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万年課長の異世界マーケティング ―まったり開いた異世界広告代理店は、貴族も冒険者も商会も手玉に取る  作者: ぱげ


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96/173

◆96話◆森の主

すみません、間違えて95話を2回投稿してました・・・

あらためて96話です。

全力で森の中を撤退し始めて数分、太一の耳にもドドドという低い音が聞こえてきた。

まだ姿は見えないが、音はどんどん大きくなっている。

その後1分も経たぬ内に、いよいよ地面からの振動まで伝わって来た。

「ワルターさん、この方向で問題無いか?」

「ああ!森の奥へ向かわないなら、角度的にこの方向が一番距離が稼げるはずだ!」

耳の良いワルターに逃走方向の確認をしつつ、後ろを振り返ると、森の奥から土煙が上がっているのが視界に入った。

足音に交じって、バキバキと木が折れるような音も聞こえるようになったかと思うと、ついに音の主が完全に視界に入った。


それは、10頭ほどのフォレストボアと20頭以上はいそうなフォレストウルフの群れだった。

普段一緒に行動することは無いはずの魔物が、目の前に木があることも厭わず真っすぐ駆けている。

1メルトル程離れてはいるものの、全くこちらには気付く素振りも無いのが少々不思議だ。

ある程度距離が取れたことと、こちらに向かってくる様子が無いことが確認できたので、逃走の足を少し緩め様子を伺ってみる。


「はぁはぁ・・・なんなんですか?あれ!?」

足場も視界も悪い森の中を、5分ほど全力疾走していたため、レイアの息が上がっている。

「分かんねぇ。俺もあんな状態で魔物が群れてるのは初めて見るぜ・・・」

冒険者歴の長いワルターも見たことが無いと言う。

「何かから逃げているように見えるな・・・」

「ええ、こちらに目もくれずに走り去っていったわね・・・

 まだ後ろから本命が来るかもしれないから、様子を見ながら距離を取りましょうか」

モルガンと文乃の共通見解に、全員が無言で頷く。確かに何かに追い立てられているような気がするのだ。

「兄さんの“目”には、どう映ったかしら?」

文乃が“目”の部分を微妙に強調しながら太一に問う。

「俺の“目”にも、こっちに敵意があるようには見えなかったな。そもそも眼中にないと言うか・・・」

太一のスキルでも、こちらには全く気付いていないことを確認していた。

ますます別の“何か”の存在が、不気味に浮かび上がってくる。

一行が森の入り口に向かって再び走り出そうとした時、それは聞こえてきた。


『グォォォォォォォァァァ!!!』


腹の底に響くような、唸り声とも鳴き声ともつかぬ雄叫びだった。

「ななな、なんですかこの声!!」

「この低さと大きさ・・・相当でかいヤツがいやがるな・・・」

全員の背中に冷たいものが流れる。

すると、先ほどボア達が走ってきた方向から、また大きな魔物が走ってくるのが見えた。

『ガウァァァァァァッ!!』

雄叫びを上げながら走って来たのは、体長3mは優にある巨大な赤毛の熊だった。


「レッドベア!さっきのはこのレッドベアの声?」

「いや、似てるが違うな。さっきのはもっとデカい奴の声だ!!」

「えええ!?これよりデカいって、そんな・・・」

「む。あ奴、怪我をしておるな・・・」

ただでさえ大きなレッドベアだと言うのに、さらにそれより大きい怪物がいるのかとレイアが驚嘆していると、目を細めたモルガンがレッドベアの異変に気付く。

体毛が赤いため遠目では分かりづらいが、よく見るとレッドベアは血まみれだった。

身体のそこかしこに切り裂かれたような傷がある。一度立ち止まり後ろを振り返ると、

『ガウァッ!!!!』

と短く吠え、後ろ足で立ち両手を振り上げ威嚇する。

「何か来てるのか・・・?」

小さく太一が呟く。


ドガァァァッッ!!!


何かが爆発したような轟音が辺りに響く。

続けて複数の木が折れて倒れるバリバリという音が聞こえてきた。

どうやら、奥の方から何かが凄い勢いで木々を折りながら飛んできたようだった。

全員が木の折れた先を見やり、そして全員が息を飲む。

「ひっ!!」

「レッドベアか、ありゃあ?」

折れた木々が作った道の先には、血まみれで身体が“く”の字に折れ曲がったレッドベアが横たわっていた。

先程のレッドベアより、さらに二回りほど大きい。


『グォォォォァァァッッ!!!』


一同が驚愕していると、再び地を這うような雄叫びが聞こえる。先程よりかなり近い距離だ。

そして、ズシン、ズシンという地響きと、バキバキミシミシと木々を薙ぎ倒す音がゆっくりと近づいてきた。

声も出せずに一行が森の奥を凝視していると、ついに音の主が姿を現した。

それは赤い山だった。

高さはゆうに5mを超えているだろう。その体表は、レッドベアの毛色がくすんで見えるような、光沢のある鮮やかな深紅に包まれている。

4足で歩くその動きはゆっくりだが、大きさが大きさなため、どんどんと近づいてくる。

腕も足も太く、その先にある見るからに鋭そうな爪も長さ2メルテはありそうだ。前足の爪の一部が血に濡れてヌラヌラと光っていた。

「・・・ク、クリムゾンベア」

ワルターが絞り出すようにそれの名を口にした。


『ガウゥゥゥッッ!!!!』


先程走って来たレッドベアが、立ち上がってクリムゾンベアを威嚇する。

クリムゾンベアはそれを無視し、周りをぐるりと見回している。

「っっっ!!!!!!!」

クリムゾンベアの顔がこちらを向き、その動きが止まったと思った瞬間、太一の視界に色のついた矢印が飛び込んできた。

(くそっ、気付かれたかっっ!!!!)

冷や汗をかき、内心で毒づく。アレに襲われたらひとたまりも無いだろう。

しかし太一の焦りとは裏腹に、矢印の色は緑色のままだ。

経験上、気付いてはいるが軽く興味を抱いている程度の時の色だ。

(く、敵愾心を向けるまでも無いってか?)

太一はほっとしながらも、心のどこかで悔しさを感じていた。


『ガウガァァァッ!!』

余所見をしているのを好機と見たのか、レッドベアがクリムゾンベアに襲い掛かる。

その一撃は人間、いやオークであっても当たれば一撃で命を持っていかれるような強烈な一撃だ。

しかし相手が悪すぎた。

クリムゾンベアは右前足でそれをいとも容易く受け止めると、左前脚の爪をレッドベアに鋭く突き込む。

身体の中心を貫かれたレッドベアの両手が、力なくダラリと垂れ下がる。

クリムゾンベアは、突き刺さったままのそれを口まで持ってくると、ゆっくりと噛み砕き始めた。


ボキボキという鈍い音が、ここまで微かに聞こえてくる。

それを聞いてようやく我に返った太一が、囁くように指示を出す。

(まだアイツはこっちに興味を示していない。なるべく静かに撤退するぞ!)

太一の指示に、呆然と様子を見ていた一同も我に返ると、無言で頷きソロリソロリとクリムゾンベアから離れていく。


誰も口を開かないまま、最初の30分ほどは速足で、その後は走って30分ほど撤退していると、ようやく森の切れ目が見えてくる。

斜めに逃走してきたため、馬車を停めたところからは少し離れたところに出てきたようだ。

ようやく全員が、そこで一息吐いた。

「はーー、アイツはシャレになんねぇ・・・何だあのデカさはよぉ」

「・・・わたし、少しちびっちゃったかもしれません・・・」

「あれは勝てる気がせんな」

皆が口々に感想を漏らしながら、馬車の停めてある方へと歩いていく。

「なぁ、モルガンさん。クリムゾンベアってのは、みんなあんなデカいのか?C級ってのはあんなヤバイ奴ばっかなのか・・・」

太一がモルガンに問い掛ける。確かにモルガンは、クリムゾンベアはC級だとレイアに教えていたはずだ。

「いや、某の知っているクリムゾンベアは精々あれの半分より大きい程度だ。あれは規格外すぎる」

「そうだぜ、リーダー。俺たちも全盛期に2回ほど狩ったことがあるがよ、あんなデカくねぇ。

 ありゃどう見ても変異種だ。最低でもB級はあるんじゃねぇか?」

「なるほどなぁ・・・これも一応ギルドに報告しとくか。アレはヤバいわ。

 ゴールドベリー採集は、アイツが来たのとは逆の方向を探そう。どういう感じの所に生えるかは分かったから、1日あれば探せそうだし」

「賛成だね。滅多に遭遇しないだろうけど、わざわざ近い方に行く必要はねぇぜ」


疲れた足を引きずりながら馬車まで辿り着いた一行は、足早にレンベックへの帰路に就く。

太一は帰りの馬車の中で、ああいったイレギュラーに遭遇した時の緊急回避をどうするか考えていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ここで狩るしかないシチュにならず、加護が撤退への舵切りに向かう情報をもたらすあたりがこの作品らしいなと思いました
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