◆79話◆レンベックの貴族
評価、ブックマークありがとうございます!
とても励みになります!
太一は、あらためて自分たちの商売の概要を絡めながら、今後発生するであろう権力者絡みの問題について、ツェツェーリエに説明を行っていた。
「なるほどの。何やらちょっと変わった商売をしておるとだけ聞いとったが、そういう商売じゃったか。
確かにシンプルで儲かるのじゃから、模倣する者は現れるじゃろな。真似を罰するような決まりもないしの。
お主の言う通り、貴族の後ろ盾を得るのが手っ取り早いじゃろうな」
「やはりそうなりますか・・・」
ある程度想定はしていたものの、あらためて言われると溜め息が漏れる。
「うむ。貴族はプライドが高い連中じゃから、他貴族の商売を正面から真似ることはほとんどないし、平民はそもそも貴族の商売には手を出さん。
上位の貴族の庇護を受けてやっている商売であれば、そう簡単には模倣されんじゃろな。
あと、さっき真似を罰する決まりはないと言ったがの、貴族にはあるのじゃ。
正確には貴族が申請を出して、王が承認するんじゃがの。申請が通ると、事業の独占およびその世襲が認められるのじゃ。
元々は、国の重要産業が他国に漏れるのを防いだり、国の根幹に関わる産業の安定を目的に作られた制度なんじゃが、現在はそれ以外にもかなり広がっておる。
単独で独占するものもあれば、派閥ごとに囲うものもあるの。
事業独占は、そう簡単には認められんから気休め程度に考えるとしてもじゃ、お主らがトラブルを避けたいのであれば早めに貴族の庇護下に入るのは悪い選択肢ではないの」
「独占事業が認められるケースもあるんですね・・・
でもそうか、塩の生産だとかの命に係わるものとか、林業みたいな資源に限りがあるような奴は、逆に野放しにしててもリスクがでかいのか」
「その通りじゃ。ただ問題は、どの貴族に取り入るかじゃの。
やっている商売が1つなのであれば、派閥の大小と考え方だけ気にしたら良いんじゃがな・・・
どうせ今後も新しい商売を始めるんじゃろ??」
「ええ、まぁ・・・」
「やっぱりの。そうなると、どこでも良いという訳にもいかなくなるのじゃ」
ツェツェーリエは組んでいた足を解き、あらためて太一に向き直る。
「最初は問題無いんじゃが、規模や数が増えて儲けが大きくなると、別派閥からの干渉が増えるのじゃ。
また、同一派閥内でもライバル関係になる可能性も出てくる。下手な派閥に入ると、逆に身内に潰されかねんのじゃ」
「それはまた面倒ですね・・・
そもそもどれくらいの貴族家があって、派閥ってどれくらいあるんですかね?」
「貴族の数か?細かい所までは覚えておらんが、200は無い・・・確か180くらいはあったはずじゃ。
そのうち60くらいが王都の法衣貴族で、残りが領地持ちの地方貴族じゃな。ロマーノなんかは後者じゃの」
「官僚も貴族が多いんですか?」
「そうじゃな。少なくとも大臣クラスは全て貴族と思って良い。
それと派閥の数じゃが、日々変わっておるから何とも言えんのじゃ・・・
しかも大体が複数の派閥に所属しておるからの、何ともややこしくて敵わん。
代表的なとこじゃと、まず中央派と地方派、親王族派と反王族派、交戦派と守戦派などじゃな」
「あーー、それを聞いただけでややこしそうなのが簡単に予想できますね・・・」
「じゃろ?まぁ普通は貴族との繋がりを作るだけでも大変じゃから、運良く繋がりが出来た貴族の派閥に自然となるもんなんじゃがな。
幸か不幸か、お主の場合はすでに懇意の貴族が出来てしもうたからの。ひとまずの選択肢は決定しておるようなもんじゃ」
ツェツェーリエはそう言うとおかしそうにコロコロと笑う。
「やっぱりそうなりますよねぇ・・・まぁお話ししやすそうな方ですし、好意を持っていただいてますから、かなり幸運だと思いますけどね」
「うむ。辺境伯は伯爵位とされておるが、権限的には侯爵とほとんど変わらん上位貴族じゃ。
それにロマーノのとこは派閥としても悪くないぞ?地方守戦派で親王族、そして保守ではなく革新寄りじゃからな。
しかも西方地方派のナンバーツーじゃ。誼を結ぼうと思って結べるような相手ではない。これで文句を言ったら神罰が下るわい」
「ロマーノ様、凄い方だったんですね・・・初っ端があの親バカっぷりだったので、ギャップが・・・」
「はっはっは。それが唯一の弱点と言っても良いじゃろうな。
そういう意味では、お主はその弱点を押さえておることにもなるからのぅ。
屋敷に招待された折に、相談してみてはどうじゃ?儂としても、ロマーノの近くにお主がおってくれれば、何かと助かるしの」
「分かりました。せっかくできたご縁なので、最大限に活用させてもらいます」
「ああ、それとな、もう一つ都合が良い理由があるんじゃ。お主らには特にの」
「もう一つ?」
「うむ。あ奴も加護持ちじゃ」
「!!」
思わぬ爆弾発言に太一の顔が驚愕に染まる。
「戦闘寄り、それも大規模戦闘向けの加護でな。それもあって西方の守りの要として、王家からは抜群の信頼を得ておる」
「なるほど・・・」
「じゃから、加護持ちであることをバラしても問題無いだけでなく、何かあった場合も相談に乗ってもらえるのじゃ」
「それは本当にありがたいですね。文乃のこともありますし、加護持ちであることが万一露見しても、後ろ盾があれば心強いです」
「色々教えてもらうと良いじゃろ。儂からも一筆書いておいてやろう」
「ありがとうございます」
「なに、可愛い弟子の娘を救ってくれた礼じゃ。
それに例のオーク、あれの首を持ってきてくれたのも良い判断じゃった。助かったわい。
儂の予想が嫌な方に当たっていると、すでに残った死体は回収されておる可能性が高い」
これまでの穏やかな顔から一転、険しい表情でツェツェーリエが言う。
「どういうことですか?何か心当たりでも?」
「具体的な心当たりは無いんじゃがな・・・
お主もおかしいと思わんか?外部から侵入してきたのであれば、街のど真ん中に行くまで何の被害も出てないことになるんじゃ。
いくら雨とは言え、開いてる店も沢山あるし、人も歩いておる」
「言われてみれば確かにそうですね・・・
いや、でもそうなると、外部から入って来た訳では無いということになりますが・・・まさか!?」
自らが至った考えに、自ら疑問を投げかける太一。
「うむ。何者かが、内部に出現させた可能性がある・・・
もしそうだとすると、お主らが去った後にその痕跡を消すくらいの事は、当然やるじゃろうからな」
「・・・・・・そうではないことを祈るのみです」
「ふふ、儂としてもそう願いたいがの。
ま、こちらも今日明日にはひとまずの調査結果が出るじゃろ。クロエに結果を伝えておくから、聞いておくのじゃな。
あと、分かっておると思うがこの件は口外無用じゃ。街中にオークが現れたなんて話が広まったら大混乱じゃからな・・・」
「分かりました。では、私もこれで。色々ありがとうございました」
「うむ。アヤノにもよろしくの」
思いもしなかったイレギュラーには見舞われたものの、結果としては当初の予定を上回る成果を得て、太一はギルドを後にした。
そして、ギルド調査班の行った調査の結果、オークの首から下の死体が無くなっていることが分かったと聞いたのは、翌日のことだった。
絶対王政と封建制を足したような政治形態。
ありがちな設定ですが、他国から守るのと同時に「魔物」と言う脅威を対処しない事にはお話にならないので、ある程度人口が増えると純粋な封建制はきつくなりそうです(魔物で手いっぱい)。
そうなると、対他国のメインは国の常備軍、対魔物のメインは領地の軍+冒険者と言う感じである程度分業化される気がします。
王様は王様で、中央集権化しすぎるとお金がかかりすぎ、ある程度の権限を領地に与えたほうが統治が楽になるので、こういう形に落ち着くのは、割と自然かもしれないですね。
加護やら含めて突出した戦闘力を持つ個人がいたり、魔法の民間転用がどのくらいのレベルなのかだったり、魔物の強さや数がどれくらいなのかだったり、考慮すべきパラメーターが多すぎて、どんな政治形態なら成り立つかどうか不明だったりもしますが。。。w




