◆88話◆加護の共有
ゴッドハンド
ロマーノの言葉を聞いた全員のリアクションは、綺麗に真っ二つに分かれた。
「「??」」
一つ目は大事な部分を省いたロマーノの物言いに対する太一と文乃の薄いリアクション。
そして二つ目は、大事な部分を省いたにもかかわらず、加護持ちであることを理解したが故の辺境伯一家の純粋な驚きだ。
「「真ですか父上っ!」」
「本当ですかお父様っ!!」
「本当なのアナタっ!!」
オルランドとピアジオは流石に兄弟、見事に一言一句違わぬ見事なリアクションを見せるが、他の2人も負けず劣らずのユニゾンっぷりだ。
「ぶわっはっはっは、何だ4人とも。見事な被りっぷりだな。
ああすまんな、タイチ。貴族はな、余程のことが無い限り家族の加護については共有している。だから、“ワシと同じ”で通じるのだ」
「なるほど。ご家族の驚きはその為だったんですね・・・
あれ?ということは我々の加護をあっさりバラしました?!」
「はっはっは、そうなるな。だが安心せい。ワシも家族も、意味も無くバラすようなことはせぬ。
何より、今後は家族ぐるみでの付き合いになるのだ。知っておいてもらわねばフォローも連携も出来ん」
「そういうことですか・・・」
「うむ。今は加護の内容までは詳しく聞かぬが、事と次第によっては聞くことになるし、力を貸してもらうことになる。
貴族と関わるというのは、互いに持ちつ持たれつということだからな。あらためて聞くが、それで良いか?良いのなら、もちろん大歓迎して迎え入れよう」
「はい、問題ありません。ツェツェーリエ様からも、色々と教えてもらえと言われていますし」
「そうか。まぁ、加護は確かに強力だが、強力であるが故に色々と問題の種にもなるからな。折を見てアドバイスしていこう」
「ありがとうございます。それと、皆様には加護の内容もざっくりとだけお話ししておきます。何の加護か分からないと、やり辛いでしょうし」
「それはありがたいが、良いのか?」
「はい、構いません。文乃さんも良いよね?」
「ええ、問題無いわ」
「自分の加護は、他人の自分に対する感情が分かるスキルです。と言っても、今は敵意を持っているのかどうかとか、その程度ですが。
また、人だけでなく魔物の感情も分かるので、索敵や戦闘時にも色々使えます」
「ほぅ、それは随分と強力だな。騙されたり不意打ちされることが極端に減る」
流石に武家の名門だけあり、ロマーノは即座にその有用性に気が付く。
「私の加護はシンプルに弓の加護です。弓を扱う時にプラスの補正を得られるのと、上達速度が早くなります」
「それもまた強力だな。だから弓の腕前がとんでもないのか」
「その通りです。
兄の加護と組み合わせることで、我々に気付いていない敵を遠距離から仕留めたり、逆に気付いた敵から優先的に狙ったり出来るので相性は良いと思います」
「確かにそれは強力だな。単体でも強力だが、やはり加護持ちの真価は複数人による相乗効果だろう。
2人の加護の内容を聞けて良かった。助かる」
「後ろ盾になっていただくのですから、これくらいは・・・」
「それにしても一気に二人も加護持ちが現れるなんて・・・
しかも偶々それが娘を救ってくれた人だったとか、作り話だったとしても出来すぎよねぇ」
ようやく落ち着いてきたのか、キルスティが頬に手を置き首を傾げながらしみじみと言う。
「私は相当運が良かったのですね・・・お父様がオークに感謝すると言った意味が分かります」
フィオレンティーナもため息交じりにしみじみと振り返っていた。
「父上、せっかくですから、お二人の加護の力を見せていただいてはいかがでしょうか?
元々タイチ殿の剣の腕前やアヤノ殿の弓の腕前を見せていただく予定でしたし!」
オルランドは、もはや待ちきれないと言った様子だ。
「そうだな。食事も終わったし、準備も出来ておろう。タイチにアヤノ、すまんが少し付き合ってくれぬか?」
「あまり無茶なことでなければ構いませんよ」
「分かった。では着替えて裏庭へ行くか。ノルベルト、この二人に着替えを用意してくれ」
「かしこまりました。お二人ともお部屋へご案内いたしますので、どうぞこちらへ」
ノルベルトは何名かのメイドに指示を出すと、タイチとアヤノを二階へと案内していった。
用意された着替えの中から、動きやすそうな服を選んで着替えた二人は、裏庭へとやって来ていた。
かなりの広さがある裏庭は、地面は踏み固められて平らになっており、学校のグラウンドのようだ。
その端は、背の高い木がぐるっと囲んでおり、その奥には隣地との境界だろうか、3m以上ありそうな塀が見え隠れしている。
辺境伯一家も動きやすい服装に着替えて全員が揃っており、さらに2名見知った顔が来ていた。
その内の一人、アルベルトが笑顔で声をかけて来た。
「タイチ殿、ご無沙汰しております!先日は危ない所をありがとうございました。
アヤノ殿、初めまして。アルベルトと言います」
「アルベルトさんお久しぶりです!」
「初めましてアルベルトさん。文乃です」
3人が一通り挨拶を交わすと、もう一人の男も口を開く。
「タイチ様、先日は危ない所をありがとうございました。命を助けていただいたクラウスです。
あの時は気を失っておりお礼も言えず失礼しました・・・ずっとお礼を言いたかったのです。
本当に、ありがとうございました!」
クラウスはそう言うと、膝に頭が付きそうなほど深々と礼をする。
「クラウスさん、顔を上げてください。お元気そうで何よりです。怪我の容体はその後いかがですか?」
「おかげさまで後遺症も無くすっかり元通りです!
治療していただいたギルド職員の方に聞きましたが、応急処置に使っていただいたポーションが効き目の高い物だったのが良かったとか。
そんな高価な物を躊躇なく私のために使っていただき、本当にありがとうございます」
「そうだったんですね。あのポーションがそんな掘り出し物だったとは・・・」
「タイチよ、ひょっとしてそのポーションはワイアットの店の物ではないか?」
「良く分かりましたね。私の持っているポーションは、全部ワイアットさんのお店で買ってます。
ケットシーの鞄で仕入もしているので割引してくれますし・・・」
「やはりそうか・・・その様子だと、タイチ自身は使ったことが無いな?」
「確かに使ったことは無いですね。ワイアットさんのポーションだけでなく、ポーション自体をまだ使ったことが無いです」
「なるほどな・・・ふふっ、クラウス、お前も運が良かったな。
タイチが使ってくれたポーションだがな、ワイアット工房のポーションだ」
「え?ワイアット工房って、あのゴッドハンドの!?」
「ああ。そのワイアットだ。アイツのポーションなら効き目も高かろうよ」
「ワイアットさんって、そんな凄い人だったんですか!?」
「なんだ、タイチは知らなかったのか?アイツはこの国の王家御用達の錬金術師だ。
特にポーションに関しては、この国で一番、いやおそらく世界一の錬金術師だろう。
ポーションはワイアット以前の物と以降の物に分けられる、というのが錬金術界の定説だそうだ。
巷じゃあゴッドハンドと呼ばれているが、少々変わったヤツでな。気に入ったヤツにだけ同じ値段で効果の高いポーションを売るらしい。
タイチはそのお気に入りなのだろう」
「王家御用達・・・」
希少なポーションを使ってもらったことに驚いているクラウス以上に、ワイアットがそんな有名人だったことを全く知らなかった太一の方が驚いていた。




