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CURSE+HOLIC 〜呪われフェチ子とおせっかい聖女〜  作者: 紙月三角
第二章 As she loved cursing, so let it come unto her
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第一話

 出会いの村から、さらに南下すること数日。


 見上げるほどの針葉樹が立ち並ぶ、大自然のトンネル。地面にはもちろん舗装などはない。ただただ、これまでそこを通ってきた旅人たちの足で踏み固められただけの、ほとんど獣道と変わらない道が続いている。

 木々の隙間をぬって落ちる日差しは強く、アンジュの長い金髪がその光を反射して本物の金のように輝いている。風通しのいい彼女のローブの内側にも、ジワっと汗がにじんでいた。


 もともと聖女の修行のためにシュエルドラード大陸を巡る旅をしていたアンジュと同じように、実は呪われフェチ子のマウシィも、呪いを探すための旅をしていたらしい。


 それまでは別々に行動していた見た目も考え方も全然違う彼女たちが、二人旅をするようになったわけだ。

 そうなれば当然、相手に対して情も湧いてくる。お互いがお互いのことを理解して、分かり合って、友情が芽生えてくる。だから、最初は衝突していた二人も、今ではすっかり仲良しの友だちになっ…………たりすることはなく。



「ぐ、ぐふ……」

「ん? ……ちょっとマウシィ? アナタ、どこ行くのよ?」

 林道を歩いている途中。何かを見つけたらしいマウシィが、道から外れた草木の中に分け入っていく。前を歩いていたアンジュも、戻ってきて彼女を追う。

「あ……」


 そこにあったのは、動物の死骸だった。おそらくは山猫のたぐいだろう。

 天敵となる獣か、あるいは魔物にやられたのか。腹部には、えぐられたような大きな傷口がある。その生々しさを見るに、死んでからそれほど時間は経っていないようだ。

「可哀相に……」

 弱肉強食の野生動物の世界のこととは言え、やはり心がいたむ。

 せめて安らかにあの世に行けるように、聖女の技術の一つである「冥福の祈り」を捧げてあげよう。

 そう思ったアンジュが準備をしていると……。

「え…………ギャ、ギャーッ⁉」

 突然マウシィが、その猫の死骸の傷口に手を突っ込んで……その中をグチャグチャにかき混ぜ始めた。


「マ、マウシィ⁉ 何してるのっ⁉」

「えぇ……?」

 何か問題でも?という表情のマウシィ。

「だ、だってぇ……こ、こういう、死んでからまだそれほど経ってない死体ってぇ、まだ近くを霊が漂ってることが多いんデスよぉ? だ、だから、こういう死体を見つけたときは私、なるべく粗末に扱ってあげるようにしていてぇ……」

「そ、粗末に扱う、ですってっ⁉」

「えへ、えへへ……」

 彼女は、猫の死骸をかき回していた腕を引く。するとその手の中には、ドロリと粘度のある血がついた細長い内臓……小腸が握られていた。

「ひぃっ⁉」


 マウシィは愛おしそうに、その腸を自分の頬に押し当てながら、

「死体を粗末に扱うと、その霊が私のことを(たた)ってくれたり……悪霊となって取り憑いてくれちゃったりしてぇ……。ぜ、絶好の『呪われチャンス』なんデスよぉぉぉーっ!」

 と、血まみれになった顔で、いつもの気持ちの悪い笑顔を浮かべた。


「でへ……。あ、あとは……この死体にオシッコとか掛けたりできれば……呪われ確率さらにアップのフィーバータイム突入なのデスけどぉ……。で、でも私、実はついさっき道端でやってしまったばっかりでぇ……」

「マァァウゥゥシィィィィ……」

 ぷるぷると、体を震わせているアンジュ。

「あ、そおだぁっ! アンジュさん、私の代わりにやってもらえませぇんっ? さ、さっき水筒の水飲んでましたし、頑張ったら出せたりしてぇ……」

「で、で、で……出来るわけないでしょーがっ!」

 そこが、彼女の我慢の限界だった。


「何で聖女を目指すワタシが、そんなバチ当たりなことしなくちゃいけないのよっ⁉ っていうか、ワタシが猫の死体にオシッコしたら、猫の悪霊に呪われるのもマウシィじゃなくてワタシになるんじゃないのっ⁉」

「え? あ、ああぁー⁉ そ、そうでしたぁぁー! うっかりしてましたぁぁー」

「マウシィ! アナタ、これまでもこんなことばっかりしてたのねっ⁉ ワタシはまだ解呪が出来ないから、解呪するには大きな街の教会までいかないといけないし……。下手に解呪しようとして失敗したら、呪いが消えないだけじゃなく、解呪しようとした人にまでその呪いが返ってきちゃったりもして……。と、とにかく呪いっていうのはすごく厄介で、一回呪われてしまったらそのあとすごく大変なのよっ⁉ それなのに、そんなつまみ食い感覚でちょいちょい呪い増やしてたら、いつまでたっても呪いをなくすことなんて出来ないじゃないのっ!」

「ええぇーっ⁉ だ、だから、私はそんなの頼んでないんデスってばぁぁーっ!」

「だまらっしゃいっ! このワタシがそばにいるあいだはもう絶対に、これ以上呪いは増やさせないからねっ⁉ この猫の死体も私がちゃんと霊をお祓いして、悪霊になんてさせないからっ!」

「ま、待ってくださぁーいっ! あ、あぁー⁉」

「……っ! ……っ!」

 妨害しようとして掴みかかってくる真っ黒に汚れたマウシィに触れないように、華麗に逃げまわりながら。アンジュは、早口で「冥福の祈り」を完了させてしまった。

「う、ううぅぅ……も、もったいないぃぃ……」



 やはり。

 二人の関係性は出会ったときからそれほど変わってはいないようだ。

 相変わらず、マウシィは呪いが大好きな気持ち悪いやつ。そしてアンジュはそんな彼女につきまとう、おせっかいな見習い聖女のままなのだった。


 そんな相変わらずのデコボココンビだった二人は、それから更に大陸を南に進む。そして、いくつかの小さな村と河を越え……大陸最古の大学があるという歴史と権威のある学園都市、レディアベルに到着した。


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