◆93話◆ワイアットの過去と新しい採集依頼
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朝ではあるものの、ピーク時間は過ぎているため、ギルド内は比較的空いていた。
太一達が受けようとしている調達系の依頼は、人気が無いため更に掲示板前は余裕がある。
「いきなり泊りで行くのはハードル高いから、日帰りできる距離ってのが条件で、良さそうなのを見繕うか。
あ、ワイアット工房の依頼があったら、それを優先しよう」
太一が依頼の条件を伝えると、各自が掲示板の依頼を物色し始める。
空いていることと、調達系依頼は相変わらず人気薄なこともあり、ものの10分でいくつかの候補が集まった。
「Fランクのは、あえて受けなくてもついでに取って来れるから、やっぱりEランクがメインだな。
Dもいけそうな気はするけど、初日からリスクを負う必要も無いし・・・」
太一はそう言いながら、ひとまずピックアップした依頼を仕分けていく。
「そうなると、ゴールドベリー、ロッキートリュフ、それと・・・あ、このマジックキャノーラってやつもか?
他にもいくつか出てるけど、この3つはリーダーの言ってたワイアット工房の依頼だしな」
太一が選り分けた依頼の中から、更に条件に合うものをワルターがピックアップしていく。
「うーーん、どれも聞いたこと無いな・・・。皆はどうだ?」
「私は聞いたこと無いですね・・・」
「ゴールドベリーは聞いたことあるぜ。てか、貴族様向けの果物屋とかでたまに見かける高級フルーツだ。食ったことないけどな」
「某、マジックキャノーラは心当たりがある。マジックポーションの材料になる故、魔法職には馴染みのある素材だな。
たまに草原で見かけた記憶があるが、どの辺りだったかまでは覚えておらぬ・・・」
「お、実物が分かるのが2種類あるのは大きいな。やっぱ知識は共有してこそだなぁ。
それじゃあこの3つを受けるってことで。ワイアットさんに詳しい話を聞いたら出発しよう」
依頼を受けた太一達は、採集場所などの情報取集のためワイアットの工房へと向かった。
「おやタイチにアヤノ、おはよう。それとそっちは・・・間違っていたらすまないが、ハウリングウルフというパーティーに居なかったかね?」
「おはよう、ワイアットさん。ワルター達と知り合いだったのか?」
「知り合いと言うほどでは無いが、冒険者時代に見かけたからね。確かCランクのパーティーだったし、ダレッカでも名の通った冒険者だったよ」
「どっかで聞いた名前だと思ったら、アンタあの守護神と組んでた魔法使いか!?」
ワイアットを見た時から何かを思い出そうとしていたワルターだったが、ワイアットの話を聞いてようやく思い当たったようだ。
「守護神とはロマーノのことかね?随分と昔の話だが、確かに彼と組んでいたこともあったね」
「やっぱりか・・・レンベックに来てたとは思わなかったぜ。もう冒険者はやっていないのか?」
「ああ。随分前に一線からは身を引いているよ。さらにこっちに引越してからは、ほとんど工房に籠りきりだ。
そもそも冒険者をやっていたのも、素材を集めるのと、研究資金を貯めるためだったからね。
ようやく依頼を出せる身分になったのだ、ポーションの研究に時間が使えて大満足だよ」
「え?ワイアットさん、ロマーノ様と組んでたのか?」
知り合いとは言っていたが、詳しい関係性までは知らなかった太一は驚愕する。
「ああ。昔のことだし、聞かれてもいないからな」
「なんだよ、リーダー知らなかったのかよ・・・25年くらい前か?ダレッカを中心に大暴れしてるパーティがあってな。
そのパーティーに居たのが、現ダレッキオ辺境伯やこのワイアットだ。他にも2人いたかな?
話題になり始めた時点でCランク、現辺境伯が家督を継ぐ頃にはBランクになってたはずだ」
「B級・・・」
次々と明らかになるワイアットの経歴に、太一は言葉が出ない。
「全て昔の話だよ。今の私にはどうでも良い話さ。
それより今日はどうしたのかね?仕入れの話では無さそうだが・・・」
「どうでもいいって・・・まぁ、いいや。
今日は新しい採集の依頼を受けたから、また情報を貰いに来たんだ」
明らかにどうでもよくないことなのだが、本人に話す気が無いのでは仕方がない。
太一は、当初の目的を告げる。
「ふむ。情報を聞きに来たということは、これまでとは別の素材ということかね?」
「ああ。今回はこの3つだな。
ちなみに、ワルターさんたちと来たのは、新しくパーティーに加わって貰ったからだ。
調達系に特化したチームを作ってね。今日がその稼働初日なんだよ」
「ほぅ・・・調達特化のチームか。いいね、いいよ。
わざわざチームを作ったということは、ランクの高い調達系の依頼を受けるためなのだろ?
高ランクの素材は集まりが悪いのだ、是非ともお願いしたいね」
「ああ。採算を取るためにもある程度の報酬が必要だから、Fランクばかりって訳にも行かなくてね。
情報が蓄積出来ればさらに効率があげられるから、そこまでが1つの勝負だと思ってる」
「ふふ、確かにチームで情報が共有できれば無駄も無くなるな。分かった。知っている範囲で情報を提供しよう」
こうしてゴールドベリー、ロッキートリュフ、マジックキャノーラに関する情報を仕入れた一行は、
それぞれの採集ポイント間の距離が近いと言う、マジックキャノーラとゴールドベリーの採集に向かうことにした。




