◆82話◆調達部隊結成
長かったので分割したら短くなる呪い
翌日、ワルターから元“吠える大狼”のメンバーだった神官戦士と魔法使いを紹介された。
神官戦士の方はモルガンと言う男性で、パーティー解散時に現役を続けるか悩んだが、討伐依頼に嫌気が差していたので一度は引退していた。
体を鍛えるのが趣味だったので、引退後も体を鍛えながら貯めたお金で悠々自適に暮らしていたのだが、しばらくしたら暇になり、よく愚痴を零していたそうだ。
それを知っていたワルターが声を掛けたところ、二つ返事で承諾。採集部隊に入ることになった。
一方魔法使いの方はタバサと言う女性だ。
彼女の場合は調達部隊への参加ではなく、店の手伝い・従業員としての参加希望だった。
体力的に限界を感じていたため引退したものの、モルガンと同じく暇を持て余していたらしい。
冒険者ほど体力を使わず、アルバイト感覚で面白そうな仕事が出来そうな、ケットシーの鞄で働いてみたいと思ったそうだ。
店番も必要だったため、渡りに船とばかりにタバサにはまず朝の部のお店をお願いすることになった。
また、レイアからも無事パーティーから抜けることが出来たとの報告を受けた。
ただ抜ける時に、“採集を専門にやるなんて考え直した方が良い”と言われたらしく、絶対見返してやるんです!と、レイアはフンスと鼻息荒く決意表明をしていた。
こうしてベテラン3名と新人1名が、太一のチームに加わることが決まった。
活動を開始する前に、4人をひとまずフローターズに合流させる手続きが必要なため、まずは全員でギルドに向かう。
引退していたモルガンもタバサも、身分証としてギルドカードを手元に残すため、冒険者を辞める手続きはしておらず、パーティーの移動はスムーズだった。
「はい。これでパーティーへの加入手続きは完了です。
まさか、ワルターさんだけでなくモルガンさんとタバサさんまで加わるとは思いませんでした・・・」
「某が冒険者を辞めたのは、果ての無い討伐の繰り返しに辟易した故。
タイチ殿の調達部隊でも討伐が必要になることはあろうが、それは調達に当たっての障害を取り除くため。
目的を持って戦闘が出来るのであれば、願っても無い話よ」
クロエの驚きの言葉に、モルガンがカカカと笑いながら答える。
日々の鍛錬を欠かさず行っていたというのは噓ではなく、その肉体は引退して数年経つとは思えないほど見事に仕上がっていた。
「あたしはこの体力馬鹿どもと違ってか弱い乙女だからね。
いくら暇とは言え野山を駆け巡る冒険は、もうお腹一杯だよ。
ただ、このまま老け込むのかと、柄にもなく憂鬱になってたんだがね・・・
そんな時、このおっさんが“面白い若いのがいるから、遊び感覚で付き合ってくれないか”と声を掛けてくれてね。
話を聞いてみたら、今ちょっと話題になってるケットシーの鞄絡みじゃないか。
こんな面白い話、他のヤツに取られたら悔しくて堪らないからね。その場でお願いしたよ」
タバサの方も、楽しみで仕方がないといった表情だ。
「とまぁ、半分以上趣味みてぇなもんだが・・・
一応俺らみてぇな年寄りでも、まだやれることがあるってことを証明するって目的もあんだよ。
冒険者を辞めた途端、急に老け込む奴とか酒に溺れる奴を散々見て来たからなぁ・・・
残りの人生、若ぇのと遊んで過ごすのも悪かねぇ。レイちゃんなんか孫みてぇな年だしな」
誘った側のワルターは少し恥ずかしいのか、頭を搔きながらもそう話す。
その言葉にモルガンとタバサは、ニヤニヤしながらも頷いていた。
「引退された冒険者の方々については、ギルドの方でも仕事を斡旋したりはしていますが、正直手が回っていない状況なんですよね・・・
タイチさんのやり方が今後のヒントになれば、ギルドとしても非常にありがたいのです。
応援しますから、是非頑張って下さいね!」
「いきなり人が増えたからどうなるか分からないけど、まぁやるだけやってみるよ。
大先輩から、実践を通じて戦闘とか野外活動についてのレクチャーを受けられるのは相当有難いし、授業料代わりにある程度稼げるようにならないとな」
クロエからの激励を受け、太一は決意を新たにする。
「さて、これで手続き系の準備は終わったかな。
本格的に動き出すのは、キリのいい所で来月からだから、今日はこのまま懇親を兼ねてそこで少し話でもしようか。
ワルターさん達、予定は大丈夫ですか?」
「ああ、俺たちゃあ暇潰しみたいなもんだからな。問題ねぇよ。レイちゃんもいけるか?」
「はい!全然問題無いです!」
「らしいぜ、リーダー」
「・・・リーダーか。リーダーねぇ」
ワルターがニヤニヤしながら太一に言うが、太一は渋い顔だ。
「ぷっ。なんて顔してるのよ、リーダー」
それを見た文乃が噴き出す。
「えー、文乃さんまで・・・」
「大丈夫よ。電博最速の企画1課長でしょ?自信持ちなさいよ」
「それ、最短で降ろされるってオチ付きだけどね・・・まぁ、いいか。とりあえず移動しよう。
あ、クロエさんもありがとう。またツェツェーリエさんとヨナーシェスさんにもよろしく言っといて」
「はい!って、ギルマスとサブマスとは、そう簡単に話せないですって!!」
「あはは、よろしく~」
慌てるクロエに手を振りながら、新生フローターズ一行はギルドの食堂へと移動した。




