◆98話◆緊急回避手段
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ひとしきりヨナーシェスへの報告を終えた太一達は、特別室を後にし1階に戻ると、再びカミラの元を訪れていた。
「あ、タイチさん。報告お疲れ様でした!こちらの査定も終わってますよ!」
「カミラさんありがとう」
「いえいえ。マジックキャノーラ、ゴールドベリーが共に4セットですね。
報酬が、マジックキャノーラが800、ゴールドベリーが1,000で合わせて1,800ディルになります。
ポイントは、マジックキャノーラが24ポイント、ゴールドベリーが40ポイントで合計64ポイントです。
こちらが明細になります」
太一は、差し出された明細を確認する。
「うん、問題無いね」
「確認ありがとうございます。報酬は最少枚数でのお支払いで良いですか?」
「うん、それでお願い」
「かしこまりました。ポイントの割り振りはどうしますか?」
「んーー、5人で均等割りで余りはレイアちゃんに入れておいて」
「えっっ!??」
「分かりました。では、レイアさん以外がお1人12ポイント、レイアさんは余りの4を足して16ポイント付与しますね」
「ちょ、ちょっとリーダー!なんで私が一番多いんですか!?」
「ん?早めにポイント貯めてランク上げれば、色々やれることが増えるでしょ?
だから、レイアちゃんがE級に上がるまでは、端数はレイアちゃんに付与しようと思ってね。
またランクが上がったら考えるけど」
「・・・ありがとうございます!頑張ります!!」
レイアは少し涙目になりながら、元気に答える。
「では、皆さんカードをお預かりしますね」
一行はカミラにカードを渡し、ポイント付与の手続きを終えると、報酬をもらいカウンターを後にした。
そのままギルド内の食堂兼酒場へ移動すると、太一達は夕食を兼ねて初日の打ち上げをすることにする。
「いらっしゃい!ってタイチにアヤノやん。久しぶりやな、元気にしとったんか?」
「お、ニナやん。ぼちぼち元気やで」
「さよか~。しっかし太一は相変わらず、完璧な猫人訛りやなぁ」
注文を取りに来た猫の獣人ニナと、猫人訛りと言う名の関西弁で軽く挨拶を交わす。
太一のエセ関西弁は今日もニナの耳には完璧な猫人訛りに聞こえているようだ。
「とりあえずエールを人数分頼むわ。つまみは・・・そうやなぁ、今日のオススメを3品くらい貰おか」
「おおきに!」
太一がそのまま猫人訛りで注文するのを見て、文乃以外のメンバーが一様に驚いている。
「リーダー、へんな特技があったんだな・・・」
「すごい、完璧な猫人訛りです・・・」
人数分のエールが届き、早速乾杯する一行。
「くっはぁ、うめぇ。やっぱ依頼後のエールは最高だな」
「そうですね!生き返ります!!」
どの世界でも、仕事後の一杯が格別なのは変わらないようだ。
ひとしきり労を労うと、自然と今後の話になっていく。
「さて、リーダー。明日からはどうする?
西の森もクリムゾンベアが出たのと逆方向に入っていけば、問題無いと思うが?」
「しばらくは様子見ながら、日帰りで西の森だな。
西の森以外で似たような条件の森を探しても良いけど、もう少し生えてる環境を確認したいし」
「了解」
「でも、あのクリムゾンベアが出た時の対策は考えておきたいわね。
まぁ対策と言っても、どうやって逃げるかって話なんでしょうけど・・・」
そう言って文乃が眉間に皺を寄せる。
「だなぁ。ねぇワルターさん、全盛期のハウリングウルフのフルメンバーだったら、あの熊に勝てる??」
「全盛期でかぁ・・・普通サイズのならまず負けねぇけど、あのサイズだと五分五分ってとこじゃねぇかなぁ・・・。
森ン中じゃなけりゃ、タバサの火魔法が全力でぶっ放せるから、7分3分くれぇになるがな」
「そうだねぇ。獣系は火魔法で固い毛を焼ければ、大分楽になるからね。
まぁ森の中じゃあ火事になるから、よっぽどの事が無い限り全力では使えないけどね・・・」
「へぇ~、火魔法が弱点なのね。他に弱点とかってあるのかしら?」
「あ奴らは異常に鼻が利く。その代わり目はあまり良くない。
後は高い音は良く聞こえて、低い音は聞こえ辛いとも聞いたことがある」
「あー、鼻の良さは異常だな、ありゃ。多分犬より鼻が利くんじゃねぇか?」
「なるほど・・・自衛手段としては、せいぜい森の奥に対して風下に居るのと、金属音をさせないことくらいかしらね」
「まぁ、そんな感じになるわなぁ。そっからは運試しみてぇなもんだ」
頼りない対策にワルターがからからと笑いながら言う。
「・・・。嗅覚が鋭いなら、それを逆手に取って見るか・・・
ちょっと明日、ワイアットさんに相談してみる。上手く行けば、逃げる時間くらい稼げる物が作れるかもしれない」
「お、リーダー、なんか良い案があるのか?」
「やってみないと分からないけど、嗅覚が鋭いなら、強い匂いのする物をぶつけてやれば、鼻がマヒするんじゃないか?
例えば芥子の粉なんか、俺たちが吸い込んでも大変なことになるんだ、鼻の利く奴だったら・・・」
「おー、確かにそうだな!あれは目にも来るから、同時に目潰しにもなるかもしれねぇ」
「なるほど。兄さんは催涙弾みたいな物を作ろうってことね?」
「文乃さん、正解。さらに高い音、理想は高周波だね。それを大きな音で鳴らせれば、さらに効果的かもしれない。
あと、熊は目は良くないって話だからアレだけど、万能な緊急回避手段にするなら強い閃光もセットかな。
やりすぎると、こっちもダメージを負っちゃうから、試行錯誤が必要だけどね」
太一が考えていたのは、催涙弾とスタングレネードを足したような、緊急回避用の兵器だった。
倒すことは目的とせず、安全に逃げるための時間稼ぎをするのが目的だ。
「強ぇ光か。確かに“閃光”の魔法は、目くらましにも使う事があるし、それも良いかもしれねぇな。
リーダー、それ面白そうだな。試作品が出来たらレッドベアあたりで試してみようぜ」
「ああ、そのつもりだ。
試作にどれくらい時間と金が掛かるか分からないから、それまでは注意しながら頼む。
あ、魔法具の分野も絡んでくるかもしれないから、タバサさんも手伝ってくれ」
「りょーかい」
「ああ、まかしときな」
こうしてクリムゾンベアへの対策に端を発した、ケットシーの鞄兵器開発部門が産声を上げた。




