れられていない。そして、私がアレンディード殿下から婚約の申し入れがあったこと、これが書かれていない。あったことを正確に記事にして読者に伝えられないなら、、、、、廃刊なさったら?」
ソフィーリアは冷めた目でオレールを見る。顔は真っ赤だ。
「だってそうでしょう?あの記事は私や私の友人に対して侮辱する意図が感じられました。ですから本来の通り、お三人はあちら側の席にお座りください。以上です」
ソフィーリアは扇で被告人席を指すと原告人席に戻った。なんの為にやってきたのだ。要は被告人ではない、責任はないと言いたいだけ。その為に原告側の控え室に来て、有利な証言をするなどと言ったのか。バカバカしい。
「被告人と被告人の弁護人は席にお着きください」
無情にも裁判官からも促される。それでも動かない三人を衛兵が被告人席に引きずっていく。被告人の弁護人席に座らされたコンスタンの顔は真っ青だ。それもそのはずクラディオンがギラついた目を向けているのだから。
「それでは弁護人、論告求刑を」
ソフィーリアは立ち上がったルシールとレティシアを見る。
「今回の件で、ソフィーリア様は、不当な証言で悪女と罵られるだけでなく、賠償金まで払わせようという悪辣極まりない扱いを受けました。お伝えした通り、あやふやであったり、二転三転して怪しい証言か嘘と捏造されたものでした。
辞退された他の証人の令嬢方も、あの場で賠償金に釣られただけで、冷静になったら嘘をつきたくないと思い辞退されたのではないでしょうか?」
「アルビン新聞社がこの件に関して、きちんと取材することを怠り、悪意ある記事を掲載したのは間違いがありません。他の新聞社の記事を読んでも、事実確認など取材の依頼もなく、また訂正、謝罪等もなく今日を迎えました。正しい情報を記事にし、読者に伝えるのが報道機関である新聞社が行うことではないでしょうか?」
法定内が静まり返っている。
「アルビン新聞社には、判決後明日の朝刊で、ソフィーリア様及びメルディレン侯爵家、それから私たち二人への謝罪文を一面に掲載すること。それから二週間の発刊の禁止を求刑します」
「二週間!そんな!」
日刊紙が例え二週間と言えど発刊できないのはイメージダウンもあって売上に相当影響するだろう。もちろん、このまま判決が出るわけではないことを想定しての二週間だ。
「クラディオン殿下はどうぞ、カロンさんとお幸せに。ソフィーリア様は婚約が解消になって却って喜んでおりますので。日頃からの殿下の言動に苦しまれていらしたので、私たちから逆に感謝申し上げます。
しかしながら、ソフィーリア様を大勢の前で罵ったことは許しがたいです。私たちを性悪女とも仰いました。ですが、第二王子殿下ということで、私たちから謝罪を要求することは致しかねます。クラディオン殿下の御心でご判断ください。
しかし、求刑がないというのもおかしな話になりますので、第二王子殿下とそのご友人方には学園の門の清掃をしていただきます」
やるだけのことはやった。二人は頑張ってくれた。堂々と、冷静に淀みなく、完璧な弁護人を務めてくれた。感謝しかない。
法定内が静かに裁判官に注目している。本来ならここ裁判官は一度裁判官用入口から後ろの部屋に下がる。そして原告たちも控え室に戻り、今回の裁判について考察する裁判官の判決が決まるまで待つのだが裁判官が黙っている。
「ここで私は一旦下がって考察に入らなければならないのですが、その必要は感じられないので、今から判決を言い渡します」
裁判官の落ち着いた静かな声で法定内が満たされた。
「主文。アルビン新聞社は求刑通り謝罪文の掲載を行うように。そして、十日間の休刊を言い渡します。公共報道機関である新聞社が取材を怠り、正しい記事の掲載をせず、特定の人物や家門に不利益を与える、名誉毀損と虚偽の流布は疑いようがない事実である。これからは地道に信頼回復に努めてください」
オレール編集長が崩折れた。オスマン伯爵は息子を睨みつけている。
「クラディオン殿下におかれては、ソフィーリア様ではなく別の女性と結婚したいのであればこういった方法を取らずとも良かったのでないかと恐れながら申し上げます。ご令嬢方への謝罪につきましては、ご令嬢方のお気持ち通り、殿下の御心にお任せします。
国民は殿下の幸せを願っています。恐れながらその思いに応える行動をこれからしてください。それから求刑通り学園の門の清掃を一週間毎朝行ってください。以上です。異議申し立てがありましたらこのあとから一週間以内に行ってください。申し立てがあった場合は刑の執行を停止し、再度裁判を行います。異議がなければこのまま執行に入ります」
勝利した!完全勝利だ!三人で抱き合い喜び合う。自分たちのの力を出し切った闘いだった。たくさんの協力者がいて、支えてくれて、信じてくれた。そのおかげで勝ち取ったのだ。
被告人側を見れば全員声もなく項垂れている。と思ったら、
「おかしいだろ!カロンが嘘を吐くわけがないんだ!何故わからない!ソフィーリアたちが捏造と恫喝で作り上げた醜悪な裁判だ!こんな結果を誰が認められる!」
クラディオンが叫んでいる。
「結審しました。殿下どうぞ、お静かに。きちんと判決を受け入れてください。できないのであれば異議申し立てを。では閉廷します」
裁判官が席を立とうとした時だった。
「ちょっと待って、私からもいいかしら?」
カリーヌ妃である。