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◆8話◆異世界グルメ初体験

見つけた食料をあらためて分類してみると、

固くて薄いパンのようなもの、干し肉に見える茶色い塊、リンゴのような何かの実、乾燥させたナッツ類と思われる物、そしてチーズ的な香りのするクリーム色の物体があった。

しばしそれを眺めてから、太一はリンゴのような実を手に取りまずは匂いをかいでみる。


「リンゴっぽい見た目だけど、匂いはちょっと違うな」

「どんな香りなの?」

「嗅いでみる?」

ぽいっと渡されたリンゴもどきを一つ受け取ると、文乃もすんすんと匂いを嗅いでみる。

「どちらかと言うと梨ね、この香り。梨よりは酸味がありそうだけど」

「そうか、確かに梨っぽいな。どれどれ」

ひとしきり匂いを確認したら、キャンプ道具に入っていたナイフとコッヘルを取り出し、まず半分にカット。

そこから厚さ数ミリにスライスしたものを1枚、肘の内側に張り付けた。

次にパンもどきと干し肉もどきも薄くスライスし、その二つには少しだけ手持ちの水をかけて湿らせてから、同じように肘の内側に張り付けると、そこで一旦手を止めた。


「何してるの?」

「簡単なパッチテスト。これで反応が出るヤツは、相当ヤバいやつ。

 ほんとは一つずつやるんだけどさ。まぁ一応こちらの食料っぽいということで。

 15分くらい置いておくから、その間に本でも見てみるか」

「そうね、タイトルが書いてあるものもあるし、分類してみるわ」

スマホのタイマーをセットして、本を手にとってはタイトルを確認したり、タイトルが無いものは数ページめくってみて中身を確認していく。

10冊ほどを仕分けると、ピピッとスマホのタイマーが鳴る。

「どれどれ」

肘の内側に貼られた各種スライスを剝がしてみるが、特に皮膚に異常は見られなかった。


「うん、まずは第一段階クリアだ。じゃあ次は、っと」

先ほど切り分けたリンゴもどきを1cm角程度に切り、ぽいっと口の中に放り込む。

「あっ!」

思わず声を上げてしまう文乃。

「うん、ちょっと酸味のある梨って感じかなぁ。あ、食感はちょっと待ってね。

 このまま噛まずにまた15分待つから。ちなみにその後は噛んで15分。

 でようやく次は飲み込んで数時間ってところだけど、まずはこの3種類を嚙むとこまで一気にやるわ」

「当たり前だけど、中々手間ね。。。」

「仕方ないわなぁ。食べ物っぽいとは言え未知のものだし。

 ただこれで全部大丈夫だったら、まぁこの世界の食べ物はおおよそ食べて大丈夫だろうから。最初だけ念のために、ね」

そう言いながら、口に入れて15分待ち、その後噛んでからまた15分待って吐き出す事を繰り返す。並行して文乃は本の分類を進めていく。

結果、パンもどき、干し肉もどき、リンゴもどきはどれも異常なしと判断された。

ちなみに太一の食レポによると、パンもどきは少し柔らかいカンパン。

干し肉は塩気の強いイノシシのジャーキー。

リンゴもどきはリンゴ食感の酸味のある梨、であった。


「ここからは食べてから少し時間が必要だから、本でも読むか。分類も出来たし」

太一がリンゴもどきを半分ほど食べながら分類された本を見て言う。

「まぁ数もそれほど多くないしね。ざっと目を通したけど、大まかな分類は4つかしら」

見つかった書類は、文乃の手で4つに分けられテーブルの上に並んでいた。

「一つ目はこの世界全体に関するもの。と言っても数は少なくて、地図がいくつかと各地の伝説を集めたものが数冊ってところ。

 で二つ目が物語ね。意外な事にこれが一番多くて、絵本も結構な数があるわ」

「へぇ、物語に絵本か。意外に可愛い趣味、って訳じゃないよなぁ」

「もちろん。ざっと見た感じ、どこからか現れた勇者とか魔法使いが世界を救うって話がほとんどね」

「あーー、なるほど。召喚に関係している可能性があるものを何でも集めた、ってことか。徹底してるなぁ」

「多分ね。で3つ目が召喚に関連しそうな研究書ね。召喚だけだと数が少ないからか、

 こっちも転送とか関係しそうなものをかき集めた感じがするわね」

「全く、ご苦労なこった」

「で最後が、読めないヤツね。読めないから内容は分からないけど、魔法に関連したものが多そうよ」


読めない、に分類された本を太一も何冊か手に取ってパラパラページをめくってみる。

文乃の言う通り何が書いてあるかは分からないが、魔法陣らしきものが書いてあるものや、

ひとつの魔法陣を構成する要素ひとつひとつについて細かな注釈に見えるものが書いてあるもの、

系統図のようなものが書いてあるものなど、何となく魔法に関連していそうな本である事がうかがえる。


「なるほどなぁ。環境適応のレベルが低いから読めないって仮説が合ってたとすると、

 解読難易度が高い本って事になるから、案外この世界でも魔法ってのは高度な内容なのかもな」

「地球でも高度な専門書とか論文は、外国語必須だものね」

「今は読めないけど貴重なものかもしれないから、出る時に持っていけたら持って行こう。

 じゃあ、本を調べるのはこのまま引き続きお願いしていい?」

「問題無いわ」

「ありがと。じゃあ俺は遺品整理でもす・・・」

「?」

「くあ、あぁぁぁぁぁ・・・ふぅ・・・」

「あのねぇ、と言いたいところだけど流石に私も眠くなってきたわ」

「地球時間でもう朝の7時過ぎだもん。見た目がいくら若くなったとはいえ、おっさんに徹夜は酷だわ。

 ちょっと仮眠とらない?幸い外からは誰も入って来れなさそうだし」

「そうね。このまま続けても寝落ちしそうで効率悪そうだし」

「うん。じゃあどっちで寝る?」

「どっちって?」

「そのベッドで寝るか、俺の寝袋で寝るか。一緒に寝る訳にはいかんでしょ」

「まぁ、確かに・・・」

そう言って悩む文乃。正直あのおっさんが寝ていたであろうベッドで寝るのは嫌だし、かと言って太一が普段から使っているであろう寝袋で寝るのもちょっと気が引ける。

これが毛布だったりしたらまだ良いのだが、密閉性のある寝袋と言う点が問題なのだ。

かと言って固い床で寝ても疲れが取れるどころか体を痛めかねない。

この世界に来て初めての悩みがこんな事か、と苦笑を漏らす。


「そうね、じゃあ寝袋借りて良い?知らないおっさんが寝てた布団で寝るのはさすがにちょっと・・・」

「・・・」

「何よ?」

「いや、何でも。じゃあベッドは使わせてもらうね」

そう言って早速ベッドへ向かう太一の顔は、何故か少し嬉しそうだったが、文乃が気付くことは無かった。

「それじゃあおやすみ。起きたら本格的に行動開始だ」

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